軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十二話 魔力供給用スクロール

第六十二話 魔力供給用スクロール

「えー、では。私が開発中の『使い捨て魔力パック』について説明させて頂きます」

「わーわー」

「やんややんやー」

「……いや、なにこれ」

場所をリビングに移し、お誕生日席に立つ自分へ椅子に座った璃子先輩と美由さんが拍手をしている。

というか、そんなのどこで覚えたの美由さん。あ、犯人近くにいたわ。

「というか、説明する程の内容じゃないんですけど……」

「うるせぇ。それはあーしらが判断する」

「耕太さんは自分の研究成果を過小評価する疑惑があります」

「研究じゃないし……半分趣味の産物だし……」

評価してもらえるのは嬉しいが、それでもこの扱いは不服である。

まあ、変に逆らっても面倒なので従うが。

「僕が作っているのは、『魔力を保存し任意で放出するスクロール』です」

「ほうほう。それもスクロール作成の知識に?」

「部分的には。ただ、そもそもスクロールって、『5』の魔力が必要な魔法を予め文字として書き込み、『1』の魔力を使って発動させる物なんですけど」

「うん」

「発動に使う魔力自体は、ただの呼び水……というか、トリガーでしかありません。スクロール自体に、元々魔力は保存されているわけです」

「まあ、そうじゃなきゃおかしいわな」

「スクロールも、保存期間が長ければ使えなくなると聞いた事があります」

「うん。僕のも、たぶん放置していたらその内内部の魔力が大気中の魔力に溶けてしまうと思う。でも、それでもある程度は保存できるわけじゃん」

それこそ、10年後ぐらいには今日作ったスクロールも使えなくなる。この世に永遠というのは、基本的にないのだ。

だが、別に今使えればそれで良いのである。

「だから、スクロールに呪文ではなく、魔力が流れやすい『道』を書き込んでやれば良い……じゃ、ないかなーっと」

「なるほどねー。理屈はほんのり分かった。ほんのり」

「それで、その研究はどの段階まで進んでいるのですか?」

「まだ、前に作った魔力入りの紙に書き込むのが成功したまでだね」

「そうですか……。すみません、もう1度お願いします」

「まだ、前に作った量産不可の紙に刻んだだけだよ。量産可能な方の紙にはまだ試せていない」

「……分かりました」

美由さんの沈黙が恐い。え、なんか怒らせる様な事言ったっけ……?

嫌な汗が背中を流れていくが、気を取り直してポケットから現物を取り出す。

「これが、その魔力供給用のスクロールです」

取り出したスクロールを、クルクルと広げた後机に置く。

中身を確認した2人が、眉を寄せた。

「え、なにこれ。心電図?」

「文字……には思えませんが」

「まあ、文字というより『魔力の経路』を真似たので。人間の」

「……は?」

美由さんが、『何言ってんだこいつ』という目でこちらを見て来た。

え、なんで?

「ああ、アレね。でも、こんなシンプルだっけ?もっと複雑じゃなかった?」

ほら、璃子先輩は普通に分かるっぽいし。

美由さんの視線が、今度は彼女の方へ向く。口が半開きになってしまっているが、指摘した方が良いのだろうか。

「はい。ただ、人間のってかなり安全弁というか、色々複雑なので……そういうのとっぱらって、更に簡略化したらこうなります」

「ほーん。まあ、確かに安全装置は必要だよね。じゃなきゃ魔道具持った瞬間暴発するし。え、じゃあこれって安全装置全解除状態?」

「です。だから、取り扱いには注意ですね」

そういう意味でも、不完全な状態だ。安全性が皆無である。

「……すみません。質問良いでしょうか」

「はい、美由さん」

小さく手を挙げた美由さんに、頷いて言葉を促す。

「まず、魔力の流れる経路とは……?」

「え、見た事……は、ないとしても感じた事はない?ほら、『霊装』を展開する時とか、異能発動する時とかに、魔力が動くじゃん」

「そーそー。あんまりハッキリは認識できないし、一瞬だけだけどねー」

「まあ、意識しないと分からないのは同意します。僕も、スクロールを手癖で書いている時に、自分の手元をジッと見てようやく具体的な形が見えましたし」

「……分かりました。そういうものがあると、理解はします」

何やら美由さんの歯切れが悪い。

もしかしたら、魔法系の異能持ち以外には分かり辛い感覚なのかもしれない。

「兎に角、こうしてこのスクロールの魔力は放出しやすい状態で保存されています。後は、別のスクロールや魔道具に直接、あるいは霊木越しに接触させればそこへ魔力が流れる仕組みです」

