軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十七話 無自覚な希少存在

第四十七話 無自覚な希少存在

「うーん……」

尊厳を賭けた戦いの翌日。

今日も今日とて小鳥遊さんの家にて部屋をお借りしているわけだが。

漂白剤や新聞紙、そして100円均一で買って来た幾つかの道具を前に、唸る。

流石に、勝手に人の家で色々やるのはまずいか。『ケニング』の様子を見に行きがてら、許可を取りに行くとしよう。

そう思いガレージに向かえば、璃子先輩の声が聞こえて来た。

「うおおおおお!」

突然の雄叫びに、少し歩幅を大きくする。

小鳥遊さんの家のガレージは、家からでも入れる仕組みだ。一段下がった所に置いてあるサンダルを履きながら、扉を開く。

「何があったんですか?」

そこには、ツナギ姿の小鳥遊さんと、Tシャツにジーパンというラフな格好の璃子先輩がいた。

そして、後者はなぜかタブレットを持ったまま両手を突き上げている。

「やったんだ……あーしはやったんだぁああ!」

「……なにを?」

「ケニングの改修です」

自分の疑問に、こちらへ振り返った小鳥遊さんが答えてくれる。

彼女らの前には、両膝をついた姿勢のケニングがいた。ただし、その装甲は大半が外され、フレームが剥き出しとなっている。

ただ、そのフレームが。

「え、何か、両手足木製になっていない?」

自分が作った霊木素材の物に変わっていた。強度的に、まだ金属フレームの方が頑丈のはずだが。

こちらの言葉に反応したのか、璃子先輩がもの凄い速度でぐるり、と頭を向けてくる。

え、こわっ。

「ふ、ふへへへ……強度はね、落ちたよ。マジで。おわた式とまでは言わないけど、全体的に2割減ぐらいじゃねぇかな。たぶん」

「それ、まずくないですか?」

「防御面はオタク君の『念力の盾』でも持たせて。てか、そうじゃなくって」

「その分、運動性が飛躍的に上昇しています」

心なしか、目をキラキラとさせながら小鳥遊さんが告げる。

「矢広さんの霊木を使う事で、操作への追従性が格段に高まりました。以前までは、システムが追い付かなかったので、結局通常のフレーム時と変わらない動きになっていました」

「だが、今は違う」

若干画風が変わった顔で、璃子先輩がタブレットを持っていない方の手で拳を『ギュッ』と握りしめる。

「賢くて良い子なあーしちゃんは、この前美由っちと一緒にドラ○もん映画を見て思ったのです。『未来の旧式機械が分けわからん事になってんのなら、現代の分かる最新機械にしちまえば良いじゃない』……と」

「……え、まさか」

「美由っちはお金がある。強くなりたい理由がある。というわけで、一般で手に入るお高めの機械を色々と買いました。タブレットやパソコンの最新機種を買って、あれに組み込んでやったぜ」

ビシ、と。璃子先輩がケニングのコックピットを親指で指し示す。

それはまた……よくエラーとか起こさなかったな。前にどこかのテレビで、今のスマホは昭和末期のスパコンと同性能かそれ以上と聞いたぞ。

「最新機種で、昔の思い出を……なんて話はよく聞くじゃん?つまり需要があるんのよ。で、需要がある技術は発展する。それをあーしちゃん様は学校で先生方にそれとなーく聞いて回ったり、ネットで調べたり、海外の研究資料を読んだりして、頑張ってくっつけました」

「な、なるほど……」

ケニングには、璃子先輩曰くかなり古い技術ばかり使われていたらしいが、それを上手く現代の物に置き換えたらしい。

「おかげで反応速度はかなり高まっているぜ!それこそ、以前のケニングは美由っちの力を3割も引き出せていなかったが……今は、6割ぐらい引き出せるぜ!」

驚きに目を見開く。璃子先輩の言っている事が本当なら、これまでの2倍の強さという事だ。

ライカンスロープの霊的災害で見た、小鳥遊さんの動きを思い出す。あの時でも、十分強かったが……。

「さあ褒めろ!あーしちゃん様を褒め称えろ!」

「す、凄いです、璃子先輩!」

「素晴らしいです、璃子先輩」

「ふーはっはっはっは!はーっはっはっはっは!」

若干逝っちゃった目をした璃子先輩が、腰に手を添えながら高笑いする。

それに合わせて黒いTシャツ越しに彼女の巨乳も僅かに揺れるが、そこからは全力で目を逸らした。

「ま、あーしに出来るのはここまでよ。勿論メンテや調整はするけど、あくまで学生だからね。これ以上の改修は、正直無理。ここから先は魔法とかが関わってくる。あとはまあ、シンプルにプロ級の腕がないとね」

