作品タイトル不明
ゴロウン商会の次期会頭 マーロン
私の名前はマーロン。
会頭である父の長男であり、ゴロウン商会の次期会頭。
子供も生まれ、順風満帆な人生を送っていると自負している。
ただ、不満を言うなら少し忙しいこと。
ここ数年でゴロウン商会の規模は倍以上になった。
父さん、頑張り過ぎじゃない?
前に引退しようかなーとか言ってたのに。
この前、王都に行ったら魔王様に謁見できちゃったよ。
凄いね。
さすがの迫力。
父さんも魔王様とは何度も?
さすがだね。
あ、引退は駄目だからね。
まだまだ頑張ってよ。
勝手に引退したら息子や娘に会わせないからね。
さて、ここ数年のゴロウン商会の快進撃の裏側には大樹の村が関わっている。
最初は何かの符丁かと思っていた。
魔王国との関係で表立って取引できない相手のことかと。
なにせこれまで見たことのない作物が運ばれてきたのだ。
ところが、父さんは頑なに村があると言い張る。
場所は死の森のど真ん中。
吸血姫、殲滅天使、皆殺し天使、ハイエルフに鬼人族、リザードマン、エルダードワーフにドラゴン……
でもってデーモンスパイダーとインフェルノウルフがいっぱいとの村が。
……
お 伽噺(とぎばなし) かな?
ライバルを脅かすためなのかもしれませんが、もう少しリアリティのある話のほうが良いと思いますよ。
詳しく教えてもらえないのは残念ですが、父さんなりの考えがあるのでしょう。
構いません。
そちらは父さんに任せて、私は商会のほうを頑張りますから。
キリッとそう宣言したら、縛られて門番竜の巣に連れていかれた。
ごめんなさい。
父さんを疑って。
門番竜にお茶を出してもらえるとは思わなかった。
貴重な経験だ。
美味しいお茶ですね。
あ、これも大樹の村産ですか。
ははは。
以後、大樹の村はあるという前提で私は行動をしています。
だから、大樹の村は当然として、門番竜の巣に連れていくのは勘弁してください。
この年で下着を交換するのは精神的にキツいです。
あと、今回の件は妻や息子、娘たちには内密にお願いします。
真面目に仕事をしていたある日、父さんに呼ばれました。
大至急だそうです。
珍しい。
いつもは冷静になれと言う父さんが慌てているとは……いったい何事なのか。
「大樹の村の村長が、この街に来ている」
……
ああ、父さんの案件ですね。
頑張ってください。
久しぶりに父さんにアームロックをキメられた。
じょ、冗談ですよ。
手伝いますから、離して、離してっ!
私だけ巻き込まれるのは悔しいので、従兄弟のティト、ランディを呼んだ。
シャシャートの街にいた不運を呪え。
あと、ミルフォード。
頼りにしているぞ。
本当に頼りにしているからな。
元ランク六の冒険者の実力が必要になることはないと思うが、頼んだぞ!
よし、良い返事だ。
状況はわかっているな。
そう、村長なる人物を探すことだ。
では、捜索を開始する。
ん?
村長の顔を知らない?
大丈夫だ。
村長の傍には、ガルフなる獣人族の戦士がいる。
そうだ。
武闘会の優勝者だ。
武神と呼ばれているな。
大丈夫。
逃げなくても大丈夫。
敵じゃないから。
ただの目印だから。
ガルフは現在、冒険者の格好をしている。
今朝方、東門周辺で騒動があったろ。
それで姿を隠す格好をしている。
それじゃ目印にならない?
慌てるな。
ガルフが装着しているマントは、真っ赤だ。
わかるな。
よろしい。
村長の目的地は北のビッグルーフ・シャシャート。
ビッグルーフ・シャシャートって?
最近できたでっかい建物のことだ。
父さんが商業ギルドに話をした……そう、それ、カレーを売ってる店。
昨日も行っただろ。
そこ。
なぜビッグルーフ・シャシャートの名を知らない。
一応、その名前で商業ギルドに登録されているはずなんだが?
