軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話 憧れたのは

第九話 憧れたのは

『───総理の遺体が本日午前3時に発見されました。損壊が激しいものの、所持品とDNA鑑定から』

『総理だけではなく、他にも4名の大臣の遺体も同じ場所で発見されおり、今後の政治に影響が』

『政治的空白を防ぐ為、現在閣僚の間で協議が』

『そもそもですね、これは本当に霊的災害なのか。そこをハッキリさせんと、何も語れんわけですよ』

『現地にいた異能者の警官の対応は、はたして正しかったのか。総理の死亡に対し、警視庁の』

『総理の訃報を聞き、野党代表の木島氏は哀悼の意をSNSに』

『ジョセフィーヌホワイトハウス報道官は、東京で起きた霊的災害に対し犠牲となった方々への冥福を述べた後、今後の魔物対策について日米の協力を』

『今回の霊的災害により、確認できている範囲でも100人近い人命が失われました。これは日本で発生した霊的災害の中で3番目に多い被害であり、専門家は』

『冒険者制度では足りていないと言っているのです!徴兵とは言いませんが、異能者の方々にはより積極的な魔物対策を行って頂かねばならないと』

『速報です。臨時総理として、 泉原誠(いずみはらまこと) 防衛大臣が選ばれ、本日午後2時から会見が』

昨日は、あまりにも多くの事があり過ぎた。

クランの加入テスト。小鳥遊さんのカミングアウト。そして、東京で再び発生した霊的災害と、それによる総理を含めた5名の大臣の死亡。

当然ながら、日本中が大騒ぎになっている。海外のニュース番組でも、東京の一件が大きく報道されているそうだ。

日曜日だというのに、晴れやかな空気とは程遠い。

両親に体調を心配されながらも、自分は朝食を終えるなりある程度の身支度を済ませてすぐに家を出た。

向かう先は当然、あのタイムトラベラーの所であった。

* * *

「まさか、この様な事が起きるとは」

と、未来人は冷や汗を流しながら言った。

小鳥遊さんの家に行くと、彼女はガレージで人型ロボット……『ケニング』とやらの修理を行っていた。

ツナギを着ているが、袖は腰の辺りで縛られている。上半身は黒いシャツのみであった。

作業机の端に載せられたラジオからは、今も例のニュースが流れている。

「……どうやら、貴女の発言を信じる他ないようです。まずは、疑った事を謝らせてください」

小鳥遊さんに、深く頭を下げる。

内心で彼女の事を、『こじらせた厨二』『妄言を垂れ流す残念美人』と散々疑ったのだ。本当に申し訳ない。

「いえ!タイムスリップなんて、簡単に信じられなくて当たり前です。矢広さんに落ち度はありません」

「そう言って頂けて、何よりです」

顔を上げれば、焦った様子の小鳥遊さんの顔があった。

……思ったより距離が近く、内心で少し驚く。

機械油の臭いに混ざり、石鹸の香りがした。何となく気恥ずかしさを覚え、1歩距離をとる。

「それで、今日は今後の事について相談に来たのですが……」

ちらりと、ケニングへ視線を向ける。

「これは……どういう状態なんですか?」

右腕がなく、胴体の装甲も外された人型ロボット。配線やパイプが覗く機械の塊は、いかにもSF然としていた。

作業用の手袋に包まれた小鳥遊さんの指が、ケニングの腿を撫でる。

「戦闘は厳しいですね。武装を全て失った状態かつ、右腕は欠損。バランスも崩れていますし、他の箇所もパーツの損耗が激しい。現状では、自力での移動が精一杯です」

「その……直せるんですか?」

「コアユニット以外は、この時代の技術でも製造可能です。私も最低限の知識はありますので、時間さえあれば修理できるでしょう。予算も、デミちゃん氏が下さったお金があるのでかなり余裕があります」

