軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7 未知イベント

「なに?ノーリッジが濃い湯煙に包まれていると?」

「はい、それはもう異常と言えるほどの濃い湯気でして」

アレスに絡まれるというトラブルはあったが、さすがに公爵家の敷地内に入ればそれ以上の追跡はない。

遠出したはずのロータスさんがたった数日で戻ってきたこと自体に驚かれはしたが無事公爵閣下に会うことはでき、こうやって報告してきた。

「ノーリッジは王族の直轄地でありますが、ことは急を要すると思います。まずは我々で調査をしようと思い、そのために閣下所有のスクロールを頂きたいのです」

「スクロールか。物によるがお前が言うのだよほどの事態なのだろう。王には私から報告しよう、それでどのスクロールが必要なのだ?」

「エアクリーンとサーモコントロールです」

「……また変わった物を欲するな」

「ついでに、生活魔術のスクロールもあれば買い取りたいです!」

「誰に使わせるかは察することができるが、本当にそれでノーリッジの異常事態に対応できるのか?」

「はい、リベルタ殿は対処できるとおっしゃっておりました」

俺は背後に控え、事の詳細はロータスさんに説明してもらっているが、さっきからチラチラと公爵閣下が俺の方を見ている。

なので、ロータスさんの会話の中で俺も挙手して発言してみると、それ幸いに公爵閣下の視線は俺の方に向いた。

「リベルタ」

「はい」

そして一通り確認を終えた後に、はぁと大きなため息をついた公爵閣下に名前を呼ばれ前に出ると。

「一応確認しておくが、此度の件お前が関わっていることはないだろうな?」

「ないです」

「……それならいい。最近トラブルが多くてな、正直この話を聞いて胸やけがしそうなほどだ。早急に解決しろとは言わんが、できるだけ早く解決してくれ」

「承知しました」

「ロータス、先ほど言ったスクロールは在庫があれば渡して構わん。それ以外にも必要な物があれば申し出よ。倉庫番には伝えておく。あと、援軍が必要なら早急に連絡を飛ばせ。一個中隊であればすぐに動かすことができるように計らう。お前たちの調査報告次第では王に許可を取り、さらに援軍を送る」

「かしこまりました」

今回の事件に関わっていないかと聞かれたが、本当に心当たりがない俺からしたら冤罪もいいところだ。

なので即答でないと答えることができる。

そもそもイベント自体に心当たりがない出来事なのだから、俺が関わる理由がない。

疑いも一応確認する程度のものだったのであっさりと信じられた。

まぁ、スタンピードやら西の冒険者やらとトラブル続きだから、事態への対応を王から命じられた貴族からしたら頭痛の種だよね。

「リベルタ、あなたはあの湯気についてどう思います?」

「推測に推測を重ねた憶測とも言えないような妄想でならありますよ」

執務室から出て、倉庫まで行く道中、歩きながらクローディアが湯気に包まれたノーリッジについて聞いてきた。

正直、どう思うと聞かれても軽く湯気の中に入り込んだだけだから何とも言えない。

「それでもかまいません」

「周囲に避難した人がいなかった点と付近の街に報告が行っていなかった点で、あの事件が発生したのはごく最近、それも騒動にならないくらいに人気のない時間に発生したと推測はできます。じゃないと大慌てで街の外に出る人くらいはいると思うんですよ」

