軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十六話 小鳥遊さんの食生活

第三十六話 小鳥遊さんの食生活

来て……しまった……。

「ここがあの女のハウスね!!」

「いえ、私の家です」

「ここが美由っちのハウスね!!」

「はい。そうです」

謎の会話をする、璃子先輩と小鳥遊さん。

それを余所に、自分とロッソさんは遠い目をしていた。

「どうしてこんな事に……」

「はわわ、はわわわ……」

横を見ると、何やらロッソさんが不敵な笑みを浮かべたまま痙攣している。

ゴスロリ衣装で分かり辛いが、それに合わせてお胸もプルプルと揺れていた。緊張で疲弊していた精神が、少し回復する。

……よく考えると、参加者はたったの4人。最悪、璃子先輩が騒ぎ倒すのを聞き流すだけで済むはずだ。

ロッソさんほど深刻に考えなくとも、良いかもしれない。

「……では、こちらへどうぞ」

ロッソさんが痙攣している間に、小鳥遊さんが玄関回りの確認を終わらせたらしい。

手招きする彼女に頷き、歩き出す。

「ロッソさん。行きましょう」

「う、うむ。問題ない。吾輩は問題ない。魔界の王に撤退の二文字はない……!」

右手と右足を同時に出しながら、ロッソさんも玄関へ向かった。

……この人、もしかして自分以上に人見知りなのではなかろうか。

そんなこんなでリビングまで通してもらい、机にマスターからのお土産と、途中のコンビニで購入したお菓子やジュースを置く。

「そいじゃ、手洗いうがい済ませたら打ち上げ開始な!」

「あ、その前に。私はちょっと用事があるので。5分程度で戻りますから、先に始めていてください」

「いやいや。家主放置して酒瓶を開ける程、あーしらも不義理じゃないぜ。ブラザー」

「……?購入したのはジュースですし、私は女です」

「日本じゃこれが普通なのさ、美由っち」

「なるほど」

「違う。絶対に違う」

小鳥遊さんは、ガレージのケニングを隠しに行ったのだろう。ないとは思うが、万が一にもロッソさんが未来からの品を見てしまわない為に。

そんなわけで、諸々の事を済ませた後。

「そいじゃ!あーしら4人の初探索の成功を祝って!かんぱーい!」

「か、かんぱーい」

「乾杯」

「乾!杯!!」

微妙にタイミングがずれてしまったが、それぞれジュースの入ったグラスやカップを掲げる。

「ん……ぷはー!やっぱダンジョン終わりのタピオカミルクティーは格別だぜい!」

「タピオカって、そうやって飲む物じゃない気がする……」

璃子先輩は、ミルクティーの入ったカップの蓋を外して直に飲んでいた。

それって、ストローで飲むものでは……?

「え、だってまどろっこしいじゃん」

「んー、この似非ギャル」

「似非じゃない。ガチだ」

まずタピオカの段階で若干古い気がする。というか、よく売っていたな、あそこのコンビニ。

「あーしのギャル 力(りょく) が分からないとは、そんなんじゃクラスの女子にモテないぞ?オタク君」

「は?別に良いですし?気にしていませんが?別にどうという事はありませんし?」

「おう。なんか地雷踏んだっぽいな。メンゴ!」

「いえ、問題ありません」

泣いてなんかいねぇし。マジでクラスの女子とか興味ねーし。

……わりぃ、やっぱつれぇわ……。

「ほら!ここには綺麗所が3人もいるわけだし、元気だせってオタク君!」

「え、でも内2名は残念似非ギャルと20代厨二なんですが……」

「よーし、全員でこいつボコろうぜ!」

「すみません、流石にジョークです」

「全身にギャルをすり込んでやる!」

「すり込む……すり込む……!?なにを!?」

「吾輩は厨二ではない。真の夜の女王にして、赤き復讐者なり!」

「いや、そもそも復讐者って、何に対する復讐者なんですか?」

「え?ほら、吾輩を追放した魔界貴族とか、社会を裏から操る組織とか、こう、そういう……」

頬を赤くして、視線を逸らしながらぼそぼそと語るロッソさん。

この人でも、流石に設定を語るのは恥ずかしいのか。

「私も気になります。詳しく教えてください。ロッソ……さん」

「うぇ!?い、いや。その辺はあんまり聞かないでほしいというか、最近ちょっと練り直しているというか……」

「貴女が何を思い、その道を歩んだのか。興味があります」

「あ、あうあうあう……!」

ロッソさんが、助けを求める様にこちらを見てきた。

小鳥遊さんとしては彼女が魔性に堕ちた理由を探っているのだろうが……その辺は、むしろ深堀すると自暴自棄になりそうなので触れるべきではないと思う。

彼女の中で設定が固まるまで、待ってあげるべきだ。

……いや、他人の厨二設定とか、精神にダメージ入るから聞きたくないが。

「そう言えば。ロッソさんのその服って凄いですけど、どこで購入しているんですか?」

「う、うむ!よくぞ聞いてくれた、若き鬼よ。これは広大なる電子の海から吾輩自らが見つけ出し、取り寄せた物である。ふっ、この肉体に合うサイズを探すのは、少々骨が折れたな」

