軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15 異種間交流

「えっ、妖精?」

そう思ったのは、神気を発しておらず、木の精や風の精と似た気配を感じたからだ。

人の形に近いそれは、片手ですっぽり覆えるほど小さい。手足が極端に短く、ずんぐりむっくりしている。

独特な刺繍の入った服をまとい、そろいの鉢巻きを目深にしているため、表情はいっさいうかがいしれない。

いったいなんだろうと思っていると、さらにもう一体出てきた。

傘めいたフキの葉を持っている。

「あっ、コロボックル!」

妖精である。なおコロボックルとは、〝フキの下の人〟という意味だ。

身長差がありすぎるため、見上げてくるコロボックルたちが大変そうで、湊は片膝をついた。

「はじめまして。鞍馬さんの代わりのバイトです」

こくんと頷いた二体であったが、ぴゃっと一枚のフキの下に隠れてしまった。葉の縁からちらちらと見上げてくることから、こちらもかなりの照れ屋なのだろう。

近寄ってきたトリカがいった。

「このモノらは、神が神域に匿ってやっている連中だろう」

初耳であった。

「――そういうモノたちもいるんだね」

「ああ、人の世は住みづらいからな」

フキの下でもじもじしているコロボックルたちは愛らしい。人間に見つかったら、生きにくいだろうことは容易に想像がついた。

なんといっていいか、わからない。

しかしながら人間の湊を前にしても、コロボックルたちが恐れる様子はまったくないのは、救いであった。

「あの、神産物をいただけますか」

というと、コロボックルたちは戸へ向かい、ぴゅっと口笛を吹いた。ぞろぞろと逆さまの籠が出てくる。コロボックルが被って運んでいるようだ。

自然素材でつくられている籠はいろいろな大きさがある。いずれも人が使うのに、ちょうどよいように見えた。

「白樺の樹皮や山葡萄の蔓で編んであるらしいぞ」

トリカが教えてくれた。

「しっかりしたつくりだね。いいな、ほしくなる」

全員が湊のもとへもってくるため、次々に受け取り、台の上へ並べていった。コロボックルたちは渡すだけ渡すと、逃げるように住まいへと駆け戻っていく。

しかし最後の一体だけは籠を渡したあともその場にとどまり、見上げてきた。

山羊ヒゲをたくわえた長老めいた外見である。

「えっと、どうしました?」

コロボックル翁がフキで指したのは、湊のボディバッグであった。

トリカが代弁する。

「『それはなんだ』と訊いている。おそらくクスノキの葉のことだろう」

いつも通り、持参してきていた。

「ああ、気になるんだ」

湊はファスナーを開け、クスノキの葉を一枚取り出した。

コロボックル翁に差し出すと、戸の陰に隠れていたコロボックルたちも駆け寄ってきた。

輪になり、葉の縁に触れている。嗅いだり飛び跳ねたりと落ちつきのないそぶりを見せた。

驚嘆しているようだ。

「ああ、そうか。この子たち、北国に住んでいるんだよね? ならクスノキ自体を見たことがないのか」

静観しているトリカも頷く。

「だな。クスノキはあたたかい地域にしか自生しないからな。しかしそれよりもやはり、葉に含まれる破邪の力と神の力に驚いているようだ」

山神、風神、青龍、木の神ククノチ。

四柱の力を内包する葉など、そうはあるまい。

しかと葉縁をつかんだコロボックルたちが見上げてくる。

「『この葉がほしい』といっているぞ」

「ああ、はい。どうぞ」

惜しむことはない。いくら比類なきクスノキの葉とはいえ、有り余っている。

今日はたくさん持ってきていたから、コロボックル全員に渡した。頭上に葉を掲げたコロボックルたちがはしゃぎ回る中心で、コロボックル翁がフキを差し出してきた。

「『代わりに、これを受け取ってくれ』といっている」

