作品タイトル不明
第三章 エピローグ 下
第三章 エピローグ 下
道中で割箸と手ぬぐいを購入し、美由さんの家へ。
いやはや。100均に豆絞りプリントの手ぬぐいが売っていて助かった。正直『ないだろうから、タオルで代用するかー』と思っていたのだが、思わぬ収穫である。
リビングに到着し、他にも購入したジュースやお菓子と一緒に小道具を机に置いた。
「というわけで、安心してドジョウ掬いやってください、璃子先輩」
「どこに『というわけで』要素があったか言ってみ?おぉん?」
「ザルの方は、既に僕の作業部屋に置いてあります」
「話を聞けや。マジで聞いて。やらないよ?あーしやらないからね?」
「ですが、璃子先輩」
そっと、視線を美由さんの方に向ける。
「ふむ……性器さえ見えなければ、セーフですね」
スマホを眺める彼女の瞳が、キラリと輝いた。
「あんな事言っている人の用意した衣装よりは、マシでは?」
「くっ……!」
ぶっちゃけ、これは自分の保身の為でもある。
本音を言えば、ドジョウ掬いとかどうでもいい。ただ、仕事仲間の異性がエッチな格好を見せてくるのは……その。嬉しいけど、後日もの凄く気まずい。
見たいか見たくないかで言えば、凄く見たいのだ。しかし、今後の人間関係に支障が出るかもしれい。
前回の段階で、こっちは脳に思いっきり焼き付いているのである。何なら美由さんのコスプレ姿は、秘密裡に印刷して自室の本棚に隠しているぐらいだ。
その状態でも普段通りに接する事が出来ているのは、もはや奇跡である。
「だから、ね?ここはドジョウ掬いで妥協しましょう。そこまで割箸を鼻に突っ込むのが嫌なら、筆で鼻先を黒く塗るだけでも良いですから。罰ゲームとしては、妥当なラインかと」
「オタク君……」
「璃子先輩だって、恥ずかしいのは嫌でしょう?女性が好きでもない相手に、みだりに肌を晒すのは良くない。ここは、璃子先輩からも他のメンバーを説得してほしいのです」
表情筋を駆使し、柔らかい笑みを浮かべる。
それに対し、璃子先輩は小さく頷いた後。
「てめぇさては、自分が負けた後を考えているな?」
「……貴女のような勘のいい似非ギャルは嫌いだよ」
くそがっ、気づきやがった!
美由さんがなぜ、こうもドスケベコスプレに拘るのか。その理由は1つ。自分が勝利した際に、僕を辱める為に他ならない。
彼女の世界の『矢広耕太』と、この世界の『矢広耕太』は全くの別人だ。それを、彼女も理解してくれている。
だが、それはそれ。これはこれとばかりに、ガチャで爆死した傷を癒す為、そして歪んだ推し活の為。美由さんは自分に未来で女体化された『矢広耕太』の衣装を着せようとしているのだ……!
このままでは、僕はスリングショット水着や、バニーガール衣装を着させられる!
「利害は一致しているはずですよ、璃子先輩……!貴女とて、あの様な辱めは嫌でしょう!」
「確かに。あーしにだって羞恥心はある。未来の彼氏か彼女かに見せる前に、君に肌を見られる事に躊躇いはある」
「だったら!」
「だが、『NO』だ」
「なにぃ!?」
くっ、璃子先輩が一瞬顔面の画風が変わる程の『凄み』を!?
それほどの『覚悟』だと言うのか!!
