軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十五話 愛のムチ

第六十五話 愛のムチ

クリス様のポロリもあり、正直かなり気まずくはなったものの。

せっかく遊びにきたのに、いつまでも気にしていては勿体ない。そう被害者がおっしゃったので、表向きは忘れる事にした

まあ、当の本人は半泣きだし耳まで真っ赤だったが。

兎にも角にも、遊ぶ事になったわけで。

「きゃああああああ!」

「あははははははは!」

現在、全力でボートを牽引し泳いでいます。

ロッジにあった白い小型ボートにクリス様とグリンダを乗せ、船首にロープを括りつけた後自分の腰にも巻き付けた。

で、後は泳ぐだけである。ノリとしては、水上バイクで引っ張るアトラクションに近い。

旋回する時にちらりと後ろを見たが、悲鳴を上げながらもクリス様の顔には笑顔が浮かんでいた。その後ろのグリンダも、楽しそうに笑っている。

───そして、揺れに2人の胸も『たゆん♡たゆん♡』と楽しそうであった。

船の縁を両手で掴んでいる為、彼女らは自身の巨乳を押さえる事ができない。通常の女性なら、痛みを感じる程の乳揺れだ。

しかし、グリンダは言わずもがな。クリス様も皇族だけあって魔力量が多い。肉体に浸透した魔力が、胸にまで影響を与えている。

もはや、お胸様と呼ぶべきかもしれない。幻想の中にしかなかった、どれだけ揺れても痛みがなく、後々に影響が出る事もない伝説のオッパイ。

我ながらIQが消し飛んでいる自覚があるが、仕方のない事だろう。だって夏だし。海だし。

あと揺れの影響か、少しだけグリンダの水着がズレてきている。ピンク色の輪が、見えていた。

普段から見せてもらっているし、触ってもいる。だが、やはり夏の海でのポロリは別だと思うのだ。

感動の涙を海水で洗い流しながら、再び直進。折を見て旋回する。

「お2人ともー。いざとなったら助けに行きますが、船から落ちないようにお気をつけてー!」

「クロノ殿ー!くれぐれも沖には行き過ぎないように、お願いしますねー!」

砂浜に立ち、こちらに大声で呼びかけてくるレジーナさんとオリビアさん。そんな彼女らに、クリス様が楽しそうに『はーい!』と返事をする。

彼女らの言う通り、沖に行ってしまわないよう気をつけねば。茹だった思考の中、それだけはハッキリと意識する。

この世界の海は、前世以上に危険な場所だ。なんせ、魔物の『規模』が違う。

陸上での魔物は、伝説に残っているものでも城と見紛う巨体の竜が最大だ。

しかし、海の魔物はそんな竜よりも大きな怪物が目撃されている。

比較的陸に近い所では、滅多に魔物は出現しない。でなければ、ストラトス家だって港を作って漁業や交易に使えなかった。

だが、沖の方に行けば行くほど……海が深くなるほど、魔物の出現率は高くなる。

かつて大陸の外を目指し、どこぞの王国が軍艦15隻からなる艦隊を送り出したのだが、帰ってきたのはたった2隻だったとか。しかも、別の大陸を見つける前に撤退を余儀なくされたという。

生き残り曰く、突然海の中から4体の巨大なイカが現れたらしい。

1体1体が軍艦より大きく、目測だが触腕や足を除いても200メートルはあったのだとか。

クラーケンと後に呼ばれるようになったその怪物達は、1体につき1隻の船を沈めた。乗っていた貴族や騎士が攻撃しても怯む様子はなく、なすすべなく船員達は悲鳴と共に海へと消えていったのだ。

これだけでも大惨事いう他ないが、悲劇は続く。

クラーケン達がそうして食事している最中、また別の魔物が現れたのだ。

ひたすらに強大な『サメ』である。

今ではケートスと呼ばれているその怪物は、クラーケンよりも更に大きかった。奴は食事に夢中のクラーケンを、狩りに来たのである。

襲っていた船ごと噛み潰されたクラーケン。残りの3体が、それを見て慌てて海へと戻っていった。

ケートスは獲物が逃げたと見るや、艦隊には一瞥もせずに再び深海へと潜っていたという。

だが、ケートスの巨体が大きく身をくねらせ反転した結果、その時の波で9隻が航行不能となった。運悪くヒレにぶつかったのか、一瞬で轟沈した船もあったとの事。

しかも運悪くそのすぐ後に嵐まできたものだから、比較的損傷が軽微だった2隻が救助できるだけ仲間を救助して、国へと帰ったのである。

これ以外にも、大陸の外を目指した国や、隣国の警戒網を跳び越える為に沖へと遠回りした船はあった。

だが、その多くが海の魔物により沈められたのである。運よく乗り越える事ができた船もあったが、それはほんの一握り。

その為、未だによその大陸との関りがどこの国にもない。伝説の船乗り、『クリストファー・フォン・クラディウス』が、幾つもの幸運に助けられ『別の大陸』の存在を幾つか掴む事ができたぐらいである。

