作品タイトル不明
305.クロエ先輩のお家
「ただいま〜。ジョアンちゃん達をお連れしたよー。」
ブルーノさんが、家に入ってすぐに大声で伝える。
バタバタ、バタバタ……。
「いらっしゃい、ジョアン、ベル。寒かったでしょ。早く入って入って。」
奥へ案内されると、吹き抜けのリビングには、大きな暖炉がありその暖炉を囲むようにコの字でソファーが並んでいる。
ソファーには、何人か座って談笑していた。
「皆んな、私の後輩のジョアンとベルよ。」
クロエ先輩がそう言うと、座っていた全員がこちらを見る。
「あら?」「「あー。」」「「えっ?」」
そこには乗合馬車で一緒だった、おばあさんとショーン君、ハルちゃんがいた。
おばあさんとショーン君とハルちゃんは、親類の家に行った帰りだったらしい。そして今まさに、乗合馬車であった話を家族にしていたところだったらしい。
「あははは、まさか護衛がクロエの後輩だとは、凄い偶然だな。」
そう言うのは、先輩のお父さん。力がいる酪農家らしく、ガタイの良い人。
「でも、こんな可愛らしい子がそんなに強いだなんてねぇ〜。」
「見た目によらないわね。クロエちゃんもそうだけど。」
そう言って仲良く話しているのは、先輩のお母さんと義姉さん。2人は、長兄の乳製品工房を手伝っているそうだ。
「ジョアン姉ちゃんも、ベル姉ちゃんも超格好良かったんだぜ。」
ショーン君が握り拳を作りながら熱く語る。
「そうそう、それでね、パールちゃん大きくなれるのよ。」
ハルちゃんはパールのことを教えている。
「「私も一緒に行きたかった〜。」」
クロエ先輩の妹2人は、一緒に行かなかったことに後悔していた。
「ごめんね、うるさい家族で。」
クロエ先輩が謝ってくるが、私達は即座に首を横に振る。
「賑やかで良いじゃないですか。ウチでもこんな感じですよ。兄2人に双子の弟と妹がいるし。」
「ウチは兄だけですけど、兄だけでもうるさいですよ。」
「あははは、なんだウチとあまり変わらないんだね。平民も貴族も一緒かー。」
「「「「「「「えっ?貴族?」」」」」」」
さっきまで賑やかだったリビングが静まり返る。
「ちょっ、ちょっと、どういうことなの?クロエ。」
「そうだぞ。今、貴族とか聞こえたが?」
先輩のお父さんお母さんが、慌てて先輩を問い詰める。
「えっ?あれ?言ってなかった?」
「「「「「「「言ってない!」」」」」」」
「すみません、私達もちゃんと挨拶してなくて……。改めまして、ランペイル辺境伯家、長女ジョアン・ランペイルです。」
「バ、バースト伯爵家、長女ベル・バーストです。」
「「「「「「「申し訳ありません。」」」」」」」」」」
大人達が謝る中、子供達はキョトンとしている。
「あの、クロエ先輩の後輩には変わりないですし、学院では貴族も平民も平等ですので、気軽にジョアンと呼んで下さい。」
「あ、あの、わ、私のこともベルと。」
「えーっと……良いんでしょうか?」
「「もちろんです。」」
「じゃあ、その、お言葉に甘えて……ジョアンちゃん、ベルちゃんと呼ばせてもらいます。」
「はい。皆さんもよろしくお願いします。今日からしばらくお世話になります。」
*****
クロエ先輩にゲストルームに案内された。ゲストルームと言っても、1棟全部でミニキッチンやバス、トイレが完備されていた。ベッドルームも4部屋あり、元は従業員の独身寮だったらしいが、全員結婚して街に家を買ったり借りたりしていて、ここには通いで来ているらしい。
「ごめんね、2人共。私、皆んなに言ったつもりでいた。」
「気にしないで下さい。こうやって迎え入れてくれただけで嬉しいです。」
「そうですよ。ずっと楽しみにしてたんですから。」
「ありがとう。じゃあ、夕食まで時間があるから良かったら牛舎とか見てみる?」
「「ぜひ!」」
最初に向かったのは、牛舎。
中に入ると50頭ぐらいの牛がいた。ちょうどスタッフが餌を与える時間だったのか、牛達はこちらをチラッと見ただけで餌をハムハムしている。
その後に行ったのは、工房。
工房は、大きな窓ガラスがあり中が見えるようになっていた。その工房では、長兄のディックさんが白衣を着て作業をしていた。そしてディックさんを見て思い出した。
「あっ、そうだ。ディックさんにカスタードクリームの作り方教えるんだった。」
「えっ?そうなの?」
「ブルーノさんからシュークリーム食べて、作り方を考えてるって聞いたんですよ。でも、カスタード……黄色いクリームは卵も必要なんですよ。」
「あー、そうだったんだ。じゃあ、後で話せば良いよ。」
「わかりました。」
「あっ、お土産も渡し忘れてた。今回は、スイーツいっぱい持って来たんですよ。」
「やったー!嬉しいよ。」
「はい、お世話になるんで。あっ、もちろん滞在している間は働きますからね。一宿一飯の恩義は忘れませんよ。」
「「一宿一飯の恩義?」」
「えーっと、宿泊させてもらったり、食事をご馳走してもらった恩義は忘れてはいけないってことですよ。」
「そんな気にしなくて良いのに……。牛達の世話は朝早いし、重労働だし、慣れてないと危ないよ。」
「じゃあ、ご飯作りやらせて下さい。それなら、出来ますし。」
「あっ、それなら私も手伝えそう。」
「そう?ジョアンの料理は美味しいの知ってるけど……。母さん達に相談してからでいいかな?」
「「はい。」」
早速、先輩はお母さん達に確認を取ってくれた。
最初は、ご令嬢にやらせるなんて出来ないって言われていたが、最終的にお母さんの手伝いぐらいならと譲歩してもらえた。
まあ、自分のテリトリーのキッチンに他人が入るのは、嫌だって気持ちはわかるから、下拵えの手伝いでもできるならありがたい。