作品タイトル不明
文官娘衆 匿名希望
私は文官娘衆の一人、名前は匿名希望です。
なぜ匿名希望なんだって?
個人を前に出す必要がないからです。
私は文官娘衆の一人。
それで良いのです。
今回は私たち文官娘衆の仕事を紹介したいと思います。
まず、私たちの一番の仕事は、大樹の村の作物の収穫量を記録し、必要分を確保し、余剰分を村の外に販売することです。
簡単そうに思えますが、それなりに大変なのです。
なにしろ、ここ大樹の村では年に三回の収穫があるからです。
年に三回です。
春の収穫、夏の収穫、秋の収穫です。
変な感じですが、実際にあるのですから仕方がありません。
ご存知と思いますが、この村はインフェルノウルフがお腹を撫でろと要求してくる村です。
細かい事を気にしてはいけません。
年三回の収穫というワケのわからなさは、やったー年間収穫量が三倍だーと喜びながら目を逸らさないと耐えられませんよ。
ほんとうに。
三倍になっている収穫量の管理の仕事からは、目が逸らせないですけど。
気を取り直して、文官娘衆の仕事は他にもあります。
褒賞メダルの管理。
大樹の村を中心に、一村、二村、三村、四村で流通している通貨です。
村長は通貨じゃないと言っていますが、私たちは通貨と思っています。
まあ、これは外部流出さえ注意していればそれほど問題はありません。
枚数を数える仕事も、村長がメダルが十枚ずつ入るちょっと変わったケースを作ってくれたので楽になりました。
ありがとうございます、村長。
お祭り実行委員会。
超ハードです。
大樹の村だけでなく、一村、二村、三村、四村から人が集まりますし、来賓もあります。
魔王様をお出迎えって、どんな罰ゲームですかと思っていましたが、魔王様はセーフティでした。
竜王や暗黒竜、コーリン教の宗主様をお出迎えって、明らかに私たちの格が足りないのですけど?
村長は気にするなと言います。
はい、気にしません。
村長はお祭りの内容に毎年悩んでいますが、私から言わせてもらえば騒げれば良いのです。
そりゃ、安全な方がいいですよ。
全員参加が理想的です。
ですが、この村は魔王国よりも混沌とした種族の 坩堝(るつぼ) です。
無理はいけません。
可能な範囲で。
食事には力を入れましょう。
村長の考える料理はどれも美味しいですから。
似たような仕事に、武闘会の運営。
全員、血気盛んで怖いです。
なにしろ、世界一決定戦です。
ああ、これは私たちが勝手に言っていること。
さすがに世界一と名付けてしまうと、参加者が本気になってしまいますから。
村でのレクリエーションの一環です。
安全に、が第一です。
ちなみに、何回か経験すると……誰が相手でも叱れるようになります。
自分でもビックリしました。
まあ、クジで抽籤だといっているのに無理矢理に自分を選ばせようとするからなのですが。
竜王様、暗黒竜様は個人で戦えば良いんじゃないですかね?
ギャラリーがいないと寂しい?
いや、そう言われましても……
あと、魔王様。
クジです。
厳正なる抽籤です。
不正はありません。
クジを引く前にチェックもしましたよね?
当選を喜びましょう。
頑張ってください。
相手は竜王様の奥さんのようですね。
バシーッとやっちゃってください。
他の仕事で大きいのが、ビッグルーフ・シャシャート関連。
これには困りました。
当初は屋台規模と聞いていたお店が、いつの間にか大型の複合商店になっているなど誰が想像できるのでしょうか?
さらに、塾や宿の経営など……
シャシャートで優秀な人材を確保したらしいので、会計をお任せできるのは助かっています。
その人材はユーモアのある方らしく、送られてくる文に暗号を隠していたりします。
“た・す・け・て”
ははは。
ナイスジョーク。
本当に助けを求めているなら、こんな暗号を仕込む余裕なんてないですからね。
私は暗号などにせず、素直に書きましたよ。
“当方に余剰戦力無し”
頑張れ、見た事のない戦友よ。
あれ、なぜでしょう。
目から汗が流れます。
村長が作ってくれた甘いお菓子をお送りしましょう。
日持ちはするらしいので。
最後が五村の経営関連ですね。
新しい村を作るとのことですが、その規模が村じゃありません。
街ですね。
幸いにも、五村には優秀な文官が揃っています。
見ちゃ駄目な名前がいっぱいあった気もしますが、気にしません。
書類を整理してくれるなら、相手が誰だっていいのです。
このように文官娘衆が抱えている仕事は多岐にわたります。
これに加えて、個人で担当する村の収支管理や、ハウリン村との交易関連などがあったりします。
大変です。
ラッシャーシなどは、さらにケンタウロス族の世話役として働いているのですから、尊敬します。
表立っては言いませんけど。
さて。
これらの仕事を、私たち文官娘衆十人とフラウ様で行っています。
ええ、控えめに言っても人が足りません。
シャシャートの戦友ほどではありませんが、援軍が必要です。
何度もフラウ様に相談しているのですが、反応はよろしくありません。
相談するたびに最新式の計算道具や、高品質と名高い筆記用具、新しい机や書類棚が増えるのは嬉しいですが、欲しいのは人手です。
人手が足りないのです。
この現状、村長にも伝わっていますよね?
新しい机や書類棚を作ってくれたのは村長ですから。
その上で聞きます。
なんですか、この極秘作戦。
某国に侵入し、こっそりと数百人ぐらいさらってくる。
……
私が聞いていい話なのでしょうか?
いえ、そんなことよりも作戦参加者に文官娘衆の名前が入っているのですが?
転移門を一つ、使い捨てる?
あれにどれだけの価値が……あ、駄目だ。
何を言っても駄目なパターン。
魔王国に協力は……絶対に駄目?
できるだけ、ここにいるメンバーで終わらせると。
……
竜王様や暗黒竜様がその国でドーンってやれば良いんじゃないですか?
駄目?
あ、色々と制約があると。
ええい、わかりました。
さらう人数は何人なんですか?
できるだけ正確に。
食料、寝床の確保とかあるんですから。
さらった後は、大樹の村ですか?
それとも、他に候補が?
ああ、五村ですね。
あそこなら今更、数百人が増えても大丈夫ですね。
とりあえず、作戦が粗い!
一から見直します!
文官娘衆。
もとは魔王様の娘である王姫様の側近として期待された貴族の娘です。
その統率者であったフラウ様が不在となった時のゴタゴタで、私は王姫様の傍を離れることになりました。
ちょっとラッキーと思ったのは秘密です。
その後、私の代わりに王姫様の側近になった者たちがやらかしました。
結果、フラウ様の逆襲を呼び込みました。
まさか、あそこまでするとは……えぐい。
それで終わったと思ったのですが、私は何が悪かったのかフラウ様に選ばれてしまいました。
なぜに?
私の同僚となったのは、やらかした新しい側近と、私のように遠ざけられた側近。
扱いは同じでした。
当然、不満はありましたが……言いません。
すぐに理解したからです。
やらかした人たちも、遠ざけられた私たちも、そんな事は関係ない場所で働くからだと。
喧嘩もしましたが、今では頼もしい仲間です。
大量の書類を前に、戦友です。
一人も逃しま……失礼。
一人も見捨てません。
めずらしく大規模になった作戦を支えたのは、私達、文官娘衆。
その事を誇りに思いながら、今日も大量の書類を前に戦います。
ふふ。
またシャシャートの戦友から暗号が。
返事を書かねば。
“現有戦力をもって奮戦せよ”
また、甘い物を添えて。