「なんか、思ったより簡単だね」

「かん……たん……?」

「そりゃあ、その内量産したいと思っているので。シンプルな方が良いでしょう」

「しん……ぷる……?」

美由さんが頭を抱えている。

いや、だって実際1本線だよ?このスクロールに描かれているのって。それがある規則に沿って揺れているだけで。

「シンプルイズベストって事ね。把握」

「そういう事です。もっと、実用段階までいってから共有しようと思っていたのですが……」

「じつよう……まで……?」

本当は、量産可能かどうかがハッキリするまで、自分から語るつもりはなかったのだが。

だって、実際に量産する魔力入りの紙で試して『やっぱ無理でしたー!』ってなったら恥ずかしいし。

あと、出来れば完成してから『実は僕って凄い奴なのでは?』とドヤ顔したかった。だが、ここまで来たらもう自棄である。

「せっかくですし、試しに普通のスクロールが発動するか見てみます?」

「お、いいねー。あーしそういう実験好き」

ケラケラと笑いながら立った璃子先輩に続き、ノロノロと美由さんも立ち上がる。

珍しい。彼女は常にキビキビと動いているイメージがあるのだが。

長い黒髪の隙間から、幽鬼の様にアメジスト色の瞳を覗かせる美由さんに、思わず数歩後ずさる。

「私も、拝見して良いでしょうか……」

「そ、それは勿論……大した物じゃないけど」

「いえ……いえ、大丈夫です。はい。大丈夫です」

「そ、そう……?」

様子のおかしい美由さんに戦々恐々としながらも、ガレージに移動。

大した物の代名詞と言える『ケニング』が置かれていたので、どさくさ紛れに装甲を軽く撫でる。

やっぱり、人型ロボットって良いなぁ……。マシンガンとか持たせたい。

それはさておき。作業机を真ん中まで移動し、『水弾』のスクロールを固定する。魔力供給用のスクロールをタコ糸で縛った。

直接異能者が摘まんだ状態だと、魔力がうっかり流れてしまう可能性がある。なので、普通のタコ糸を挟む事で魔力の伝達率を下げておくのだ。

諸々の準備を終え、シャッターを開ける。

「じゃあ、こっちへ撃ってみて」

「……はい」

『念力の盾』が装填されたバックラーを手に、射線上で構える。下手に魔法を直進させて、何か壊すのは避けたい。

タコ糸を指で摘まんだ美由さんが、ゆっくりとスクロール同士を近づける。そして、2つが接触した瞬間。

2リットルはあろう水の塊が、自分目掛けて飛んできた。

「っと」

魔眼で視た瞬間に合わせて、こちらもスクロールを起動。盾で魔法を受ければ、地面と左右へ盛大に水が飛んでいく。

きちんと発動した事に、ほっと胸を撫で下ろした。1人でこっそり試してはいたが、やはり人前でやるのは緊張する。

まるで小学校の時にやる、作文とかの発表みたいだ。

「とまあ、こんな感じです」

「すげぇじゃんオタク君。大発明じゃね?」

パチパチと、璃子先輩が笑顔で拍手をしてくれる。

何となく恥ずかしくて、視線を逸らしながら小さく頷いた。

「ええ、まあ。これなら、スクロールの量産後は非異能者の人でも魔物相手に戦えると思います。それに、『治癒』とかのスクロールも簡略化が済めば使えるので……」

「そうじゃん。普段使わないから忘れていたけど、医療業界でも大発明じゃね?」

「いや。そこまでは。理論上、簡略化した魔法の効果はかなり低く」

「耕太さん」

2つのスクロールが燃焼して消えた机を見つめながら、美由さんが話しかけてくる。

「え、なに?」

