軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十話 貴族という生き物は

第四十話 貴族という生き物は

「ふっふっふ……ごめんなさいですわぁ!!」

余裕綽々な様子で赤いドリルヘアーを弄っていたかと思えば、勢いよく頭を下げてくるメイス使い……もとい、推定シャルロット嬢。

それに対し、鞘を左手へと持ち替えてこちらも一礼する。

「いえ。緊急事態であった事はこちらも承知しております。ご無事で何よりです。シャルロット・フォン・グランドフリート様」

「そう畏まらないでくださいまし。ワタクシはまだ殿下の妻ではなく婚約者。つまり公的な身分を持っているわけではございません。あの体捌き、さぞや名のある戦士とお見受けいたしますわ」

おほほ、と。お嬢様らしく笑うシャルロット嬢。

まあ、右手に持っている長柄のメイスが凄まじい存在感を放っているのだが。

「いえ。自分もまだ爵位は持っておりません。ストラトス子爵家の長男、クロノと申します。クリス殿下の命を受け、御身の救援に駆け付けた次第です」

「まあ!アリシアさんを連れているからもしやとは思っていましたが、やっぱり!んもう、クリス様ったら、そんなにもワタクシの事が心配だったなんて……!」

────ズンッ!

シャルロット嬢がメイスの石突を地面に突き刺して固定し、両手で自身の頬を押さえて『いやんいやん』と身をくねらせる。

……どこがとは言わないが、でかい。もしや、純粋な『センチメートル』はグリンダ以上なのか……!?

身をくねらせる度に揺れる体の一部分から視線を逸らし、顔をアリシアさんに向ける。

「その……大丈夫ですか?」

「うっす……問題ないっす……近衛騎士はこれぐらいじゃへこたれな……い!」

一瞬喉元まで何かがせり上がったのだろうが、気合で飲み込んで背筋を伸ばすアリシアさん。

相変わらず顔は真っ白だが、その瞳にはしっかりと理性が戻っていた。

「挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。シャルロット様。クリス殿下親衛隊副隊長、アリシア・フォン・シュヴァルツです。クロノ殿と共に、救援として参りました」

「ええ。感謝いたしますわ、シュヴァルツ卿。……いつも通りの話し方に戻ってもよろしくって?」

「もちのろんっすよシャルロッチ!急いで来たっすけど、全然無事じゃないっすか!」

「おーっほっほっほ!当たり前ですわー!ワタクシは『鉄血のギルバート』の孫!たかが奇襲の1つや2つ、どうって事ありませんわー!」

「よっ、帝国令嬢の鑑!」

「パワー・イズ・ジャスティス!殴れば大抵なんとかなるは我が家の家訓でしてよ!」

「ヒューヒュー!」

その家訓で良いのか、侯爵家。

……大陸全体見渡しても、貴族って最終的にそんな感じかもしれない。

基本的に『統治』とは武力を持つ者が行うものなので、貴族は強くないといけないのである。官僚とかの一部法衣貴族は別だが。

「もっとも……ワタクシ以外は無事ではありませんわ。救援が来てくださって、心から安心しました」

高笑いをやめ、凛とした表情をするシャルロット嬢。

「アリシアさん、貴女回復魔法は使えまして?実は怪我人がいるのですが、先の襲撃で治せる者が……」

「あーしは使えないっすけど、クロノっちなら」

「お任せください」

「まあ!ワタクシ以上のパワーがあって、回復魔法まで!実は教会の最終兵器だったりします?」

「いえ」

シャルロット嬢に案内され、先程魔法の十字砲火を撃ってきた場所に向かう。

15人の騎士や兵士がいると思ったが……まともに動けるのは半数。無傷な者は更に半分。

街道に倒れていた死体も含めれば、シャルロット嬢の供は30人前後だったのだろう。侯爵令嬢の護衛や傍仕えとしては、まあ普通ぐらいか。

毛布の上で寝かされている者達や、槍を杖代わりにして立っている者達を纏めて治癒する。

「おお……お、俺の腕が……」

「ありがてぇ……ありがてぇ……!」

今しがた治した兵士達の傷……酷い火傷を負った者もいた。火矢を撃たれてもこうはならない。

油壷……でもないだろう。服から油の臭いはしなかった。となれば。

「敵は、魔法使いですか」

「ええ。その通りですわ」

治療を終えた所で、シャルロット嬢が近づいてくる。

「まずは感謝を。家臣達の治療、ありがとうございました」

「いえ。それより、襲撃者はいったい」

「ワタクシも詳しい事はわかりませんわ。帝都に向かう途中、街道で数台の馬車が立ち往生していましたの。尋ねてみれば、車軸が壊れたとか。殿下の未来の妻として、放置はできないと助けようとしたのですが……」