「いや、いいですよ」

と両手をかざして断るも、トリカが厳しい声で言った。

「湊、受けとれ。人ならざるものの間では、相応のブツと交換するのが常識だから、拒否するのは礼儀に反するんだ」

「――あ、はい。ではいただきます」

湊はおっかなびっくりに受け取った。

何しろ、普通のフキではないとわかるからだ。

一見、普通ではある。茎の太さは鉛筆ほどで、丸みを帯びたハート型の葉は、手のひらサイズ。

ふんわりとした芳醇な香りがするうえ、全体的にうっすら光を放っていた。

コロボックル翁のひげが動き、トリカが代弁する。

「湊、茎を縦に持ってみろ」

「ああ、うん。こうかな」

親指と人差し指でつまみ持つ。

そりゃっとコロボックル翁が万歳する。

むくむくと茎の太さが増し、丈も伸びて葉も広がった。

その陰に覆われた湊の目は、点になった。

「いいな、そのフキ。傘として使えるぞ」

愉快げにいったトリカは、ついで特徴を次々に述べていく。

「湊が心で念じれば、元のサイズに戻るらしい。それだけではなく、望んだ分だけ葉も増やせるそうだ。それらは包みや皿として使えるし、なんなら食べることもできる」

「すごすぎる……!」

ぴっとコロボックル翁が指を立てた。

「『ただし永久にはもたない。枯れたら終わり』だそうだ」

「それでもありがたいです。これは、保管するにはどうすればいいですか? 水につけておいた方がいいんですかね」

コロボックル全員が頷く。

「『その方が長持ちする』だと」

「わかりました。そうします」

家に戻ったら、さっそく手水鉢の水につけよう。

心に決めた湊は、念じてフキを小さくした。

そうして、いまだ踊るコロボックルたちの後方から強い神気を感じた。

たらり。冷や汗を流しつつ湊は、ゆっくりと視線を上げた。

戸の隙間からヒグマの顔が半分のぞいていた。

「ヒッ!」

反射で飛び退くと、トリカに呆れ顔で見られた。

「湊はホント、クマが苦手だな」

「に、苦手というか、なんというか!」

決して嫌いではない。ただ、命の危険を感じるだけだ。

「勝手に驚いて申し訳ありませんでした!」

とヒグマ――神に詫びると、ひらりと大きな前脚を振ったあと、顔を引っ込めた。

態度から、怒っていないと理解できて、湊は体の力が抜けた。

バイバイと手を振る大勢のコロボックルが拝殿へ戻るのを見届けたあと、ふたたび猫神についていく。

多様な拝殿は、申し分のない在庫を備えていた。

織物、陶器、穀物、酒などなど。

なかでも、みかんや梨などの果実は不老不死の効果があるようで、香りが強烈だ。吸引力もすさまじい。

気を抜いたら、足がそちらへ向いてしまうため、湊はできるだけ、規則正しくゆれる猫神の尻尾を見ながら石畳を歩いた。

「よかったな、湊。いままでさんざん神産物と出会ってきたおかげで、多少惹かれる程度ですんで」

トリカがからかうようにいう。

「本当にね」

『普通の人間だったら、ひと嗅ぎしただけで正気を失って、果実を貪り食っているにゃ』

猫神が淡々とした口調でいった。ちらりと首だけで振り向く。

『だからこそ、君にバイトを頼んだにゃ』

「ああ、たしかに湊なら適任だな」

笑うトリカであったが、その間も抜け目なく拝殿の前に並ぶ神産物をチェックしている。

「――やはり食べ物の加工品はほとんどないな」

「そうみたいだね。お菓子類とかまったくないよね」

トリカは鼻梁に皺を寄せ、悩んでいるようだ。

ここで、方丈山の神産物を取り扱ってもらうか否か、決めかねているのかもしれない。

おそらくいったん帰ってセリたちと相談するのだろう。

案の定、トリカは猫神に何かいうでもなく、次の拝殿の品物に視線をやった。

その前で、猫神も立ち止まった。

そこは、神域の最奥であった。