「これは、この供給用スクロール1つで、通常スクロールが発動できるという事でしょうか?」

「あ、いや。それは単純に、魔力が流れやす過ぎて必要以上に流れただけだよ。余剰分は、大気中へそのまま溶けてしまったみたい」

「では、もっと魔力消費の激しい魔道具も起動できると」

「そのサイズだと、言う程のは動かせないかな。でも、一応考えはあるよ」

「と、言いますと」

美由さんが顔を上げ、こちらを見てくる。

何だか、今日のこの人はちょっと恐い。怒っているわけではなさそうだが、妙に目力が凄い気がする。

「通常のスクロールは、『始まりと終わり』が1本で完結していないといけない。でも、これは呪文ではなく経路を描いただけだ。つまり、切れ目をつけた状態で1つの状態に纏める事が出来る……はず」

「あー、トイレットペ―パーみたいな感じで?」

「はい、見た目とかはそんな感じですね」

璃子先輩の言葉に頷くが、例えが微妙である。いや、実際そうなるんだけどさぁ。

確かに世の中のもっと凄い天才の魔道具から見たら、チリ紙同然であろうが。それこそ、ケニングなんかが最たる例である。

なんせ、アレは電気を魔力に変換できるのだ。コンセントでエネルギーを補給し、一部油圧が必要な部分だけ油を少量使っている。それだけで、あれ程の動きをしているのだ。

コレは未来の品だから、などと、言い訳は出来ない。間違いなく、基礎研究が既に進んでいる。あるいは、既に完成しているけど世に出していないだけかも。

そういう本当の天才や英雄が表舞台へ出てくる前に、ちょっとぐらいはドヤ顔していたいものだ。

閑話休題。盾を机に置き、代わりに手をチリトリ代わりにして、燃えカスとなったスクロールを回収する。

「そんな感じで、大型の魔道具を動かす場合や、連続でスクロールを発動させる場合を考えています」

「……なるほど。分かりました」

何度か頷いた後、美由さんがこちらへ右手を差し出してきた。

一瞬意味が分からなかったが、握手を求められている事に気づく。

「えっと……」

戸惑いながらも、彼女の手を握った。ひんやりとした、柔らかく細い指。それでいて、確かに人の温もりがある。

真っ直ぐにこちらを見つめるアメジスト色の瞳から、目を逸らせない。ドキリと、胸が高鳴るのを自覚した。

「ぜひ、今後も頑張ってください。耕太さん」

「は、はい……その、うん。勿論……?」

「それで。紙の量産が可能になった場合の、生産工場の当てはあるのですか?」

「いや、それはまったく……」

マスターの方はどうかと、璃子先輩に視線を向ける。

しかし、彼女は小さく肩をすくめて首を横に振った。

「一応、お祖母ちゃんも昔の伝手を頼って探してはくれているけど、材料持ち込み。レシピも指定して、なおかつ信用出来る相手っていうのは中々ねー」

「ですよねー……」

やばい。ギリギリ受け答えは出来るが、美由さんの手の感触で頭が上手く回らない。

視線をどうにか彼女以外に向けるだけで、精一杯だ。

「分かりました。私はまだこの時代に疎く、『アルフ』以外の交友関係もありません。工場探しのお手伝いは出来ない可能性が高い」

「いや、それは当然というか。美由さんはゆっくり、この時代に慣れていく段階だと思うなって……」

「しかし、私に出来る事であれば何でもします。存分に使ってください」

前にも似た様な事を言われた気がする……!

そしてその時もついオッパイを見てしまった気がするぞ……!

自分の成長のなさに呆れながら、咄嗟にガン見してしまった爆乳から顔ごと目を逸らした。

くっ、今日も御立派です……!