高笑いを止め、璃子先輩はお手上げだとばかりに肩をすくめる。

そして、小鳥遊さんに向き直った。

「ここからは、美由っちの仕事だ。モーターの接続とか、装甲の取り付けとか、何より実際に動かすとか、頑張ってね」

「はい。本当にありがとうございました、璃子先輩」

ニッと、笑う璃子先輩に、小鳥遊さんが敬礼をする。

それに彼女は満足気に頷いた後、視線をこちらに向けた。

「そいで、オタク君はどうしたよ?こっちに何か用があったん?それとも、1人が寂しかった?」

「ああ、いえ。そうでした。ちょっと小鳥遊さんに聞きたい事が」

「私に、ですか?」

はて、と。小鳥遊さんが首を傾げる。

「実はその……本当に申し訳ないんだけど、もう1部屋お借り出来たらなー……と」

「それは構いませんが」

「しかも、ちょっとうるさい上に臭いとかも出るかも……」

「は、まさか!?」

璃子先輩が、大仰な仕草で驚きながらこちらを睨みつけて来た。

「オタク君、とうとう性欲が暴走して美由っちの家で倒錯的な趣味を!?」

「ちげーよ。空っぽの頭にコンクリつめんぞ」

「いやん。あーしちゃんの天才的頭脳の危機」

「音や臭いとは、いったい?」

「ああ、うん。実は紙づくりに、元々挑戦はしているんだけどさ。こっちでも作業をさせてもらえたらなー、と」

「なるほど」

小鳥遊さんが、その爆乳を支える様に腕を組みながら頷く。

つい視線がそこへ引き寄せられそうになるが、気合で堪えた。頑張ってくれ、僕の理性……!

「そういう事でしたら、拒否する理由などございません。存分に使ってください」

「ありがとう。やっぱり家にいるより、こっちの方が捗るもんだから……」

家だと、両親の事以前に誘惑が多すぎる。ゲームにアニメ、漫画にラノベと、ついつい手が伸びてしまうのだ。

「具体的には、木を潰したり砕いたりする音とか、漂白剤の臭いがすると思う」

「ほーん。てか、やっぱあれ?特別な紙を使うとスクロール魔法の威力とか増すん?」

「いやー……」

璃子先輩の問いに、苦笑を浮かべる。

「たぶん、僕の魔法だとあんまり威力は上がらないですね。誤差レベルかと」

「マ?じゃあ、専用の紙を自作する意味ってなんぞ?」

「今使っている術式はもうだいぶ規格化されているので、意味ないんですけど、『簡略化』するなら欲しいってのもあるんですが……実はもう1つやりたい事がありまして」

「と、言いますと」

「非異能者でも、魔物を見える様に出来ないかと思って」

自分の言葉に、小鳥遊さんが目を見開く。

「それ、は」

「ほーん。それで、何で紙づくりが関係するん?」

璃子先輩が、首を傾げる。当然の疑問だ。

「魔力の籠った比較的薄い紙を作れたら、と思っています。それ越しなら、魔物の影ぐらいは見えるんじゃないかと」

「なるほど、障子に映る影的なアレか。でも、魔物って日の光とかも透過するんじゃないっけ?」

「はい。ですのでもしも使用する場合は、魔法の火もセットにするか……あるいは、魔力の籠ったレンズか紙をライトに被せて、照射した状態で見るか。何にせよ、面倒ではありますが可能だと思います」

彼女らから、視線をケニングに移す。

未来で使われていた、量産機。非異能者の兵士達が、アレに乗って魔物と戦っていたと小鳥遊さんから聞いた。

異能者を突然増やす方法なんて自分には思いつかない。クローンとか、そういう道徳や法を犯す行いもしたくない。

だが、もしかしたら対魔物の戦力を増やす事なら……出来るんじゃないかと、ちょっと自惚れているのだ。

小鳥遊さんに散々並行世界の自分が英雄だったと聞かされて、調子に乗っているのかもしれない。普段なら、思いついても『きっと他の誰かがもうチャレンジしている』と諦めただろう。