心なしか、彼女から『ドドドド』という音まで聞こえ……あ、違う。これ後ろでロッソさんが口で言っているだけだわ。何やってんだあの20代厨二。
「あーしは既に、あの衣装を『着た』。ならば、もう後には退けない。退くわけにゃあ、いかねぇのさぁ……」
「ただの意地で、再び過ちを犯す気なのですか!」
「YES!YES!YES!」
「バカげている!そんな事に、なんの意味があると言うんだぁあ!」
「意味ならばある。君にも同じ辱めを受けさせる……。それだけで、あーしは満足なのさ……!」
「こ、この似非ギャルがあああああ!」
「あと誰が似非ギャルだこの野郎。両手でぶん殴るぞおい」
璃子先輩の両の拳が、左右からこちらのほっぺを挟んでくる。
ムニムニと動かされるが、別に痛くはない。どちらかと言うと、彼女の少し冷たいすべすべとした指の感触に、ちょっとドキリとする。
相変わらず、ナチュラルに距離が近いな、この人。
「吾輩も同じ気持ちだ……その旅路に、同行しよう」
「ロッソ院……」
「語呂わりぃな……」
「行くぞ!」
ザッ、と。璃子先輩とロッソさんが並び立つ。
さてはこいつら、昨日某漫画を読んだな?アニメの方かもしれないけど。
『2人は何をそんなに張り切っているがおー?』
のそのそと、たつみんさんが近づいてくる。
『璃子ちゃんが美由ちゃんに、色んな作品をオススメしているのは知っているがおー。あの子の事だから、きっと特撮中心だがおー』
「まあ、それはそうなんですが」
『だから、美由ちゃんが用意するコスプレも変身ヒーロー系に決まっているがおー。恥ずかしいは恥ずかしいけど、仲間内ならそんな気にする事でもないはずだがおー?』
「いや、それがですね……」
どう伝えたものかと言い淀んでいると。
ポン、という音と共に、いつの間にか近づいていた美由さんがたつみんさんの肩を叩く。
「その通りです。同じ部隊内ならば、ただの余興にすぎません」
『そ、そうがおよね?あの……美由ちゃん。目がちょっと恐いがおよ?』
「申し訳ありません。ですが、私は今、非常に感動しています」
『な、何に、がお?』
「何でも着てくれる上に、写真撮影も許可してくれた事です。私と一緒に写真を撮って、耕太さんを恐がらせましょう」
『恐がる様な格好をするがおか?』
「待って?僕が己の未来に恐怖をしている事は察していたの?その上でやっていたの?鬼畜か?」
「憧れは……夢は、捨てなくても良い。私は、璃子先輩からお借りした作品でそう学びました!」
あらやだ、覚悟を決めた主人公の様な瞳。これはもう、止まらないな。
光属性みたいな輝きの癖に、ピンクと黒が混ざったきっったねぇ輝き放ってやがる。
「似非ギャルゥ!責任とって教育し直せ似非ギャルゥゥ!」
「誰が似非ギャルじゃボケぇ!でもごめんなさいね!あーしには無理だったよ!」
「さあ……ともに『伝説のスーパードスケベ人3』を完成させましょう!」
「まだ段階があったの!?」
嫌だよその内『ゴッド』とか『ブルー』とかつく『スーパードスケベ』になるのは!
……そもそもスーパードスケベ人ってなんだよ!
「私は、その為なら如何なる苦労も背負う覚悟です」
ぐっ、と。美由さんが拳を握る。その際に彼女の腕が爆乳に当たり、ふにりと形を変えた。
なるほど、スーパードスケベ人ってこういう人の事か。
鏡見て満足しやがれください。でもやっぱり写真はくださいお願いします。
はっ、いかん!今一瞬、本能に負けた!?頑張れ理性!負けるな倫理!人が人である証明を為してみせろ!
