軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

求める関係④

ダンスの曲が終わり、また新しい曲が始まった。

くるりくるりと踊り、緊張していたのが嘘のように足が動く。

ずっとレフィトと踊っていたい……。そう思うけれど、婚約者同士が続けて一緒に踊れるのは二曲まで。

残念ながら、これでおしまいだ。

何だか、レフィトにギラギラとした視線を向けている令嬢たちがいるような……。

「レ、レフィト! 今すぐ、端っこ行こう!」

「うん、そうだねぇ。カミレがダンスに申し込まれたら、大変だもんねぇ……」

「違うよ! レフィトが捕食される! ハンターがたくさんいるんだって‼」

「……ハンター?」

「そうだよ。すっごく狙われてるよ!」

「その言葉、そっくりそのまま返すよぉ。あ、他の男と踊らないでねぇ? 男の腕、切り落としたくなるからぁ」

え、また闇落ちしたんだけど……。

レフィトとダンスしたい令嬢がギラギラしてるって話だったよね?

私のことなんて……。

「──っ⁉ は、早く行こう!」

令嬢としてお淑やかさに振る舞おうと思っていたけど、それどころじゃない。

見える、見えるぞ! 下心に満ちた心が……。

ちょいちょい忘れるけど、私もヒロイン顔の美少女だったんだよ。

ぐいぐいとレフィトを引っ張って一歩踏み出せば、さらりと腰を抱かれ、微笑まれる。

そのまま流れるように壁際までエスコートしてくれた。

「楽しかったね。もっと踊りたかったなぁ……」

「結婚すれば、もう一曲一緒に踊れるから、三年後には三曲踊れるよぉ」

そう言ってにこやかに微笑まれるけれど、三年後という言葉に、おや? と思う。

「三年後だと、まだ私十八歳だよ?」

「うん。でも結婚するでしょぉ?」

「…………早くない?」

そう言った瞬間、レフィトの目に闇が降臨した。

「さっき結婚したいって言ってくれたのは、嘘だったの? 少しでも一緒にいたいと思ってるのはオレだけ?」

あ、ヤバい……。言い方を間違えた。

貴族令嬢は、十八歳から二十四歳くらいで結婚するのが一般的で、前世の私の感覚と合わないんだった……。

でも、気持ちのすり合わせをするなら、今がチャンスかもしれない。

「あ、あのね。卒業したら就職でしょ? 最初はお金もないし、家事をしながらお勤めの両方をこなすのは大変だから、結婚は仕事を始めて慣れた頃……数年後がいいなって思ってるんだけど…………」

「やだ。無理。待てない」

「…………え?」

「家事なら侍女がやってくれるし、カミレが仕事に集中できるようにするから、卒業した翌日に結婚式を挙げよう? ね、それがいいよぉ。在学中に新居を探して、式の準備も終えてさぁ。準備が大変なら、オレが全部やっておくから。だから、数年後なんて言わないでよぉ……」

琥珀色の瞳に映っていた闇は、未だにゆらゆらと揺れている。

けれど、それ以上に懇願の色が強い。

どうしてそこまでして急ぐんだろう………。そう思った時、レフィトが家族との食事を義務だったと話していたことを思い出した。

…………レフィトは家に良い思い出がないんだ。

レフィトの言葉に頷きたい。レフィトと家族になりたい。でも、そのための軍資金が私にはない。

学生のうちに稼がないと……。

「……それじゃ、駄目だよ。一緒にやらなきゃ。結婚の準備も、新居探しも」

「いいのぉ?」

「うん。もちろんだよ。最初はレフィトに迷惑をかけちゃうかもだけど──」

「迷惑なわけない! カミレと一緒にいられることに意味があるんだよぉ」

「レフィト……」

これは、早急にバイト先を探さないとだ。

奨学生でいるために学力をキープしつつ、貴族令嬢としてのスキルを付け焼き刃じゃなくて本物にして、政治のこともよく分からないから学びつつ、併せて貴族の常識や繋がりなんかも分かるようにしていかないと……。

え⁉ これ、いつ寝るの?

いやいや、弱気になっちゃ駄目だ。やれば、できる。

せっかく高スペックに生まれたんだもん。できる、できるよ……。

「頑張るね!」

グッと握りこぶしを作ってレフィトに言えば、レフィトは小さく首を傾げた。

「なんか、すごく嫌な予感がする……」

「嫌な予感?」

「うん。カミレ、今何考えてる?」

「へ?」

「放っておいたら、駄目な気がするんだよねぇ」

そう言われても、変なことは何も考えてない。

駄目と言われても、困るんだけど……。

「あ、兄上見ーつけた!」

「フィラフ…………」

「へぇ、この子が兄上の婚約者かぁ。兄上、趣味変わったの?」

髪が外側に跳ねた中世的な雰囲気の美少年が、へらりと私に向けて笑う。

「君がカミレ・ハオトレだよね? ねぇ、どうやって兄上に取り入ったの? マリアン嬢とはずいぶん違うタイプじゃん。たしかに可愛いけど、ちょっと色気が足りな──」

「フィラフ、黙ってくれないかなぁ?」

「はいはい。兄上が紹介してくれないから、わざわざ会いに来たんだって」

そう言いながら、フィラフと呼ばれた美少年はへらりへらりと笑みを浮かべたまま話す。

その姿が、出会った頃のレフィトと重なる。

「はじめまして。カミレ・ハオトレと申します。レフィトの弟さんですよね?」

「そうだよ。はじめまして、婚約者の実弟に挨拶もしない、常識外れの兄上の婚約者さん?」

お、おーい。まさか、ここでもクセの強い人物登場なの?

えっと、レフィトの弟、フィラフ・ルドネスはゲームの攻略対象にはたしかいなかったよね……。

キャラが濃いのは、もう攻略対象だけでいいって……。何で、出会う人出会う人、個性的なの?

うーん、どうしようかな。レフィトとはそんなに仲良くないみたいだし、そこまで気を遣う必要はない? でも、レフィトの家族だしなぁ……。

「オレがフィラフに会わせたくなかったんだよぉ。というか、何年も話してないのに、よく話しかけたねぇ?」

「兄上は細かいなぁ。マリアン嬢を追いかけていたのに、急に別の女を追いかけ始めたら、興味湧かないわけないじゃんか。カミレは、どんな魅力的な女の子なんだろうね?」

「名前で呼ぶな」

「あはは! マジかぁ。兄上、本気なんだ。そっかー。そんなにいいんだ」

レフィトと同じ琥珀色の瞳が、愉しそうに私を見た。

けれど、瞳の奥は冷めきっている。

フィラフくんは、ずっとへらりとした笑みを顔に貼り付けたままで、見た目はあまり似ていないのに、出会った頃のレフィトを 彷彿(ほうふつ) とさせる。

「それなら、俺に譲ってよ。母上に言えば、すぐに俺のにしてくれるかな?」

まったく笑っていない瞳のまま、口元にだけ笑みをのせてフィラフくんは言った。