軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エライザ

ヴェルサとその友人たちが進めていた事業。

俺に譲渡された製紙業と印刷業のほかにもまだあった。

本の原稿を集めたり編集をして販売する出版業と、本専門の流通業だ。

徹底して本に関する事業。

この流れなら書店があるのかなと思ったら、書店はまだ計画段階だそうだ。

本だけの取り扱いとなると、収入に見合うかどうかわからない。

本は求められるけど、安い物じゃないからな。

印刷が本格的になって本の数が増えたら、本の値が下がってお客は増えるかもしれないけど、値下がりすると店の売り上げを確保するのがむずかしくなる。

同じ本を何冊も買う人は少数派だからな。

書店は本の種類が増えてからだそうだ。

なので、現段階では小売店や飲食店に本の販売を委託する形で進めている。

そして本専門の流通業は、その委託先の確保と、商品の納品を行なうらしい。

すでに委託先は、何ヵ所も確保済みと。

ヴェルサの友人たちの行動力はすごいな。

「そうですね」

感心する俺に同意してくれるのは、譲渡された製紙業と印刷業の代表代行。

文官娘衆の初期組の一人。

名をエライザ。

そのエライザは、代表代行として司書っぽい、落ち着いた感じの服を着ている。

目が悪いわけでもないのに眼鏡もかけているし。

「なにごとも、形から入るのが大事なのです。

周囲にも、なにをする者か示しやすいですから」

なるほど。

エライザ=ピケットエンド。

ピケットエンド子爵家の令嬢となる。

そのピケットエンド子爵家の当主は、魔王国の司書長を代々務め、蔵書の管理人と呼ばれているそうだ。

だから、今回の製紙業と印刷業の代表代行に手を挙げてくれた。

「はい。

役立たずの実家が、役に立てると思い立候補しました」

……役立たず?

「はい」

実家が?

「はい」

蔵書の管理人なんだろ?

「魔王国の蔵書って、どのようなものか知っていますか?」

いや、知らないけど……

貴重な本がたくさんあるんじゃないのか?

「基本的に、魔王国の蔵書は魔王さまや貴族の日記です」

日記?

「そうです」

えーっと、それじゃあ歴史的資料として大事な本ということか。

「日記に書かれていることが事実であれば、そうですね」

「頭の痛い話なのですが……

都合の悪いことは書かないので」

あ、なるほど。

負けた戦のこととかは書かないわけね。

「それだけならまだましな部類で」

まし?

「はい。

創作が入ります」

あー、百人の敵を倒したって話を、千人倒したとか?

「その規模ならまだ許せるのですけど」

その規模じゃないのか。

「書かれていることがすべて現実なら、天空には砕けた月の欠片が浮かび、大陸は粉になって海に沈んでいます」

そ、壮大だな。

月を砕いたと書いた者がいるのか。

「かなり前の魔王さまです」

……

「大陸を粉にしたのはべつの魔王さまです」

……

「歴代の将軍や貴族は万の数の古の悪魔族を倒し、魔王国軍は全戦全勝で百万の人間の国を征服していることになっています」

そこまで創作されると、日記というか物語だな。

あ、そっち方向で楽しめばいいんじゃないか?

「村長。

悲しい現実なのですが、文字を書けるからと、必ず文才があるわけではないのです」

え、えっと……

「言い回しとか、書き方とか、上手い人のをそのまま流用した物が多く……」

あ、あー……

「同じ内容で、登場人物の名前が違う本を何冊も見ました」

ま、まあ、そうなるか。

「そんな本を管理する仕事が、役立たずでなくなんだというのでしょうか?」

待て待て。

そういった本ばかりじゃないだろ?

有益な情報が書かれた本があるかもしれないじゃないか。

「有益な情報が書かれた本は、個人で所有されています。

魔王国の蔵書にはないんです。

いまの魔王さまだって、大事な本は学園長のところに置いてます」

…………

え、えーっと、実家の協力は得られるんだな?

「はい。

本に関する知識……保管方法とかですね。

それらが役立つと、喜んでおりました」

それはよかった。

でも、わかっていると思うけど、身内への報酬のやり取りは注意するように。

「もちろんです。

身内への報酬は、私が関与できないように手配しています」

すまないが頼む。

「いえいえ。

疑いすら持たれないようにしないと、命が危ないので」

え?

「村長が代表の事業ですよ。

身内だからと不当に過剰な報酬を渡している疑惑が出たら、フラウさまに殺されます」

フ、フラウはそこまで過激じゃないと思うけど。

「村長が学園時代のフラウさまを知らないから……」

たしかに知らない。

「フラウさまは、ユーリさまの周囲を取りまとめていたのですよ」

それは聞いたことがあるな。

「ユーリさまの周囲にいたのは、プギャル伯爵家のクラカッセさま、グリッチ伯爵家のロザリンドさま、ドロワ伯爵家のラッシャーシさま、マモンロズ子爵家のロアージュさまと、悪名高い令嬢です」

悪名高いって……

「彼女たちを統率していたわけですから」

多少は過激じゃないと、やっていけないと。

「はい」

君も、悪名高い令嬢の一人?

「…………役立たずの実家を見切り、自力でなんとかしないといけなかったので。

ですが、それも過去の話です!」

そ、そうだな過去の話だな。

「過去は忘れ、いまを全力で生きます!

ということで村長。

前々からお願いしている案件に関してですが」

あー……

エライザからお願いされている案件。

それは事業の命名。

実はヴェルサの新事業には、ヴェルサの名が冠されていた。

つまり、ヴェルサ製紙、ヴェルサ印刷、ヴェルサ出版、ヴェルサ流通、あとヴェルサ書店。

その名が駄目ということはないのだが、ヴェルサの名はヴェルサが書く本の趣向から、ヴェルサ趣味の意味に取られる。

つまり、製紙も印刷も出版も流通も書店もヴェルサ趣味の本しか扱わないようにとられる。

それはよくない。

改名が必要。

ヴェルサも納得し、関係者の協議の結果、デルゼンと改名することを指示。

つまり、ヴェルサ出版はデルゼン出版。

ヴェルサ流通はデルゼン流通。

ヴェルサ書店はデルゼン書店となった。

残るは俺に譲渡したヴェルサ製紙と、ヴェルサ印刷。

この二つは、俺が新しい名を考えないといけないらしい。

……

エライザの名じゃ駄目か?

エライザ製紙とか、エライザ印刷とか。

「私ごときがヴェルサさまから名を奪うわけには参りません」

私ごときって、そんなに卑下しなくても。

「言い方を変えます。

ヴェルサさまのご友人たちが認めません」

そうか。

うーん……

「村長の名をいただけるのが、最上の栄誉なのですが」

ヒラク製紙や、マチオ印刷か。

エライザ製紙を提案しておいてなんだが、個人名を前に出すのはちょっと。

駄目ってことはないんだけどな。

まあ、シンプルにヴェルサたちに合わせよう。

デルゼン製紙、デルゼン印刷。

うん、ヴェルサたちの許可がもらえたら、これで。

「誤解を産みませんか?

外部からグループだと思われますよ」

実質、一緒だろ?

「……たしかに」

ヴェルサたちの許可がもらえなかったら、改めて考える。

「承知しました」

後日。

無事に許可がもらえたので、事業の名がデルゼン製紙、デルゼン印刷となった。

ちなみに、デルゼンの名は昔、ヴェルサと始祖さんが出会った地の名だそうだ。

始祖さんは完全に忘れていたけど。