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作品タイトル不明

第四章 エピローグ 下

第四章 エピローグ 下

ホーロス戦争。貴族達の間でそう呼ばれるようになった戦いは、およそ1カ月で終結した。

王都の陥落。及び、ティキ国王による全面降伏。国王夫妻は戦死し、ホーロス王家と呼べる存在はいなくなった。

ホーロス王国の北東に領地を構える、辺境伯が独立を宣言。しかし、すぐに更に東側にある国によって征服されてしまう。独立の知らせが帝都に届いてから、3日後に陥落の報告が届いた。

今後は、旧ホーロス王国の土地を緩衝地帯として話し合いが行われるだろうが……それは、東側の帝国貴族と外務大臣の仕事である。自分が干渉できることは少なく、何よりもその時間がない。

しかし、光明はあるだろう。

カーラさん……『黒蛆』の頭領が遺した、プレゼントであった。

彼が親衛隊に渡した小さな筒。その中には、折りたたまれた紙切れが入っていた。そこに書かれていた、王都から数キロ離れた位置にある地点。

一見すると何もない森沿いの平原であったが、よく調べると一軒の小屋が発見される。

その中には、今帝国が喉から手が出る程欲している物が山のように積み上げられていた。

ホーロス王国が、薬物の蔓延により機能停止する数年前からの徴税記録。どこの地域に薬の畑があり、誰が管理しているのか。帝国への密輸ルートはどこを使っているのか。関わっている商人の名前や大まかな所在、馬借の情報。

それ以外にも、無事な水源と薬物が混入している恐れのある水源等々。様々な情報が地下の隠し部屋にまで保管されていたのである。

もしかしたら、『黒蛆』は本来ホーロス王国内部を管理する為の組織だったのかもしれない。王家か、それに近い家に仕え、国の統治に必要な情報を集めていた。そうとしか思えない手際である。

暗殺など、彼らにとって仕事の一環であり、それ1本で食ってはいなかったのかもしれない。もっとも、これらは全て自分の想像だが。

なんにせよ、これにクリス様が狂喜乱舞したのは言うまでもない。

それこそ、諸手を上げて飛び跳ね、持ってきたシルベスタ卿達3名の親衛隊を抱きしめて回ったぐらいである。

彼女はこの情報も含めて、東側の帝国貴族への褒美とするらしい。また、元老院でも議題に上げ、他国との交渉に使うとか。

現在ホーロス王国は大半の街が薬漬けになっているものの、一部の村々は無事である。『黒蛆』の資料を基に、鉱山等の重要な土地を含めて優先的に掌握していく予定だとか。

しばらくは彼の国をまともに統治することは不可能だろうが、東側の帝国貴族達にとって数年後、数十年後の莫大な資産となる可能性もある。彼らも満足することだろう。

それもあってか、特に彼らは帰還中はしゃぎにはしゃいでいた。国境辺りで置いていった従軍商人達と合流すると、盛大に飲めや歌えやの大騒ぎ。

逆に、持ってきた金と体力を使い果たしたのか、帝都につく頃には貴族も兵士も静かになっていたものである。

おかげで、帝都に凱旋した時の祝勝パレードは恙なく終わった。

帝都の住民達も『やっぱりいつも通りの戦争だったのだ』『帝国軍こそ最強の軍隊だ』と安心し、街は大賑わいである。

そんなお祭り騒ぎの帝都なのだが、それぞれの理由でため息を堪えきれない者達が何人かいる。

今後の対策やら式典やらで大忙しのクリス様。

オールダー王国とスネイル公国の連合への対策を考えている軍務大臣。

ここまでの戦費に顔を青くしたり赤くしたりしている財務大臣。

モルステッド王国との戦争はどうするのだ、援軍はまだかと言いにきた北側貴族達の使者達.

