軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十一話 異能者界の天才

第六十一話 異能者界の天才

6月もまだ上旬。衣替えからまだ数日の頃、自分は再び美由さんの家に来ていた。

より正確には、作業用として借りている部屋に。

出来上がったパルプ紙を、机の上に並べる。大雑把に視線を走らせるが、やはり魔力は感じられないか、現在進行形で抜け殻になりかけている物ばかり。

失敗した物をどかし、次のパルプ紙を並べた。そして、同じ様に目を動かし。

「……えっ」

その中の1つに、視線が固定される。

「え、ちょ、えぇ……!?」

咄嗟にそれを手に取り、凝視する事10秒程。

自分の魔眼は、確かにその紙から魔力を感じ取っていた。

作成の最中、一切魔力の調整をせずに作っていただけなのに。

「でき、たぁああ……!」

その紙を両手で持ったまま、椅子の背もたれに勢いよく体重を預ける。その拍子に後ろへひっくり返りそうになり、慌ててバランスをとった。

手の中の紙が破れていない事を確認し、ほっと息を吐く。いや、別に破れても良いのだ。レシピは、きちんとメモしている。

繊維はどこまで潰して良いか。『変若水』と普通の水の割合は。使った漂白剤は何か。乾燥にかかった時間は。その他諸々、記録すべきと思った事は全て書いておいた。

乾燥用の棚に張り付けておいた、そのメモを回収。魔力の定着に成功したパルプ紙と一緒に、クリアファイルへ入れる。

「よし……よし!」

そこまでやって、ようやく実感が湧いてきた。

理論上、これで材料さえ用意すれば『誰でも魔力の籠った紙が作れる』。これで、自分が考えていた『3つの事』が出来る様になるかもしれない。

再現性があるかとか、別の機材を使っても出来るかとか、より効率的な手法はとか、調べる事は山の様にある。

だが、今はこの成果に酔いしれる事にした。

もしかしてだが、僕って案外凄い奴なんじゃない?『人類のママ』とか分けわからん異名じゃなく、『異能者界のアインシュタイン』とか、『スクロール技術の父』とか後世で呼ばれるべきなんじゃないか?

早速この実験結果を自慢、もとい報告しようと、ガレージに向かう。

確か今日は、『ケニング』の整備に璃子先輩も来ていたはずだ。ここは、存分にドヤ顔をさせてもらうとしよう。

無意識にスキップしてしまいそうになるのを理性で抑え、ちょっとだけ大股でガレージへ。

繋がっている通路の段差に置いてあるサンダルに履き替え、意気揚々と扉を開けた。

「2人とも!ビッグニュースです!」

『────3日前、遂に米国で対魔物戦闘用のゴーレムが完成しました!』

「……わっつ?」

今、何かウルトラビッグニュースが聞こえてこなかった。

ガレージの壁沿いに置いてある作業机。そこに載せられた璃子先輩のノートパソコンの前に、彼女らが立っている。

こちらへ振り返った2人と、目が合った。

「おう、オタク君。たぶん君と同じ気持ちだぜ、あーしらも……」

「……あ、はい」

冷や汗と共に笑う璃子先輩に、スン、となりながら頷く。

やっぱり、僕って別に大した事ないのでは??

