軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十八話 なんで、貴方は港で死んだんですか?

第三十八話 なんで、貴方は港で死んだんですか?

火曜日。幸い虎毬さんの事でクラスメイトから何か言われる事はなかったが、そもそも必要事項以外で誰かと喋る事のない時間を終えた後。

自分は、小鳥遊さんの自宅へと来ていた。

そして、彼女の家の前には大きなトラックが止まっている。というのも。

「オーライ、オーライ!」

町工場に頼んでいた、ケニングの部品が届いたのだ。

フォークリフトを使い、トラックの荷台から荷物を下ろす工場の人達。それを横目に、工場長さんが小鳥遊さんの方を見る。

「いやー、フォークがあって助かったよ。でも、珍しいね。大きな農家さん以外だと、この辺で置いている家なんてないんだけど」

「あった方が便利ですので」

「そうかい……それだけ、ゴーレムづくりに本気なんだね。あんた達のクランは」

彼女の淡白な答えに納得してくれた様で、彼は深く頷く。

その隣で、マスターが若干の冷や汗と共に苦笑を浮かべていた。

「……ありがとう、本当に」

かと思えば、突然工場長さんが神妙な面持ちで小鳥遊さんに頭を下げてくる。

どうしたのかと戸惑っていると、顔を上げた彼の目元に薄っすらとクマがある事に気づいた。

「最近、不景気でな……親会社が、中々お金を払ってくれんで、うちの工場も潰れかけていたんだ。……この仕事のおかげで、どうにか首の皮が繋がったよ」

「いえ、これだけ早く納品してくださった事に、こちらも感謝しています」

「はは。まあ、余っていた部品と、少し金型を工夫すればすぐに出来る代物ばっかりだったからな」

無表情で答えた小鳥遊さんに、彼は照れた様にヘルメットに覆われた頭を掻く。

そして、マスターの方に体を向けた。

「井上さんも、すまねぇ。あんたの店を避けていたのに、こんな仕事を仲介してもらえるなんて……」

「いえいえ。本当に、私達も助かっていますから」

「ありがとう……本当に、ありがとう……!」

何というか、彼の工場は本当に危うい状況だったのかもしれない。

漢泣きをする工場長に、マスターがもの凄く気まずそうな顔をしている。互いにメリットがあるとは言え、やはり嘘をついている事に罪悪感を抱いているらしい。

「ま、まあ!このままお互いお礼を言い合っても終わりませんし、これぐらいで。また、うちの店に来てくださいね。工場長さん」

「すまん。それは無理だ」

顔を上げた工場長が、真顔でキッパリと答える。

え、この流れで?

「嫌だ……!ダメ人間にされる……!メイドさんなしで生きられない人間にされる……!人として終わっちまう……!」

「ヌードモデルは、ヌードモデルは勘弁してくれ……!しかも野郎と絡む絵は……!俺には妻と子が……俺の全裸が工場の前に飾られるのだけは……!」

「着ぐるみが……着ぐるみが窓に!窓に!……ああああああ!」

そして、突如発狂する工場の人達。

どうしよう。どれが誰の事なのか、すっごく分かってしまう。

「本当に申し訳ないんだが、井上さんの喫茶店には……その、もう暫く行けそうにねぇんだ」

「うん……まあ。仕方ない、ですね」

ねえ、もしかしてあの喫茶店に近所の人が来ないのって、マスターが異能者だからじゃないのでは?クランに所属しているアホどものせいなのでは?

「じゃあ、そういう事で!またいつでも依頼してくれ!すぐに引き受けるから!じゃあな!」

「はい。代金は指定の口座にお支払いしておきます」

「おう!じゃあな!ゴーレムの開発、頑張ってくれ!」

そうして、彼らはガレージの中に部品を運び込むと、逃げる様に去っていった。

「……マスター」

「なにかな、矢広君」

「1回。あの変態共にお説教した方が良いと思います」

「……悪い子達じゃ……悪い子達じゃ、ないから……!」

そっと、目を逸らすマスター。

甘やかすだけじゃ駄目なんじゃねぇかな……いや、僕もあんまり人の事言えないけども。

「そんな事より、楽しい工作の時間だぜベイベー!!」

「あ、いたんですか。璃子先輩」

「今更!?」

突然叫び出した似非ギャルの方に振り返ると、年頃の女性がしちゃいけない顔で驚いている。

いや、驚きたいのはこっちなのだが。

「あーしは必要じゃん!?プログラム担当じゃん!?必須要員ぞ?重要人物ぞ?崇めろぉい!」

「いや、確か予定ではその作業は明日か明後日じゃ……」

「細かい事は気にするな!」

無駄に決め顔をする璃子先輩を見て、ふと気になった事を問いかける。

「あの……もしかして、璃子先輩お友達いないんですか?それで、暇で」

ワンチャン同族だったりします?

