軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ピリカ

私の名はピリカ=ウィンアップ。

剣聖を名乗っている。

だが、誇れない。

私が未熟なことは、私が一番知っているからだ。

兄弟子たちが健在であれば、私が剣聖を名乗ることは出来なかっただろう。

先代剣聖様や兄弟子たちは、まさに一騎当千。

百人ぐらいの盗賊団なら、一人で切り込む猛者ばかりだった。

お陰で道場周辺どころか、フルハルト王国から盗賊と不正を行う官僚は姿を消したとさえ言われるぐらい。

あの頃のフルハルト王国は良かった。

しかし、どういった運命か私が名乗ることになったのだから、先代剣聖様や兄弟子たちに恥じない働きをせねばと思っていた。

自身の力不足は自覚している。

対人戦には自信があるが、それ以外はからっきしだ。

わかっている。

道場でずっと同じ相手とばかり練習していた弊害だ。

道場では負けなしでも、外に出ればそうでもないだろう。

それは、道中に遭遇した魔物に手間取ったことからもわかる。

このままではいけない。

先代剣聖様も言っていた。

「何をするにも力だ」

うん、力をつけねば。

私はシャシャートの街に向かった。

一応、その前にフルハルト王国の周辺各国を回ったのだけど、そこでは剣聖の称号が重すぎた。

王族に挨拶しなきゃ駄目って……

私の対人能力の限界を超えている。

衛兵の隊長さんクラスで精一杯です。

あと、パーティーとか無理だから。

ダンスとかできないから。

服も持ってないし。

シャシャートの街を目指したのは、そこが剣聖の称号が意味を持たない地だからだ。

簡単に言えば、フルハルト王国と戦争中の国の街。

ふふふ。

私はここで剣聖の称号に縛られず、一から鍛えるのだ。

当面の生活費は……道中に遭遇した魔物を倒して得た素材を売ってなんとかなっているが、心もとない。

近々に武闘会があるとのことだし、そこに出て賞金を稼がせてもらおう。

この武闘会のルールなら、自信はある。

優勝賞金を考えると……

うん、今日もカレーを食べても大丈夫。

完敗だった。

決勝戦の相手は、剣と魔法の融合術を使っていた。

もちろん、それだけで負けるような鍛え方はしていない。

ただ、相手には腕が六本あった。

多腕(たわん) 族というらしいが、私には初めての対戦。

六本の腕から繰り出される独特のタイミングの攻めに翻弄され、負けてしまった。

一瞬、この人に鍛えてもらえればと思ったのだが、私の腕は二本。

教えを請うても無駄だろう。

残念。

師匠と呼べる方とは、すぐに出会えた。

私に勝った優勝者は、その場で審査員をしていた人に勝負を挑んだ。

獣人族の男性。

前回大会の優勝者。

武神ガルフ。

観客の声でその名を知った。

名はそこで知ったのだが、彼のことは少し前に知っている。

冒険者ギルド近くで、一人で活動していた私を不憫に思ったのか、色々と相談に乗ってくれた人だ。

別れてから考えると、実家関係のことを聞いてきたので、ひょっとして詐欺師かなにかかとその日の夜、ベッドで猛烈に後悔したのだが……

ちゃんとした人のようだ。

あれは純粋に私を心配してのことだったのかと、改めて感謝した。

そして、強かった。

優勝者を苦もなく倒し、爽やかにアドバイス。

右の一番下の腕だけ、鍛え方が甘い?

そんなこと、私は気付きもしなかった。

ともかくだ。

彼に鍛えてもらえれば、私は強くなれるはず。

私は恥も外聞もなく、弟子入りを志願した。

ですが認めてもらえない。

「俺より強いのはゴロゴロいる。

弟子なんてとってる場合じゃない」

信じられない。

貴方より、いえ師匠より強い方がいるなんて。

私を弟子にしない為の嘘だと思った。

私には諦められない事情がある。

必死に付いていった。

師匠の言葉は正しかった。

師匠より強い人は、ほんとうにゴロゴロいた。

いや、いました。

驚きです。

師匠もそうですが、ダガと名乗ったリザードマンは、兄弟子たちと同じような雰囲気をまとっています。

師匠よりも強いそうです。

ですが、師匠と呼べるのは師匠だけです。

私には尻尾はありませんし、魔法を巧みに使う術もありません。

師匠、これからもよろしくお願いします。

村長?

すみません。

何をどう言われても、普通の人にしか見えないのです。

ところでですね、師匠。

私の強さを話す時、どうして兎を倒せないって説明するんですか?

兎ぐらい倒せますよ。

村長と呼ばれる人は、本当に不思議な人です。

どこをどう見ても普通の人。

良く言えば、高貴な感じ?

王族の血縁かなにかかな?

悪く言えば、地に足がついていない感じ。

俗世離れしているような……

道場という狭い世界でずっと暮らしていた私が言う事ではありませんね。

ともかく、師匠やダガさんから、絶対に逆らわないようにと強く注意されています。

本当に師匠やダガさんより強いのでしょうか?

デーモンスパイダーをどう思いますか?

死と同じ存在だと思います。

それは幼生体でも同じ。

遭遇は死ぬことと教えられます。

なので決して近付いてはいけない。

そんな魔物です。

そんな魔物を家族という人がいます。

どう思いますか?

