作品タイトル不明
391.魔力暴走
「ランペイル嬢が地味……。まあ、それは置いといて、何か根拠があるの?」
と、アルバート殿下。
「もちろん、ありますわ。この前だって、時計台に呼び出されて展望台から突き落とされかけたんですぅ。」
飴ちゃんの言葉に、周りがザワザワとする。それに気を良くしたのか、飴ちゃんは両手で自分を抱きしめながら話し出す。
「あ、あの時……ランペイル辺境伯令嬢は、従僕見習いが怪我したのは、あたしのせいだって怒りだして……あたし、怖くて怖くて……。手摺りまで下がったら……ランペイル辺境伯令嬢が……あたしを押して……。」
いやいや、呼び出したのお前だし!
うっわぁ〜、涙まで浮かべ始めたよ。女優だね〜。
「……と、彼女は言っているが?」
と、アルバート殿下は私を見る。
「発言を宜しいでしょうか?」
「許す。」
陛下の言葉を受け、私は飴ちゃんの横に並ぶ。
「先日、こちらにいらっしゃるブラン男爵令嬢より手紙を貰いました。内容は、我が家の従僕見習いの怪我は、ブラン男爵家の家令がやったことで、それに対して謝りたいから会って欲しいと。場所と時間が書いてありーー」
「そんなの嘘よ!あなたが、あたしを呼び出したんじゃない!!」
「静かに!……ランペイル嬢、続けて。」
「はい。指定された時間へ時計台に行ってみると、既に彼女は展望台にいました。わたしが来たことに気づいていないようでしたので、声をかけると振り向いたのですが、掴まっていた手摺りが壊れて、彼女が外に投げ出されそうになり、私は手を伸ばしました。その際、彼女に引っ張られて体勢が入れ替わり、私が外へ投げ出されました。」
「ほう、よく無事だったな。ランペイル嬢。」
「はい。私の契約獣と……ちょうど通りがかったリバークス侯爵令息様に助けて頂きました。」
そう言い、カズール先輩の方を見ると頷いている。
「ランペイル嬢の話が真であれば、その方の話が虚言となるが?」
と、陛下。
「………。」
「おや、今度はだんまりかい?そもそも、なぜキャサリーヌ嬢がランペイル嬢に、あなたを虐めるようにする理由があるんだろうか?」
「そ、それは……フレッド殿下を譲りたくないから……。」
「フレッドをね〜。君は先程から、キャサリーヌ嬢がフレッドの婚約者のように言っているが、キャサリーヌ嬢は私の婚約者だが?」
「えっ?……嘘、なんで?だって第一王子の婚約者は、胸の大きい伯爵令嬢じゃ……。」
「誰、それ?最初から、婚約者はキャサリーヌ嬢だけだけど?」
「えっ?じゃあ、フレッド殿下の婚約者って……。」
飴ちゃんがキョロキョロと周りを見る。
「はぁ〜、ちゃんと紹介したかったんだけどな……エレーナ。」
「はい、フレッド殿下。」
フレッド殿下はエレーナ先輩が隣に並ぶとスッと腰を抱く。
「俺の婚約者は、エレーナ・ディーゼル侯爵令嬢だ。」
「えっ……何で……そんな人、いなかった……。」
飴ちゃんは、その場で座り込みブツブツ呟いている。
「……どうやら、全てブラン男爵令嬢の妄想のようじゃな。ブラン男爵、娘を連れ領地で沙汰を待て。」
陛下の言葉に、騎士が飴ちゃんを立たせようとする。
「や、止めて!あたしに、触らないでー!!」
「「っ!!」」
飴ちゃんが叫んだ瞬間、騎士が弾き飛ばされた。
「ちょっと!さっきから何なのよ!?虐められたのはあたしだって言ってるでしょう!?素直に信じなさいよっ!ヒロインはあたしなのよ!」
そう叫ぶ飴ちゃんの魔力が膨れ上がるのがわかる。
「ヤバい。魔力が暴走している。全員を避難させるんだ!」
アルバート殿下の声に、騎士団や侍従、侍女が関係のない貴族達を部屋の外へ誘導する。ブラン男爵は、何が起こったのか分からず、ぼーっと飴ちゃんを見ている。誘導が終わり、パーティールームには関係者だけとなる。
《魔力暴走》
普段、魔力とは意図的に操作しており、形質変化や能力上昇、生成など様々な事に活用できるが、情緒不安定な時など、意図しないで魔力をつかうこと。酷い時は、自我を失う。
「ブラン男爵令嬢、落ち着くんだ!」
と、宰相様。
「このままでは、あなたも無事では済まないわよ。」
と、ジュリー叔母様。
「煩い、煩い、煩い……。どうして、いつもあたしじゃないのよ!いつもお姉ちゃんばかり、みんなに期待されて、優しくされて……何であたしじゃダメなのよ!どうして……どうしてなのよーーー!!」
その瞬間、暴走して吹き荒れる魔力は、近くにいた私とブラン男爵を吹き飛ばした。
「きゃっ。」
壁に打ち付けられると思った瞬間、ボフッと柔らかな何かに包まれた。
『間に合った……。大丈夫、ジョアン?』
私を包んだのは、成獣サイズのパールだった。
「ありがとう、助かった。あっ、ブラン男爵は?」
『あー、ついでに助けたわ。』
と、パールが顎で示す方を見ると、失神しているブラン男爵がいた。
『ジョアン様。』
声をする方を見ると、いつの間にかベルデが肩にロッソをのせて立っていた。
「ベルデ!?いつの間に?」
『ロッソが嫌な予感がすると言うので、先程からテラスにおりました。』
「ありがとう、2人共。ベルデは、王族の皆様に結界を。」
『かしこまりました。』シュン。
ベルデは、陛下達の元へ転移し、結界を張る。
「ぐ、近寄れない……。」
「何なんだよ、この魔力量は。」
「このままだと、王城が崩壊しかねないぞ。」
様々な魔獣と戦い経験のある魔物討伐団や魔術師団でも、桁違いに魔力が多いらしい。
ーーベルデ、王城が崩壊しないようにってどうにか出来る?
ーー結界だけでは、崩壊してしまうでしょうから……。では、これではどうでしょう?
そう言うと、パーティールームの窓一面に、蔦が張り巡る。どうやら、蔦で王城を守っているようだ。更に、結界を張ってくれた。
「結界を張りました。王城の崩壊の心配はありません!!」
と、力の限り叫ぶ。
「助かる!しかし、このままでは危険だ。早々にケリをつけるぞ。」
「「「「「おおー。」」」」」
魔力暴走は、一部では《身喰い》とも言われている。その名の通り、時間の経過につれ魔力が身体を蝕んでいく。蝕まれた身体は、ただ死を待つだけの状態になる。情緒不安定な飴ちゃんの精神を安定させなければ、周りにいる騎士だけではなく、飴ちゃん自身も怪我では済まない。
そして、エグザリア国で魔力暴走は重罪。
だからこそ、10才から義務教育で全国民が、学院で魔力制御を学ぶのだから。過去にも何人か魔力暴走した者がいたらしいが、全員が終身刑もしくは処刑されている。放っておくと危険な存在になるから、仕方がないこと。もちろん、このことも学院入学して初めての魔術の授業で教えられる。