作品タイトル不明
悪役令嬢にざまぁされないように、協力した方がいいですか?⑦
「あとで、ゆっくり話そう?」
「うん」
落ち込んだ声に、手を伸ばして頭を撫でれば「嫌いにならないで……」と私にだけ聞こえる声で呟いた。
「ならないよ。誰よりも大切に思ってるよ」
頷く気配がしたあと、レフィトは手の力をゆるめた。
そして、肩口に顔を埋め、動きを止めた。
これは、もう口を出さないというレフィトなりの意思表示なのだろうか。
とりあえず、お待たせしているネイエ様と話さなければ……と視線を向ければ、目をまん丸にしたネイエ様と視線が交わった。
「すっかり、懐いているとは思ってたけど、ここまでとは……」
「え?」
「いえ。カミレさんを勧誘するのは、今日は諦めることにします。チャンスがあれば、また誘いますけど」
「そのことなんですが、お断りさせてください。お給与を弾んでいただけると聞いた時、正直心が揺れましたけど、もっと優先したいことがあるんです」
「そうですか……。気持ちが変わりましたら、おっしゃってくださいね。カミレさんなら、いつでも歓迎ですから」
にこりと笑うネイエ様の言葉に、ゆるりと首を横に振る。
「私の未来ですけど、レフィトとよく話し合って決めていきます。一緒に生きていくなら、私だけの未来ではないので」
ゆるくなっていたレフィトの腕の力が、ほんの少し強まった。
その力の意味は分からないけれど、少しでも安心してくれたら……と思う。
「分かりました。レフィト様、良かったわね。幼馴染として、優しい婚約者ができたこと、お祝いするわ。遅くなったけど、近い内に婚約祝を贈るわね」
「いらない」
ぽそりとこぼれた言葉に、ギョッとしている間に、ネイエ様はため息を吐いた。
「すみません」
「カミレさんが謝ることじゃありませんよ。レフィト様、よく考えてちょうだい。私が婚約祝を贈る意味を。あなたたちの婚約をカティール家が認めているということになるのよ。アザレア様よりは弱いかもしれないけど、カミレさんを守る武器になるわ」
「分かってるよぉ」
肩に顔を埋めたまま、ぼそぼそとレフィトは言う。
頭では分かっているけど、心が追いつかないのかな。というか、何がそんなに嫌なんだろう。
「何で、嫌なの?」
「カミレを奪おうとしたヤツに、手助けされたくない。でも、これはオレの我が儘で、カミレのことを思うなら、受け取るべきなんだぁ」
「お断りするのは申し訳ないけど、私のためなら、無理しなくてもいいんじゃ──」
「ううん。ちゃんと分かってるから。だから、いらないけど、有り難く受け取らせてもらうよぉ」
「そうしてちょうだい。使えるものは、何でも使わないと。そのうちレフィト様が国を滅ぼしかねないもの」
え? レフィトが国を滅ぼす? 何で?
どういう意味なんだろう。レフィトが国を滅ぼす必要なんてないよね?
「レオンハルト王子やマリアン様の手で、もしもカミレさんが酷い目にあったら、レフィト様ならやりますよ。何年、何十年かかっても。それだけの力も、困ったことにありますしね」
いくら何でも、そこまではしないと思うし、やろうとしても無理なんじゃないかな。国を滅ぼすなんて、魔王じゃん。
ネイエ様って、かなり心配性なのかな?
「レフィトが強いって、やっぱり有名なんですね」
「国内では過去最強なのではないかと言われていますよ。時代が時代なら、英雄だったんじゃないかしら」
そ、そこまで強かったの!?
強いのは聞いてたけど、国内過去最強レベルって……。国を滅ぼせるってのは、大げさに言ったわけじゃなくて事実ってこと?
それって、まずくない?
反逆を疑われるきっかけになるかもしれないし、レフィトの強さを欲した人に目をつけられたり、巻き込まれたりするかもしれない。
レフィトが国王様と親しくしているのって、そのことも関係しているのかな。
強くなるために努力して、強くなったらなったで周囲は放っておいてくれない。
騎士団長の息子だからと頑張ってきたのかな。それとも、他に理由があったのかな。
分からないけど、それでも──。
「今のレフィトがいるのは、ずっと頑張ってきたからだね」
よしよしと頭を撫でる。少しクセのある髪はやわらかくて、気持ちいい。何だか、クセになってきている気がする。
「レフィト様がカミレさんに懐いた理由が分かった気がします。カミレさんは、一生レフィト様から逃げられないでしょうけど、頑張ってくださいね」
「……はい。ありがとうございます?」
そもそも、もう婚約破棄をしたいとも思わないから、逃げる必要なんてないんだけどなぁ。
私の方こそ、飽きられない努力が必要だと思うし。
何となく、部屋の空気が和やかになっている気がする。
警戒していたけれど、今日の目的はお礼と勧誘だったのかもしれない。
安心したらお腹が空いてきてしまった。
レフィトがくっついたまま、パンケーキを食べる。
時間が経ったのにふわふわで、美味しい。甘いけど、クドくないし、何個でもいけそうだ。
「レフィトも食べる?」
「カミレが、あーんしてくれるなら食べるぅ」
「…………人前では無理」
「じゃぁ、いらないかなぁ」
ネイエ様からの生あたたかい視線に耐えられず、視線をパンケーキに固定して、無言で食べ進めていく。
「カミレさん」
名前を呼ばれたので顔を上げれば、ネイエ様はにこりと微笑み、ローズティーを口にした。
そして──。
「マリアン様を潰したいんです。協力してもらえませんか?」
今日一番の爆弾を投下されたのだった。