作品タイトル不明
312.プレゼン
クマールさんが、カートに指定された物を持って戻って来た。
「では、クマール、先程と同じように淹れなさい。ジョアン様はこちらを。」
「ありがとうございます。」
ティーポットとティーカップを渡される。
ティーカップに人数分お湯を注ぐ。これは、ティーカップを温めると共に、お湯を冷ますためだ。その間に、ティーポットに茶葉を入れる。あらかじめついでおいたティーカップのお湯をゆっくりティーポットに注ぎ、その後約1分ほど、お茶の葉が開くまで静かに待つ。ちょうどガラスのティーポットだから、茶葉が開くのがよく見える。
茶葉が開いたら、好みの濃さに合わせて ティーポットを3~5回廻して、ティーカップに均等につぐ。つぎ始めは薄く、後になるほど濃くなるから、お茶の濃さが平均するように注ぎまわす。最後の一滴まで。
「お待たせしました。どうぞ。」
ダッシャーさん、店長さん、マーサにお茶を配る。
「ありがとうございます、ジョアン様。では、左がクマール、右がジョアン様の淹れたお茶です。これから飲み比べを致します。先に左からお飲み下さい。」
ダッシャーさんに従い、皆んなでクマールさんの淹れたお茶から飲む。
うん、さっきと同じ。……足りない。
「では、次はジョアン様の方を。」
「「「っ!!」」」
店長さんとダッシャーさん、マーサは、飲んで何が違うかすぐにわかったようだった。
「お、美味しいです。自分の淹れたお茶より、ジョアン様の方が……。」
「えーっと、緑茶は、80〜90度のお湯を使うんです。ティーカップにお湯を注いだのは、お湯を冷ますこととカップを温める為なんですよ。そして、緑茶の場合、同じ茶葉に再度お湯を淹れて飲むんです。2回目は、そのままティーポットにお湯を入れて、待ち時間なしで飲めるんですよ。出来たら2回目のお湯は1回目より少し高い方が良いです。」
パチパチ、パチパチ。「素晴らしい!」
ダッシャーさんから、拍手と共に褒められる。
「ジョアン様は、どうしてそんなに詳しいのですか?」
ダッシャーさんに聞かれて
「えっと……知り合いの乾物屋さんに教えて貰ったんです。」
さすがに前世の記憶とは言えず、咄嗟にサッちゃんの顔が浮かんだので、つい言ってしまった。
まあ、サッちゃんの店でも飲んだし大丈夫よね?
「乾物屋?」
ダッシャーさんも店長さんも、まさかの乾物屋に驚いている。マーサは、俯いて肩がバイブ状態……。あれは、笑いを堪えてるわ。
「あー、そこの乾物屋は、 東(あずま) の国の食材が売っているんです。」
「おー、なるほど。そういうことでしたか。」
ようやく2人は納得してくれた。
そして、店長さんは自分の勉強不足を謝り、他のスタッフにも再教育をし直しますと個室を出て行った。
「いや、本当に申し訳ありませんでした。」
「いえ、こちらも出しゃばった真似をしてしまいまして、申し訳ありません。」
「とんでもございません。クマールも勉強になったことでしょう。」
そうだ、このタイミングで軽食とスイーツのことも、提案してみようかな?お母様には許可を貰っているし……。いや、貰っていると言うか、プレゼンするなら、意地でも売ってこいと言われているけど……。
「あの、出しゃばりついでに……一つ提案がありまして。」
「ほお。提案とは?」
「先程、こちらの軽食とスイーツのメニューを見せて貰いましたが、こちらでは茶葉を使ったスイーツは出さないのでしょうか?」
「茶葉を使ったスイーツ?」
「はい。……これなんですが。」
ストレージから、紅茶のクッキーとシフォンケーキを出す。
「これは?」
「我が家で作った、紅茶のクッキーとケーキです。一度、食べて頂けませんか?」
サクッ……モグモグ……。
「クッキーもケーキも素晴らしい美味しさです。食べると紅茶のいい香りが鼻に抜けますな。ケーキに添えているクリームも、この店で出している物より濃厚だが、ケーキの邪魔をしていない。」
「ありがとうございます。クリームは、ノルデン領の知り合いの酪農家より購入してます。」
「さようでしたか。ノルデンの乳製品は、品質が良いと聞いておりましたが、ここまでとは……。ジョアン様、是非、このクッキーとケーキのレシピを教えて貰えませんでしょうか?もちろん、無料でとは申しません。」
「ありがとうございます。ちなみに、緑茶に合うスイーツもありますが?」
「な、なんですと?是非!あっ、少々お待ち下さい、当店のスイーツ担当を連れて参ります。」
ダッシャーさんは、慌てて個室を飛び出して行った。
「お嬢様、さすがでございます。」
「良かった〜。気に入って貰えたみたいで。提案後の交渉は、念の為、お母様に対応してもらうわ。私のレシピが、どのぐらいの価値なのか、わからないもの。」
「ええ、それで宜しいと思いますよ。……それにしても、緑茶とは冷めても美味しいものですね。」
既に冷めてしまった緑茶を飲みながらマーサが言う。
「夏は濃いめに淹れて、氷で冷やしても美味しいよ。ウチのアイスティーみたいに、氷を緑茶で作れば、味が薄まらないし。」
そう言った私を見るマーサの目が、キラリと鋭く光ったように見えた。
「お嬢様、それも売れます!」
「えっ?どれ?」
「氷でございますよ。この店で、冷たい紅茶を出さないのは、氷で薄まるのが困るからだと思います。それについては交渉の場で、奥様にお任せした方が宜しいかと思います。ですから、ここではアイスティーや氷については、一切話さないで下さいましね!」
「は、はい!」
口滑らしたら、ヤバい……。
ウチの使用人、優秀すぎて怖い……。