ロッソさんが、自身の胸に手を当ててドヤ顔をする。

一瞬サイズの部分で彼女の胸元に視線が吸い寄せられたが、表情からして身長の方か。たしかに、彼女は日本の女性としては背が高い。

「服と言えばさー。美由っちってなんか、毎回似た様な恰好していない?」

璃子先輩の視線が、小鳥遊さんに向く。

彼女はまだロッソさんの 闇(設定) を深堀したかった様で少し不満気だが、小さく頷いた。

「はい。似たデザインの物が複数あるので、それを洗濯しながら着ています」

「えー、勿体ないって。美由っちめっちゃ美人でスタイルも良いんだから、もっとお洒落しようぜ!」

「然り。吾輩も、貴殿はもっと服装に気を遣うべきだ。銀の鎖を巻くとか良いと思う」

いや、鎖はやめとけ。マジで。

「機能においてはこれで問題ありませんし、TPO?という物にも適していると思っているのですが」

「ちっちっち……女の子たるもの、お洒落しなきゃ!よーし、ちょっちクローゼットの中見せてみ。あーしがコーデしてやんよ!」

璃子先輩がウインクをした後、口元を歪める。

「ぐふっ……オタクちゃんをコーデしてあげるあーし……これは、ギャル度120%……!」

笑い方でギャル度マイナス200%ぐらい行ってません?

「さあいざゆかん、クローゼットへ!美由っちのファッションショー、開幕じゃー!」

「え?打ち上げとは、お菓子を食べるものなのでは?」

「それもやる!だが余興って大事なのだよ美由っち!」

「なるほど。確かに、兵達が飲み会で騒いでいるのを見た事があります」

「兵達?飲み会?」

「アニメの話です。アニメの」

一瞬キョトンとした顔をしたロッソさんだが、自分が言った嘘に納得したらしい。深く頷く。

「うむ。そうであるか。折角だ、吾輩も小鳥遊美由の衣類について、少々助言をしてやるとしよう。具体的には、黒のロングコートとベルトをだな……」

こいつ、染め上げる気だ……!小鳥遊さんを、厨二側に!

というか、待て。そう言えば彼女の家のクローゼットって。

「オタク君はここで待っていろ!君は審査員な!」

「あの、ちょっと」

「演目の終わる時まで、観衆は席から離れるべからず!心して待つが良い」

「いや、だから」

「少しだけ待っていてください、矢広さん。仮面ラ●ダーシリーズを見ていて良いので」

「えー……」

自分が止める間もなく、女子3人は小鳥遊さんの部屋へ向かってしまった。

この家は自称デミウルゴスが用意したものであり、置いてある家具や衣類もあの存在のチョイスである。

前に聞いた時、随分と色物ばかり用意されていたらしいが……まともなのも、探したらあるのだろうか。

若干現実逃避しながら、お菓子を食べつつスマホを弄る事、約10分。

「うおおおおお!」

どたどたと音がしたと思ったら、璃子先輩が文字通りリビングへ転がり込んできた。

扉を勢いよく開けるなり、前転したのである。くっ、机の角が邪魔で翻ったスカートの奥は拝めなかった……!

