軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十話 ケニングと小鳥遊さん

第五十話 ケニングと小鳥遊さん

暗い森の中を進む事、約1時間。既に、20を超える戦闘をしていた。

だが、ケニングに大きな損傷はない。それどころか、オークの攻撃がまともに当たった事もない。

何というか、本当に強いな。パイロットとしての小鳥遊さん。

「どう?美由っち自身と、機体の方に何か異常ない?」

『問題ありません、璃子先輩。私自身は無傷ですし、機体の消耗は許容範囲内です』

ズシズシと、ケニングをこれまで通り歩いていく。どうやら、本当に大丈夫そうだ。

純粋な身体能力ならウールヴへジンと互角なオークを、圧倒している。機体を改修したとは言え、武装は随分と貧弱だというのに……。

「美由っちってさぁ……もしかして、エースパイロット的な?」

璃子先輩も同じ事を考えたらしい。スマホで地図を見ながら、そう問いかける。

『どうでしょうか。魔物の討伐数はエース達と互角がそれ以上でしたが、軍にそう認められる事はありませんでした』

「え、そうなん?なになに、政治的な理由?」

『恐らく、エース機を用意する余裕がもうなかったのかと』

「あ、思ったより世知辛い」

『それに、エースは危険な戦場に優先して送られ、すぐに死ぬので。選ばれたくはありません』

「世知辛いってレベルじゃなかった」

本当に魔境だな、100年後の世界。

『それだけ世界が危機に陥っていたのは、日本の霊脈が掌握されたのが大きいとされています。だからこそ、この国の防衛に成功すれば……』

「つっても、どうしたもんかねー」

「方法はさっぱりですからねー」

自分達は、異能者としての才能が多少あるだけの一般人である。国をどうこうするなんて、無理だ。

「……虎毬さん?ちゃん?の件は置いておいて。一応、お祖母ちゃんから『こういうのは、どうかな?』って提案はあんのよ」

「と、言いますと?」

「うんとね。4月にさ、総理含め5人のお偉いさんが亡くなった霊的災害があったじゃん?」

「はい。ありましたね」

小鳥遊さんから『近い内に総理が死ぬ』と言われた、その日の内に東京で霊的災害が発生したのを、よく覚えている。あの時は、驚き過ぎてテレビの前から暫く動けなくなったものだ。