だからまあ、上手くいかないか、先にもっと凄い人が成し遂げてしまい、この努力は無駄かもしれないのだが。

ちょっとだけ、頑張ってみようと思う。

「……紙に魔力を籠めるのは、非常に難しいと聞きますが」

いつも通り無表情な小鳥遊さんに、小さく頷く。

「うん。『変若の血潮』を水代わりに使っているんだけど、少ないと魔力が霧散しちゃうし、多すぎると木材が変な反応をしちゃってね。でも、一応『1から10までずっと僕が手作りする』のなら、この前出来る様になったんだ」

そう告げて、ポケットから1枚の紙きれを取り出した。

それは、お世辞にも綺麗とは言えない紙である。ネットで動画を見ながら作った、パルプ紙。

薄っすらとだが、確かに魔力を内包させる事には成功した。しかし凹凸が激しく、各所で厚さも違う。試しにペンで何かを書こうとしたが、上手くいかなかった。

まあ、紙の出来栄えはどうでも良い。なんせ、自分が求めているのは『手作りじゃない物』なのだから。

「っ……!」

「どうにか、異能者以外でも作れる様に出来たらなーって。そうしたら、スクロールの量産化とか、さっき言った魔物の可視化も」

突然、小鳥遊さんに両肩を掴まれる。

あれ、なんかデジャヴ。

「なんで……」

「はい……はい?」

「なんで、貴方は港で死んだんですか……!?」

「いやだから別人だっちゅうに」

あの時と同じ様な事を言われても、同じ回答しか出来ないのだが。

「分かっては、います。しかし、あまりにも……私の世界での貴方もこれが出来ていたのなら、尚更……!」

「そう言われましても」

近いです。貴女の綺麗なお顔と、国宝級の爆乳が近いんです。

必死に視線を顔ごと上に向け、理性を保った。事故よそおって肘とか手の甲でボディタッチしてやろうか、このド天然。

お願いだから、自身がどれだけ凄い存在か自覚してほしい。

「まあまあ、美由っち。あーしにはこれがどれぐらい凄いのか良く分からんけど、オタク君も頑張っているっぽいし、応援してあげなー」

「……分かりました」

手をひらひらとさせる璃子先輩に、小鳥遊さんはゆっくりとこちらの肩から手を離した後。

「全力で貴方のサポートをします。何なりとご命じください」

それはそれは綺麗な、敬礼をしてきた。

たゆん、とその拍子に揺れた爆乳に意識がもっていかれかけるも、苦笑と共に数歩距離をとる。

「あはは……まあ、その、どうも。じゃあ、もう1部屋お借りするね?」

「はい。むしろ、やはり矢広さんもこちらにお住まいになられてはいかがでしょうか。24時間、警護をいたします」

「え、いらない……」

「美由っち。もの凄く残酷な事を言うけど、ケニングなしの美由っちだとオタク君の4分の1ぐらいの強さしかないから……」

「……はい」

いや、まあ。実力云々以前に、こちらの心が全く休まらないからなんだが。

異能者としての才能なんて、些細な事である。小鳥遊さんみたいなスタイル抜群の美人さんが四六時中傍にいたら、自分は発狂するのではないか。

むしろ、僕が死ぬよりも彼女が死んだ方が世界の損失では?これ程の美少女で、これ程の爆乳ぞ?彼女に比べたら、魔力を内包した紙なんぞケツ拭く紙以下では?

どうせアレだよ。きっと自分より凄い誰かが、もっと凄い発明をするだろうし。ケニングの存在が、その証明である。今から50年後に製造と言っても、基礎研究とかはあったろうし。

まあ、流石に死ぬ気はないけれども。我が身大事なので。

「んまー、アレだよ!オタク君とか、隣でチアリーダーの恰好しながら応援してやったら、元気100倍で作業するって!」

「分かりました。着てきます」

「いや待てぃ!?」

ノータイムでダッシュしようとした小鳥遊さんの首根っこを、璃子先輩が慌てて掴む。

というかあるのか。チアリーダーの服。

「ジョーク!ジョークだから!そんなんしたら、逆にオタク君が作業どころじゃなくなるから!別の事しだすから!」

「璃子先輩。否定はしないけど勘弁してください。本当にお願いですから勘弁してください。思春期の柔らかい部分を、どうか虐めないで……!」

「なんかすまん!でも事実だから!」

「くっ……!」

羞恥で顔を両手で隠す。何が悲しくて、同い年の美少女に性欲魔人と叫ばれねばならんのだ。

いや、マジで辛い。てか僕は悪くないと思うの。悪いのは小鳥遊さんの歩く18禁もかくやという、ドスケベ万博ボディだと声を大にして言いたい。

言わないけども!言ったら本当に、社会的に死ぬから!