閑話休題。この辺りの深さなら大丈夫だが、沖に向かうのは自殺行為だ。浜辺との距離を意識しながら、ボートを引き回す。

「わっわっわっわっわ!」

「ひゃぁああああああ!」

旋回の度に、絶景を楽しめる。今は、それだけで良いのだ。

「クロノ殿ー!そろそろ戻ってくださーい!」

「お昼の支度を始めましょー!」

……少しだけ、待ってほしい。

現在、諸事情により陸へ上がる事ができない状態にある。

何故、これだけの速度で泳いでも海パンが脱げてしまわなかったか。時折手で元の位置に戻していたのもあるが、それだけが理由ではない。

内側から支えになるものがあったというか、何というか……察してくれとは、クリス様にも親衛隊にも言えるわけがなかった。

速度を落とし、チラリと背後へと顔を向ける。

「楽しかった!ありがとう、クロノ殿。浜辺までお願いできる?」

「お疲れ様です若様。帰りは私が代わりますか?」

「……いえ。グリンダは引き続き、クリス様が落ちないように注意していてください」

ズレてしまった水着の位置を直すグリンダの視線が、少しだけ優しい気がする。どうやら、お見通しらしい。

冷や汗を気取られない状況に感謝する。やはり、海は良い。

海水の心地よい冷たさを意識しながら、ゆっくりと陸に向かった。

* * *

お昼の準備をしている間に、シルベスタ卿達も帰ってきた。まあ、準備と言っても自分とクリス様は『何もするな』と言われてしまったのだが。

これでも、簡単な手伝いぐらいはできる。しかし、立場的にまずいのだとか。言われてみれば皇帝と伯爵家の長男なので、その通りなのだが……ちょっと悲しい。

何というか、キャンプとかだと食事の準備も楽しみの1つ……みたいな?

しかし、ここで我がままを言っては迷惑なだけである。

クリス様と2人、楽しそうに支度をする3人の声を寂しく聞いていたので、シルベスタ卿達の帰還は嬉しかった。

一瞬ゾンビの群れと見間違えたが。

「し……死ぬ……!まじで死ぬ所だったっす……!」

「こひゅー……こひゅー……!」

「あびゃ、あびゃびゃびゃ……びゃぁ……」

「そうか。わたしって、まーめいどだったんだぁ……」

「クリス様。お待たせしました。リーゼロッテ以下13名、これから海水浴を満喫します」

「う、うん。皆お疲れ様」

何故か1人だけ背筋がピンと伸びているシルベスタ卿が、綺麗な帝国式の敬礼をする。

他の面々は、膝に手をついているアリシアさんがどうにか人語を介しているぐらいの有り様だ。いや、一応もう1人何か喋っているけど……マーメイドとか言っているし。

流石にクリス様もひいていたが、シルベスタ卿は何やら満足気に頷き隊員達に振り返る。

「皆、訓練ご苦労。これよりは交代で警備につくが、それ以外の者は海を楽しみなさい。そして、その間は私の事を隊長ではなく『リゼさん』あるいは『リゼにゃん』と呼ぶように」

「横暴っす隊長……主に呼び方が……」

「ちなみに、最初の警備は私とシュヴァルツ卿……いえ、アリシアにゃんが行います」

「え、あーしも休憩なしっすか!?」

「レジにゃんとオリにゃん。貴女達にも、次の者が交代するまで私達と警備につきなさい」

「はい、隊長」

「水練をしなくて済みましたし、それぐらいは勿論やりますよ」

「安心してください。貴女達には、後日私が直々に訓練をつけます。他の者に遅れはとらせませんよ」

「え゛っ」

揃って口をあんぐりと開ける2人に、よろよろと川の水でびしゃびしゃの隊員達が幽鬼のような笑顔を向ける。

「おま……たち……け、にが……すかぁ……」

「じごく……いっしょ……」

「あぶぶぶぶ……びゃーっびゃっびゃっびゃ」

「まーめいどのくに、たのしい。みんな、いっしょ」

「隊長!本当に大丈夫な訓練なんでしょうか隊長!」

「他の面々がなんか人間やめちゃっている気がします隊長!」

「けーっけっけっけ!あーしらも地獄を見たんだからよぉ、レジっちとオリっちも同じ目にあうんだぁよぉ!」

「あ、副隊長はいつも通りか」

「じゃあギリギリ大丈夫なのかな……」

「ねえあんたらあーしの事をなんだと思ってるの?今けっこうキャラ崩壊していたはずだよ?ねえ?目ぇ合わせろこら」

鎧を着た上で重りを背負い水練をしていたのに、アリシアさんは平常運転だった。またも、彼女の評価を内心で上げる。

なんというか、言動がアレなだけで凄い人だったんだなぁ……。

「リゼ。ほどほどにね?」

「はっ。ご安心ください。限界から爪先が出るぐらいをきちんと見極めているので」

苦笑するクリス様に、シルベスタ卿……いや、今はリゼさんが無表情でサムズアップをする。

海にきて川でナチュラルに限界以上の訓練をさせるのは、はたして名コーチなのか、迷コーチなのか。

鬼教官なのは、事実だと思う。

だがまあ、こんなご時世だ。訓練の密度が生死に直結する。後遺症が残らない範囲なら、厳しい訓練も愛と呼べるのかもしれない。

「かわ、ふかい……おもったより、ふかい……」

「まーめいど……わたしは、だれがなんといおうと……まーめいど……」

「いやぁぁ……!りゅうぼくが……りゅぼくが、まるた……!」

……愛、怖いなぁ……!