軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

貸しのつもりが、何故こんなことになったのでしょうか?④

「レフィト。マリアンを泣かせるなんて、どういうことかな?」

マリアンを抱きしめ、 レオンハルト(王子) は厳しい視線をレフィトへと向ける。

「どうもこうも、ずっと王子は見てたでしょぉ?」

「そういうことを言ってるんじゃない。何故、マリアンを泣かせるようなことを言うんだ」

マリアンの背中を優しく撫でながら、王子は言う。

その隣ではデフュームとログロスが頷いている。

「ただ事実を言っただけだよぉ。オレのことを仲間扱いしてくれたことなんて、一度もなかったよねぇ?」

「そんなことないわ! 私は出会った頃からずっと、今だってレフィトのことを仲間だと思っているもの……」

はらりはらりと涙を流しながら、マリアンはクラス中に聞こえる声で話す。

「レフィト……」

名前を呼びながら、私はそっとレフィトの制服の 袖(そで) を引っ張った。そうすれば、琥珀色の瞳が私の方を向く。

「──っ」

レフィトの瞳にはいつもの温度がなく、感情が見えない。

無意識に引っ張っていた袖を握る力が強くなれば、そんな私の指先にレフィトは優しく触れた。

「心配しなくても、大丈夫だよぉ」

そう言ってへらりと笑うと、レフィトを掴んでいた私の手をそっと離す。

「一時的に立場が悪くなるかもしれないけど、いつか起こることだったから。むしろ、遅かったくらいだよ」

たしかに、そうかも知れない。

それでも、マリアンはレフィトとは敵対しないのだと思っていた。

いろいろとギリギリだったレフィトの立場が変わってしまう。そんな気がしてならない。

止めないと……。

そう思ってた時には、レフィトの視線はまっすぐにマリアンを捉え、言葉は音になっていた。

「マリアン嬢、ありがとぉ。仲間に入れてもらって救われたのは事実だけど、でもオレはいつだって、その中で一番下だった。領地を持たない、傷だらけ、愛されてない……。言い返せば、家でのオレの立場が悪くなる。手放せなかったけど、マリアン嬢の言う仲間は辛かったんだ」

攻撃的になることも、感情的になることもなく、レフィトは淡々と言う。

「元々仲間じゃなかったものを、無理矢理混ぜたって言うのかなぁ。今がすごく自然なんだぁ。だから、もう仲間にはならないよ」

「どうしてっ! あんなに楽しかったじゃない……。レフィトだって、楽しそうにいつも笑っていたわ」

切なげに眉を寄せ、マリアンは訴える。

けれど、レフィトが浮かべたのは自嘲気味な笑みだった。

「楽しそうに見えてるんだもんなぁ……」

ぽつりと 呟(つぶ) やいた姿に、何故かレフィトが消えてしまう気がして、誰よりも努力している大きな手に触れる。

ハッとしたようにレフィトは私を見て、安心したように肩の力を抜いた。

「互いにあるべき場所にいるってだけだよぉ。何度だって言うよ。オレはもう、そこには戻らない。仲間にはなれないんだ」

「……側近候補から外れるという意味で取っても構わないと?」

王子が淡々と聞いた。

それに対し、レフィトは迷うことなく一つ頷く。

「そうだね。構わないよぉ」

王子の目は驚きに見開かれる。だが、それも一瞬のこと。

「では、父上にそのように話しておくよ。ルドネス侯爵家にも話が行くだろう」

「──っ! レオンハルト様、そこまでしなくても……」

「マリアンの慈悲は美点だが、ここらが限界だろう。レフィトとの道は 違(たが) えたんだよ」

そう話す王子は、マリアンを 庇(かば) っていた時とはまるで別人のように冷静で、今まで見てきた中で一番王族らしい。

けれど──。

「それに、護衛としてそばに置いておくなら、マリアンを命懸けで守る者でなくては。レフィトは、腕があっても駄目だ。マリアンの盾にはならないよ。そんな護衛、不要だろう?」

まるで人を人だと思っていないような発言に、耳を疑う。

その横で頷いているデフュームも、否定しないマリアンも、レフィトのことを何だと思っているのだろう。

なんで、レフィトがこんな扱いを受けないといけないの……。

「……レオンハルト王子のおっしゃる仲間とは、命を賭けてマリアン様を守り、盾となる人物のことでしょうか?」

自分でも驚くほど冷たい声が出た。

許せない。

その気持ちだけで、前に出る。

私たちの様子を息を殺したように眺めていたクラスメイトたちがざわついているけれど、それも今は気にならない。

「カミレ!?」

驚いたようにレフィトに止められるけれど、さっきの王子の言葉で腹は 括(くく) った。

仲間という言葉でレフィトを縛り、利用してきた彼らは、敵だ。

「あなた方は、マリアン様を守るためなら何を犠牲にしてもいいんですね。それは、今は一個人……レフィトに向いてますけど、今後更なる力を手に入れた時、どこまで膨らむのでしょうか?」

今はほんのわずかな違和感でもいい。

私の投げかけた疑問は、今後の王子たちの動き次第で、ここにいるこれから国を支えていく貴族たちの中で大きくなるはずだ。

「ハオトレ嬢、あなたは何を勘違いしているのかな。未来の王妃と一騎士の命の重みが同等なわけないだろう?」

「…………え?」

「騎士は何のためにいると思う? 国を守るためだよ。国の最重要人物である王族を守るのは、騎士の最たる務めなんだ。仮にも騎士団長の子息であるレフィト・ルドネスの婚約者なら、そのくらい理解しておくべきだね」

そう……きたか。

たしかに、王子の言うことは正しい。

有事の際、王族の命を守ることが重視されるだろう。

私的な感情で言っていた言葉を、公的に切り替えてくるなんて……。