* * *

パソコンの画面に、米国政府がアップした公式の動画が映される。

既に吹き替え版が出ている様で、流暢な日本語の解説つきで映像が流れていた。

『ご覧ください。この機体、『グラディエーター』の性能を!』

自信に満ち溢れた笑顔の、学者らしき人物が手で示す先。そこに1体の人型ロボットが立っている。

高さ約1メートル80センチ。本体重量約110キロ。シルエットは、偶にテレビで見る軍人さんに近い。

白い装甲に覆われ、関節部のみが黒い。のっぺりとした顔面には、1対のカメラアイだけが存在していた。

『早速、グラディエーターの性能を見ていきましょう!』

解説役らしい学者風の人物がそう告げると、画面が切り替わる。

大きなサンドバッグに、鋼の拳が連続でめり込むシーン。締めとばかりに、回し蹴りが繰り出されてサンドバッグを吊るす鎖が壊れた。

続いて、100メートルを7秒台で走り抜けるグラディエーターと、一緒に走って置き去りにされる陸上選手。

更には匍匐前進する様子や、ハードル等を跳び越えて進む姿も。

最後に、拳銃で的を撃つグラディエーターが映される。命中率は高い様で、10メートル先の的に15発中13発を当てていた。内、8発が的の頭部である。

穴だらけの的と、拳銃を回収されたグラディエーターの間に立った学者風の人物が笑顔で語り出した。

『このグラディエーターは人間の限界以上のパワー、スピード、そしてタフネスを有します。それでいて、現役軍人にも劣らない銃の腕をもつのです』

『これは現代科学だけではなく、魔法も使ったこそでしょう。ゴーレム技術とヒューマノイド技術を融合させ、グラディエーターは完成しました』

『そして、何よりゴーレム技術を使っているからこそ、グラディエーターは本来見えないはずの魔物を認識。攻撃する事が出来るのです!』

『既にダンジョン内での実験が行われており、戦果を挙げています。グラディエーターが実戦配備され、アメリカを、そして世界を守るヒーローとなる日も近い!』

『たとえ世界が神代に回帰したとしても、人類は既に次のステージに移っています』

『今は、人の時代なのです!』

そう、締めくくられた動画。

届くわけなんてないのに、思わず画面の前で拍手してしまう。

「いやぁ……凄いね、本当に。まさかこんな物がもう出来上がっているなんて」

人型ロボット。人間が乗るタイプも浪漫だが、人間サイズの機体も浪漫の塊だ。

『回帰の日』以前から各国で研究されていたものの、まさかここまでの性能になっているとは、脱帽ものである。

何より、魔物を認識して戦う無人機……これは、自分が考えていたプランなんてゴミ同然だ。

やっぱり、世界は広い。僕なんかよりよほど凄い天才達が、時代を動かしていってくれているのである。

「はい。凄い機体です」

美由さんも、画面からこちらに視線を移して頷いて来た。

「私も『初めて』見ました。あのようなロボットが、この時代にはあったのですね」

「……うん?」

しみじみと発せられた彼女の言葉に違和感を覚え、首を傾げる。

「え、あの。未来にはいなかったの?あ、後継機は見た事があるとか?」

「いいえ、まったく。戦場で、ああいった物は見た事も聞いた事もありません」

「……マジで?」

「はい。もしもアレの後継機と呼べる物があったら、もう少し戦いは人類に有利なものになっていたかもしれませんね」

爆乳の下で腕を組み、美由さんが深々と頷く。

何かがおかしい。未来の世界で何年も戦っていた彼女が、グラディエーターやその後継機を見た事がないというのは、どういう事だ。

並行世界だから、彼女のいた世界では存在しなかっただけ?それとも……。

「ねえ、オタク君」

「はい」

マウスで画面を操作しながら、璃子先輩が話しかけてくる。

彼女は、何やら英語で書かれたサイトを見ている様だ。具体的な内容は、よく分からない。

「幾つか質問。動画の途中でさ、チラッと魔術式っぽいのが映ったじゃん。アレ、どう思う?」

「ああ、アレですね」

たった数秒だけ画面に映った魔法陣と、その周囲の呪文の数々。

パッと見ただけで、アレの凄さは何となく分かる。

「素晴らしいとしか言えません。まさに、名工の作と呼ぶべきでしょう。全てが映されたわけではない様ですが、一部とは言え一切の無駄がない完璧な魔法理論でした。何より、アレを刻もうと思ったら非常に繊細な魔力操作が……」

そこまで言って、違和感の正体に気づいた。

たらりと、嫌な汗が背中を伝う。

「率直に聞くけど、オタク君があの魔術式を内部パーツに『手書きする』場合、どれぐらいかかる?」

「……自分、不器用ですから」

だから、別に自分は物差しにならないというか。決して参考にならないわけで……。

「いえ。私も専門の事は知りませんが、耕太さんのスクロール作成速度は平均を大きく上回っていると考えられます」

「だってさ。で、どのぐらいかかる?大雑把で良いから」

「……映っている部分だけで、たぶん1週間。慣れれば、5日ぐらいかなーっと……」

「あの術式は一部って事だけど、全体はどれぐらいあると思う?」

「いや、そこまで分からないです。でも、たぶん10分の1以下なじゃないかなーっと。だって、重要な部分は一切映っていなかったので」

「OK。じゃあ次の質問。あの術式で、グラディエーターとやらは首から上だけで運用できそう?」

「無理です。璃子先輩も知っている通り、人型のゴーレムは人型から崩れた段階で、機能が停止するので。かと言って、人間の魔力形質で作るのなら、あの形状以外は不可能でしょうね」

「だよねー。つまり、肝心の『魔物の姿を捉える部分』だけを量産するのは無理、と。そいじゃ、最後の質問」

璃子先輩が、ようやくこちらを向く。

その顔は、盛大に引き攣っていた。

「あくまでネットの情報だから、あんまり当てにならないんだけどさ……アレ1機にもの凄くレアなダンジョン産の金属や異能者のハンドメイド魔道具が使われているっぽいんだけど……1機丸ごとの状態で量産って、できそう?」

「異能者界隈にも、非異能者界隈にも天才はいますから……誰かがブレイクスルーを起こしますよ。たぶん、恐らく、メイビー」

そっと、璃子先輩から顔を逸らす。

自分にはアレを大量生産する方法なんて1ミリも浮かばないが、世の中には凄い人がいっぱいいるのだ。きっと、何とかするに違いない。

頑張れ、世の中の天才の皆さん!人類の未来は、貴方達の背中にかかっています!

まさかそんな、あの機体が『資本家用の客寄せパンダ』とか、『民衆を安心させる為のお人形』だなんて事が、あるわけないって……!ここからが凄いんだってきっと……!