「え、いや普通に友達はいるけど?毎日はつるまないだけで。これ、昨日カラオケでバラバラに曲を入力したのに、4人揃って曲被りした時の動画」

璃子先輩が差し出してきたスマホには、彼女を含めた4人の女子高生が楽しそうにカラオケで遊んでいる様子が映っていた。

あ、そっすか。

「すぅ……」

「……え、無言で気絶した!?」

いけない。一瞬あまりのダメージに、意識が飛んでいた。

どうして……どうして、同じ異能者なのにこうも違う。何が間違っていた。環境……才能……慢心……。

「おーい、大丈夫かオタク君。マジで何か辛い事あった?」

「璃子先輩」

「お、おう。なんじゃい」

「友達って、どうやったら出来るんですかね……」

あれ、おかしいな。なぜか視界が滲んで前が見えねぇや。

だが、こちらの問いかけに璃子先輩がもの凄く微妙な顔をしている事だけは、よく分かった。

「えっと……取りあえず、周囲に話しかける所から始めるとか?」

「それで、避けられた場合は……?」

「……ごめん。咄嗟に浮かばねぇ。根気よく、それでも関わるとかしかないんじゃね?」

「っすよねー……」

横から、両の拳を握ったマスターが励ましてくれる。

「げ、元気出して矢広君!諦めなければ、きっと道は開けるよ!」

「ありがとうございます、マスター……」

「もしよかったら、うちの店にクラスの子を呼ぶとか!私、頑張っておもてなしするからね!」

「いや、トラウマを刻みつけるお店はちょっと」

「お祖母ちゃんごめん。それはあーしも思った」

「 」

マスターが若干ショックを受けた顔をしていると、タブレット片手に部品の確認をしていた小鳥遊さんがやってくる。

「パーフェクトです、マスター。紹介してくださり、ありがとうございます」

「う、うん……気にしないで、小鳥遊ちゃん……」

「はっ。それはそうと、マスターと矢広さんはどうしたのですか?」

「聞かないであげて、美由っち。人には、静かに落ち込みたい時もあるんだ」

「はあ……?」

彼女らの会話に、頭を振って嫌な思考から切り替える。

「すみません、変な空気にしました。それで小鳥遊さん、ケニングは、これで直せそう?」

「はい。フレームを幾つか矢広さんの生やした霊木に入れ替える事になりますが、問題なく稼働するはずです」

「なら、良かった」

「しっかし、凄いねそれ。金属パーツの中に、木造の部品が混ざるとか。浪漫と言うべきか、ダサいと言うべきか」

「現地改修としては、上出来かと」

「美由っち……現地改修なんて言葉を言われたら、あーしはもう、満足としか言えねぇぜ……!」

「はあ……?良かった、ですね?」

サムズアップする璃子先輩に、小鳥遊さんは首を傾げる。

うん。分からなくて良いと思うよ、小鳥遊さん。

そして『現地改修』という言葉はそれだけ魅力的なんだよ、小鳥遊さん……!