じゃなくって。

「どうしたんですか、いったい。まさか、何かトラブルが?」

「マジやっべーよ!べーよこれ!オタク君よぉ!」

「あ、事故や事件ではなさそうですね」

開幕ふざけ倒している似非ギャルに、少し浮かせた腰を椅子に戻す。

だが、璃子先輩は無駄にシリアスな顔で手をわなわなと震わせていた。

「あ、あーしは、あーし達は、冗談半分でとんでもねぇものを呼び起こしてしまった……!アレはもう、兵器だ!」

「そっすか。大変ですねー」

「呑気に菓子くっとる場合かぁ!」

「逆に、それ以外にやる事ない状況ですが……?」

「えぇい、危機感のない奴め!ならば刮目せよ!己が無知を憎悪し、後悔にむせび泣け!」

「若干ロッソさん混じってません?」

なんなの?感染するの?……しないとは言い切れねぇわ。

「来るがいい、美由っち!その姿をこのオタク君に見せてやるのだ!」

……まさか。いや、まさかな。

璃子先輩とロッソさんがいて、まさか有り得ないだろう。

期待と困惑を胸に、開け放たれたままのリビングの扉を凝視した。

そして。

「はあ……なぜ璃子先輩は、おかしな言動を続けているのですか?」

若干呆れた顔をした小鳥遊さんが、とことこと入ってきた。

バニーガール姿で。

───それは、兵器だった。

白く華奢な肩、そこから伸びるしなやかな腕にはカフスが装着されている。露出した鎖骨は細く、首元には白い付け襟と黒い蝶ネクタイが絞められていた。

胴体には、彼女の長い黒髪とは正反対の、白いバニースーツ。一瞬、そのあまりの白さから小鳥遊さんの白い肌もあって、全裸なのかと錯覚しそうになった。

だが、全裸と同じぐらいボディラインが丸見えとなっている。その上、彼女の爆乳が今にもこぼれてしまいそうだった。

中にワイヤーが入っているバニースーツがどうにか受け止めているが、左右へ乳肉が広がり、その柔らかさを強調している様でさえある。

腰の部分はかなり際どいハイレグであり、鼠径部の大半が見えてしまっていた。ほんの少しずれてしまったら、乙女の見てはならない箇所が見えてしまう事は間違いない。

鼠径部から太腿の半ばまでが露出し、そこから先は網タイツが覆っている。僅かにつけられたフリルは、可愛らしさよりも高級感を出している気がした。

室内だというのにハイヒールを履いている事もあって、元々長い小鳥遊さんの足がより長く感じる。肉感的な太腿に反し、膝から下はきゅっと細い美脚であった。

思わず凝視してしまう自分に対し、彼女は特に恥じらった様子はない。白いうさ耳を、煩わしそうに指で弄っている。

『恥じらう姿こそ叡智なのだ』と言う人もいるだろうし、自分も同じ意見であった。だが、平然とした表情でスケベ全開の恰好をした美少女からしか、得られない栄養も存在する。それを、僕の心は叫んでいた。

ありがとう……この世の全てに、感謝を……!

「矢広さん」

「はい、申し訳ありません!」

小鳥遊さんに名前を呼ばれ、咄嗟に顔を伏せる。

いかん、見過ぎた!網膜に焼きつけようと体が勝手に!

「……?なぜ謝るのですか。私の方こそ、お待たせした事を謝罪しようと考えていたのですが」

「いえ、滅相もございません……!」

「はあ……?」

チラリと小鳥遊さんの顔を窺うが、どうも困惑しているだけらしい。

すぐに視線が顔から彼女の深い谷間に移動してしまい、続けて今にも見えてしまいそうな先端に固定された。

待て、矢広耕太!正気を取り戻せ!ここでガン見し過ぎては、社会的に死ぬぞ!

