軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十六話 頼れる2人

第二十六話 頼れる2人

ケニングが本物であると証明した後、場所を小鳥遊家のリビングに移した。

「ふむふむ。つまり、纏めると、だ」

豊かな胸の下で腕を組みながら、璃子先輩が口を開く。

「美由っちは、100年後の並行世界からきた、実質未来人」

「はい」

「このままだと、数年以内に日本が滅びる。しかも政府内に魔物の影あり」

「はい」

「それを阻止する方法は皆目見当がついていないが、兎に角戦力が必要と考えた」

「はい」

「で、あの人型ロボット。ケニングの修理をしたいが、その伝手がなくて困っている……という事で、OK?」

「はい。その通りです」

「うんうん、なるほどね」

目を閉じて何度も頷いた後、彼女は。

「お前は何を言っているんだ?……って、あのロボを見る前なら言えたんだけどなー」

眉をへにゃっとさせながら、背もたれに体重を預けた。

「どーう考えても一般ピープルがどうにか出来る状況じゃねぇべ。アレじゃん。こういうのはの●太君とか、ジ●ン・コナ●案件じゃん。あるいはその母親」

「それは正直、僕も思いました」

切実にドラ●もん一行やコ●ー親子の応援がほしい。いや、ドラえ●んいる未来ならそもそもここまで追い詰められていないが。

「つうか、正直受け入れられてねぇわ。本当に未来の品なの、アレ。実はめっちゃ頑張った現代の至宝だったりしない?」

「それならそれで、なんでこんな田舎にあるんだって話になりますけど」

「それな」

自分達がそんな会話をしていると、マスターが人数分のコーヒーを持って来てくれる。

「お待たせ。ごめんね小鳥遊ちゃん、勝手にキッチン使わせてもらって」

「いえ。むしろ招いた側なのに、用意させてしまって申し訳ありません」

「ううん。私は、璃子と違ってSFっぽい話には疎いからね」

困った様な顔をして、マスターが椅子に座る。

「でも、君がこういう嘘を言う人ではないっていうのは、分かるかな」

穏やかに微笑むマスターを見て、璃子先輩が小さくため息をついた。

「お祖母ちゃんもそう言うって事は、間違いないかー。しゃーね、切り替えていくべ」

「ありがとうございます、2人とも」

深々と頭を下げた小鳥遊さんに続き、自分もお辞儀する。

「いいのいいの。それはそうと、美由っち。ケニングのOSとか見せてもらう事は出来る?あと、出来れば整備マニュアル」

「はい。こちらに」

そう言って、彼女が未来から持って来た端末を璃子先輩に渡す。

「ここに、未来で機体を整備してくれていた人が残した整備マニュアルが入っています。それと、OSの一部をコピーしたものが」

「あんがと。んじゃ、ちょっと拝見」

端末を受け取った璃子先輩が、画面を見てすぐに頬を引きつらせる。

「わーお。予想はしていたけど、全文英語だわ。辞書ないときっついなこれ」

……逆に、辞書ありなら読めるのか。アレが。

自分も少しだけ見せてもらった事があったのだが、英語の教科書や辞書と睨めっこしながらでも1ページも解読出来なかったぞ。

こちらの視線に気づいたのか、璃子先輩が手をひらひらと振る。

「ああ、これってそもそもある程度機械の知識ないとまともに読めねぇやつだよ、オタク君。でもあれだね。このマニュアル書いた人、かなり噛み砕いて説明してくれている気がする。あーしでも、大雑把にならわかるわ」

「たしか、そのマニュアルは整備班の班長が、急遽集められた人員の為に作った物です。それを、私にも目を通しておいた方が良いと送ってくれました」

「にゃるほど、新人やパイロット用ってわけね。……ほーん。流石50年も使われている傑作量産機って美由っちが言うわけだ。これ、思ったより簡単な構造だね」

「そうなの?璃子」

「うん、お祖母ちゃん。たぶんこれ、町工場レベルの設備でもある程度は修理出来るわ。異能関連の技術も必要だから、完璧とは言えないけどね」

あっさりと、璃子先輩はそう告げた。

その言葉に、またも驚く。町工場云々に関しては、まだ説明していなかったのに。あのマニュアルに軽く目を通しただけでわかるのか。

目を見開いていると、璃子先輩が左手でコーヒーカップを持ちニヤリと笑う。

「ふふん。あーしはこれでも、聖白百合女学院のプログラミングコースだぜぇ?このぐらいお茶の子さいさいよぉ」

聖白百合女学院……って、たしか名門のお嬢様学校だったはず。

この少子化のご時世でも女子校を維持し、名門大学への合格者も毎年排出しているとか。

「ふっふっふ。これでもあーしはエリートギャ……あっちぃ!?」

この変人が……!?