『皆様子がおかしいがお……よく考えたら『アルフ』のメンバーは全員変だったがお。じゃあ大丈夫がお』
「僕とマスターは変じゃありませんからね?」
「あーしとお祖母ちゃんは常識人枠だが?」
「吾輩はマスターと並んで頼れる大人なんだが?」
「私は常に冷静です」
『うんうん。皆がそう思うのならきっとそうがお。頭の中は自由がお』
「常に着ぐるみ着ている奴に言われたかねぇ」
『黙れ似非ギャル。オタクに優しいギャルじゃなくてオタク女子だろう貴様は』
「言ったなてめぇ!」
胸倉を掴んでがくがくと揺らしてくる璃子先輩を片手でロッソさんの方にぶん投げた後、たつみんさんがこちらへ一歩近づいてきた。
そして、驚いた事に被り物を外す。
「ふぅ……」
「えっ?」
「驚かせて、ごめん……実は、今日は本物のたつみんじゃ、なくて……私が、中に入っていたの……」
「いやそれはいつも」
「今日、はっ!本物のたつみんじゃなく、私が来ていたの……」
「あ、はい」
これはあまり否定すると、拳がくるな。
そう思い、頷いておく。視界の端で気絶したふりをしている璃子先輩を抱えて、ロッソさんが『メディークッ!』と叫んでいる。
あ、美由さんが慌てて駆け寄ったかと思えば、心臓マッサージの構えを。璃子先輩が全力回避しなければ、ちょっと危なかったかもしれない。
「ごめん、ね……?がっかりした……?」
「いえ。そんな事はありませんが」
そもそも『たつみん』と『竜宮さん』を別人認定した時がありませんが。
微妙な顔のこちらに、竜宮さんがはにかむ。
「良かった……君には、これを預かっていて、ほしいの……」
「は、はあ」
たつみんの被り物を突き出されて、咄嗟に受け取る。
「どんな、格好をするか分からないけど……きっと、これを着ている事はできない、から……」
「それはまあ、そうだと思いますが」
「それは、着ぐるみだけど……公式の、着ぐるみだから。本物のたつみんだと、思って……ね?大事に持っていてほしいの……」
被り物を受け取った自分の指先を、一瞬、ほんの一瞬だけ。
竜宮さんの、着ぐるみに覆われた指が撫でた気がした。
「離しちゃ……やだ、よ?」
上目遣いにこちらを見つめる瞳に、不覚にも少しドキリとする。
この人、普段の言動がアレなだけで。素顔は美人さんなので困る。
「わ、分かりました。お預かりします」
「うん……!ありがとう……!」
照れたように笑う竜宮さんから、恥ずかしくなって視線を逸らした。
「かーっ!見んね、ロッソん!いやしか女ばい!クラン内恋愛を狙っている顔さね、アレは!」
「な、なにぃ!?そ、それは本当かぁ!?」
「わ、私、いやしくない……よ?」
「そうですよ。変な勘違いしないでください、自称ギャルと自称魔界貴族」
「自称じゃねぇし!あーしに天下無双のギャルと認められしあーしだし!」
「自称じゃねぇか」
「そ、そうか……う。うむ。いやぁ。たつみん殿が、未成年に不純異性交遊をしていないか、心配してしまってな!吾輩は為政者ゆえ、な!」
「だから自称でしょうに」
「そんな事より、早く着替えましょう。耕太さんはここで待機していてください」
「……やっぱり、罰ゲームはなしにしない?」
「駄目です」
「はい……」
いつになく強い否定がきた。ちょっと勝てない。
テレビの前のソファーに腰をおろし、膝の上に被り物を乗せる。
「では、耕太さん。少々お待ちを。万が一脱走した場合は」
「え、なに。逃亡兵は銃殺?」
「私はコスプレをしたまま貴方の家へ向かいます」
「社会的に殺す気だ……!?」
ある意味一番恐ろしい事考えてやがるぞ、この子……!?
本気と書いてマジと読む瞳でそう告げた後、美由さんが他の面々を連れて部屋を出て行った。
彼女らを見送り、手持ち無沙汰になって何となくたつみんの被り物を撫でる。
困った。実は美由さん達が戻ってくる前に、『急用を思い出した』とか言って逃げるつもりだったのだが……先の言葉と、竜宮さんから預かった物のせいでそれが出来ない。
小さくため息をついて、被り物に乗せた手を動かす。
……これ、思ったより撫で心地良いな。
竜宮さんが中に入っている間は、気恥ずかしくて触れなかったが……表面が凄くサラリとしている。
つい夢中で撫でていると、思ったより時間が経っていたのか。ガチャリとドアが開く音がした。
まずい、心の準備が出来ていない。
咄嗟に振り返りそうになった首を、前に戻そうとして────。
「お待たせしました、耕太さん」
それは、不可能となった。
桃源郷。きっと、目の前の光景こそを、そう呼ぶのだろう。
「きちんと待っていてくださり、ありがとうございます。私も警察に逮捕される事は、避けたいので」
そう、いつもの無表情で淡々と述べる美由さん。
彼女の装いは、もしかしたら制服警官ベースなのかもしれない。
だがもしも本物のお巡りさんが見たら、即座に逮捕されるのではないか。
うなじ辺りで白いリボンに結ばれた、ローポニーテールの長い黒髪。彼女の頭の上には、警察の物に似た帽子がのっている。
そして、肩から手首にかけては紺色のカッチリとした印象の袖が覆い、指は白い手袋に覆われていた。
警察っぽいのは、ここまでである。
それ以外は、どう見ても競泳水着であった。
みっちりと乳肉が押し込まれた胸元。白と黒で彩られた競泳水着が悲鳴を上げ、左右から横乳がはみ出ている。谷間までもが、上から覗いていた。
そして、異様にえげつない角度の股間。少しでもずれたら、乙女の秘所が見えてしまうのではないか。
むっちりと柔らかそうな太腿には細いベルトが巻かれ、ホルスターらしき物が取り付けられている。
黒光りするブーツが彼女の長い足を強調し、それが余計にハイレグな水着を印象づけてきた。
もう痴女の類では?
