軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされないように、協力した方がいいですか?⑤

パチパチと何度も瞬きを繰り返したあと、心底おかしいと言わんばかりに、ネイエ様はくすくすと笑った。

「そう……ですよね。お茶とはそうやって選ぶものですよね。やだ……、私ったら……」

しばらく笑ったあと、真っ白なハンカチで目元を拭い、ネイエ様は真っ直ぐに私を見た。

「カミレさんの裏表のないところ、とても好ましいです。良かったら、 カティール家(うち) に来ませんか?」

「…………はい?」

「カミレさんは、元々、優秀でしたから、うちに来て欲しいと思っていたんです。今ので、その気持ちがより一層、強くなりました」

「えっと……」

これは、どういう意味? 遊びに来て!! って意味ではないよね?

「駄目だよぉ? カミレはオレとずーっと一緒にいるんだから」

そう言いながら、レフィトは私に抱きついた。

頭の上に僅かな重みを感じる。レフィトが頭の上に頰を乗せているんだろう。

そんな私たちを見て、ネイエ様は、盛大な溜め息をついた。

「こんな束縛男はやめて、私にしておきませんか?」

「……何言っちゃってるのかなぁ?」

レフィトの言葉を無視して立ち上がったネイエ様に、そっと手を握られる。

ゆったりと微笑まれ、その色気にクラリと来てしまいそうだ。

けれど、私を抱きしめるレフィトの腕の力が強まり、ネイエ様の雰囲気にのみ込まれずに済んだ。

「カミレ、こいつ殺したい。殺しても、いいよねぇ?」

「駄目だよ!!」

私を抱きしめるレフィトの腕をゆっくりと撫でる。

「心配しなくても、平気だよ。ネイエ様のところには行かないから」

何度も何度も撫でて、言葉を重ねていくうちに、ギューギューに抱きしめてきていたレフィトの腕の力が、ほんの少しだけ弱まった。

「給与は弾みますよ?」

「えっ!?」

今、給与って言ったよね?

うちに来て欲しいって、ネイエ様のお家にスカウトされてたの? お給料がいいって言ってるけど、どのくらいなんだろう……。

いやいやいや! 冷静になるんだ。お金につられちゃいけない。即決は駄目だ。

ちゃんと考えて、レフィトと話し合わないと。レフィトが不安にならないように。

「カミレ?」

不安げなレフィトの声が鼓膜を揺する。

「大丈夫だよ。ちょっと気になることを聞くだけだから。信じてくれる?」

「…………うん」

小さな返事に、レフィトの不安が滲み出ている。

少しでも安心して欲しくて、レフィトの腕をもう一度撫でた。

抱きつかれたまま、ネイエ様を見れば、視線が交わった。

「どうして、私なんですか? ネイエ様のお家であれば、働きたい人はたくさんいるはずですよね。わざわざ、私を選ぶメリットがないと思うんですけど」

確かに、勉強はできる。

悪役ヒロインとして、高スペックなのだ。

だけど、それだけじゃ誘うメリットは少ないと思う。青田買いってやつだろうか? 未来の私に期待ってやつ?

マリアンから不興をかっているのに、期待なんてできるの?

「自身の意見をすぐにハッキリと述べる。簡単なようでいて、立場が上の相手だと非常に難しいものです。特にこういう慣れない場であれば、なおのこと難しいと、私は思っています」

「そう……ですかね?」

「カミレさんの度胸も、他者に向ける優しさも、正義感も、とても素晴らしいものです。知識や技術はあとで身につけられても、人となりはなかなか変わるものではありませんから。それが理由では、不十分でしょうか?」

不十分っていうか、誰の話をしているのだろう。

私はただ、後悔したくないからやっているだけだ。あとで自分が苦しみたくないだけ。

何て答えればいいのだろうか。

きっと買いかぶり過ぎだと言えば、謙遜していると思われてしまう。

ほんの少しの沈黙が流れた。

その沈黙をどう捉えたのか、ネイエ様は困ったように眉を下げた。

「正直に話さなければ、きっと信頼は得られませんよね」

「……えっ?」

「私は、カミレさんが冤罪のピンチの時に、その場にいたにも関わらず、見ていただけですから」

「見ていただけも何も、ネイエ様は──」

アザレア様を、そそのかした張本人ですよね?

そう言いかけて、慌てて口をつぐんだ。

あ、危なかった。

アザレアから、ネイエ様が「カミレさんがいるからマリアン様が成績に悩まれているんじゃないか」と言っていたことを聞いたって、バラしちゃうところだった……。

大丈夫……だよね? アザレアの名前を出してないし、平気だよね?

上手く、違う言葉を繋げないと……。

「ネイエ様は、ただのクラスメイトで、一言も話したこともなかったじゃないですか。そんな関係で、助けてくれとは言いませんよ」

うん。我ながら、なかなかいい感じに言葉を繋げられた。良かった、良かっ──。

「全部聞いてたんですね」

「んぇっ!? な、何のことでしょうか……」

「アザレアちゃんがカミレさんに急接近したうえに、懐きましたものね。彼女の性格を考えれば、言っていてもおかしくないって、もっと早くに気が付くべきでした」

あまりにもサラリと言われてしまい、こちらの方がオロオロとしてしまう。

アザレアをそそのかしたくせに、堂々とし過ぎじゃないかな……。

「どうして、そんなことをしたんですか?」

「カミレさんが退学したら、欲しいと思ったからですよ」

「…………はい?」

退学をしたら、欲しい? 何を言ってるんだ、この人は。

少しも言っている意味が分からないんだけど……。