ノーリッジという街は、渓谷を山の方に進む道沿いにできた温泉街だ。

奥に行けば行くほど山に近づき、そして豊富な温泉資源を利用した宿屋街が広がる。

渓谷沿いに作られているがゆえに、横に広がらず、縦に伸びたような形状の街並みはかなり特殊だ。

ゆえに、脱出する方向さえ間違えなければまっすぐ街の外に出るのは簡単だと言えるくらいにシンプルな構造だ。

だけど、あんな湯気だらけだと言うのに街の出口付近には避難した人が人っ子一人いなかった。

「湯気自体に何かカラクリでもあるのかと思いましたけど、俺もクローディアさんも何ともなかったですよね?」

「はい、普通の温泉の湯気と思う程度です。気になる点としては熱気が残っていたという点ですね」

「最悪の事態は、強力なモンスターが原因で街中の人が全員一瞬で蒸し焼きになるような高温状態にさらされたってことですね」

「……」

まず考えられるのは、悪意ある存在、それこそ俺の知らないモンスターが急に現れてそいつの能力で一瞬で街を全滅に追い込んだという推測。

ゲームでの知識は豊富だが、それ以外の存在がこの世界にいてもおかしくはない。

この知識はかなり有力ではあるが、絶対ではない。

だからこそ、知らないモンスターというのは常に警戒していた。

トーンを少し下げ、そんなことを言ってしまったがこの可能性は低いと考えている。

そもそもの話、そんなモンスターがいるのなら俺たちが湯気の中に入り込んだ段階で何らかのアクションを起こすはず。

湯気はモンスターのテリトリー、ノンアクティブモンスターの可能性もあるけどテリトリーに入ってこられて何もアクションを起こさないとは考えにくい。

仮に街にいる人を全滅させるようなモンスターなら外部からの侵入に敏感になるはずだ。

待ち伏せタイプのモンスターなら、誘導用のトラップがあってもいいはず。

それらしきものもなかったからモンスターの線は薄い。

「ほかに考えられるのは、街がダンジョンに飲み込まれたパターンですね」

「ダンジョンが街を飲み込む?」

「スタンピードを放置し続けると最終的にその場が異界化してその空間自体が変化するんですよ。ある意味ダンジョンの最終形態と言っていい現象です」

街全体を異界化させるという現象だけで見るのなら、ダンジョンの最終形態、世界浸食状態の異界化という現象も可能性に上がってくる。

だけどこれはかなりの上位クラスのダンジョンにしか発生しない上に、十年単位で放置してスタンピードを何度も起こさないと発生しない現象だ。

「ですが、あそこでスタンピードが起きたという話は聞いていませんが」

「はい、だからその線も限りなく薄いです」

街を飲み込むという現象自体からの推測であって、確証があるわけではない。

クローディアは俺が何でも知っていると思っているようだが、さすがに原作前の世界での事件をすべて把握しているわけではない。

イベントの回想とかで過去話を展開するパターンはあるけど、それでもすべてを知ることはない。

業者が出した、公式ファンブックも全部買って読破しているけど過去を網羅しているわけでもない。

ゲーム内の図書館に入り浸っていた時期もあったけど、こんな事件聞いたこともない。

「じゃぁ、あの湯気っていったい何なのよ?」

「わからんとしか言えない。情報が湯気だけっていう状況で情報を絞れっていうのがそもそも無茶振り」

脳内検索をかけてもヒットしない。

もしかしたらと心当たりを述べるも、条件そのものに合致しない。

「深く考えないで自然災害って考えるのが今のところ濃厚かな」

「自然災害であんなことが起きるの?」

「なにが起きてもおかしくないのが自然災害の恐ろしさなんだよ」

完全にお手上げ、ロータスさんも背後を気にして俺の話を聞いていたようだけど、情報が少なすぎる。

どうしようもないと、両手を上げてアミナに苦笑してみせるしかない。

「ロータス」

そんなタイミングだった。鈴の音のような綺麗な声で前を歩く執事の名前が呼ばれた。

ぴくッと体が反応する。

聞き覚えのある声、いや、聞き間違えるはずがない声。

「これは、イリスお嬢様、本日はお体は大丈夫なので?」

「お姉さまと私の命の恩人の方が来られていると聞きました。歩いても問題ないと医師から許可は得ました」

ちょうど階段の脇を通り過ぎようとしたタイミング、階段の上からかけられた声。

ロータスさんが、自然なしぐさで立ち止まり階段の方に頭を下げた。

当然俺たちも足を止めて声の方向を見る。

青いドレスに身を包み、縦ロールのエスメラルダ嬢とは違い、ストレートの金色の髪。

可愛らしいというか、幼さを残しているがエスメラルダ嬢と似通った顔立ち。

「あなたが、リベルタですね?」

イリス・エーデルガルド!?

擦れてない!

擦れてないぞ!

世間にもまれ、貴族社会の闇を見て、さらに家族の関係も冷め切っているがゆえに出会っていた当初は擦れていたイリス・エーデルガルドが擦れてない!?

「あ、はい」

原作のイリス・エーデルガルドがブラックイリスだとすれば、今目の前にいるのは純白のホワイトイリス。

優しく微笑み、メイド二人を背後に引き連れてゆっくりと階段を下りてきた。

原作だと誰も信用できないって一人で歩くか、権力で抑えつけていた取り巻きを連れていたのに!?