「吾輩は大人。吾輩は大人。わ、若き鬼に見られた所で、な、何も恥ずかしい事など……などぉ……!」
耳まで真っ赤にし、ぎこちない笑みを浮かべたロッソさんが何かを呟いている。
彼女の装いは、たぶんシスターベースなのだろう。
こちらも、思いっきりハイレグなだけで。
頭にのせた黒いベールと、首から下げているロザリオしかシスター要素がない。
白い襟が取り付けられた、真っ黒なレオタード。長袖タイプのそれはピッチリと彼女の肢体に張り付き、胸の曲線や腰のくびれのラインを見せていた。
美由さんほどではないが、それでも際どい角度の股間の布。白すぎるほどに白いロッソさんの肌が、ほんのりと朱を帯びている。
太腿の半ばから先を覆うニーハイソックスが生み出す絶対領域が眩しい。しなやかな、しかし柔らかそうなラインを描く脹脛にまで、謎のエロスを感じざるを得なかった。
「刮目しやがれ……!これが、君の未来の姿だからな……!」
ドヤ顔を強引に浮かべているが、璃子先輩の頬はちょっと引きつっていた。そして、当然ながらこちらも頬が赤い。褐色なので分かり辛いが、エルフ耳の先まで赤くなっている。
その装いは、噂に聞くレースクイーン……とかいうのに、近いのかもしれない。
青と白で彩られた、チューブトップ。上乳に柔らかく食い込み、下側は鳩尾までしかない。
華奢な肩や細い鎖骨どころか、褐色の谷間に、綺麗な縦型のおへそまで丸見えである。二の腕から先を長手袋で覆っており、彼女の腕のたおやかさが強調されている。
先の2人と違い、彼女はハイレグではなかった。
代わりとばかりに、ローレグである。
左右が青く、中央だけ白い水着ボトム。鼠径部の大半が見えており、後1センチでも細くしたら紐になってしまう程度の布地しかない。
太腿を4分の3覆う青のロングブーツとの間に、褐色の肌がハッキリと見えていた。
「こ、これ、は……その……お、おかしく、ないかな……!?」
最後尾。少し遅れて入って来た竜宮さんは、顔から火が出そうなぐらい真っ赤になっていた。
それもそうだろう。彼女が着ていたのは、戦隊ヒーローのピンクっぽい格好だった。
この中では、1番肌の露出が少ない。だが、問題なのは生地の薄さである。
首から下にピッチリと張り付いた布地。独特の光沢があるそれ越しに、おへその形が分かる。
左手に先端を隠された巨乳が、ムニュリと形を変えていた。もしもあの手がどかされたら、山の頂の形状まで分かってしまうかもしれない。
右手で隠された股間の部分は……ダメだ。これ以上思考すれば、自分の脳が完全に崩壊する。
残された理性を総動員し、顔を天井に向けた。
耐えろ、耐えろ矢広耕太!僕は、絶対に負けない!
