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作品タイトル不明

第百二十四話 人工転生

第百二十四話 人工転生

「人工的にって……」

父上の言葉に、呆然と返す。

それはあまりにも衝撃的な内容だったのだが、同時に。

自分が『納得』していることにこそ、動揺する。

だが無理もない。それならば、彼の、アダム様の症状に説明がつく。より正確に言えば、彼に行われていたのだろう『手術』が原因だと思いいたった。

「言葉の通りだ。奴らはアダム様のお体を手術により改造。ゆっくりと、コーネリアス皇帝の肉体に置き換えていったのだ。皮膚を、肉を、骨を、内臓を。治癒魔法で再生させながら、地道に入れ替えていったのだろうよ」

アダム様の体に生じていた、『自身の魔力の拒絶反応』。

祖父と孫の関係だろうと、他人の肉体だ。魔力の性質がどれだけ近くとも、馴染むのは難しい。

前世で時折ニュースで聞く、臓器移植。だがこの世界でそれをやろうとした場合、前世以上の難易度とリスクが伴う。

魔力と魂は強く紐づけられたもの。魂なくして魔力はうまれず、魂と魔力があるからこそ肉の体が動くのだ。

平民であれば魔力量の少なさから影響は少ないが、貴族が移植手術をする場合『魔力が浸透した内臓と、そうでない内臓』の間で異常が発生する可能性が極めて高い。

彼の場合、全身でそれが起きていたのだ。

これでも治癒魔法において、結構な腕前だと自負している。だからこそ、理屈では理解ができた。

しかし、感情が悲鳴を、あるいは怒号を上げる。

狂っている。それを考え、計画を立て、実行をした者達は。

「教会領の者どもがああもコーネリアス皇帝の遺体に執着していたのは、移植していない最後の臓器……脳の移植が済んでいなかったからだろう」

逆を言えば、それ以外の臓器は移植済みということか。

それだけのことをやって、何故コーネリアス皇帝がオールダーで討たれるまで生きていたのかは……恐らく、治癒魔法だろう。

内臓を復元できる程の魔法使いは少ないが、存在はするのだ。自分やグリンダ以外だと帝国周辺の地域には聖都にしかいないと思うが、彼らもぐるなのか?

その疑問が顔に出ていたのか、父上が補足してくれる。

「恐らく、この件に聖都は関わっていない。それにしては人も物の流れも自然過ぎる。裏金が多少行き来しているぐらいだ。どうやら、教会領は予想以上に高度な医療技術を持っているらしい」

「……もっとも。だいぶ無茶なことだったようだな。私達と戦った時、奴は死にかけだった。楽しそうに笑っていた上に、動きのキレは異常だったが。それでも、あと1年か2年もすれば勝手に死ぬだろう顔色と魔力だったよ」

皮肉気な笑みを浮かべながら、しかし頬に薄っすらと冷や汗を浮かべたアナスタシア殿がそう告げる。

個人的にはその状態でノリス国王達を相手に接戦だったことが驚きだが、それ以上に疑問があった。

「しかし、疑問はまだあります。脳と言っても、それは死後数カ月経ったものです。とっくに機能停止しているし、何なら腐ってもいたはずだ。どれだけ完璧な手術をしたとしても、生き返るとは思えません」

「いったん常識は脇に置いておけ、旦那様よ」

アナスタシア殿が小さくため息をつき、自身の眉間を指で揉みほぐす。

「たしかに信じがたいことではなる。が、現状、アダム・フォン・ウィリアムズはコーネリアス皇帝本人としか思えない言動と実力を有している。ならば、何らかの手段で置き換わったと考えるべきだ」