名前呼びなんて、好感度が第三段階くらい突破しないと、それまであなたかそこのとかだったのに、初手で名前を呼ばれて反応が遅れてしまった。

「お姉さまからお話は聞いておりましたが、本当に普通の方なのですね」

「……あの?」

近い近い!

階段を下りて、その場で立ち止まるかと思えば、そのまま近づいてきて、好奇心を満たすかのようにグッと俺の顔を見てきた。

「お嬢様、いきなり殿方に近づくのははしたないので離れてください」

「ロータス、良いではないですか。私たち姉妹を救ってくださった這竜殺しの英雄のお顔を間近で見たかったのです」

「それでもです。あらぬ噂を立てられてしまってはお父上様も困ってしまいますよ」

「もう、仕方ありませんね。ですがこれだけは許してくださいまし」

ロータスさんに諌められてそっと一歩引いてくれたが、推しがリアルで目の前に来て一瞬思考が止まった俺の右手を何か柔らかいものが包んだ。

「本当に感謝しております。あなたのおかげでこうやって再び日の下を元気に歩くことができております。このご恩は忘れませんわ」

それがイリス・エーデルガルドの手であると認識するのに数秒、そして優しく微笑まれた笑顔を認識することにさらに数秒の時間がかかり。

「ゴホン、お嬢様。視線を逸らし続けるのにも限度がございます。そろそろお放しになるのがよろしいかと」

「もう、ロータスは堅いわね」

「あまりわがままをおっしゃらないでください」

「わかりました」

認識した瞬間にその柔らかさは温かさとともにそっと離れていった。

「今度またゆっくりとお話ししましょう。それでは」

「あ、はい」

最初から最後まで、話していたのは彼女で俺はずっと返事していただけ。

結局、階段を上りきって彼女の姿が見えなくなったあたりで。

「かわいい子だったわね」

「うん、お嬢様って感じだった」

ネルとアミナのどことなく冷めた声にハッとなって現実に戻ってきた。

「よろしかったですね、リベルタ様」

追撃するように飛んできたイングリットの声も普段よりも冷めているような気がする。

「リベルタ、叶わぬ恋にうつつを抜かさない方が身のためです。少なくともその気の抜けた顔はすぐにただした方が良いと思いますよ」

背筋が寒くなり、クローディアさんの仕方ないなと呆れ混じりの声に頬をパチンと両手で叩き、ひとまず気合を入れ直す。

「ハハハハ、若いですなリベルタ殿」

「なんか、すみません」

「いえ、こうなってしまったのもイリスお嬢様の所為ですのでお気になさらず。さて少し時間が過ぎてしまったので急ぎましょう」

微妙に変な空気になってしまったのを一笑して持ち直してくれるロータスさんに感謝。

ネルとアミナのジト目を背に受けつつ、再び歩みを進め倉庫についた。

「さて、お約束のスクロールでございます。エアクリーン、サーモコントロール、そして生活魔術でございます。ご確認を」

公爵家の倉庫、一度入ってみたいけどさすがに部外者を入れるわけにはいかないか。

倉庫の前には兵士が二人見張りについていて、さらに倉庫の中に眼鏡を掛けたインテリ風のイケメンがいた。

ロータスさんが倉庫の前に立ち、扉を兵士が開けて中から出てきたインテリさんと会話しただけでスクロールが出てくる。

管理が行き届いている証拠だ。

「確かに。イングリット、先にエアクリーンとサーモコントロールを覚えてくれるか?」

「かしこまりました」

物を確認すれば間違いなく欲していたスキルスクロール、市場になくてもこういう貴族家の倉庫にはあるんだよな。

「……覚えました、確認をお願いします」

そしてイングリットに渡せば彼女はすぐにスクロールを使用し、スクロールは役目を終え消え去る。

彼女がステータス画面を俺以外に見えないような角度にしてみせてきた。

『イングリット・グリュレ クラス2/レベル92

基礎ステータス

体力188 魔力188

BP 0

EXBP 0

スキル6/スキルスロット6

杖術 クラス10/レベル100

刀術 クラス10/レベル100

調理術 クラス10/レベル100

解体 クラス10/レベル100

エアクリーン クラス1/レベル1

サーモコントロール クラス1/レベル1』

「うん、問題ない」

そこでサポート型メイドの使えるスキルがしっかりと身についたのを確認したので、これであの湯気を突破する算段が付いた。

「これで何とか出来るはずだ」

気を取り直して、ノーリッジに戻るとしよう。