作品タイトル不明
ヤンデレと餌付け①
「ねぇ、お昼終わっちゃうよ。早く、行こうよ」
応援うちわ……じゃなくてボードについて話していると、レフィトに腕を引かれた。
珍しく不満そうな表情をしている。
「ちょっとだけ待っ──」
「待たない。行こう」
ぐいぐいと腕を引かれる。様子が変だ。
「どうしたの?」
「別にぃ」
いや、別にって顔じゃないよね?
怒っているというか……、ふてくされてる?
うーん、教える日程を決めてしまいたかったけど、それは後回しかな。
「ごめんなさい。詳しいことは、またあとで決めるんでもいいですか?」
「もちろんだよ」
「カミレ、行こう」
被せるようにレフィトは言うと、私の手を引いて歩き出す。
「ねぇ、本当にどうしたの?」
「何でもない」
「何でもないって……。言ってくれなきゃ、わからないよ」
「言いたくない」
えー。すごい困るんだけど。
珍しく、だんまりしてるし。
いつもの空き教室まであと少しというところで、今日はお弁当を持ってきていないことを思い出した。
アザレアの家から来ているから、しばらくは買わないとなんだよね。レフィトにも伝えておいたけど、お昼ごはん、どうするつもりなんだろう……。レフィトが手に持っている大きめの鞄に入ってるのかな?
「レフィト! お昼を買いに購買に行きたいんだけど」
「二人分持ってきてるから、大丈夫」
えっ!? そうなの?
送り迎えのお礼にお弁当を作ってきてたから、してもらうばかりで申し訳ない。
また無言になってしまったレフィトに手を引かれたまま、いつもの空き教室へと入ると、レフィトは性急にドアを閉めた。
「カミレの馬鹿……」
そう言いながら、強い力で抱きしめられる。
「レフィト?」
名前を呼んでも返事はない。
いつもなら、間延びした声で答えてくれるのに。
本当にどうしちゃったんだろう。
「言いたくないの?」
「うん」
「そっかぁ。言いたくない理由は?」
「かっこ悪いから」
…………かっこ悪いから?
正直に答えるあたりがレフィトだよなぁ。
理由は可愛いけれど、さっきのは駄目だよね。
「カッコ悪いと駄目なの?」
大きな背中を優しくぽんぽんと撫でる。いつかレフィトが私にしてくれたように。
「どんなレフィトでも、私は知りたいよ。もちろん、レフィトが教えてもいいって思ってくれたらだけど」
「散々かっこ悪いところ見せてるから、これ以上見せたくない。カミレにかっこいいって思われたい」
…………え、可愛いすぎない?
可愛いの大行進なんだけど!!
今って、可愛いって言っちゃ駄目な感じ? 前は、嬉しいって言ってくれてたけど、どうなの!?
「……かっこいいって思ってるよ?」
今は可愛いって思ってるけど、デートで守ってくれた時とか、剣術大会の時とか、かっこいいって思ったもの。
「本当に?」
ヒョイッと抱き上げられ、琥珀色の瞳が近くなる。
互いの輪郭がボヤけそうなほどの距離に、思わず視線をそらした。
キスしたこと、思い出してしまう。
今は、そんな場合じゃないのに……。
「カミレ、こっち見て」
「えっと……」
「カーミレ」
じわりじわりと顔に熱が集まっていくのを感じる。顔、赤くなってるよね。
どうしよう。意識すればするほど、レフィトの方が見れない。
「真っ赤になって、かーわいい。リンゴみたいだねぇ」
クスクスと楽しそうにレフィトは笑う。
さっきまであんなに可愛かったのに、この余裕はなんだろう……。
何となく悔しい。だけど、やっぱり見れない。
「ねぇ、オレのことかっこいいと思ってくれるなら、こっち見てよ」
楽しそうに囁かれた。絶対にからかってる。
うぅぅ……、ずるいなぁ。そう言われたら、向かないわけにはいかないじゃん。
おずおずとレフィトの方に視線を向ければ、まるで愛おしいというような熱の奥に、チリチリと燃えるものを感じた。
「やっと見てくれた。カミレは、オレだけを見てよ」
そう言いながら、レフィトは私を抱き上げたままスタスタと歩き、椅子に腰を下ろした。
レフィトの上に、私は横向きで乗ったままだ。
隣の椅子に移ろうと思えば、お腹を固定されていて動けない。
「今日は、このままお昼食べよう? オレが食べさせてあげるねぇ」
「えっ…………」
何で?
今までにない行動に、レフィトが何を考えているのか分からない。
「サンドイッチを作ってもらってきたんだぁ。本当はオレが作りたかったんだけど、屋敷のみんなに止められちゃったんだよねぇ。はい、あーん」
目の前にサンドイッチを差し出された。
ふわふわの白いパンに挟まれた卵に、シャキシャキのレタスがとても美味しそうだ。
だけど、私は無言で首を横に振った。
だって、レフィトの様子が明らかにおかしい。そもそも、誰がいつ来るかわからない 空き教室(ここ) でのあーんはやめてほしいし、膝の上からも下ろしてほしい。
「自分で食べるから」
「駄目だよぉ。卵が嫌だったの? こっちの肉のにする?」
「そうじゃなくて。レフィト、変だよ? どうしたの?」
いつから変だったっけ? 朝は、普通だったよね。
…………あれ? 「カミレの興味を奪う男なんて、いらないよねぇ」って、前にレフィトが言ってたことあったよね。
それで、レフィトに男の人の話をしちゃ駄目だって思ったことなかったっけ? もしかして──。
「私が他の男の人と話すのが嫌だったの?」
思わず口から滑り出た言葉。その言葉に、レフィトはヘラリと笑った。
私を抱きしめる腕の力が強くなる。
「何だぁ。分かってたんじゃん」
ヒヤリとする声色に、聞いてはいけないことを言ってしまったのでは……と、恐る恐るレフィトを見れば、瞳の奥にあった炎が大きくなっているような気がした。