彼女の言葉に、父上が続く。

「この件に聖都は大きく関わっていない。しかし、その知識が全く関わっていないわけではない。そして、計画の根幹を知らずとも大なり小なり関わっている者達がいたはずだ」

「それは……?」

「聖都では、『転生』について探求する部門がある」

心底不愉快だとばかりに、父上は見た目だけは柔和な顔を歪ませて吐き捨てるように語る。

「あろうことか、奇跡を人工的に再現しようとする不心得者の集まりだ。だが各国の王や皇帝から支持を得て、未だに存続している。奴らの知識が、洩れたのかもしれん」

「……そう言えば、聖都から帝国へ『巡礼』に来る神官は最初に教会領に行くのでしたね」

「ああ。あるいは、金や色で転がした若い神官を、運び屋にしていたかもしれんな。手で持って運べる量の研究資料は、流石に俺も追いかけられん」

「ついでに、ホーロスの錬金術師も関わっている可能性がある。というか、これに関しては私の落ち度もある」

「アナスタシア殿」

不機嫌そうな顔で、彼女は続けた。

「コーネリアス皇帝の防腐処理。それを行ったのは、ホーロスの錬金術師達だ」

「えぇ……」

思わず、口元が引きつる。

ホーロス王国の錬金術師と言えば、詳細はわからないがカーラさんやサーシャ王妃を怪人に変えたマッドどもだ。

彼らは全員、国が亡ぶ直前に『黒蛆』が抹殺したと聞いたが……。

「オールダー戦争の折、旦那様との戦いでロック爺……ガルデン将軍は重傷を負った。その際に、ガルデン将軍の欠けた脳を魔物の馬の脳みそで埋めるという、常識外れの処置をした錬金術師達なのだが」

なんて?

「腕は良かったので、コーネリアス皇帝の遺体の修復と防腐処理を彼らに依頼したのだ。状態が良い程、政治的な交渉に使いやすいと思ってな。あるいは、教会領はそのことを知っていて、『まだ機能する』と判断したのかもしれん」

「……そうですか」

ちょっと……いやかなりツッコミたい所があった気がするが、今は飲み込むことにした。

しかし、あの色々と常識から外れすぎているマッドがやった防腐処理……絶対にろくなものじゃないが、『新鮮さ』という点では間違いなく満点のできだったのだろう。

自分達としては、最悪としか言えないが。

「普段ならそこの女狐の失態だと無理矢理にでもあげつらう所だが、今は素直に『仕方がなかった』と言っておこう。なんせ、こんなことを思いついても実行するなどあってはならんことだ。予想できなくとも仕方がない。……本当に、あってはならん。あってはならんことだ!」

直後、突然父上が机に拳を叩きつけた。

殴られたテーブルの天板部分が砕け、大きな音が天幕に響く。

彼はそれでも怒りが収まらないという様子で、血走った目で歯を剥き出しにしていた。

「度し難い!吐き気がする!だが納得もいった!あの現世利益ばかり考えていたアンジェロ枢機卿が、己の命を懸けてクリス陛下を救った行動!あれは、オールダーからコーネリアス皇帝の死体を無事に取り返し、なおかつ復活まで帝国を維持する為だったのだ!」

ぐしゃぐしゃと髪を乱し、父上は吠えるように言葉を続けた。

それは恐らく誰に向けたものでもなく、ただ激情のままに口を動かしているのだろう。

「奴が献身や善意で現世から離れるものか!アンジェロ枢機卿はずっと、『転生』を、事実上の不死を願っていた!勇者教の教義を忘れた愚か者め!あんな奴が枢機卿であったなど、虫唾が走る!」

「ち、父上。落ち着いてください」

慌てて彼の隣に駆け寄り、肩を押さえる。

数秒程息を荒げていた父上だが、どうにか呼吸と共に精神を落ち着かせたようだ。

「……すまん。だが、これは……こんなことは、許されることではない……!奇跡への冒涜だ……!」

左手で自身の顔を覆い、父上がそう呟く。

こんな父上、初めて見た。教会領の、そしてコーネリアス皇帝の所業は外道としか言いようがないが、目の前でここまで怒りをあらわにされると返って冷静になってくる。

「帝国の教会領ではたしか、コーネリアス皇帝の統治下では軍役の免除。そして多額の寄付があったそうだな」

胸の下で腕を組んだアナスタシア殿が、淡々と続ける。

「先ほど旦那様が言っていたが、巡礼にくる神官は必ず最初に教会領へ立ち寄るのだな?であれば、『魔力持ちの子供』も多く用意できるだろう。実験材料には事欠かないわけだ」