同じく、オールダーとスネイルの連合軍と戦う準備はどうなっていると聞きにきた西側貴族達の使者達。

そして。

「はぁぁぁ……」

「お疲れですね。若様」

執務室代わりにしている、宿の一室。そこで、机にべったりと上体を預けながらため息をつく。

その様子に、グリンダとケネスが左右から心配とも苦笑ともとれる顔をしていた。

「いや……何というか、色々と思うところがあり過ぎたと言いますか……」

普段なら家臣達を相手にこんな弱音を言えないが、この2人なら良いだろうと本音を吐き出す。

「戦って、倒して、討ち取って。それで気分が晴れるような相手は稀だと。僕だってわかっているつもりです。しかし……」

「ぬぅ。私にはあまりわからん悩みですな……敵の首を刈り取った時程、スカッとする瞬間はないのですが」

「いや、敵というか……」

言えない。サーシャ王妃の過去というか、コーネリアス前皇帝が何をやらかしたのかとか。言えるわけがない。

この世界において、勇者教の教えにより近親相姦は呪われた行為である。

それを先帝がやらかした。しかも、まだ子供だった娘を相手に。あげく、同盟国にその娘を送った。

箇条書きにしただけで、スキャンダルの山である。これを知ったら、『あれ?もしかしてこの戦争、皇室のやらかし?』と考える貴族が出てくるはずだ。

先帝の名誉がどうなろうと知ったことではないが、下手をすると東側の貴族達が帝国に反旗を翻しかねない。信頼する家臣だろうと、言える内容ではなかった。

「ふっふっふ……どのような悩みかは存じませんが、ストレスに対する万能薬は存在しますぞ」

「ケネス……?」

様々な戦争を経験したであろう老騎士の言葉に、希望を見いだして顔を上げる。

そんな自分に、彼は『バチコーン!』とウインクをした。

「女体に溺れなされ。それで解決します」

「エロ爺がよぉ」

僕の期待を返せ。

「え~。でも若様ぁ、帰還中もグリンダと一緒の天幕で寝ていらっしゃいましたよねぇ?我々、声が聞こえない位置で警備していましたが、何もしなかったんですかぁ?」

「こ、この……!」

無駄に腹立つ顔で問いかけてくる老騎士に、何か言い返そうとするも言葉が出てこない。

「奥様、その辺はどうでしたかな?」

「奥様ではありませんが、いっぱいエッチしましたね」

「ほら~!」

やり遂げた感のある笑顔のグリンダに、ケネスが鬼の首を取ったような顔で両の人差し指をこちらに向けてくる。

「やっぱりそうじゃないですか!若様も立派な戦士ですな!敵の首をねじ切り、褒賞金で美味い酒を飲み、そして女を抱く!それでこそ帝国貴族!ストラトス家の男児ですぞ!」

「そこまで野蛮だっけ、うちの国……」

「わりとそうです!……その、女を抱くの部分は、ちょっと変えましたが」

ケネスが、ぼそぼそと喋りながら視線を逸らす。

「ああ……『真実の愛』」

「いやぁあああ!その言葉は今聞きたくありません!私は忘れませんぞ!ボロボロの鎧を纏った若様が本隊と合流した時、涙を流して抱き着いたクリス陛下のことを思い出してしまう!ノーモア、『真実の愛』!」

そんなこともあったな……サーシャ王妃の遺言を聞いたクリス様が、色んな感情でぐちゃぐちゃになった顔で、抱き着いてきたのである。

思えば……あの時にやっと、自分も剣の柄から指が離れた。

誰かの熱を感じるというのは、大事なのかもしれない。

「それはそうと、お義父様。私を若様の奥方扱いはしないでください」

そんな感傷に浸っていると、真剣な顔でグリンダがケネスを睨む。

「今やストラトス家は伯爵家。その上、ホーロス戦争でも特に大きな手柄を打ち立てたのです。若様の正妻には、きちんとした家の御令嬢でなければ」

「そうは言いますが……そうは言うがな、グリンダよ」

小さく咳払いをし、ケネスが言い直す。

「貴様と若様の子は、恐らく凄まじい魔力をもって生まれてくるだろう。名門貴族の令嬢がストラトス家に嫁いできたとしても、騎士達が真っ先に求めるのは貴様らの子との繋がりだ。そのことを、忘れてはならんぞ」