「……あのデミウルゴスを名乗る存在から、お金も貰っていたのですか?」

「はい。家に置いてあった通帳を確認した所、当面の生活費としてかなりの額が私名義の口座に入っていました。えっと……宝くじ?というので、5回1等に当選したぐらいの金額だったかと」

思わず、むせそうになる。

宝くじと言ってもピンキリはあるが、高額な事には違いない。この家と言い、あの自称デミウルゴスは本当に何者なのやら。

「えっと……口座の事は、あまり外では言わない方が良いと思いますよ」

「はい。金銭トラブルから味方同士で殺し合いをする兵士もいましたので、信頼できる人間以外には伝えません」

背筋をシャンと伸ばし、小鳥遊さんが頷く。

その拍子で小さく震えた大きなお山から目を逸らし、ケニングへと視線を戻した。

メカメカしいその姿に、彼女のお胸を見た時とは別種のトキメキを抱く。

人型ロボット。しかも人間が搭乗できるタイプ。はたして、それに心を躍らせない日本男児がいるだろうか。

いや、いない。

チラリと、小鳥遊さんの方を見る。こんな時に、お願いする事ではないかもしれないが……憧れというやつは、中々理性では制御できない、厄介な感情なわけで。

未来への焦燥感を思考の脇に置いて、『お願い』をしてみる事にした。

「あの……小鳥遊さん」

「はい。何でしょうか」

「……真面目な話をしに来て何なのですが……いや、駄目だったら良いんですけども……」

「……?内容をおっしゃって頂かなければ、駄目かどうか判断は出来ませんが」

「……コレの操縦席を、見せてもらう事は出来ますか?」

心臓が無駄に激しく動き、緊張で汗が出てきた。

恐る恐る告げた言葉に、彼女は。

「はい。その程度でしたら、問題ありません」

あっさりと、頷いた。

「い、良いんですか!?」

「はい。あ、ですが、内部のスイッチやレバーには触れないで下さい。バッテリーは外してあるので、動く事はないでしょうが、万が一にも事故があっては困るので」

「わ、わかりました!大丈夫です!気を付けます!」

「はあ……?」

ハイテンションの自分に、小鳥遊さんが困惑した様子で首を傾げる。どうやら、彼女にこの浪漫は伝わらないらしい。

不思議そうにしながらも、小鳥遊さんはケニングの後ろ側へと先導してくれる。

両膝をついて項垂れる姿勢をとる、灰色の巨人。その背中に、大きな箱が取り付けられていた。どうやら、そこがコックピットらしい。ハッチが横方向に開き、内部が覗いている。

「どうぞ、これを使ってください」

「あ、ありがとうございます……!」

小鳥遊さんが小さな脚立を置いてくれたので、それを使い中に入ってみる。

「うわぁ……!」

自分は今、とんでもなく貴重な体験をしている。

100年後の未来の品……というのもあるが、それ以上に『人型ロボットのコックピット』だ。しかも、軍用機だったらしい機体の。

小さく硬そうな椅子に、ボタンが幾つもついた2つのレバー。壁には計器らしき物と、モニターが正面と左右に取り付けられている。

ロボットアニメで見る、コックピットだ。テンション上がる……!

「すげぇ……すっげぇ……!」

「そんなに感動する程の物でしょうか?」

「それはもう!この時代に、人が乗る人型ロボットなんて限られていますし、ましてや戦闘出来る程の動きをする機体だなんて、聞いた事がありませんよ!」

「そう、ですか」

「そうなんです……!」

これ、座っても良いのだろうか……流石にそれは駄目かな……!?

アニメみたいに、『システムオールグリーン。いきます!』とか『まだだ!たかがメインカメラをやられただけだ!』とか、言ってみたいのだが……!