「1年や2年で立てた計画ではあるまい。その間、勇者教の名を使って奴らはどれだけの非道を行ったのか……!」

再び感情が爆発しかけた父上だが、彼は口を堅く閉じることで抑えてくれたようだ。

何とも言えない沈黙が天幕の中を支配する。

正直、信じられない情報を大量に浴びせられて混乱しているが、それでも考えなければならないことがあった。

「……正直言ってまだ飲み込めてはいませんが、理解はしました。アダム様の体を奪い、コーネリアス皇帝が生き返ったのだと」

自分自身が偶然にも異世界転生なんて経験をしたのだ。魔法がある世界なのだし、そういうこともあるのだろう。強引にでも、己をそう納得させた。

状況証拠的に、間違いないだろう。

何より、『ストラトス家』にとってアダム様の中身など、極端な話どうでもいい。個人的な感情は別として、今深く考えるべきことではないだろう。

「一旦、アダム様やコーネリアス皇帝の事情は置いておきましょう。とりあえず、情報共有の続きです。父上はコーネリアス皇帝が入っているアダム様……面倒なので、対外的にも説明が楽なアダム様呼びをさせてもらいますが、アダム様と交戦後、どうなさったのですか?」

「……ふぅぅ」

どうにか冷静さを取り戻したようで、父上が大きく息を吐いてから顔を上げる。

そして、キリっとした顔で告げた。

「勝てそうになかったのでな。この情報を何としても持ち帰らねばと、全力で逃げた」

「あ、はい」

まあ父上だし。帝都の為に命を懸けてとか、絶対にしないだろうから。

というか、地方領主にそんな覚悟を求められても困る。僕だってやだもん。

「ただまあ、アダム様が何故かハイテンションで俺を追いかけてきたのでな。プラン変更をして、帝都中を逃げ回りながら敵部隊の行動を妨害することにした」

「右肺と左足失っていたんですよね?」

「うん。頑張った」

頑張ったですまないのよ、人体は。

「今、貴方が言うなと思ったのですけど……いえ、やめましょう。私の勝手な推測で、皆さまを混乱させたくありません」

どうしたのグリンダ。こっちを呆れた目で見つめてきて。

「肥溜めとかー、死体の下とかー、燃えている家の中とかー、川の中とかー。そういう所に跳び込んでは相手の視界から外れ、アダム様や敵兵を奇襲したり、奇襲したり、奇襲したりしたなー。いやはや、我ながら大活躍。100人は殺したし」

「旦那様よ。こいつ絶対にその間でえげつないことをしているぞ。オールダーの国境で散々被害報告が上がったからわかる。敵兵をじわじわと嬲り殺しにして、相手の士気を削ぐとかは子供の悪戯に思えるレベルの所業をしたに違いない」

「してませーん。憶測で人を批判するのはよくないと思いまーす」

「はっはっは。私が聞いた被害報告そのままここで語ってやろうか」

「まあ兎に角!そんな無茶な鬼ごっこを1時間半ぐらい続けてな。どうも、それでアダム様が飽きたらしい。最初は嬉々としてこちらを追いかけていたが、終盤は不貞腐れた顔になってな。帰っていたいったぞ」

