軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされないために、自分みがきを始めましょう③

どこか悪い顔をしたレフィトに、何を企んでいるの? と聞こうとした時、ちょうど馬車が学園へと到着した。

なんて、タイミングの悪い……。

今では、当たり前のようになった、本当だったら当たり前ではないレフィトからのエスコート。

レフィトからエスコートをしてもらっている私に向けられる視線は、今日も冷たい。

「あーぁ。いい加減、オッケー出してくれないかなぁ」

「駄目だよ」

何を、とは言わなくても、それが噂のことだと分かっている。

オッケーを出したが最後、倍返しでは済まないことも。

人の噂も七十五日。それまでの辛抱だ……と思いたい。

思いたかったんだけど……、そんなことを思った馬鹿は、どこのどいつだ?

なぜか、たった二日の休日の間に噂がレベルアップを遂げていた。

噂に尾びれと背びれがつき、手足が生え、羽も生えたような状態だ。このペースだと、噂に牙も生えて、火でも吹くんじゃないないだろうか。

「まさか、八つ当たり?」

「だろうねぇ」

マリアン御一行に正体がバレていたとしたら、噂ではなく、確実に罪を問いかけてきたはずだ。それも、公衆の面前で。

つまり、私たちの変装がマリアン御一行にはバレてないということ。

そのことに安堵しつつ、こそこそと囁かれる噂に思わず笑ってしまいそうだ。

行き過ぎた内容を真剣な顔で話すの、どうかと思うんだよね。

「カミレ、テンポ遅れてるよぉ」

「う……、ごめん」

「はい、イチ・ニー・サン。イチ・ニー・サン」

レフィトが口ずさんでくれたリズムに、どうにか足のステップを合わせていく。

「あ、ごめっ!!」

「大丈夫だよぉ。ほら、足元見ちゃ駄目だよぉ」

レフィトの言葉に慌てて顔を上げてステップを踏むのだが……。

「ぎゃっ。ごめん……」

「気にしなくていいから、背筋伸ばしてぇ」

周りからは嘲笑が聞こえてくる。

頭では足を動かす順番が分かっているのに、上手くいかない。

「ごめっ……」

「謝らなくていいよぉ。大丈夫だから。顔を上げてぇ」

ヒールで何回もレフィトの足を踏みつけてしまう。それなのに、レフィトは笑顔で気にしてないように振る舞ってくれる。

まだまだ修行が必要だ。もっともっと、上手くならないと。

少しでも早く上達しないと、そのうちレフィトの足に穴が開いちゃうかもしれない。

「ごめんね。痛かったでしょ……」

次のグループに交代となり、レフィトと部屋の隅っこに座る。

隅っこに座るといっても、床に座る……なんてことはなく、椅子がきちんと用意されているあたり、流石貴族のための学園だ。

「全然、痛くないよぉ。ダンスの授業って、カミレとくっつけるから、好きなんだぁ」

私が気にしないように言ってくれるレフィトの優しさに、言葉が詰まった。

泣きたくなる気持ちを抑え、お礼を言う。

「大丈夫。少しずつ上手になってるよぉ」

手を繋ぎ、優しくかけられた声。温かい手。

泣くのを我慢しているのに、優しいことを言うのやめて欲しい。我慢するのが、難しくなるじゃないか……。

ズッと鼻をすすり、涙がこぼれないように上を向く。

すると、隣に誰かが立った。

「レフィト様のおっしゃる通り、上達されてますわよ」

「えっ……」

話しかけてきた相手に驚きすぎて、涙も引っ込んだ。

「努力はきちんと形になってきていますわ」

「あ……りがとうございます」

動揺しながらも、お礼を言う。

優しい言葉をかけてくれたのはアザレアで、その隣にはクラスの男子もいた。

えっと……、確か…………。

「余計なこと言うな。お節介なのは、おまえの悪いところだ」

「うるさいですわよ。ゼンダ様は黙っていてくださる?」

あぁ、そうだ。ゼンダ様だ。

センダだか、ゼンダだか、いつも混乱するんだよね。

前世の職場にいたのよ、千田さん。一言多いけど、悪い人ではなかった。一言多いだけで……。

「えっと……、おふたりはどういう関係なんですか?」

「残念なことに婚約者ですわ」

「残念なのは、こっちのセリフだ、馬鹿」

おぉう。仲が悪いのか……な? その割には、一緒にいるけど。

ダンスのパートナーを、同じクラスに婚約者がいるのに別の人と組むと外聞が悪そうだし、一緒にいる感じかな?

「カミレさんのダンスですけど、自信がないからと動きが小さくなっているのがよくありませんわ。最初は間違えるのも、踏んづけるのも当然ですもの。遠慮なく、踏むといいですわよ」

「お前は未だに踏むけどな」

「わざとに決まってるでしょう? そんなことも気が付きませんの?」

もしかしなくても、アザレアは私を励ますために、近づいてきてくれたのだろうか。

「アザレア様、ありがとうございます。優しいんですね」

「れ、礼には及びませんわ! 私、頑張っている人を笑う人が、大っ嫌いですの。理由はそれだけですわ」

頬を染め、アザレアはツンとそっぽを向いてしまった。

これは、ツンデレってやつだろうか。

「アザレアもたまには良いこと言うな。それは、俺も同感。努力してるヤツを笑うヤツ、その時の自分の顔を鏡で見たことあんのかね? 化粧だ、オシャレだ言う前に、性格直した方が良くないか? 人の悪口言ってる時って、すんげぇブサイクじゃん」

「ゼンダ様も、私の悪口を言うところ、直したほうがいいですわよ」

「俺が言っているのは悪口じゃなくて、事実だ」

ふたりは、ギャーギャーと喧嘩を始めた。

こういうのをケンカップルって言うんだっけ?

「とにかく! 私が言いたいのは、周りを気にすることはないってことですわ!! ゼンダ様が余計なことを言うから、話がそれてしまったじゃありませんの!! 他にお聞きしたいこともありましたのにっ!!」

「他に聞きたいことですか?」

「えぇ、噂のことですけ──」

「まさか、信じてるのか? 馬鹿だなぁ」

そう言ったあと、嬉々としていじめだしたゼンダ様の顔を見て、私は確信した。

ケンカップルというより、たぶん あれ(・・) だ。

ゼンダ様、精神年齢が小学生男子と一緒なのだろうか。

それとも、恋愛方面にだけ?

「もう、ゼンダ様なんて大っ嫌いですわ。ついて来ないでくださいまし!!」

目に涙を溜め、アザレアは逃げ出した。

そして──。

「またやっちまった……」

全力で落ち込むゼンダ様だけが、私たちの前に取り残された。