そんな事を考えていると、小鳥遊さんが爪先立ちとなり、地面からコックピットを覗き込む。

「私にとってもこの空間は見慣れない物ですが、あまり特別感はありませんね」

そして、彼女は座席の下を指さした。

「シートの下。そのスペースに、私は収納されていましたので。この時代に来てから初めて直接目視はしましたが、自室の様なものです」

「あっ……はい」

小さなシートの下の、小さなスペース。バスケットボールが、2つ入るかどうかもわからない空間。そこに、小鳥遊さんは8年間もいたのだ。脳みそだけを摘出され、機械に繋がれた状態で。

それだけでも気が狂いそうにな環境だろうに、彼女はずっと化け物達と戦っていたという。

何も考えずにはしゃいでいたのが恥ずかしくなり、そそくさと小鳥遊さんの隣へと降りた。

……あんまり近くだと緊張するから、少し距離をとるけど。

話題を変えようと、チラリと一瞬だけ彼女の首から下を見る。

「その……その体も、デミウルゴスが?」

「はい。『治癒魔法で肉体を戻してあげよう』と、言っていました。実感は薄いですが、脳の状態から再生した……という事なのでしょう」

しげしげと、小鳥遊さんが自身の肉体を見下ろす。

「デミちゃん氏の意図はわかりませんが、恩人と呼ぶべきなのでしょう。エネルギー切れで生命維持装置が止まるか、魔物に食われるかの二択だった私を、生かしてくれた。その上、ずっと憧れていた『異能者』にまでしてくれたのです。感謝せねばなりません」

「……異能者に、した?デミウルゴスが、ですか?」

『回帰の日』以降に、非異能者が異能に目覚めた例はある。だが、それらに規則性があったと聞いた事はない。

未だ、自由に異能者を生み出す術は見つかっていないのだが……。

「はい。私に異能者の適性はありませんでした。デミちゃん氏曰く、『ガチのゴミからギリ食べられる生ゴミ』にした、と」

「ひょ、表現が、何とも……」

ゴミって、それは流石に酷いだろう。しかも変わった後もゴミ扱いって。

あんまりな言い方だが、小鳥遊さんが気にした様子はない。

「しかし、実際私の霊的な素養は皆無でした。それが、『霊装』を纏えるようになるだなんて、まるで夢のようです」

そう言って、小鳥遊さんが『霊装』を展開する。

体のラインが丸見えな衣装に、ドギマギしながら視線を彼女の顔に固定した。首から下を凝視するのは、色々と刺激が強過ぎる。

顔は顔で、あまりの美貌に緊張するが。

デミウルゴスの発言が真実なら、この体は小鳥遊さんが『生体部品』にならずに15歳まで成長した姿なのだろう。治癒魔法を使ったとの事だし。

何というか、これ程の美少女が脳みそだけにされるとか。それは世界にとって大きな損失ではなかろうか。

「それに、この指輪も頂きましたから」

「指輪?」

「はい」

小鳥遊さんが右腕をケニングに向ける。その手首に、紐を通された銀色の指輪があった。

ただの指輪ではないと、一目でわかる。かなりの魔力を内包している事を、自分の魔眼が告げていた。

「これは、アイテムボックス……と呼ばれる魔道具だそうです」

そう彼女が告げた瞬間、ケニングの姿が『ぐにゃり』と歪む。

突然の事に驚く間もなく、3メートルはあろう巨体が指輪へと吸い込まれてしまった。

「んな……!」

指輪をケニングがあった場所を、何度も交互に見る。先程まで灰色の巨人があった場所には、コンクリートの地面しか存在しなかった。

空間魔法。それを、魔道具へと落とし込んだのか?

『霊装』の展開時に格納できる質量は、普通のリュック程度と言われている。登山用の大型リュックの段階で、内側にしまう事は出来ないと講習会で聞いた。

ケニングの大きさは、乗用車程もある。それが一瞬で指輪に入ってしまった事に、開いた口が塞がらなかった。

今更ながら、小鳥遊さんが手ぶらで加入テストに来た理由に思い至る。

……この人、こんな貴重品を堂々と持ち歩いていたの!?