あと璃子先輩はやはり、こちら側だと思う。

困惑しながらも小鳥遊さんはガレージの奥へ向かい、ケニングをアイテムボックスから取り出した。

左足の代わりに木製のフレームを突貫で取り付けただけの機体が、両膝をつく形で現れる。

「……ボロボロの人型ロボットって、良いよね」

「分かります……」

「いや、ボロボロなのは問題では……?」

深く頷き合う自分達に、小鳥遊さんは呆れた様子だ。

すみません。でも浪漫なんです。

「というかさ。なんで今日ここに、って話なら、どうしてオタク君も美由っちの家にいるん?暇?」

「こら、璃子!」

「あ、別にいちゃ悪いって意味じゃなくってね?」

「いえ、そう気を遣わないでください。ちゃんと、用があってここにいるので」

若干慌てた様子のマスターと璃子先輩に、苦笑を浮かべて首を横に振る。

少し、心配をさせ過ぎてしまったかもしれない。別に、彼女らが考えている程辛い学校生活ではないのだ。

静かに過ごせているのだから、それで良い。平和なのだから、それで満足だ。満足、なのだ……。

「そうなん?」

「はい。実は、小鳥遊さん用に魔道具を試しに作ってみたので、確認してもらおうと思って」

「私にですか?」

キョトンとした顔の小鳥遊さんに、頷く。

それに頷いた後、背負っていたリュックを作業台の上に置かせてもらい、中から小型の盾を取り出した。

「この前、ケニングの修復に使った木材の端材で作ってみたんだけどね?」

我ながら、不格好な盾である。魔力こそ帯びているが、ガタガタだ。釘と接着剤でつなぎ合わせただけで、コボルトでも数発で壊せそうである。

しかし、この盾の真価は素の強度ではない。

「ほうほう。こりゃまた、手作り感満載の盾だこって……んあ?なんかこれ、裏側についてる?」

「はい」

手に取って眺めていた璃子先輩に頷く。

グリップの付け根に、自分の『霊装』の剣帯についているスクロール用の部品に似た物を、作って接着してみた。

「そこに『念力』のスクロールを入れて、起動させるんです」

「なるほど……つまり、盾で相手の視界を塞ぎながら、『念力』で何かするのですね?あるいは、敵の武器を絡めとると」

納得した様子で手を叩く小鳥遊さんに、首を小さく横に振る。

「いや。ここに入れる『念力』のスクロールは、少し特殊なやつにしようと思って」

「特殊、ですか?」

「うん。ちょっと、庭の方に移動してみて良い?」

「はあ……」

4人で庭に移動した後、盾を構えた。

「璃子先輩。その辺の庭の砂を、こっちに投げてもらって良いですか?この盾で防ぎますので」

「ふっ……詳しく説明する前に実践する……その気持ち、分かるぜオタク君!任セロリィ!」

ドヤ顔で頷いた璃子先輩が砂を手で掬い上げ、間髪容れずにこちらへ投げてきた。

「くらえ!あーしのクイックボール括弧砂ぁ!」

この人、自分で『括弧』とか言った????

まあ、それはさておき。

迫る砂に対し、盾に装填したスクロールを起動する。

『念力』の魔法は、本来不可視の腕を出現させる物。しかし、これは違う。

盾の形に合わせる様に、楕円形の膜が出現。砂を防いだ。

「おおん?何か今、変じゃなかった?砂を受けて、なんか浮かび上がった様な」

「そうだね。空中に、膜?かな。そんな感じの物が現れて、砂を止めた……?」

璃子先輩とマスターが、驚きと関心の混じった声を上げる。

それに、少し気分が良くなった。どうやら、自分も中々捨てたもんじゃないらしい。

「実はこれ、スクロールの文字を少しだけ書き換えたんです」

「どゆこと?」

「以前マスターにはご説明したんですが、『念力』のスクロールは不可視の手を創造し、10秒間だけ動かす魔法です」

「ふーん、エッチじゃん」

「黙れ似非ギャル」

「似非じゃねぇわボッチ!」

「まあまあ、2人とも落ち着いて」

「失礼しました」

眉を『八』の字にするマスターに軽く頭を下げた後、話を続ける。

「それだけでも使い勝手の良い魔法なんですけど、これ、形を変えられないかなー、って思いまして」

「それで、盾にしてみたんだね」

「はい」

実は、スクロールの部分的な書き換え自体は、2年前……『回帰の日』から、試していた。

受験やら何やらで本格的にやれていたわけではないが、少しずつ実験はしていたのである。

「ここまで不発とか暴発が多かったんですが、ようやく安定してシールドを展開出来る様になってきました」

「ほほう。何か分からんけど凄いじゃん。で、どんぐらいの防御力なん?」

「具体的にどれぐらいの攻撃を防げるかは分かりませんが……少なくとも、僕が思いっきり剣でぶっ叩いても、壊れないぐらいの強度はありました」

「へー。結構凄いんでね?」

「そうだね。頑張ったよ、矢広君!」

「いやー。あはは……」

褒められるのは嬉しいが、それ以上に恥ずかしくなってきた。

耳が熱くなるのを感じながら、何故かずっと無言の小鳥遊さんの方を見る。

「もし良かったら、小鳥遊さんに持ってもらいたいなって。反動もないから、結構使い易いと思うし、大きさも変えればケニングの装備としても使えると思うから」

「…………」

「あ、でも、グリップ周りの重心とか少し変わっちゃうから、そういう意味では使いづらいかも……」

「矢広さん」

「え、あ、うん」

無言でこちらを見てくる小鳥遊さんに、少し恐怖を覚え始めた頃。

彼女はつかつかと近寄って来たと思ったら、やけに強い力で肩を掴んできた。

小鳥遊さんの美貌と爆乳がすぐ傍まできて、心臓が高鳴る。

「なんで、貴方は港で死んだんですか?」

「え、知らん。別人だし」

そんな事を言われましても。

まあ、何となく理由は分かる。おおかた、並行世界の自分は『自暴自棄』になっていたのだ。

生きる理由が思いつかなくて。何もかもに疲れ果てて。もう終わっても良いやって、思ったのだろう。

それでも戦ったのは……あるいは、ライカンスロープの霊的災害で自分がそうなったのと同じ様に、並行世界の『矢広耕太』も、バカやったんだと思う。

いや、知らんけど。全部想像だし。

「……そうですね」

少しだけ考えた後、小鳥遊さんはこちらの肩を放し1歩分下がる。

そして、何度か頷いた。

「分かりました」

「えっと、何が……?」

「矢広さん」

「は、はい」

妙に真剣な、アメジスト色の瞳がこちらを射抜く。

それを受けて、自然と背筋が伸びた。彼女は、何か大切な事を言おうとしている。

「死なない様に、頑張ってください」

だが、発せられたのは言われるまでもない事だった。

「は、はあ……」

何やら、随分と『念力の盾』を高く買われている気がする。

スクロールの部分的な書き換えとか、他の異能持ちもやっていると思うのだが。

いや、知らんけど。他のスクロール作成の異能を持っている人と、会った事もないし。ネット上でも、そもそも異能者の数が少ないからよく分からない。

何故か鼻息の荒い小鳥遊さんに、マスター達と共に首を捻るしかなかった。