軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33 首狩り

さて、長々と風竜の行動パターンと反撃方法を語ってきたが、実際にこれで風竜を倒すにはとてつもなく長い時間を掛けて、俺の手持ちの矢を一本残らず全てクリーンヒットさせる工程を踏んで、ようやく倒せる可能性があるといったところだ。

クラスが一つ上がるだけでそれだけ絶望的なステータス差が生まれるのだ。

一本たりとも無駄にできない。

それがプレッシャーになり、矢を射かけるのに恐怖が混じる。

だけどこんな逆境を何度も経験している俺からすれば、すべて当てることなど造作もない。

と、いけば恰好がつくんだけど、目は瞬きすら許されないとかっぴろげ、呼吸は時々止まり、内心で外したら死ぬ、外したら死ぬとつぶやき続けているほど追い詰められている。

今の俺にとって矢一本が、金よりも価値がある状態なのだ。

貴重なダメージリソースを失ってなるモノかと覚悟を決めているおかげで、今のところ一本、また一本と風竜に当てられているからいいものの。

一瞬でも気を抜いて攻撃を外せば、必要なダメージが足りなくなる。

それがとてつもない緊張感を生み出している。

ゲームにはない恐怖、命を賭けた一戦。

それが経験したことのない重圧を生み出している。

喉が渇く、指先が重い、呼吸が苦しい。

デバフを付与するモンスターはいないはずなのに、どんどん体の動きに精彩さを欠いて行くのがわかる。

「!?」

その土壇場で、呼吸ができなくなった。

エアゼロフィールド。

忘れてたと、言う暇もなく、その場から必死に脱出する。

そこに飛竜たちのブレスが降り注ぎ、不格好に転がりどうにか岩陰に飛び込むことができた。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

肩で息をして、そして汗を拭い。

少しでも呼吸を落ち着けようとするが、収まる気配が一切ない。

スタミナ管理を失敗した証拠。

冷静さを保とうと必死になっていたが、予想をはるかに上回るプレッシャーに体が追い付いていないのだ。

「や、っばいなぁ」

荒い息の中で絶望はしないが危機感は抱き始めた。

このまま戦って大丈夫かと自問自答するまでもない。

元から薄かった風竜を倒し切れる可能性が、もはやゼロと言っていい程に薄くなったと自覚できた。

撤退の言葉が脳裏をよぎるが、これまでの自分の行動による死地をどう抜け出そうかと思うと。

ここは山頂、下ろうとする山道には身を守れるような岩陰が存在せず、そこを走れば間違いなくブレスの集中砲火でジエンド。

今はこうやって身を守れる岩陰があるから何とか戦えているのだ。

「……生身でアレをやるしかないのか」

撤退するとしても、まずこのフィールドから脱出する必要がある。

それをやる方法に心当たりがあるのだが、それをやるには少々勇気がいる。

その勇気をため込む時間はない。

岩陰に隠れても、それは相対的に見て風竜から身を隠しているだけ。

飛竜からは身を隠せていない。

「うだうだ悩んでいる暇はないか」

できるかできないかではなく、やるかやらないかの二択で、やる方を選んだ俺はマジックバッグに手を突っ込み残り数が少なくなった煙玉を手に取り。

迷わず火をつけ、それをとある方向にいる飛竜に向けて投げつける。

「できれば俺の勝ち、できなかったら俺の負け!!」

そう叫び、投げた煙玉を追いかけるように走る。

煙玉はちょうど飛竜の目の前で爆発し、その視界を覆う。

「南無三!!」

煙で覆われる直前、飛竜にヘッドショットをかましてそこから落ちるように仕向ける。

そう、ちょうど俺が昇ってきた崖に落ちる位置にいた飛竜は、翼を広げることなくそのまま墜落していく。

俺はその飛竜の体に飛びついた。

「ここだぁ!!!」

例え飛竜に飛びついたと言っても重力に逆らえるわけじゃない。

グングンと落ちる巨体に必死にしがみつく。

空気抵抗は飛竜の方が面積が多い分大きいが、その分だけ質量がある。

体感速度はジェットコースターの落下速度にも勝る。

その自由落下のタイミングに合わせて、身構える。

飛竜の体を掴み、体を縮め、足裏を飛竜の体に押し付ける……そして飛竜が地面に激突するその瞬間、宙返りを決めて着地した。

「できた!マジでできた!!心臓に悪かったけどな!!」

高所からの着地方法というのはFBOでも色々と模索された。

物理計算エンジンが優秀で、だいたいの物理法則が正確に再現されているゲームだった故に、落下時のダメージというのもリアルに近かった。

クラスとステータスが高ければ高いほど、物理的なダメージへの耐性が高くなり、より高い場所から跳ぶことができるようになる。

それはステータスにより肉体が強化されたが故の結果。

では、本来このステータスじゃ落下ダメージを相殺できない俺の場合はどうするか。

結論、小技を使う。

今回使ったのは飛竜を使った受け身だ。

飛行機から投げ出され、パラシュートも持たず生身で空中に飛び出てしまった際に、何かクッションになるモノがあれば助かる可能性がわずかでもあると言う話を聞いたことはないだろうか。