「危ない僕!」

「矢広さん!?」

全力の左フックが、自身の頬を抉る。とても痛い。

だが、おかげで視線を逸らす事が出来た。このまま、壁を眺めていよう。そうすれば、死ぬ事はない。

「マジやべぇぜ美由っちのクローゼット……」

「コスプレにしか使わん服ばっかりだったぞ……いや、吾輩でも羨ましいと思う高貴な衣装もあったが」

璃子先輩とロッソさんの声が聞こえてくる。

「だが、あの衣装の山はなんだ?誰が用意したのだ?」

「私です。何を購入して良いか分からず、ネット通販で適当に注文したらああなりました」

若干棒読みで、小鳥遊さんが答える。

実際は自称デミウルゴスが用意したのだが、流石に本当の事を言えるわけもない。

「む、そうなのか。浮世離れした御仁だとは思っていたが、御父上や御母上は何も言わぬのか?」

「はい。いませんので」

「……そうか」

ロッソさんが、数秒の間を置いて頷いた気配がする。

「吾輩も……母親はいるが、父親がおらん。小学生の頃に、交通事故でな」

「……そう、ですか」

「女手一つで母上は吾輩を育ててくれた。その事には感謝しているし、愛情も感じている。だが、寂しかったのは事実だ」

視界の端で、ロッソさんが真剣な顔をしているのが見えた。

「何か困り事や、悩みがあれば吾輩に相談せよ。全力で助力すると、我が魂に誓おう」

「それは……ありがとうございます」

小鳥遊さんの、若干困惑した声が聞こえてくる。

「あー、ロッソん。一応言うけど、あのクローゼットの中身は、ガチでやましい理由とかないと思うからね?」

「そこは吾輩も疑っておらん。処女の血の匂いは、隣におるだけで分かる」

「え、セクハラ?」

「違うわ!」

「あっはっは!まあ……あーしはさ、両親ともに元気だけど、2人とも仕事で家を離れている事が多くってねー」

位置的に見る事は出来ないが、璃子先輩もきっと真剣な表情をしているのだろう。

「でも、お祖母ちゃんがいたから。寂しくはなかったよ。美由っちも、1人じゃ辛い時とかはさ。うちの喫茶店に来なよ。コーヒーぐらいなら、奢るからさ」

「……はい」

少し迷った後に、小鳥遊さんは頷いた様だ。

しんみりとした空気が、室内を包み込む。しかし、まさかロッソさんが母子家庭であったとは……。

こんな時に考える事ではないかもしれないが、もしかしたら並行世界において、彼女が魔性に堕ちた理由に何か関係しているかもしれない。

思考を巡らせていると、ロッソさんがこちらを見ている事に気づく。

彼女は何かを促す様に、目を動かしていた。自分と小鳥遊さんの間で、視線を行き来させている。

……え、まさか僕にしめろと?この流れを?

無理ですよ?無理ですからね?

うちの両親は特別家を空けがちとかじゃないし、健在だ。何なら元気すぎてこちらはイヤホンなしで生活出来ない状況である。

いや、父さんは最近元気がないけども。若返ったはずなのに、ちょっとやつれたけども。

だが、そんな事を言えるわけがない。セクハラである。

待って。え、マジで待って。無理だよ?ここから良い話で纏めるの無理だよ?

「オタク君……いいや、耕太君もさ。君の仲間で、友達だから」

お願い璃子先輩。今は名前で呼ばないで。シリアスな空気作らないで。死んじゃう。死んじゃうから!

「そうだ。貴殿は1人ではない。背中を預け合う、友がおろう」

ロッソさん!その厨二レベルじゃ足りない!もっとギャグにしかならないレベルで厨二発言してください!

駄目だ、時間は敵だ。このままでは状況は悪化するばかり。こうなれば、考えた事をそのまま口にするしか……!

「小鳥遊さん」

「はい」

「僕は、色々と頼りないと思うけど……出来る事は、するから」

「矢広さん……!」

「何か困った事があったら、頼ってほしい。僕だけじゃなくって、クランの人皆を、さ」

「……本当に、頼っても良いのですか?」

「うん。頑張るよ」

頭に浮かんが事をそのまま言っただけだが、小鳥遊さんはどこか感動した様に、声を震わせている。

良かったと、そっと胸をなでおろした。

だが。

「では、早速」

「うん……うん?」

カツカツと音をたてて、小鳥遊さんが近づいてくる。

どうでも良いけど、床傷つかない?せめてハイヒールはやめたら?

そんな思考も、彼女が目の前にやってきた事で吹き飛ぶ。折角首を横に向けていたのに!?

至近距離にある爆乳に、視界と脳が埋め尽くされる。

オッパイ!オッパイ!……正気に戻れぇ!

「お願いがあります」

「はい!」

小鳥遊さんが前屈みになり、こちらの手を握ってきた。しなやかな指の感触が、強調された胸の谷間が。前屈みになった瞬間に揺れたお胸が。思考を蝕んでいく。

さようなら、僕の正気……。

「クローゼットの中にあった、ミニスカサンタと着物風ビキニを着てください!」

「いやです」

お帰り、正気。帰って、狂気。

そっと彼女の手を解き、首の角度を変える。ちょうど視線の先に、お腹を抱えて肩を震わせている璃子先輩がいた。

見せもんちゃうぞおい。マジでしばいたろか。

「なぜですか!?何でもしてくれると言ったのに!」

「言ってない。何でもは言っていない」

「落ち着け小鳥遊美由!ここはもっとこう、あるだろう!?真面目な話が!どうしてこの流れでコスプレ談議になる!?」

そうだ!言ってやってください、ロッソさん!

「私は至極真面目です。真剣に、矢広さんにミニスカサンタや着物風ビキニを着てもらいたいと思っています」

「なぜ!?」

「手に入らなかったので」

「まるで意味が分からんぞ!?」

分からないままで良いと思います、ロッソさん。そのままの貴女でいてくださ……いや、厨二は程々でお願いします。

つうか、さてはガチャだな?