遭遇した私より、デーモンスパイダーの幼生体のほうを心配しています。

信じられません。

信じられませんが……

目の前で気絶した私は、死んでいません。

つまり、本当に家族なのでしょう。

デーモンスパイダーは、幼生体も含めて謎の多い魔物です。

人と家族になっても不思議ではないのかもしれません。

ともかく、剣を向けたことを謝らねば。

しかし、村長はデーモンスパイダーの幼生体が家族と認める人?

あ、ここにいないだけで、デーモンスパイダーもいる?

……

村長は神様か何かかな?

神様……ちがった、村長が私に聞いてきます。

私が強くなりたい理由。

これまで何度もお話しました。

私が強くなりたいのは、自由になる為です。

私は自由に動けますが、自由ではありません。

フルハルト王国が私を縛る為に、道場に残っている弟子たちを人質にしているのです。

私が定期的に戻らねば、弟子たちがどうなるかわかりません。

この状況から脱する為には、何においても力が必要。

誰もを納得させる力がなければ、フルハルト王国から逃れることはできません。

「王国に復讐は考えるか?」

フルハルト王国に恨みはありますが、復讐するつもりはありません。

「自由になれるなら、剣聖の称号は捨てられるか?」

……

正直に言えば、剣聖の称号は捨てたくありません。

先代剣聖様や兄弟子たちが守ってきた称号です。

「そうか。

最後にだ……

お前の為に何かできないかと、ガルフとダガが頑張っている」

それは重々、承知しています。

日々の特訓、感謝してもしきれません。

「だから、俺もお前の為に何かできないかと考えた」

それも師匠、ダガさんから聞いています。

ありがとうございます。

「だが、どうしても他国の話だ。

やれることに限界がある」

いえ、本来は私がなんとかせねばならないことですから。

「俺が自主的にやれることには限界がある」

……?

「自主的にやれること以上のことをするには、根拠がいる」

根拠?

「わかりやすく言えばだ。

……報酬だ」

ほ、報酬。

まさか、剣聖の称号を寄越せと!

「馬鹿、勘違いするな。

そんなものいらん」

で、では、多少、歳を取っていますがこの身体で……

「間に合ってる。

あと、次に同じことを言ったら叩き出す」

本気で怒られた。

ですが、お金は小額しかもっていませんし、私に出せるのはそれぐらいで……

「あー……報酬じゃ、誤解させる言い方だったか。

悪かった」

え?

「改めよう。

俺にガルフにダガは、自主的に動いている。

誰の頼みでもなくだ。

お前の心を勝手に解釈して、動いた。

だが、それには限界がある」

あ……

「お前がどうしたいのか。

どうして欲しいのか、その口で言わない事には進めない」

そうでした。

私は色々と話をしましたが、まだ言っていませんでした。

「手間暇をかけて、余計なお世話をする趣味なんて誰も持ち合わせていない」

まったく、その通りです。

私は姿勢を改め、村長に頭を下げました。

「どうか、私を……いえ、私たちを助けてください」

結論だけを言えば……

二ヶ月後。

道場で人質になっていた弟子たちや、その配偶者、子供、全てが五村と呼ばれる建設中の街に移動してきました。

作戦実行日のフルハルト王国は、ドラゴンが飛来したという事で大騒ぎだったそうです。

村長はドラゴンにお願いしたと言っていましたが、ドラゴンにどうやってお願いしたのでしょうか?

奥さんの妹さんの旦那様だからって……意味がわかりません。

あれって、有名な悪竜ですよね?

私たちの道場のあった場所は、先代剣聖様や兄弟子たちの墓以外は、全て畑になっています。

村長が一晩でやりました。

凄いです。

「あそこに、何か植えるのですか?」

「墓の近くだ。

綺麗な花がいいだろう」

……

ありがとうございます。

私たちが五村に移動した方法は秘密だそうです。

もちろん、誰かに言う気はありません。

なにしろ、貴重なアイテムらしく村長の奥さん? みたいな人が泣きながら抵抗していましたから。

本当にすみません。

私たちは五村で生活する事にしました。

五村は建設中なので、三百人ぐらい増えても同じだそうです。

しばらくはテント暮らしでしたが、すぐに家に入れました。

仕事も手配してもらいました。

えり好みをしなければ、いくらでも仕事はあるそうです。

生活費を稼がねば。

私と弟子たちは麓で魔物や魔獣退治を中心にやっています。

後々は五村の衛兵のようになって欲しいとのことですが、まだまだ力不足を痛感する日々です。

師匠とは……一週間に一回ぐらい会っています。

ダガさんとも。

他の弟子たちと一緒に面倒を見てもらっています。

これからも、よろしくお願いします。

最後に。

剣聖の称号は、しばらく封印です。

フルハルト王国と揉めない為というのもありますが、今の私にはやはり重すぎです。

今の私には、です。

きっとその称号を持つに相応しい剣士になってみせます。

結婚?

え?

いえ、その、私もなんだかんだと歳を取っていますから……二十五ですけど。

師匠?

し、師匠とは、そ、そんな気はありませんが……いえ、素敵な方だとは思いますけど。

可能性があるなら……