作品タイトル不明
471.バレバレ
控え室に戻り、ワカナ様の侍女が着替えの為の着物を持って来る間に、タイキさんと先程の事を話す。
「あの令嬢達は、伯爵令嬢派の方達?」
「そう。でも伯爵令嬢の言い分的には、さっきので切ったようだけどね」
「あー確かに「友であった者」って過去形だったしね」
「そりゃ切るよな。どういう立場であれ他国の使者を蔑ろにしたんだから、自分の派閥の人間の尻拭いはしたくないだろ」
「年下らしいけど、潔さに好感持てるわ」
「でも、良かったよワカナが着替え貸してくれて」
「ワカナ?呼び捨て?」
「あれ?言ってなかったっけ?婚約者候補のワカナは幼馴染なんだ。ばあちゃんが侯爵家の呉服屋の常連ってのと子供の頃に同じ剣術道場に通ってたから。まあ、今となってはおいそれと気軽に話せないけどね」
「へぇ〜。それは淋しいね」
「まぁな……こればっかりは、しょうがないだろ?若殿の婚約者候補なんだから」
そう話していると、ワカナ様の侍女が着替えの着物セットを持って着た。タイキさんは、一度離れると言い残し控え室を出た。私は手早くドレスを脱ぐと、侍女がドレスを持って出ようとする。
「えっと、着替えの手伝いはして貰えませんか?」
「……ふっ、御冗談でしょう?我がお嬢様に対して邪魔をなさる方の手伝いを、何故私がやらないといけないのでしょうか?使者として来ているのですから、こちらの風習や文化などは学んでいるでしょう?」
そう言い残し、侍女は出て行った。持って来てくれたものを確認すると、そこには着物の他に袴もあり着付けをする為のものが一通り揃っていた。
「まっ、別に1人で着替えられないわけじゃないから良いけどね〜。取り敢えずシャワー浴びよ」
そう、皆んなが忘れているかも知れないけど、こちとら享年82才の後期高齢者。着物の一つぐらいパパッと着替えられる。前世以来の着物、しかも袴となれば女学生以来でテンションが上がり鼻歌を歌いながらものの15分で着替えると、侍女の地味な嫌がらせに気付く。
「草履持って来てねぇし。どうしよう……あっ、そういえば孫の卒業式は、袴姿にブーツ履いていたっけ」
ストレージから編み上げブーツを取り出して履くと、次はヘアセットをする。
シャワーで濡れた髪を【ドライ】である程度乾かしながら、ヘアセットのイメージをする。出国前に切り落とした髪の毛は、ようやく肩にギリギリつかないぐらい。サイド編み込みのハーフアップにし、パールのバレッタで留める。
着替えがちょうど完了したところで、扉がノックされ入室を許可すると先程の侍女の腕を掴んだワカナ様が入って来た。
「ランペイル嬢、申し訳ありません。わたくしの侍女が、貴女に失礼なことを」
「えっ、あっ、あの頭を上げて下さい。ほら、着替え終わっていますし」
「「えっ!?」」
ワカナ様と侍女が驚いて頭を上げ、私の着替えた姿を確認した。侍女に至っては手に持っていた草履の片方を落としていた。
「あの、どなたかに着付けを?」
「いえ、自分で。15分もかかってしまいましたけど」
「「15分!?」」
「恥ずかしい限りです」
「ヘアセットもご自身で?」
「はい。簡単なものしか出来ないですけどね」
ワカナ様が駆け込んで来たのは、タイキさんが知らせたかららしい。用事を済ませて控え室に戻って来ると、侍女がドレスを持って行く後ろ姿を見たらしい。その後、いくら待っても侍女が戻って来ないのを不審に思い会場に戻ると、ワカナ様の近くに待機していた。それとなくワカナ様にどういう事か確認すると、ワカナ様も困惑して侍女に確認。すると、侍女が嫌がらせで着替えと下着姿の私を放置していたことが判明。しかも草履も渡していない。急いで控え室に来てくれたそうだ。
「本当に申し訳ありません」
「あー、良いんですよ。侍女さんの気持ちもわかりますしね」
「えっ?侍女の気持ち?」
「はい。侍女さんは大切なワカナ様を傷つかないように私に苦言を呈しただけですよ。ね?」
「っ!!な、なんて事を……本当にそうですの?」
「……はい。も、申し訳……ありま……せん」
侍女さんは、嫌がらせをした理由をワカナ様に知られてしまい色々な感情で泣いてしまった。
「ランペイル嬢には、本当にご迷惑をお掛けしました。この事は、殿様にも若殿にも報告させて頂きますので」
「えーっと報告はなしで。実害はなかったのだし、私はワカナ様のお陰でこうして着替えも出来ました。侍女さんは、私の濡れたドレスをどこかに運んで行ってくれて、忘れた草履を取りに行ってくれただけです。ね?そういうことにしましょう」
「ランペイル嬢……。貴女のような方だから、あの方に選ばれるのですね……」
ワカナ様が聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな呟きを、私は聞き逃さなかった。
「あの皆さん、何か誤解していますが、私が東の国へ来たのは本当に使者としてですよ?政略結婚などの意図はありません。若殿だけじゃなく他の貴族令息とも。……それから、私とタイキさんは恋愛関係ではありません。顧客の娘と商人というだけですよ」
「「っ!!」」
「どうして、それを?と思っていますよね?ワカナ様の視線を見ていたらわかりますよ。私から見たらバレバレです。タイキさんのことを少なからず想っているなんて。タイキさんから聞きましたけど、幼馴染で同じ剣術道場に通っていたそうですね」
「はい。タイキ様は、誰にでも優しい兄弟子で憧れる子は男女問わず多かったです」
「そして、今は憧れから慕うようになったと?」
「……はい」
いや〜ん、ワカナ様顔真っ赤っか。可愛い〜!!
ちょっと、タイキさんに勿体なくない!?
「タイキさん、気軽に話しかけられなくなったって寂しがってましたよ?」
「えっ……。確かに婚約者候補になってからは、ちゃんと会話した覚えがありませんわ」
「あの……他人の私が言うのもおかしいと思いますけど、自分の気持ちはちゃんと伝えるべきですよ。じゃないと後悔しますよ。もちろん婚約しても結婚しても、自分の気持ちは言葉で伝えないと相手には届かないと思うんです。それで、すれ違ったら嫌でしょう?」
「はい……。でも、婚約者候補ですし……それに私がタイキ様と一緒にいれば、勘繰られることもありますし……それでタイキ様のご迷惑になるのは……」
「では、まずは若殿に自分の気持ちを伝えましょう!」
思い立ったら吉日。
私はすぐさま立ち上がり、ワカナ様を急かしながら会場へ戻った。