「どうでしょうか、耕太さん」
「…………もう、十分なので。着替えた方が良いかと」
「感想は頂けないのですか?」
「…………ノーコメントでお願いします」
スケベですね!以上の感想なんてねぇよちくしょう。
「しかし、いずれ貴方が着る服ですよ?」
「着ねえし着れねぇよ」
「不可能など……この世には、あまりありません!」
「ねえ璃子先輩。やっぱり貴女のせいでは……?」
「本当に申し訳ないと思っている」
「り、璃子ちゃんのせい……なの……!?」
「そうだ。だいたい璃子が悪いのだぞ、竜の乙女よ」
「いや、5割はオタク君のせいだと思う」
「責任転嫁すんじゃねぇ」
「こ、耕太君が、望んだ……ってこと……!?」
「違います。僕は終始ドジョウ掬いしかオーダーを出していません」
「むしろなぜドジョウ掬い……?」
「平和だから……」
「別にドジョウ掬いは平和の象徴じゃねぇからな?オタク君」
それでも……それでも、ドジョウ掬いはきっといつか世界を救うから……!
自分は何を言っているのだろうか。脳がオーバーヒートを起こしかけている。冷却が必要だ。
たつみんの被り物を、しっかりと抱える。残念ながらそこから冷気が出てくる事はないが、とある現象を隠す事はできた。
具体的に語る事はできませんが、たつみんさんごめんなさい。
「それで、その。もう十分ですよね。着替えて……」
「いいえ、このままゲーム大会を開催します?」
「なんて?」
顔を上に向けたままの自分の隣に、美由さんが座ってくる。
肩が触れそうな距離。彼女の方を見る事はできないが、鼻をくすぐる石鹸の香りから、美由さんがすぐ近くにいるのは明白であった。
「ちょ、え?」
「璃子先輩が言っていました」
見なくとも、美由さんが『ふんす』と鼻息を吐き、瞳をキラキラとさせているのが分かる。
「『この格好でゲームしたら、オタク君プレミ連発するんじゃね?』と」
「似非ギャルがよぉ!」
「だがあーしは謝らない。そして似非ではない」
なんという卑劣!武士の誇りなどないというのか!そもそも武士なんてこの場にいねえょ!じゃあしょうがねぇな!
しょうがなくねぇよ、抵抗しろよ!くっ、駄目だ。僕は今、錯乱している!
「と、というわけだ。こ、これも作戦。作戦なのだ。ひ、卑怯とは言うまいな?」
反対側に、ロッソさんが座ってくる。
こっちはこっちで距離が近い!
「え、えっと……じゃあ、私は、ここで……」
竜宮さんが、何を思ったのかクッションを僕の爪先の少しだけ前に置いた。
そして、そこに大き目のお尻を下ろす。
「え、あの」
「こ、この位置なら……大事なところ、見えない……でしょ?」
咄嗟に彼女の方に視線を向けると、腰を捻ってこちらを見上げる竜宮さんと目が合う。
その瞬間、彼女の手から解放された胸が、その先端の形状が、見えてしまった気がした。
「あぶなーい!」
「耕太君!?」
咄嗟に、右手のアッパーを己の顎に入れる。
危うかった。あと少しで、致命傷になっていたかもしれない。
「だ、だいじょう、ぶ……?」
「大丈夫大丈夫。オタク君よくこうなるから。平常運転」
後ろの方から、璃子先輩の声が聞こえてくる。
「さあ、勝負だオタク君!今日がお前の死に場所だぁ!」
「お、おのれええええええ!」
右の美由さん。左のロッソさん。前の竜宮さん。後ろの璃子先輩。
触れるか触れないかの距離に、煽情的すぎる格好の美女達。
その状況に、僕は───耐えた。
瞳を閉じ、ただ感覚を研ぎ澄ませる。五感ではない。第六感に集中する。
見えずとも、視えれば良い。ただこの魔眼は、『先』を捉える。
「な、今のを避けるのですか!?」
「ええい、オタク君は化け物か!曲がれえええ!あっ」
「璃子ぉ!勝手に自滅するなぁ!あ、しまっ」
「え、え、なんで、こんな……ひゃぁ、だめ!」
我が心は不動、ではない。
されど、我が勝利は不動。
未来視の魔眼を、舐めるな……!
なお、この後美由さんから彼女と竜宮さんのツーショット写真が送られてきた。
家宝にした。