頬を引きつらせながら小鳥遊さんの顔を見つめるが、彼女は何やらしみじみと頷いている。まさか、未来ではこれ程の魔道具も普通なのか?

「100年後の未来でも、こういった品は非常に貴重です。おかげで、ケニングを安全に運ぶ事が出来ました」

未来でも貴重品なんじゃねぇか。

頭が少し痛くなってくる。この人は、やはり世間の常識とはズレている様だ。境遇を考えれば、仕方のない事だろうけど。

しかし、それにしても。

「……本当に、色々とぶっとんでいますね。デミウルゴスは」

自称デミウルゴス。偽りの神を名乗る少女の正体は未だ不明だが、もしかしたら本当に神様なのかもしれない。

人間に友好的な神様だと良いが……やる事のスケールが大きすぎて、善悪問わず関わったら大変な事になりそうだ。

出来れば、直接顔を合わせたくはないものである。

頬を冷や汗が伝うのを自覚しながら、小さく息をついた。

流石に、驚き疲れてきた。『回帰の日』から1週間ぐらいで、もう一生分驚いたと思っていたが……世界には、まだまだ不思議が一杯らしい。

どうにか気持ちを落ち着かせ、小鳥遊さんに向き直る。

何はともあれ、確認しなければならない事が、もう1つあった。今後の事を考えるのなら、絶対に問わねばならない。

「……小鳥遊さん。昨日のお話で、ここは貴女にとって『パラレルワールド』だと聞きました」

「はい。少なくとも、デミちゃん氏はその様に言っていました」

何でもない事の様に、彼女は頷く。

普通、並行世界なんて場所に突然送られたら、もっとパニックになると思うのだけど……。

そう言えば、小鳥遊さんのご家族は未来にいないのだったか。ならば、100年後の未来に未練などはないのかもしれない。

だが、それはこの時代の為に戦う理由と、イコールになるだろうか?

「それでも……未来を良くする為に、戦ってくれるのですか?」

───この世界は、貴女にとってその価値があるのか。

そう、問いかけた自分の言葉に。

「はい。勿論です。私は兵士であり、戦士です。力を得た以上、力を持たない人の為に戦います」

踵を揃え、素人目にも綺麗な敬礼をしながら。彼女は一切の迷いなく答えた。

この世界がどうこうなど、関係なく。己の在り方を、胸を張って宣言したのだ。

あまりにも真っ直ぐにこちらを見つめる瞳から、目が離せない。綺麗ごとにしか思えない今の発言が彼女の本音なのだと、否が応でも理解させられた。

……漫画の主人公というのは、こういう人なのだろう。

自分には、なれない存在だ。それを、見せつけられた気がする。もしも同じ状況になったとしても、僕だったら保身にしか動けない。小鳥遊さんの様な理由で、命を懸けるなんて不可能だ。

だが不思議と、劣等感の様なものは浮かばない。むしろ、これは……。

「ありがとうございます、小鳥遊さん」

彼女に向き直り、右手を差し出す。

「どうか、力を貸してください」

「はっ!貴方と共に戦える事を、心から光栄に思います……!」

がっしりと、固い握手を交わす。

『霊装』のグローブ越しに感じる彼女の熱が、自分に移っていく様だった。

小鳥遊さんは、こちらへ不要な尊敬の念を抱いている。彼女の世界で、彼女から見たら大昔に。そして自分から見たら、未来に死んだ『矢広耕太』に対して。

だが、自分は……自分こそ。

この少女に、憧れを抱いたのだ。

「……それはそうと、何をすれば良いのでしょうか?」

「……取りあえず、何が起きても良い様に戦力だけは整えましょう。後、未来に伝わっているこの時代の有名人の情報も、出来るだけ教えてください」

「はっ!わかりました!」

より良い未来とやらには、前途多難過ぎるが。

自分と彼女の協力関係は、こうして始まった。