「それが、襲撃者の一団だったのですね」

「ええ……」

なるほど、それで先程『無害なふりをして』と言ったのか。

「馬車の荷台からいかにも野盗といった格好の男達が現れ、次々とワタクシの家臣達を……」

その時の事を思い出し、シャルロット嬢が唇を噛む。

「ワタクシもメイスを手に応戦しましたが、頭目と思しき男が本当に強く……生き残れたのは、相手が『生け捕り』を狙っていたからですわ」

ギチリ、と。彼女の拳が音をたてる。

シャルロット嬢は確かに凄まじい膂力を持っているが、技量の方はあまり高くなかった。言い方を選ばないのなら、素人に毛が生えた程度である。

特に1撃目は鋭かったが、2撃目はかなり鈍かった。恐らく、縦と横の素振りしかしてこず、それ以外の型はあまり練習していないのだろう。

クロステルマン帝国の令嬢は時折『趣味』や『嗜み』として武芸を学ぶが、そういう視点で見れば彼女の腕でも十分すぎるのだが。

それこそ、ただの野盗や騎士ならば力で叩き潰せる。

「態勢を立て直した家臣達の奮戦でどうにか撃退は出来ましたが、相手は諦める事なくすぐに攻撃を仕掛けてきました。どうにか伝令を出しつつ森の中に逃げ込み、今度は逆に敵を奇襲しようと考えたのです」

「なるほど。自ら武器を持って戦うとは、流石っす。シャルロッチ」

「このぐらい、当然ですわ。ワタクシは皇妃となる者。逃げ隠れするとしても、優雅でなければ」

ドリルヘアーを『ふぁさぁ……』とするシャルロット嬢だが、雄叫びを上げてメイスを振り回すのが……優雅……?

まあ、帝国貴族として立派な事なので、ツッコミはしないけども。

本来守られるべき令嬢のする事ではないが、先程見た限り生きている騎士は揃って負傷していた。致し方なかったのだろう。

……他に無事な戦闘要員がいるのにこの人が突撃しそうになったら、殴ってでも止めよう。

「しかし……その。助けにきてもらっておいてなんですが、他に救援部隊は?まさか、2人だけだなんて事は……」

「はっはっは!そのまさかっすね、シャルロッチ!」

「マジですの!?」

良い笑顔でズビシと親指を立てるアリシアさんに、シャルロット嬢が頭を抱える。

「あまりにも無茶で無謀ですわ!?そちらのクロノ様にいたっては、子爵家の長男なのでしょう!?本来守られる立場でしてよ!?」

貴女が言うな。

「ちっちっち……このクロノっちこそが救援部隊の要!あーしはただの道案内兼身分保証っす!あれ、目から汗が」

「どういう事ですのアリシアさん!あとハンカチどうぞですわ」

「さんきゅーっす。ずびー!」

「鼻をかむんじゃねぇですわよ!?」

コントかな?

「なんとこの方こそオールダー王国との戦で殿下をお救いし、文字通り一騎当千の働きをしてノリス国王さえ討ち取った無双の英雄!」

「まあ!」

「しかぁも!帝城にて逆賊フリッツ皇子が従える双頭の竜を打ち倒し、帝都を解放した立役者!」

「まあまあ!」

「オールダー王国は彼をこう呼んだ!『血濡れの銀竜!』帝都の民は彼をこう呼んだ!『竜殺し』!」

「まあまあまあ!」

「クロノ・フォン・ストラトスがいれば、その戦は勝ったも同然!彼を止めたければドラゴンを3体は連れて来ぉぉい!」

「まあまあまあまあ!エっっっっクセレントですわぁ!」

歌劇の様に、というより、プロレスの選手紹介みたいなノリで人の戦歴を語るアリシアさん。貴女、近衛騎士ですよね?酒場の酔っ払いじゃないですよね?