「あの、だから、そういうのは、常識的に考えて年頃の女の子が言うべきじゃないと思うな」

「そうだぞ美由っち。男は狼。オタク君はムッツリだよ!」

「誰がムッツリか」

璃子先輩にツッコミを入れるタイミングで、そっと握手していた手を解く。

危ない。あのままでは告白していた可能性がある。

男子高校生のチョロさを舐めないで頂きたい。ひと昔前のラノベヒロインの3倍のチョロさだぞ。

いいや。美由さん程の爆乳美少女相手なら、12倍と言っても過言ではあるまい。

ついでに『え、もしかしてこの子僕の事が好きなんじゃね?』という勘違いまでする。というかしかけた。マジで。あと数秒で恋に落ちていた。

「むっつり……とは?」

「常日頃からエッチな事ばかり考えている人の事だね」

「人を指さしながらほざくなや似非ギャル」

「似非じゃねーし!ロッソんはあーしの事をギャルって認めてくれているし!」

「それ以外の人は?」

「……あーしはあーしを信じているぜ!」

「自称じゃねぇか」

マスターすらそっと目を逸らすレベルだぞ。現実を受け入れやがれ下さい。

「なるほど」

ポンっと、美由さんが手を叩く。

あ、何か嫌な予感。

「耕太さんは、常に繁殖の事を考えている、という事ですね?把握しました」

「言い方ぁ!」

というか繁殖て!犬や猫ちゃうねんぞ!?

前にも思ったけど、この人のピンク色な会話は無機質というか無色なのよ。

「申し訳ありません。私は耕太さんと 番(つがい) にはなれません」

「ハッキリ言ったぁー!てか番ってガチの獣扱い!」

「あ、はい……勿論っすよ。うっす。自分、そんな勘違いなんてしていないんで。はい、大丈夫です。美由さん」

「致命傷だぁー!涙腺が限界を迎えている!」

泣いてない。泣いていないが?決して涙なんて流していないが?

……わりぃ。やっぱつれぇわ。

「耕太さんは璃子先輩やマスターと結婚すべきかと」

「は、え、あーし!?ちょ、待って。まだそういうの早いって言うか……!」

「え、いや。その2人はちょっと……」

「振られた!?何か告ってもねぇのに振られた!?え、あーしの失恋って恋すらしていないのに発生するイベントなの!?」

「マスターはそういう目で見るのは失礼だし、璃子先輩はまだドジョウ掬いしていないので……」

「君どんだけあーしにドジョウ掬いさせたいん!?てかこっちから願い下げだバカ野郎!」

「分かりました。璃子先輩、今からザルと手ぬぐいを買いに行きましょう」

「行かねぇよ!」

わーぎゃーと、璃子先輩が美由さんに吠える。

言えない。マスターや璃子先輩を選択肢に出された時、ちょっとドキっとしたなんて言えない。

マジでね……男はチョロい生き物なんですよ……。

「くっ、今度という今度は怒ったぜ美由っち!そしてオタク君!」

「申し訳ありません。なにか、気に障る事を言ってしまいましたか?」

「僕、今回は半分もらい事故では?」

「しゃーらっぷ!美由っちは謝ったから許す。しかーし!おのれオタク君!あーしからの報復に怯えて眠れ!」

「いや。璃子先輩にこういう事で謝るのは、人としてのプライドが……」

「そこまで!?ちくしょう、覚えてやがれー!」

やたら大仰に、璃子先輩が涙を拭う仕草をする。

そして、まるでスローモーションを再現するみたいに奇怪な動きでガレージを出て行った。

「お祖母ちゃんに言いつけてやるー!」

「報復がしょぼい……!」

そうしてガレージを出て行った璃子先輩だが、3秒ぐらいして戻って来た。

「ケニングの調整するんだったわ、今日」

「お疲れ様です」

なお、その日の夜にマスターから『いつも璃子と仲良くしてくれてありがとうね』というメールが来た。

日頃の言動って、やっぱり大事なんだな……。

それはそれとして、『こちらこそいつもお世話になっております』と返しておく。

実際、あんな人が友達として一緒にいてくれるだけで、嬉しいから。

……やっぱり、僕ってチョロいな。