樹木の枝や草の生い茂った斜面、何でもいいそこにある物で落下の衝撃を緩和できる柔らかいものに着地することができれば生き残れる可能性かあるという寸法だ。

これはその応用。

飛竜の体が、地面に叩きつけられ、その衝撃が伝わるという絶妙なタイミング。

その衝撃を利用して宙返りをして、改めて地面に着地。

タイミングがシビアなうえに、実行経験も少ない。

だけど、この集中状態であればできると思っていたからこその愚行。

その愚行の先に成功をつかみ取ったのだから、全身全霊でガッツポーズでも取りたいところだが。

「アハハハハ!!安全に向かってランナウェイ!!」

着地と同時に全力ダッシュ、そして背後では飛竜が灰になっているところに上空から風竜たちのブレスが降り注ぎ、俺の命を助けてくれた飛竜は跡形もなく消え去った。

ありがとう飛竜、この恩は一時間くらいは忘れない。

勝てないのなら逃げる、それが戦いの常道。

生存戦略と言い訳しながら追いかけてくる飛竜や風竜の猛攻を搔い潜り、全力でダンジョンの出口に向かっている。

「まだいたのか先客!?」

目の前に何とか抗っているアンデッドが見えた。

風竜に圧倒され、せっかく作ったドラゴンゾンビの群れは壊滅。

孤軍奮闘と言えば聞こえはいいが、空中から一方的に攻撃されてしまえばいかにクラス5のロイヤルデュラハンであってもズタボロになる。

騎乗していたドラゴンゾンビも消え去り、ただ無様に逃げるのも嫌になったのか、騎士道精神に則り剣を持って竜に立ち向かい、しかし攻撃するすべがなく、吹き飛ばされる。

まるで風車に挑むドン・キホーテだ。

勝ち目がない、逃げればいいのにと思ったが、ロイヤルデュラハンは逃げず、最後は俺の目の前で風竜のブレスに包まれ滅んだ。

ダンジョンの支配者が変わった瞬間。

そしてダンジョンが連結を始める瞬間。

二体存在したダンジョンボス同士が闘って、片方が破れた結果、このダンジョンのルールが変わる。

雄叫びを上げ、勝鬨を上げる片割れの風竜。

格下を倒したから存在進化は起きなかったが、ダンジョンの拡大は発生した。

デュラハンによる二度目のジャイアントキリングは発生せず、一体のモンスターの旅路の終焉を目の当たりにした。

「金の宝箱!?」

だが、その終焉よりもロイヤルデュラハンが倒れた場所に現れた宝箱を前にして俺は目を見開き、迷わずマジックバッグに手を突っ込んだ。

取り出すのは五つの煙玉。

俺の所持していた煙玉の残弾すべてだ。

運がいいのか悪いのか。

普通は命が大事なら宝箱を放ってそのまま通り過ぎて、ダンジョンを脱出すればいい。

そう思われるかもしれないが、今の場合、二体の風竜が側にいるのなら命が大事だからこそ金の宝箱に駆け寄らなければならない。

五つすべての煙玉に点火して、空に放り投げる。

一瞬でいい、すべての視界を覆え。

こちらに気づいた風竜が顔を向けたところに煙玉が爆発して、辺り一帯を煙幕が覆い視界が遮られる。

足を緩めず、全力で駆け、そして飛びつくように宝箱にたどり着く。

「頼む、頼む、頼む!!」

確率は二分の一。

こんな土壇場で金の宝箱が出たんだ。

この調子で、確率も突破して見せろよ!!

金の宝箱を勢いよく開けるが顔の周りに立ち込める煙の所為で中身は見えない。

だからこそ、迷わず宝箱の中に手を突っ込んだ。

手の感触が硬ければヤバイ、だが紙の感触であれば。

「!?」

その感触を感じたと同時に、それを掴み宝箱から飛び退く。

金色の宝箱はその輝き故に煙玉の中でも目立つのか、そこに集中砲火を浴びる。本来破壊不能なオブジェクトである宝箱は、中身を吐き出したことによって役割を終えて消え去った。