「……はい。肝に銘じておきます」

まだ先の話とは言え、自分の子供が政治に大きく関わるのが不安なのだろう。

グリンダはやや目を伏せ、声を沈ませた。

「……グリンダ。ごめん。色々と、苦労をかける」

「いいえ。若様と一緒になったのは、私自身の意思です。後悔などありません」

「うんうん。美しい夫婦愛……打倒、『真実の愛』!」

「ちょっと黙っていてもらえます?というか、自分の借りている部屋に戻ってください」

「おや、もしやこんな昼間からお世継ぎの生産を!?」

マジで1回ぶん殴ってやろうか、このセクハラ老騎士。

ここまで散々心配をかけた上に、オールダー戦争からこっち、ずっと従軍させているので強くは言えないけども。

……実際、『したい』からという理由も、なくはないというのもあるけども!

グリンダの慰めッ●スはね……マジでやばい。溶ける。脳が。

「ふっふっふ。これ以上私がここにいるのは野暮でしたな!こちらで、若様に丁度良い令嬢を見つける為、調査を進めておきます。どうぞお二人は───」

スキップしながら退出しようとしたケネスだが、廊下から聞こえてきた慌ただしい足音に姿勢を正した。

彼の様子に、自分達も意識を切り替える。

やがて、ノックもなしに扉が開け放たれた。

「た、大変です若様!ケネスさん!」

入ってきたのは、滝のような汗を流すレオであった。

「どうした。何があった」

「こ、これを……!」

眉を寄せながら問いかけるケネスに、レオが一通の手紙を差し出す。

そこには、ストラトス家の蝋印が施されていた。

「父上からの手紙ですか?」

「そのようですが……レオ。毒針等は確認したのだな?」

「勿論です!し、しかし、問題なのは内容で……」

真っ青な顔をするレオに、妙な胸騒ぎがする。

無意識に震えそうになる指で、ケネスから手紙を受け取った。

既に封蝋が解かれた封筒から、手紙を取り出し中身を見る。

「これは……」

そこに書かれていたのは。

『愛する我が子、クロノへ』

父上からの、手紙であった。

『この手紙が届いている頃、俺は少々厄介な状況にあるだろう。だが、安心してほしい。もしもの時に備え、家督をお前に譲る準備は整えてある』

たらり、と。嫌な汗が頬を伝う。

妙な感覚だ。優しい字で言い聞かせるような文面のこの手紙から、目を離せない。心臓の音が、まるで耳元で鳴っているかのように感じる。

『フラウと共に、姉弟で力を合わせて家を守っていきなさい。ケネスやアレックスといった、古くから仕えてくれている者達を大事にし、統治のやり方を学んでいけ。だが、彼らもいずれ老いで。あるいは、戦場で死んでいく。レオのような若手も、育てなさい』

これは、まるで。

『そして、本当は嫌だけど。もの凄く嫌だけど。結婚して、新たに家族を作りなさい。血を残すことも大事だけど、お前にも家庭をもつ幸せを知ってほしい。お前達がいてくれたから、俺の人生は鮮やかなものだったよ』

遺言の、ようであった。

『我が愛しき子供達の人生に、幸多からんことを願う。フラウとクロノの父親、カールより』

そう、締めくくられた手紙。もう1枚便箋が封筒には入っていたのだが、そちらは白紙であった。

……もしや。

少しだけ鼻を近づけて臭いを嗅ぎ、確信を得て左手の人差し指に炎を灯す。

無詠唱の魔法はまともに使えないが、父上に教わってライターの火程度は出せるようになった。

そっと、白紙の手紙を炙る。

うっすらと、文字が浮かび上がってきた。見たくないと思いながらも、硬い唾を飲みこんで手紙に視線を這わせる。

そこに、書かれていたのは───。

『アイオン伯爵家、 殺(や) っちゃった♡』

殺人の、自白であった。

「なにやってんの、あの人ぉぉおおおおおお!?」