カレー屋で浸透しているのか。
そうか。
……看板、作らないと。
話を戻して。
ともかくだ、村長はそのカレー屋を目指しているハズだが、まだ到着していない。
そこから考えられるのは、場所を知らない可能性が高い。
つまり、迷子だ。
父さんに言わせると、急いで捜さないと色々危険っぽい。
ああ、違う違う。
村長に危険はないんだ。
えーっと……例えると、魔王様の娘さん…… 王姫(おうき) 様が迷子になっていると思ってほしい。
王姫様に万が一があると、魔王様が怒るだろ。
そういった危険性。
うん、一大事なんだ。
わかってくれて嬉しい。
頑張って、捜索しよう。
無事に合流できた。
よかった。
村長さんは、父さんとかなり親しいみたいだな。
優しそうな人だ。
しかし、どこをどう見ても普通の人だが?
この人があの大樹の村の村長?
いや、疑うまい。
疑っちゃいけない。
村長の横にいるガルフが、完全に従っているのだ。
それだけで普通の人じゃない。
私の考えは正しかった。
到着した時に遭遇したビッグルーフ・シャシャートでの騒動を、村長は即座に収めた。
なんだ、あの手際は。
しかも、次々と指示を飛ばし、あっと言う間にカレー屋を再開させた。
村暮らしの村長?
どこかのベテラン商会員じゃないのか?
ティトやランディ、ミルフォードがすでに彼の部下だ。
計算速度も尋常じゃない。
人の使い方も慣れている。
というか……あの者たちはどこから?
あれって鬼人族だよな。
つまり村から連れてきた?
じゃあ、横にいるのはエルフじゃなくて……ハイエルフ?
マンイーターの?
それに大工仕事をさせてる?
肌の色が違うエルフには何か作らせているし、あのガルフを顎で使うなんて……
父さんを傍に控えさせているのは、なぜだ?
ああ、足りないこの街の知識を補っているのか?
なるほど。
自分の不足を知って、それを補うこともできるとは……
凄い人だ。
そして、トラブルを収めるためとはいえ商品の無料提供はやり過ぎだと思ったけど違った。
あれは撒き餌だ。
客を呼び、その客を見せ付けたうえで周辺の店を説得する。
そして、その交渉にゴロウン商会の私が前に出る。
村長がティトたちに用意させた大きな布は、場所を決める時に使われた。
何も無い場所に大きな布を置くだけで、スペースをイメージできる。
あっと言う間に店の中に街ができた。
なんだこの発想力。
村長、凄くない?
今回の一件は、ゴロウン商会にも利益があった。
金銭じゃない。
知識だ。
商売のやり方を教えてもらった。
店の中に店を囲うことで、それを目的とするお客を集める。
同じ業種が揃うと、売り上げが落ちると思っていたけど違った。
考えてみれば祭りと同じだ。
似たような屋台が並ぶことで、それ目当てのお客が集まる。
それを日常に持ち込んだ。
別の場所ですぐ同じことができるわけじゃないだろう。
だけど、ゴロウン商会はこのやり方を知った。
これは大きな財産だ。
そして、小さいアイディアの数々。
文字が読めないお客に対して、絵によるメニュー。
計算ができない従業員のための計算早見表。
無料の水に、注文しなくても座って良いテーブルと椅子は、それだけで人を集める。
遊戯エリアは有料と無料が混じっているが、見るだけでも楽しい。
手数料を取らない両替所は意味がわからなかったが、設置した後に各店舗の売り上げが伸びたことから悪いことじゃないのだろう。
さすがに両替を主業務にしている店があるので、両替の枚数は制限はしているけど。
でもって、一番は舞台だ。
確かに人がいるのだ。
そこで演劇や演奏は悪くない。
どこか有名な楽団か劇団を呼ぶのだと思っていたら、放置だった。
貸し出すだけで、どのように使っても良い舞台。
最初の公演は、近所の奥様方で結成された劇だった。
お世辞にも上手い劇ではなかったが、それなりに盛り上がった。
発表の場がある。
それだけで良いのか。
なるほど。
「父さん。
私はまだまだ未熟だったようです」
「私もそう思っているのだ。
当然だな」
「精進します。
……ところで一つ、聞いていいですか?」
「なんだ?」
「一番端のレーンにいるあの方は……見間違いでなければなのですが」
魔王様?
「その手前は代官様だな。
勝負は非情だ。
接待は無用。
全力でやれ」
「……わ、わかりました」
ビッグルーフ・シャシャート、ボウリング大会。
私は優勝を目指して頑張った。
三位だった。
一位はこの店の常連っぽい男性。
強い。
通わねば。
はっ。
大会を開くことで、それを目標に通う人が増えるということか。
勉強になる。