「そんで、政府に魔物の影響があったから、日本は即オチ2コマしちゃったらしいじゃん?」

『2コマ……?ええっと、陥落の原因に、政府組織に魔物が入り込んでいた。という説が有力ではあります』

「それなら、あの時死んだ大臣達……というか、その身内さんでさ」

そこまで言って、璃子先輩が言葉を切る。同時に、自分の耳にも怪物の足音が聞こえて来た。

「っと、この話は後で。敵だよー」

「2時の方角。接近中。数は……2、いや、3」

『了解』

それぞれ得物を構え、敵に意識を向ける。

マスターの言いたかった事が、何となく分かった。確かに、それは良い考えかもしれない。

今回の探索が終わったら、真剣に検討した方が良いだろう。

「数が多い。先に、自分と璃子先輩が残り1体まで減らしませんか?」

オークは強い魔物だ。しかし、今の霊格ならば……。

「おっけまる!見せてやるぜ、あーしの魔法!」

『いえ』

ケニングが、鋼の足を前に踏み出す。

『私にやらせてください』

「……やれるの?」

『恐らくは』

「分かった。じゃあ、危なくなったらで」

「うぃー。んじゃ、詠唱だけしとくねー」

『よろしくお願いします』

そんな会話をしている内に、敵の姿がハッキリと見えてくる。

『ブォォォッ!』

雄叫びを上げ、3体のオークがこちらへ向かって来ていた。それぞれ、剣を、斧を、棍棒を持っている。

連携など考えていない様で、足並みも揃っていない。だが、それが返って相手の動きを読みづらくさせていていた。

しかし、小鳥遊さんは迷いなく前へ出る。バラバラに向かってくるオークの内、中心にいる個体目掛けて盾を構えて突撃した。

『ブァアア!』

振り下ろされる、刃こぼれだらけの斧。それを盾で受け流しながら、ケニングは滑る様な動きで側面へ。

そのまま、無防備なオークの顔面へと警棒を叩き込む。

『ゴッ……!?』

鈍い音をたて、怪物の牙がへし折れた。ふらついた所へ追撃をかけようとした所へ、背後から棍棒持ちが襲い掛かる。

だが、小鳥遊さんはケニングの足を大きく開かせ、回避。その姿勢から横回転する事で、オークの足を払った。

転倒するその個体の背後に回り込みながら、機体を起き上がらせ盾を構える。直後、剣持ちが彼女目掛けて飛びかかって来た。

『ブオオオオ!』

力任せの斬撃に、ケニングは完璧なタイミングで盾を合わせる。

人外の膂力と重力が合わさった刃は、その真価を発揮する事もなく木製の盾で剣腹を打たれ、甲高い音と共にへし折られた。

ほぼ同時に、盾を横に振るった勢いのまま警棒が剣持ちオークの側頭部を捉える。轟音を上げ、怪物の巨体が吹き飛んでいった。

『グオォ……!』

立ち上がろうとした棍棒持ちの頭を踏みつけながら、ケニングは前進。武器を構え直した斧持ちへと警棒を振りかぶる。

『ブガァ!』

怒りの感情と共に振るわれた斧。人の身の丈程もある武器を、オークの剛腕は枝の様に扱う。

風を切り迫る刃と、タワーシールドが衝突……否。その寸前で、半透明な壁に受け止められた。

予想外の位置で振りが止められたからか、オークのバランスが僅かに崩れる。そこへ、盾ごとケニングはぶつかりに行った。

密着状態から、西洋剣術のラップショットに似た動きで警棒が怪物の後頭部を殴りつけた。ボクシングのフック以上の『回り込む一撃』に、オークは反応できずに直撃を受ける。

短い悲鳴を上げ、その巨体が傾いた。直後に、ケニングが足を後ろへ勢いよく踏み出す。

太い木材が折れた様な音が、森に響いた。しかしそれは、機体からではない。

鋼の足が、振り向き様に足払いを狙った棍棒の根本を蹴り飛ばしたのだ。

膝立ちになっていた棍棒持ちのオークの頭頂部を、警棒が打ち据える。大きな音と共に、怪物が地面に伏せた。

『ブギャアアアア!』

仲間達が倒れた状態で、折れた剣を手に残りの1体が突撃を敢行する。

ここで撤退を選ばないのは、流石としか言いようがない。しかし、現実は非常である。

ケニングは足裏の車輪を使い、滑らかな動きでオークの左側に避けた。即座に横薙ぎの斬撃へと移行する怪物だが、肘を盾で受け止められる。

無防備な頭部へ、警棒が叩き込まれた。

ゴキャリ、という音を響かせた後、そのオークが倒れ伏す。小鳥遊さんがケニングのメインカメラをぐるりと周囲に向けさせるが、先程倒れた2体を含め全オークが黒い霧へと変わっていった。

