作品タイトル不明
275.我慢は出来ない
帰りはジョアンの転移で帰る為に、歩いて街に向かう。
夕暮れ時もあって、街は昼間とは違う活気がある。至る所で呼び込みの声や陽気な笑い声が聞こえる。また、屋台や店からの良い匂いが空腹を誘う。
「良い匂いがするね、ジョアン。」
「うん。屋台の食べ物って、何であんなに美味しそうなんだろ。匂いだけで白飯いけそう……。ねえ〜?ジーン兄様〜?」
「……ジョー、食いたいんだろ?でも、お祖父様が早く帰って来いって言ってただろ?」
「じゃあ、急いで食べたら大丈夫!……痛っ。」
サムズアップをしながら、屁理屈を言うジョアンのおでこにデコピンをするジーン。
「……ったく、1つだけだぞ。」
「ありがとう!ジーン兄様!!行こう、ベル!」
「あっ、ちょっと待ってジョアン!」
手を握り走って行くジョアン達を見ながら
「はあー、何で我慢できねーんだろ?」
「あははは、お前の妹だからじゃね?」
「は?何だよそれ。」
「じゃあ、ジーンは我慢できんのか?この良い匂いに。」
「……無理だな。」
「だろ?……俺もだ。」
「「あっははは。」」
ジーンとエリックも笑いながら、ジョアン達の後を追う。
「おじさーん、下さいなー!」
「はい、らっしゃい!……ん?あれ?姫さんかい?」
「はい、お久しぶりです!」
「いや〜大きくなったね。4年ぶりぐらいか。」
「そうですね、今年、学院に入学したので。あっ、で、注文良いですか?ちょっと急いでるの。」
「ああ、もちろんだ。」
「えーっと、私はエビ串。ベルは?」
「あっ、わ、私も同じで。」
「俺は、ハマグリ。」
「あっ、俺もハマグリ。」
「よし!エビ2に、ハマグリ2だな。で、姫さんらは何で急いでんだ?」
「ネルさん家の魚屋さんに買い出し行かないといけないんだけど、どうしてもおじさんとこの串焼き食べたくて。お祖父様から、早く帰って来いって言われてるんだけどね。」
「あっははは、そりゃ嬉しいね。じゃあ、焼いている間に魚屋行っておいで。」
「いいの?ありがとう。」
屋台のおじさんのご好意で、ファンタズモの私兵団員、ネルさんの実家の魚屋に向かう。
「まだ、魚か貝があれば良いけどなぁ〜。」
「んー、この時間だからな。」
屋台から10分程の所にある、ネルの実家の魚屋に到着する。
店の前には、夕飯の買い出しに来た奥様方やお使いを頼まれたであろう子供がちらほら。皆んな店頭の生簀を見ている。同じように生簀を見てみると、元気に泳いでいる魚やカゴの中に入った貝があり、在庫は十分だった。
ジョアン達の番になり
「えーっと、今日のおすすめはなんですか?」
「今日は、魚ならアジ、エビ、っすね。貝ならハマグリ、シジミーー」
「全部……じゃなかった、全種類買えますか?」
「全種類……ん?あっ?お嬢さんじゃねーっすか?」
「はい、お久しぶりです。えっと、アジ10、エビ10、ハマグリ2カゴ、シジミ3カゴお願いします。」
「まいど。今、準備しますね。」
「あんた、貝は私がやるよ。」
「おい、無理すんなよ。」
「大丈夫だって。」
奥から出てきてネルパパに話しかけたのは、恰幅のいい女性だった。
「ネルさんのお母様ですか?」
「やだよ!お母様なんて、言われたこともないけどネルの母親だよ。お嬢さんはどちら様だい?」
「初めまして、いつもネルさんにはお世話なってます。ランペイル家の長女ジョアンです。」
「あら、やだ、も、申し訳ありません。ご領主様のお嬢様とは……こ、こ、こちらこそネルがお世話に……痛たたたっ。」
「えっ!?だ、大丈夫ですか?」
「す、すみません。午前中に足を滑らせて尻餅ついちゃって腰をね……。年は取りたくないもんだねぇ。」
「だから、お前は横になってれば良いんだよ。ほら、立てるか?」
魚を包み終えたネルパパもやってきて、ネルママを立たせようとするが、痛みがあって足に力が入らないようだ。
「ジーン兄様【ファーストエイド】を使っても良いかな?」
こそっとお伺いをたててみる。
「ああ、さすがに辛そうだし、ネルさんのご両親なら大丈夫だろ。あとで、お祖父様たちにちゃんと報告するんだぞ。」
「はい。……あの、ちょっとだけ痛めた部分触っても良いですか?」
「え?はあ……。」
「失礼しますね……痛いの痛いの飛んでいけ〜(【ファーストエイド】)。……どうですか?」
「え?あれ?痛くないよ。ど、どうしてだい?あんた、普通に立てるよ。」
「あー、ちょっとした……おまじないですかね?でも、応急処置だけなんで痛み出したら神殿で見てもらって下さいね。」
「お嬢さん、本当にありがとうございます。あの、これ、持って行って下さい。」
「いやいや、代金払いますから。」
「いえ、本当に貰って下さい。神殿で高いお布施より安いもんなんで……。」
「じゃあ、ありがたく頂きます。……あっ、このことは内緒でお願いしますね。」
「「もちろんです。」」
「何か悪いことしちゃった……。魚の為にやったわけじゃなかったんだけど……。」
「まあ、でも店主が言うように神殿の高いお布施よりは安いのかも知れないぞ。ともかくジョーは良いことしたんだから、気にすんな。」
そう言いながらジーンは、ジョアンの頭を優しくポンポンする。
「うん……。」
「ジョアン、ほら屋台のおじさんがこっち見て待ってるよ。」
ベルに言われ顔を上げると、遠くで屋台のおじさんが手を振っている。
「本当だ。……じゃあ、食べに行こう!ビリになった人の奢りねー。」
ジョアンはそう言うと駆け出した。
「「「あっ!!」」」
先程まで、凹んでいたジョアンが屋台のことを思い出し気持ちを一気に切り替えたことに3人は苦笑するが、ジョアンの言ったビリになって奢りたくはない為、後を追うように3人も駆け出した。
ちなみに、夕飯時の人混みを走るには小柄なジョアンやベルの方が走りやすく、結果ビリになり全員分奢ったのはエリックだった。