作品タイトル不明
悪役令嬢にざまぁされないために、自分みがきを始めましょう④
「カミレ、こいつが騎士団で有名なお子ちゃまゼンダだよぉ」
「お子ちゃまって言うな!!」
ギャンと噛みつくように言いながらも、ゼンダ様はどこか元気がない。
「良いよな、レフィトは。婚約者と上手くいっててさ」
「ゼンダが上手くいかないのは、自業自得でしょ」
「……分かってるよ。だから、サーカスに誘って機嫌をとろうと思ったんじゃないか」
ん? 機嫌をとろうと思ったって言ったよね?
デートに誘う =(イコール) 機嫌をとるってこと?
いくらサーカスが素敵でも、それって…………あれ? レフィトは騎士団の人にサーカスのチケットを譲ってもらったって言ってたよね。
もしかして、その人って……。
「そもそも、ゼンダが誘ったとしてアザレア嬢は来なかったんじゃないかなぁ」
「おまえのそういうとこ、本当にやだ……」
ゼンダ様は盛大な溜め息を吐いた。
そして、じっと私を見てくる。
さっきの言葉が引っかかり、少し冷めた目で見返してしまうけれど、気付かれてないだろう。
「カミレ嬢はさ、こいつのどこが良いわけ? 愛想は良いけど、頭の中も、心の中も真っ黒だぞ。普通、王子みたいなキラキラした存在に憧れるんじゃないの?」
「その普通って、アザレア様のことですか?」
そう聞くと、ゼンダ様の顔が引きつった。
どうやら図星だったらしい。
悲しそうな瞳に、デートに誘うことで機嫌をとるなんて、馬鹿にしてるのかと思ったけど、そうじゃないのかも……と思う。
サーカスに連れて行けば、アザレアの機嫌が良くなって、関係が改善するって信じてたのかもしれない。
「えっと、レフィトのどこが好きかですよね?」
腹が立って、いじわるなことを言った自覚があるので、何とも気まずい。
ごめん。まさか、言葉選びが最悪なだけとは思わなかったんだよ。
早く、レフィトの好きなところを挙げないと。
それで、ゼンダ様でもできそうなアドバイスをして、アザレア様と仲良くなってもらわなきゃ。
罪悪感で押しつぶされそうだ。
「レフィトの好きなところは……」
あれ? 具体的に聞かれるとけっこう難しい。
顔は攻略対象なだけあってイケメンだし、眼鏡をかけると、この世で一番かっこいいと思う。
私にだけ特別優しくて、困った時にはヒーローみたいに助けてくれて、一途で、愛を惜しみなく与えてくれる。
闇落ちしちゃうのはちょっと困るけど、嫌というわけじゃない。
でも、これだと好きになってくれたから、大切にしてくれるから好きって言ってるみたいじゃない?
あと、イケメンだからって感じもするよね。
ゼンダ様にとって何にも参考にならなそうだ。下手したらただのノロケじゃない?
「ないのぉ?」
不満げなレフィトの声に、大きく首を振る。
「いや、たくさんあるんだけど、どこから言えばいいのか分かんない。伝えるなら、参考にできそうなところが良いと思ったんだけど……」
「オレは全部聞きたいなぁ」
「嫌だよ。そんなのただのノロケじゃん」
「じゃあ、あとでふたりきりになったら教えてねぇ?」
へにゃりと笑いながら、嬉しそうにレフィトは言う。
あぁ、今日も犬耳としっぽの幻覚が見える。可愛い……。
……あれ? これじゃない?
うん。これだよ!!
「ゼンダ様、今のレフィトの顔、見ました?」
「今の顔?」
落ち込んで下がっていた視線を、ゼンダ様はノロノロと上げた。
「はい。今のへにゃりとした笑顔って、私に向けてだけするんです。それって、特別だと思いませんか? 心を許してくれてるんだなって、嬉しくなるんです。最初にレフィトを好きになったきっかけって、それだったと思うんですよね。あと……」
「あと?」
うーん。これは、言ってもいいのかな?
親しくない相手に言うのは、どうかと思うんだよね。
でも、ゼンダ様のあの言葉は、やっぱり気になる。私が婚約者だったら、悲しくなる。
好きって気持ちが芽生え始めてたとしても、それを聞いたら冷めるかもしれない。
「デートに誘うのをご機嫌とりって言うの、どうかと思います。たとえ、ゼンダ様に悪気がなかったとしても、言われた方は嫌な気持ちになりますよ?」
「うっ……」
呻いたかと思うと、ゼンダ様はガクリと膝をついてしまった。
どうやら、トドメを刺してしまったらしい。ごめん。
ごめんなんだけど、悪目立ちするから、さっさと立ってくれないかな……。
「レフィト……」
「何?」
「おまえの婚約者、やっぱりおまえの婚約者だな……」
下から私たちを見上げ、ゼンダ様は言う。
えっと……、どういう意味だろう。
ニュアンス的には、褒めてないよね。 貶(けな) されてるって感じでもないけど。
「的確なアドバイスなんじゃない? 本当にカミレって最高だよねぇ。オレもゼンダのそういうところ、どうかと思ってたし。好きな子をイジメるとか、ガキじゃないんだから、いい加減やめなよぉ。今時、子どもだって好きな子に優しくできるのにねぇ」
「オレだって、好きで言ってるわけじゃ──」
「そんなことより、カミレがオレの笑った顔を好きって言ってくれて、嬉しいなぁ」
ゼンダ様の言葉を遮り、にこにこ顔でレフィトが私を見る。
その瞳はどこか熱っぽいけど、今はそれよりもゼンダ様に立ち上がって欲しい。
「オレもカミレの好きなところ、言いたいなぁ。数え切れないほ──」
「ちょっと待った!! それ、今じゃないよね!?」
私の好きなところを挙げようとするレフィトを慌てて止める。
嬉しいけど、今やることじゃないし、人前もやめて欲しい。
何より、ゼンダ様が気の毒だ。
あと、ゼンダ様はさっさと立って欲しい。いつまで床とお友だちなの?
「えー。ゼンダの話、長いから終わりでよくない? どうせ、素直になれない話を聞かされるだけだよぉ?」
「それはちょっと嫌だけど……」
「でしょ? 婚約者っていう恵まれた関係にあるんだからさ、自分でどうにかしろって感じだよねぇ」
瞳にこもっていた熱は消え、冷めた瞳をレフィトはゼンダ様に向ける。
確かに、自分でどうにかして欲しいとは思う。それができないから、こうなってるんだろうけど。
でもね、そんなことよりも……、さっさと立ってくれないかなぁ!! 周りの視線をもうちょっと気にしてくれてもいいと思うんだよね!!