ほにゃららと天才は紙一重って、本当だったのか。

「もう、璃子。普段ミルクを多めにいれるのに、格好つけてそのまま飲もうとするから」

「ギャルには……!どうしても格好つけなきゃいけない瞬間があるんだよ、お祖母ちゃん……!」

たぶん今ではないです、璃子先輩。

「まあ、あーしはソフト専門。ハードは門外漢だからね。そっちは、お祖母ちゃんにお願いしなきゃ無理だわ」

「そうだね。町工場って言うのなら、私の出番だ」

むん、と。マスターが両手を握る。

「え。もしかして、マスターも機械の専門知識が……?」

「ううん。さっきも言ったけど、私はそういうの全然わからないよ」

「お祖母ちゃんは今でもゲーム機を『ぴこぴこ』って言っちゃう人種だぞ。なめんな」

「ぴこぴこ……?」

何かの効果音だろうか。いや、そう言えば前にどこかで、昭和ではゲーム機をそう呼んでいたと聞いた事がある気がする。

「私はこれでも顔が広い方だからね。任せて!」

「はぁ……マスターは、小顔だと思いますが」

「小鳥遊さん。今のは諺というか……知り合いが多いって意味だよ」

「なるほど。そういう事でしたか」

小鳥遊さんのリアクションに、マスターが苦笑する。

「あはは……店の近くには、工場が幾つかあるからね。自転車や自動車の部品を作っていた所だけど、それでも良いのかな?璃子」

「うん。モーターとか、そういう部品はこの辺の工場でも作れるはず。まぁじで簡単だな、この人型ロボ。ハード部分と異能関連の部品以外は、むしろこの時代でも古い技術ばっか使われているじゃん」

呆れ半分、尊敬半分という様子で、璃子先輩がタブレットの画面を眺める。

「こいつを作った人は、間違いなく天才だね。新しい物を作る天才じゃなくって、既存の技術を組み合わせる天才だ」

そう告げて、彼女は小鳥遊さんにタブレットを返した。

「……まっ、異能関連の部分はさっぱりなんだけどね!つうか、システム面も肝心な部分がほぼほぼブラックボックスじゃねぇか!」

「やはり、璃子先輩でも解除は出来ませんか」

「無理無理無理カタツムリ!ここだけセキュリティーガッチガチだもん。一介の学生にゃ無理だって。つうか、うちの学校の先生方でも無理だと思うよ、これ」

「ですよねー……」

軍用機なわけだし、当然と言えば当然か。

「つうか、異能関連の部品はどうすんの?フレームとか」

「あ、そこは一応。僕と小鳥遊さんで木材を用意しようかと」

「なるほど。矢広君の固有異能だね?」

「はい」

マスターの言葉に頷くと、璃子先輩が頬杖をつく。

「ほーん。オタク君も固有異能持っていたんだ」

「はい、一応ですけど……『も』?」

彼女の言い方に引っかかりを覚え、首を傾げる。

それに対し、マスターもキョトンとした顔をしてきた。

「あれ、言っていなかったっけ?」

「えっと……何を?」

「私と璃子も、固有異能を持っているんだ」

「え゛っ」

小鳥遊さんと2人揃って、硬直する。

日本において1万人に1人と言われている異能者。その中でも、特に珍しいとされている固有異能持ち。

それが祖母と孫で揃っている上に、眼前にいるとは思っていなかった。

というか、僕のアイデンティティが……!?

