作品タイトル不明
好きだから、独占したい②〜レフィトside〜
カミレはフィラフの話をどう思ったのだろう。
詳しくは話さなかったけど、それが正解だったのかは、わからない。
今は四限目の授業中で、二つ斜め前に座るカミレの後ろ姿を眺める。
いつもなら真剣に板書を写しているカミレだけど、今日は珍しくウトウトとしている。それでも頑張って起きていようとする姿が可愛い。
なんで、こんなに可愛いんだろう。それに、努力家だ。
問題は、優しすぎるところなんだよなぁ。
それは良いところでもあるけれど、貴族としては欠点でもある。
まぁ、その優しさにオレは救われたんだけどねぇ。
カミレだから、ネイエ嬢もアザレア嬢も味方になったってのもあるだろうし。
アザレア嬢は、まだマリアン嬢のことも心配しているけど、カミレを裏切ることはないだろう。
彼女もまた、貴族らしからぬ性格をしているから。
パーティーでカミレ自身に気をつけてほしいことは、フィラフと 母親(あの人) 以外に、オレとしては特にない。
オレの血縁に声をかけられて無視できるのか、そもそも他者を 蔑(ないがし) ろにできないカミレが避けきれるのか……。
オレも離れないようにするけど、ネイエ嬢にもカミレのことを頼んでおいた方がいいかな。
頼まれなくても、カミレに害を与えるような人は近づけさせないって、ネイエ嬢には言われそうだけどねぇ。
カミレの後頭部がこくりこくりと動いている。眠気の限界が来たみたいだ。
昨日からアザレア嬢の家に行き、朝から泣いたのだ。疲れているのだろう。
もうすぐ昼休憩だし、少しカミレを休ませないと。放っておけば、限界を超えて無茶しそうなんだよねぇ。
医務室で仮眠をとってほしいけど、病気じゃないから……って言いそうだし、またいつもの空き教室かな。
なんて思いながら見ていたら、上下に小さく動いていた頭が、カクンッと右に傾いた。慌てたようにきょろきょろと周りを見回している。あぁ、すっごく可愛いなぁ。
そんなカミレをくすりと笑うヤツが視界に入った。
隣の席のヤツがカミレに声をかけようとしている。
なんだ、あいつ。
お前ごときがカミレに話しかけて良いと思ってるのぉ?
隣の席という幸運で、満足できないのかなぁ?
手を伸ばすクソ野郎に殺気を飛ばせば、そいつはオレの殺気をきちんと受け止めたようで、カミレの方に伸ばした手をサッと引っ込めた。
うん。あいつと席のチェンジをしよう。
オレがカミレの隣に座りたいからって、他の人を退かしたらカミレが嫌がると思って我慢してた。
だけど、あいつは駄目だ。
授業の終了を知らせるベルが鳴り、オレはすぐさまカミレのところまで行った。
もう一度、隣の席の男に殺気を飛ばすのも忘れない。
顔色を悪くするそいつに、オレは笑顔を向けた。
「オレと席、替わってくれるよねぇ?」
「……え?」
「席、替わってくれるよね?」
一度で理解しなかったようなので、もう一度ゆっくりと伝えてやれば、そいつは何度も頷いた。
最初から頷けばいいのにねぇ。おまえがカミレに触ろうとするから、好意を持つから、話しかけようとするから、いけないんだよぉ?
「ちょっと、レフィト!?」
「へへへ。五限目からお隣さんだね。よろしくねぇ」
そう言ってヘラリと笑って見せても、カミレはじとりとオレを見た。
これは、ちょっと怒ってるよなぁ。
カミレは、無理矢理言うことを聞かせたりするの、嫌がるもんなぁ。
あーぁ、カミレのいないところでやれば良かった……。でも、隠れてやるのもなぁ。どっちにしろ、カミレは納得しないだろうし……。
「ごめん。カミレのそばに少しでも長くいたいんだぁ。怒ってる……よね?」
こてりと首を傾げて、カミレを見る。
言ったことは正直な気持ちだ。
我慢するつもりだったけど、隣の席の男が気に入らないから、少しわがままを通させてもらおう。
「うっ……」
声をもらし、顔を赤らめたカミレを見つめ続ける。
知ってるんだ。こうすれば、カミレが許してくれるって。
オレって、ずるいよなぁ……。
「こ、今回だけだからね。次は駄目だよ!!」
「うん!!」
ほら、許してくれた。
カミレはオレにあまい。そのことにあんまり甘えちゃ駄目だって分かってるけど、たまにだから許してほしい。
カミレのお許しが出たので鞄を移動させていると、カミレは隣の席だったヤツに話しかけていた。
「あの、ごめんね……」
「ううん、大丈夫だから。そのかわり、今度僕と一緒に──」
「一緒に、何かなぁ?」
そいつが言い切る前に、間に入る。
婚約者(オレ) の前でカミレを誘おうとするなんて、いい度胸してるよねぇ? 家ごと潰してやろうかなぁ?
「あ……その……」
「うん?」
言えるもんなら、言ってみなよぉ。
そのかわり、二度としゃべれないようにしてやるけどねぇ。
「ちょっと、レフィ──」
「剣術大会で応援に使っていた紙の作り方を教えてほしいんだ!!」
「そんなの駄目に決まって…………え?」
今、何て言ったぁ?
カミレをデートに誘いたいんじゃなかったのぉ?
「建国祭の時、演奏コンクールがあるだろ? そのバイオリン部門に婚約者が出るんだ。応援に行くときに、少しでも力になりたくて……。カミレ嬢が剣術大会の時に持っていたやつなら、演奏の邪魔をせずに応援できると思ったんだ。もちろんタダでとは言わない。あまり大したことはできないけど、お礼も──」
「お礼なんて、いいですよ。作り方ですよね? 私で良ければ、教えますよ」
え……、ちょっと待ってよ。
カミレだって、パーティーまで時間がないんだよぉ?
それに、教えるとしたら学園にいる時だろうし。オレとふたりでいられる時間だって減ってるのに、この男の頼みを聞くの?
オレとの時間がもっと減っちゃうんだよ?
何で引き受けちゃうの? さみしいのは、オレだけなの?