「ぶふ……い、良いじゃんオタク君……!減るもんじゃあるま……ぶふぉ……!」

「減ります。僕の心が」

つうかてめぇ。さてはあの真剣な流れからのこちらへのキラーパス。わざとだな?絶対わざとだ。

「んま!オタク君が着せ替え人形になるのはまた後日として」

「なりません。 永久(とわ) に」

「矢広さん……私は貴方を、信じています」

「信じるな。この世の全てを」

「しっかしマジでオッパイ大きいね、美由っち。何食ったらそんな大きくなんの?」

「それは吾輩も思った。着る服を用意するのが大変そうだから羨ましくはないが、それはそれとして気になる」

2人の問いに、小鳥遊さん頷いた気がした。

それはそうと、視界の端にオッパイが僅かに映っている。何という大きさか。これだけ首を曲げても、なおも見えているとは……。

まるで重力に引っ張られる様に、顔が小鳥遊さんの方へと向きそうになる。

くっ……!今度は右の拳を入れるしかないのか……!頬に!ついでに璃子先輩の脳天に!

「特別な食事はしていないと思いますが」

「えー、でも気になる。1人暮らしっしょ?どんな感じなん?」

「そうですね。朝はコーンフレーク、サラダ、スクランブルエッグ、ヨーグルト、コーヒーです」

「ほうほう。洋風だね」

「朝に米を食べない……だと……!?」

「昼はコーンフレーク、サラダ、スクランブルエッグ、ヨーグルト、コーヒーです」

「ほうほ……んん?」

「そして夜はコーンフレーク、サラダ、スクランブルエッグ、ヨーグルト、コーヒーです」

「全部同じじゃん!?」

目ん玉をひんむく璃子先輩に、小鳥遊さんが不満気な声を返した。

「違います。不足しがちなビタミンや鉄分のサプリを、それぞれとっています」

「なるほど。錠剤の数と種類が朝昼晩で違うんだね!バカがよぉ!」

「なぜ私は罵倒されたのでしょうか……?」

「当然だと思う」

不思議そうにこっちの顔を覗き込まないで、小鳥遊さん。セットで谷間も映り込むの。至近距離で。

色欲によって脳の8割が謀反を起こしかけているが、どうにか口を動かす。

「あの、小鳥遊さん。小鳥遊さんも、美味しい物を食べたら嬉しいよね?」

「はい」

「だったら、もう少し食事のバリエーションを大事にした方が、良いと思うな」

「なぜでしょうか?味も栄養も、このメニューで十分だと思いますが」

「同じ食事ばっかりだと、そのうち飽きがくるよ。何より、色んな食べ物を味わった方が、きっと心の健康に良いと思う」

「心の健康……なるほど」

小鳥遊さんは納得してくれたのか、背筋を伸ばした。それにより、自分の視界からお胸様が遠のく。

危なかった。あと少しで、自分は両手を合わせて彼女のお胸様をご神体として崇めていたかもしれない。

オッパイ教巨乳派として、もはやこれは神の奇跡である。

そうか、神様って実在したんだ……。

「確かに、精神面での充実は肉体の健康にも良い影響を与えると聞いた事があります」

ギリギリ残っている理性で、会話を続ける。

「そうだよ。食事は、大切だから」

「ドラッグなどでの高揚は、返って不健康になると聞きますが。これは健全な方ですね」

「うん。何より、冒険者は健康第一だからね」

「あの子は、どういう環境で育ったのだ……?」

「気にしないでロッソん。美由っちアメリカ帰りだから」

「恐いな、アメリカ……!」

某国に風評被害が及んでいる中、小鳥遊さんが頷いた気配がする。

「分かりました。今後は食にもう少しバリエーションを加えてみます」

「うん。その方が、きっと良いよ。何なら、最初は曜日ごとに食べる物を決めるとかさ」

「はい。やってみます」

後で、マスターにも相談してみるとしよう。頼り過ぎて申し訳ないとは思うが、彼女ならきっとタスケテくれるはずだ。小鳥遊さんの食事について、きっとアドバイスをくれるだろう。

それに、ロッソさんの家庭について少しだけ知る事が出来た。これも、収穫と言える。

犠牲はあったが、この打ち上げは実りあるものであった。

「それはそうと、矢広さんはどうしてずっと同じ姿勢で座っているのですか?」

「指摘しないであげて。流石のあーしも、見て見ぬふりをする状況だから……」

「まあ……その……わ、若者だからな!し、仕方あるまい!」

僕の心の健康は犠牲になったのだ。未来の為に。