「む……分かりました。しかし、例のアレはいつやるのですか?」

「アレ?何の事かな。あーし、分からない。覚えてない。記憶にございません」

目を泳がせる璃子先輩に、小鳥遊さんが振り返る。

「昨日の罰ゲームです。いつ、コスプレをするのですか?」

「あー、ね。うん……」

数秒程璃子先輩は沈黙した後。

「心の準備を……させてつかーさい……!」

両手で顔を覆いながら、そう呟いた。

顔を覆う奴多いな、この空間。

「あーしにだって乙女心はあんのよ。割箸鼻に突っ込んで踊る勇気はね……中々出てこんて……!」

「草」

「笑うなちくしょう!」

3対1で負けた自称ギャルに、両手の人差し指を向ける。

璃子先輩のぶざ……面白い姿、楽しみにしています!

「くっ……!あーしに、文化祭で両目と鼻に10円玉つっこんだ状態で演奏した軽音部どもみたいな、勇気があれば!」

「え、それマジで言っています?というか嘘であって?」

璃子先輩の通っている学校って、名門のお嬢様学校では?

やめて?マジで夢が壊れるので。

「ちなみに、今年はその状態で足の指でキーボード演奏するって気合入れていたよ」

「どこを目指しているんですか?」

もう軽音部ではなく、大道芸部に改名した方が良いと思う。

「というか女子校のお嬢様達が、そんな事をしないでください。夢を壊さないで……!もっとキラキラしていて……!」

「あーしにドジョウすくい要求した奴がぬかしよる」

「え、いや璃子先輩は……良いかなって」

「てめぇ明日の朝刊に載せてやろうか!?」

スパナを手に吠える璃子先輩から距離をとる。

だって自称オタクに優しいギャルだし。もう存在がギャグみたいなもんである。

「思ったのですが、あの時の罰ゲームは『私の家にある服』という条件でした」

「お、そうじゃん!流石に美由っちの家にドジョウすくいのコスプレグッズはないよね!」

「ちっ」

「聞こえてんぞオタク君!てめぇどんだけあーしの鼻に割箸突っ込みたいんじゃ!」

「面白いかなって」

「面白さで乙女にさせる行為じゃねぇ!?」

「でしたら、当日は私が適当に選んだ物を璃子先輩が着るという事で、どうでしょうか」

「よっしゃぁ!とびっきり可愛いのを頼むぜ、美由っち!」

「はい。お任せください」

璃子先輩……それ、大丈夫なやつですか?

ぐっ、とサムズアップする小鳥遊さんに、嫌な予感をする。

おかしいな。美少女のコスプレ姿とか嬉しいだけなのに、なぜこうも寒気がするのだろうか。

「あのー……別に、本当に嫌ならやらなくて良いんですからね?あくまで、仲間内での罰ゲームですし。そんな厳正にしなくても」

てか、厳正に、とかするのならチョイスは自分がするはずだし。

「いいえ。今回は絶対に着てもらいます。璃子先輩にも、ロッソ……さん、にも」

「なんでそこまで」

「なぜなら」

ぐるり、と。小鳥遊さんの顔がこちらを向く。

「次の対戦で勝利すれば……矢広さんも、着てくれるという事ですから」

「……え」

そもそも罰ゲームありの松尾レース、アレで最後じゃないの?

愕然とする自分を見ながら、小鳥遊さんがその小さな鼻の穴からふんすふんすと、息を吐く。

およそ、さっきまで『24時間警護します』とか言っていた者の態度ではない。

……え、もしかして同棲とかした場合、身の危険があるのって僕の方?

再び背筋を走った悪寒に、そっと自分の体を掻き抱いた。