「ゴリゴリの戦闘特化だから、あーしらの固有異能ってこういう時に役立たないんだけどねー」

「うん。あんまり、力にはなれなさそうかな」

「いえ。ソフト面でのサポートと、工場の紹介だけでもありがたいです」

唖然とする自分をよそに、いち早く復帰した小鳥遊さんが頭を下げる。

それに対し、マスターは困った様に手を振った。

「ううん。これぐらい、そんな気にしなくていいよ。でも、どうやって説明しようか……」

「そこはほら。ゴーレムと機械を組み合わせる実験をしたいーって、言えば良いんじゃない?実験って部分以外は、嘘じゃないし」

「……そうですね。そういう取り組み自体は、大小問わずどこでもやっていますから」

どうにか姿勢を正し、会話に加わる。

ゴーレムが思ったよりも使い物にならないと分かってから、色んな国や異能者が改良出来ないかチャレンジはしていた。

それこそ、田舎のクランがそこに加わったとしても、おかしな話ではない。ケニングさえ見せなければ、『上手くいっていない』と言って誤魔化せる。

「うーん。騙している様で、申し訳ないんだけど……」

「でもお祖母ちゃん。この話、口外は無理っしょ。てか、他のクランメンバーにも言えねぇわ。絶対」

「……そうだね。ここは、心を鬼にして!」

何やら深刻な顔で、マスターが気合を入れている。

予想はしていたが、本当に嘘が苦手なのだが、この人。

「あ、でもお金はどうしよう……お友達ではあるけど、流石に無償というわけにはいかないし……」

「そうだった……簡単な構造とは言え、作ってもらうってなったら中古車買うぐらいの値段は絶対にかかるよね、これ」

マスターと璃子さんが頭を抱えるが、小鳥遊さんが首を横に振る。

「いえ、そこは問題ありません。私が払います」

「え。美由っち、そんなお金持ちなん?うちでも突然この出費はマジでキツイんだけど」

「はい。幸い、デミちゃん氏から頂いたお金があります」

「あー……あの、デミウルゴスって奴。『回帰の日』の放送やら、美由っちのタイムスリップやら。マジでわけわかんねぇな」

それは、自分もそう思う。何がしたいのか、さっぱり分からない。

シンプルに考えるのなら、これから起きる悲劇へのカウンターを用意したいのだろうが……それにしては、遠回し過ぎる気がした。

何か事情があるのか、それとも別の目的があるのか……。

「ま、そこは今考えようにも、情報が少なすぎて意味ないっしょ」

パン、と。璃子先輩が手を叩く。

「部品はお祖母ちゃんが近くの工場に依頼する。金は美由っちが払う。異能関連の部品はある程度オタク君が用意する。で、あーしは機体のバランスとか入力する、と」

「はい。よろしくお願いいたします、皆さん」

「でもさー……一番肝心な所っつうか……ぶっちゃけ、政治家さん達の中に魔物がいるかもってマジなの?」

璃子先輩が、再び胸の下で腕を組む。

その視線は疑いよりも、不安や恐怖が多く含まれている気がした。

「だとしたら、あーしらが幾ら頑張っても感がパナイんだけど。確定情報なん?」

「100年後でも確定ではありませんでした。しかし、その可能性が高いとは語られていましたね。ただ……」

一瞬だけ、小鳥遊さんが眉間に縦皺をつくる。

「あくまで並行世界の事です。これからお話する石山岩子氏。『ロッソ・ヴェンデッタ』が善人か悪人かも、分かっていないので」

「なにその香ばしい名前」

自称『オタクに優しいギャル』も大概やぞ。

「石山ちゃんって、新しくクランに入る?」

「はい、マスター。彼女は、100年後の未来において大量虐殺者として有名なのです」

「ええ……!?」

マスターが、信じられないとばかりに目を見開く。

既に面接はしているはずだが、彼女から見て石山さんはまともな人に思えていた様だ。

いや、あの厨二具合は別として。

「しかし、この前の霊的災害においては、避難所を守る為に死力を尽くして戦っていました」

複雑そうな顔で、小鳥遊さんは続ける。

「どうか、彼女を見定めるのを手伝ってください、マスター。石山岩子氏が、英雄になるのか。怪物になるのか」

「見定めるなんて、出来るか分からないけど……分かった。注意して見るね」

彼女の目を真っすぐに見つめ返し、マスターが頷いた。

「それと、矢広さんの学校に、未来で英雄の1人として語られている『遠海虎毬さんの縁者』と思しき女性が転校生としてやって来ています。遠海さんは公安所属の警察官だと語られているので、もしかしたら国会に紛れ込んだ魔物を見抜いてくれるかもしれません」

「おー。なに、もしかしてこの辺って特異点的な場所?他にも未来の有名人とか近くにいる?」

璃子先輩が不敵な笑みを浮かべて、自分自身を親指で指さす。

「たとえば……この伝説のスーパーギャルとか……ね!」

「いえ、璃子先輩の事は全く」

「ズコー」

非情に古臭いリアクションをしながら、璃子先輩が机に突っ伏す。

豊満なお胸が、机に押し付けられて横に広がった……!

「ですが、矢広さんはかなりの有名人です」

「小鳥遊さん、その情報はいらないと思う」

「いえ。矢広さんが伝説のスーパードスケベ人であり、女体化した姿が大いに人気である事は説明した方が良いかと」

「いらない。絶対にいらない」

「詳しく」

「いらないって言ってんでしょうがこの似非ギャル」

「キサマー!言ってはならん事をー!」

復活した自称伝説のスーパーギャルが、眦をつり上げてこちらの頬を両手で引っ張ってくる。

ちょっと痛い。だがそれ以上に、冷たくも柔らかい彼女の指に心臓が跳ねた。

やめてください。惚れてしまいます。

「仲良しだねー」

「はい。部隊内の結束が固い事は良い事です。そして、矢広さんの女体化した姿ですが」

キュンキュンしている場合じゃねぇ。あの天然未来人を止めなければ。

この後、滅茶苦茶璃子先輩が人の女体化キャラを見て笑いやがった。100年の恋も冷めるわこんなん。

誰がメス堕ち英雄じゃい……!