「おい目を逸らすな。現実を見ろ。美由っちのいた未来でアレがいなかったって事は、そういう事じゃろがい」

「……ほら。偶然、偶々、一緒の部隊にはいなかったとか。見かけても人間そっくりの外装で区別がつかなかったとか……」

「つうかアレさ。機体の表面に魔力って通っていた?」

「映像越しなので、それはさっぱり……」

「つまり、魔力を帯びた武器や防具を別に用意する必要があると」

「……それでもぉ!アレは凄いですから!きっと人類の希望になってくれますから!」

「ぜってぇそんな事思ってないだろてめぇ!」

「ヒューマノイドは世界を救うんです!そしてその内、デチューンされた物が家事手伝いとして各家庭に1体ずつ配布とかされるんです!」

「さては君、単純にヒューマノイドが好きなだけだな!?」

しょうがないじゃないか……!誰だって、ヒューマノイドがメインのアニメや映画見たら好きになっちゃうよ!

そして美人でセクシーなヒューマノイドとラブラブしたいと思うよ、絶対に!

「なるほど。グラディエーターは、あれ以上の進歩をする前に世界は魔物側に傾き、コストの都合で後継機が作られる事はなかった可能性が高いと……残念です」

本当に残念な様で、美由さんが珍しく眉を『八』の字にする。

分かるよ……浪漫だからね、ヒューマノイド兵士。そして人間の兵士とヒューマノイド兵士の熱いバディ物とか、もうテンション上がりまくり間違いなしだよね。

「無人機であれば、精神支配をレジストし自爆突撃も容易だと思ったのですが」

違った。ヒューマノイドを消耗品としか見てねぇよこの人。

ちくしょう……!ヒューマノイドに人権なんてねぇから!ちくしょう!

というか、自爆突撃ならドローンに魔力の籠った石や鉄片巻いた爆弾持たせて突っ込ませた方が効率的では?操作はケニングに乗りながらやるとか。

「それはそうと、耕太さん」

「あ、はい」

くるりと、再び美由さんがこちらを向く。

「その手に持っているクリアファイルと、中に入っている紙はいったい?」

「ああ、これ」

対魔物用のヒューマノイドが完成したと聞いて、すっかり忘れていた。

クリアファイルからパルプ紙を取り出し、2人に見せる。

「設備と材料さえあれば、工場で作れる魔力の籠ったチリ紙です」

「……は?」

カクン、と。美由さんの口が開く。

まあ、かなり紙の表面が凸凹しているので。実際にチリ紙として使うのはオススメしないけども。

「オタク君」

「はい」

「はよ言えやボォケエエエエエ!」

「知らんわこんドアホォオオオ!」

璃子先輩が人のケツにタイキックをかまそうとしてきたので、全力で回避する。

だってヒューマノイドやぞ!?人類の夢やぞ!?

僕は……美少女ヒューマノイドとのラブラブ生活を諦めない!

何が良いって、ヒューマノイドはこちらを恐がって、離れて行かないし……整備さえしていれば寿命とかもないし……。

「あ、というかまだ『出来たかも』って段階なので。まだ再現性の有無とかは調べてないです」

「さよけ。てか、思ったより早かったね。出来るの」

「まあ、パターン試すだけなんで。部屋借りる前から、元々やっていましたし」

「そうなんだ。いや、魔法実験?ってやつの基準知らないけどさ」

「それは僕もですけど。魔法に関する物の制作とか、どこも手探りでしょうし」

というか、喋りながらジリジリ距離詰めるのやめてもらえません?

なんか小声で『ホァァ……』とか言いながら空手に似た構えとか取っているし。さては仮面●イダーっぽく人のケツを蹴る気だな?

互いに睨み合っていると、美由さんがずんずんと近づいてくる。

進撃の爆乳に思わず足を止めてしまった自分の肩を、彼女がガッシリと掴んできた。

え、もしかしてまた?

「お聞きしたい事があります」

「は、はい……」

「以前、魔力が定着した紙で『スクロールの簡略化』と『魔物の可視化』が可能になるとおっしゃっていましたね」

「いや、可視化じゃなくって、影を捉えるだけだけど……。正確な姿は、絹江さん次第というか」

「他にも、その紙で出来る事があるのですか?」

「ああ、うん。一応。あと1歩って所まできているのが……」

「教えてください」

恐いぐらい真剣な眼差しで見てくる美由さんに、視線を逸らせない。

そして、距離が近いせいで彼女の香りが鼻をくすぐる。こちらの胸板に、美由さんの爆乳が接触してしまいそうなのが、気配で分かった。

心拍数が高まるのを自覚する。耳が熱い。顔から火が出そうだ。

「実は、使い捨ての『魔力パック』が出来るかもなーって……」

思いっきり璃子先輩からタイキックをされた。とても痛い。

こちらの肩から手を離した美由さんが、何やら頭を抱えている。

「別人だと分かった上で言います。どうして……本当にどうして、港で死んだんですか……!」

だから知らんがな。