残されたのは、3個の魔石のみ。

「……オタク君」

「はい」

「あーしら……もしかして今回いらない子?」

「……璃子先輩は、ナビゲートと索敵がありますから」

「……オタク君は、魔石拾いとサブの索敵やっているから。あと保険」

「それは璃子先輩もなんで……」

微妙な空気になる自分達に、ケニングが向き直る。

『やりました』

何となく、コックピットで小鳥遊さんがドヤ顔で胸を張っている気がした。

* * *

ダンジョンに入ってから、約1時間40分。ケニングの試運転を兼ねた探索が終了し、封鎖所に戻って来た。

合計討伐数は、26体。全て小鳥遊さんが倒したわけだし、報酬は彼女の総取りで……と思ったのだが、本人がこれを拒否。

クランの方針で魔石は入った人数で割るとか、ケニングを改修してもらったからこそとか、何ならいざという時の戦力がいる重要性とか。

あまりに熱心な様子で言ってくるので、そういう事ならと8個分の報酬を受け取る事にした。割り切れなかった分は、流石に小鳥遊さんの取り分にしたが。

ほとんど何もしていなかったのに、8万円分も貰うのは少し気が引ける。いや、半分近く税金とかで消えるが。

「……この後さ、3人で何か食べてかない?」

璃子先輩も同じ考えだという事が、何となく分かった。

封鎖所を出た所でそう提案してきた彼女に、頷く。

「はい。分かりました」

「お二人が言うのでしたら」

自分達のやり取りに、小鳥遊さんも頷いた。

バス停に向かう途中、璃子先輩がこちらへ顔を寄せてくる。ふわりと、彼女の髪から知らない香りがした。詳しくないが、恐らくシャンプーだろう。

不覚にもドキリとした自分に、璃子先輩は小声で話しかけてきた。

「支払いの時、あーしがクラン内の先輩って事で払うからさ。後でオタク君と割り勘って事で良い?」

「分かりました。ありがとうございます」

表情にはあまり出ていないが、どこか機嫌が良さそうな小鳥遊さんをチラリと見る。

今回の彼女の活躍を、何かしらの方法で労ってあげたかった。

「よーし!そんじゃ、適当なファミレスにでも行くぞ野郎ども!」

「了解。しかし、この場で男性なのは矢広さんだけです。『野郎ども』は不適切かと」

「まあまあ。こういうのはその場のノリだから、小鳥遊さん」

「んじゃ、女郎ども!」

「はい。それならば、矢広さんの服装次第で問題ないかと」

「問題しかないよ?」

「……?」

「うん。その不思議そうな顔やめようか」

労うって言っても、そういう事はしねぇからな?未来のソシャゲに出ているのは別人、いいね?

未来人って恐い。そう思いながら、バスで駅近くまで移動する。

「うーんと。たしかこの辺にファミレスが……」

「璃子先輩。もっと道の端っこに。危ないですから」

「ういー」

3人で道の端によりながら、スマホを見る。

っと。店を探す前に、両親へ少し帰りが遅くなる事をメールしなくては。

……帰りの電車に乗る前に、帰宅する旨のメールを忘れず送らないと。絶対に。

両親が仲良しなのは、良い事である。良い事だが、限度ってあると思うの。

若干遠い目をしながらメールを送った後、ふと顔を上げる。ちょうどそのタイミングで、近くのコンビニから人が出て来た。

芋っぽいジャージ姿かつ猫背だが、スタイルの良い人である。サンダルでペタペタと歩きながら、左手首にビニール袋を吊るし、手には唐揚げの入った小さな紙袋を持っていた。

もう片方の手で、爪楊枝で唐揚げを食べながら歩く女性。彼女の、色違いの瞳と目が合った。

いや、というかこの人。

「え……ロッソさ」

「そぉい!」

もの凄い勢いで接近したと思ったら、唐揚げを口に突っ込まれた。あ、美味しい。

……というか間接キスでは?この爪楊枝、さっきまで……。

胸を『とぅくん』とさせている自分に、彼女がずいっと顔を近づけてくる。

「わがは、私と貴方は初対面です。け、決して『アニメ見ていたら、コンビニの唐揚げ食べたくなってきたなー。でもそれは魔界貴族的に解釈違い。ジャージなら貴族じゃないかー』とか。そんな話ではなくてですね」

全部説明するじゃん。そんなベタな人いるんだ。

「なので、この件は内密に……」

「あれ。オタク君がナンパされていると思ったら、ロッソんじゃん」

「ぴぇ……」

「どうも」

「ぴぇぇ……!」

だが残念ながら、この場には自分だけではなかったのである。

驚いた顔の璃子先輩と、小さく会釈する小鳥遊さん。

彼女らを見たジャージ姿のロッソさんは、真っ白になった。

大変だな、この強いのにか弱い生物。