しかし、シャルロット嬢にはうけたらしい。それに、周囲のグランドフリ―ト侯爵家の人達も期待する様な目をこちらに向けてくる。

ここでテンションの上がる名乗りを上げられたら良いのだが、生憎とそういうのには疎い。

会釈するのも違うかなと思って無言で立っていると、シャルロット嬢がキラキラとした瞳をこちらに向けてくる。

「ただ者ではないと思っておりましたが、それ程の方とは!これは3千人の友軍が来たも同然ですわね!」

「その通りっす!いざとなったらクロノっちを敵軍に投げ込めば解決するっす!」

いやそれは待てや。

「と、いうわけで!あーしらが来たからにはもう大丈夫!帝都に向かうっすよ!」

「いいえ、それは出来ませんわ」

「ほへ?」

街道に戻ろうと歩き出したアリシアさんだが、シャルロット嬢の言葉で足を止める。

「え、どうしてっすか?」

「帝都に続く街道は殿下のお庭。そこに賊が出たまま放置など、未来の皇妃として、何より貴族として看過できませんわ!」

シャルロット嬢がメイスを地面から引き抜き、肩に担ぐ。

「ワタクシ1人だろうとここに残り、賊共を『おミンチ』にしてやりましてよ!この、お父様から受け継ぎしメイスで!」

「おおおおおおお!」

彼女の宣言に、兵士達が拳を上げて吠える。

しかし、騎士達は互いに顔を見合わせた後、自分やアリシアさんに対して助けを求める様な視線を送ってきた。止めてほしいのだろう。

「い、いやいや。そういうのは別の人の仕事っす。そもそもシャルロッチの家の領地じゃないんすから。貴女が今すべき事は、無事に帝都へたどり着く事っす!」

「なにを言っていますの!売られた喧嘩は買うのが我が家の家訓でしてよ!」

それは貴族としてどう……いや、どこの家もそうだわ。相手が余程格上なら、どうにか『しょうがない』で済ませる努力はするけど。

舐められたら殺す。それが賊なら尚の事。それがこの大陸の貴族という生き物である。

だが、今回の賊はただの賊ではない。

「失礼ながら、相手はただの賊でも傭兵でもないでしょう。勿論、『魔法傭兵』でもないはずだ。決して容易い相手ではございません。それは御身もわかっているでしょう」

『魔法傭兵』

その名の通り、魔法を使う傭兵である。

貴族の子は、跡継ぎや政略結婚の人員を除き騎士の家へと婿や嫁として家を出るのが普通だ。

しかし、時折それでなお『余る』場合がある。ストラトス家も、ひいお爺様が『お盛んな方』だったので、騎士の家に入る者が多くいた。

騎士家の枠が足りず、政略結婚の相手もいなかった場合、その子供は家臣となるか、教会に入るか、よその家で家臣となるか……そうでないのなら、傭兵となる。

多少の金貨と馬、装備が与えられ、傭兵となって生活するのだ。

普通の傭兵より強く、その分給料も高い。貴族以外でも、騎士の子供がそうなる事もあるとか。

「侯爵家の馬車を襲うなど、普通の賊や傭兵はしません。ましてや、魔法傭兵なら『割に合わない』としてそんな仕事は受けません。であれば、相手はどこかの家の密命を受けた軍隊でしょう」

魔法傭兵は、平民と比べて高い教養がある。手を出してはいけない相手を知っているのだ。

本当にただの賊なら、度し難い愚か者で貴族に喧嘩を売る可能性はゼロではない。しかし、魔法を使いシャルロット嬢を圧倒する使い手がいるのなら……。

「だとしても、ですわ」

こちらの言葉に、シャルロット嬢は胸を張る。

「ワタクシは逃げ隠れする事はあっても、戦いの放棄だけは致しません。家名に、そして殿下の名に傷をつけるわけにはいかないのです」

「そうです!やっちまいましょう!」

「仲間の仇を!」

「ちょ、お前ら……!」

「やめろ!お嬢様を焚きつけるな!」

「どうしてですか、騎士様!おらの弟は、奴らに殺されたんだ!」

「そうだ!賊相手に怯えているんですか、騎士様が!」

「なっ、バカを言うな!」

兵士達が沸き立ち、騎士達が慌てる。

そんな中、アリシアさんと顔を合わせた。どうするよ。

「……シャルロッチ。敵の数、どんぐらいだったすか?」

「およそ50人。でも、20人は倒したはずですわ。だから増援がないのなら約30人」

「……クロノっち」

「ええ」

敵のエースは、生け捕りが狙いだったとは言えシャルロット嬢が応戦でき、逃げられる相手。

────つまり、英雄でも怪物でもない。

「街道に向かいましょう、シャルロット様」

「それは貴方達だけで。ああ、うちの兵士や騎士の内、希望する者は一緒に」

「いいえ」

舐められたら殺す。それは、貴族としての信用に関わるからだ。

実際は違ったとしても、今回の敵は賊として振舞っている。

ここに来るまで、自分もアリシアさんも帝都で随分と目立ってしまった。もしも『賊から逃げた』と噂が広がれば、今後の統治に響くだろう。

であれば。

「一緒に、その賊とやらと戦いましょう。生け捕りにして帝都への土産にします」

だが生憎と、のんびりとしている余裕はないのだ。戴冠式までに帰らないといけない。事前の挨拶回りだってしないといけない。

ここに残って戦うと言ったのはシャルロット嬢ご本人。であれば、敵をつり出す餌となって頂く。救援として来たが、ようは彼女に傷を負わせなければ良いのだ。

剣を抜く自分に、シャルロット嬢は一瞬驚いた様な顔をした後に『ふっ』と笑う。

「思い出しましたわ……そう言えば、殿下と『真実の愛』を結んだ方がいると噂で聞きました」

え、そっちの噂も広がってるの?

格好つけて剣をゆっくりと抜いていたが、刀身が半分程鞘に納まったままの状態で止まる。

「それでこそ我がライバルでしてよ、クロノ様!どちらが先に賊の頭目を討ち取るか、勝負ですわ!!」

ズビシ、とこちらを指さすシャルロット嬢。

マジで?という顔の騎士達に、雄叫びを上げる兵士達。そして『ふんすふんす』と鼻息を荒くする侯爵令嬢。

……うん。

どうしよっか、この中途半端な位置で止まった剣。これこのまま引き抜いたら、ライバルって認めた事にならないよね?

「ぷ……くく……!」

とりあえず、隣で笑いを堪えている副隊長の事はシルベスタ卿に告げ口しておこう。

言っておきますが、パーティーで笑った事も僕は覚えていますからね?この似非ギャル女騎士。