「まだ、勝ち目は残ってる」

ブレスの衝撃波によって消え去る煙。

大弓を持つ手とは反対の手に握られていたのはスクロール。

ロイヤルデュラハンの金の箱から出るアイテムは実質二種類。

斬首剣という大剣か――。

「こういう時のために、普段の運が悪いのかもな」

スキルスクロール。

ダンジョンの鍵という可能性もあったが、それの確率はかなり乏しく、出されても困る代物。

なので実質この二つしか出ないと言ってもいい。

スクロールを開き、そしてその中を確認すれば目的の物であることが確定する。

「習得」

そのスキルを迷わず獲得する。

『リベルタ クラス2/レベル100

基礎ステータス

体力240 魔力160

BP 0

EXBP 0

スキル5/スキルスロット7

槍豪術 クラス10/レベル100

マジックエッジ クラス10/レベル100

鎌術 クラス10/レベル100

隠形術 クラス7/レベル43

首狩り クラス1/レベル1 』

首狩りアサシンとしての必須スキル、首狩り。

こんなタイミングで手に入るとは思わなかった。

「さぁ、首を置いて逝け」

ステータスが劣っていようが、関係ない。

首に叩き込めば勝てる可能性を貰ったのだから、全力で前に駆け出した。

「この距離まで近づいたのなら!!」

風竜は、俺を中心に正面にロイヤルデュラハンと戦っていた個体、左後方に俺を追いかけてきた個体という配置。

この位置取りであるのならまず叩くべきは正面の風竜。

大弓を構えて一射、狙うは風竜ではなくその近くに飛んでいた飛竜。

風竜のようにウインドベールで身を守れない飛竜は竜殺しの特効をもろに受けて、その翼の付け根に深々と矢を受け飛べなくなる。

落ちてくる、そのタイミングで、もう一射、今度は別の飛竜を狙いまた墜落させる。

俺が次々に飛竜を叩き落とすことによって、ヘイトが俺に集中する。

ブレスを吐き出そうとする飛竜たち、魔法を使おうとする風竜たち。

この集中砲火を浴びれば今の俺のステータスどころか、クラス5のがちがちのタンクでさえ生き残れるか怪しいライン。

広範囲に敵が分散しているから、走り出しても間に合わない。

必殺の包囲網。

それが完璧だと思っているようだが、生憎とまだそれは必殺ではない。

落ちてくる飛竜を消し飛ばす勢いでブレスが吐き出される。

俺は落ちてくる飛竜を傘にして下に潜り込む。

最下位と言っても竜だ。

味方の攻撃に一瞬で消し飛びもせず、風竜の攻撃であっても風属性ゆえに効果が減り数秒であるが耐えて見せる。

空から降ってくる攻撃を空にいる物体で遮る。

古い喫茶店に有った宇宙からの侵略者を撃退するゲームのディフェンスの応用だ。

勢いを増して俺を潰そうと落ちてくる飛竜の下を抜け出し、次に落ちてくる飛竜の下に入り込みこれを傘にしてブレスの雨をしのぐ。

「次は、お前」

新しい傘を補充するために下に潜り込んだと同時に飛竜を一体落とし、そして配置的に都合のいい飛竜がもう一体いたので、傘替わりにしていた飛竜が灰になる前に飛び出し、もう一射して飛竜を落とす。

ブレス攻撃には間がある。

このタイミングで落とせば、ブレス攻撃を受ける前に地面に墜落してしまう。

傘の役割を果たせないかと思いきや。

「ブレスはなくても、魔法を防げるんだよね」

背後から飛んで来る風竜の魔法を落下してきた飛竜が受け止めてくれる。

ここは見晴らしがよすぎて、破壊不能オブジェクトの岩がない。

こうやって防御手段を自力で確保しないとダメなのだ。

ウインドカッターを数発耐え、灰になる飛竜の後ろを通り抜け、もう一体の風竜から来るウインドハンマーを落ちてきた飛竜が受け止め、一撃耐え、二発耐えと、立派な盾として使えているなと思いつつ。

首狩りスキルを手に入れたからこそ、こうやって矢を防御に使用することができるようになった。

「この位置に入りたかったんだ」

ただ防ぐだけじゃじり貧になるだけ、欲しかった位置に入り込み少し歪な姿勢であるが矢を射かける。

矢は正面にいる風竜の顔面に向かって飛ぶ。

このままいけばヘッドショットかというタイミングで風竜が首を振り、その矢を避けた。

その瞬間、風竜の口元が歪んだ気がした。

その程度の攻撃、避けられないとでも思っていたかとあざ笑うかのような表情。

気の所為かもしれない、被害妄想かもしれない。

だけど、この瞬間だけそう見えたからこそ。

「狙いはお前じゃねぇよ」

こんな言葉が口からこぼれ。

その答えが、風竜の頭上から降り注ぐ。

ヘッドショットを受けて、墜落してきた飛竜が風竜の頭に当たり風竜が飛竜諸共落ちてくる。

いかに風竜と言えど、その質量を不意打ちで受け止めることはできない。

無様に墜落する箇所に駆け出し、大弓から鎌槍に切り替える。

マジックエッジで鎌を形成、そして狙うは風竜の首にある逆鱗。

首への防御無視ダメージに加え、竜が一番ダメージを負う急所。

そこに加えて落下速度というダメージ加算を計算し。

「首狩り!!」

鎌槍を振り上げ、スキルを発動するのであった。