すごい。僕でもわかるぐらい強引に話題を変えた。

いや、ストラトス家のブレーン2人にこれ以上喧嘩されても困るので、指摘はしないけども。

父上の報告に、アナスタシア殿は苦虫を嚙み潰したような顔をした。

「まるで子供だな。益々もってコーネリアス皇帝らしい」

「そう、なのですか?」

「ああ。奴は遊び感覚でよくうちの領土と領民を襲っていたから、よく知っているとも。職務上、何が起きたのか正確に知る必要があったのでな。入念に調べたよ」

「そ、そうですか」

若干彼女から放たれる圧に距離を取りながら、小さく咳払いをする。

「しかし、それだけの重傷を負った状態でアダム様を引き付けていたとなると、父上の体調はかなり悪化していたのでは?」

「ああ。彼らが完全に撤退したのを確認してから、川から上がってな。帝都の外にまで流されていたので、歩いて城門まで戻って来たのだ。左足だけじゃなく右腕と左目も切られていたから、死ぬかと思ったぞ」

いや、それは死んでなきゃおかしいと思いますけど。

重傷過ぎるのもそうだが、その状態で冬の川に潜って敵から逃れる。どう考えても自殺行為だ。

人間やめてるな、この人。

「今貴方が言うな以下略」

本当にどうしたのグリンダ。具合悪いの?

「あ、ちなみにカール様の治療は私がやりました。帝都での戦闘を聞き、ストラトス家の騎士として動く時がきたと判断したので。若様達はモルステッドに行っていましたし」

「それは、本当にありがとう。でも、お願いだから無理はしないでね?」

「はい。若様との大切な子もいますから。あくまで矢の届かない位置におりますよ」

穏やかに微笑み、膨らんだお腹を撫でるグリンダ。

その様子に思わず頬が緩む。だが、父上のやたら大きな咳払いで意識をそちらへ戻した。

「おっほん!まあ、俺からは以上だ。帝都にいる間つかめた証拠は、グランドフリ―ト侯爵と教会領との間で行き来していた不審な金の流れと、文章の形跡のみ。我ながら不甲斐ない」

「いえ。ギルバート侯爵の真意はまだわかりませんが、彼がアダム様の件について知っている可能性がある。その情報だけで十分過ぎます。何より……父上が無事でよかった」

「クロノ……!」

ぶわり、と。父上の目から涙があふれる。

そして、目にも止まらぬ速さでこちらに抱き着いてきた。

咄嗟にアッパーで迎撃してしまったが、父上はそれを最小限の動きで回避。蛇のようににゅるりと自分に絡みついてくる。

筋肉が暑苦しい。

「パパのことがそんなに心配だったんだな!嬉しいぞ!今すぐストラトス領に帰ろう!そしてお前とフラウ、そして孫達と一緒に暮らそうな!それ以外の邪魔な奴は俺が全員殺してやるから!」

「すみません、帰還については検討中ですし、勝手に大切な人まで殺されそうなのでそれは勘弁してください」

「え……」

いや、『え』じゃないが。驚く要素どこかにありましたか……?

「そんな……クロノ、嘘だよな……?」

目からハイライトを失った父上が、よろよろと後ずさる。まるで幽鬼のような動きで、とっても怖い。新手の化け物だろうか?やはり幽霊……?

「まあまあ。話を急ぎすぎなくとも良いでしょう。 義(・) 父(・) 上(・) 」

いつ間にこちらに近づいていたのか。ぽすり、と、アナスタシア殿が肩に頭を乗せてくる。

ふわりといい香りをさせる赤い髪。押し付けられる巨乳の感触に、幸せな気分になる。

グリンダもいるのにデレデレするのはまずいと、どうにか表情を取り繕うとした。

ただ、とうのグリンダは『やれやれ』とでも言いたげな顔でスルーしたのに対し、父上は目を限界まで見開いて更に数歩後ずさった。

「ここは家族できちんと話し合うとしましょう。ええ、家族として、ね」

彼女の言葉に、認められないと顔を横に振る父上。

だがこれこそが現実とばかりに、腕まで組んでくるアナスタシア殿。

息子と息子の婚約者の仲睦まじい……たぶん絵的には仲睦まじい姿に、ストラトス家前当主が涙を流す。

「あぁ……ぁぁぁあ……!!」

どう見ても嬉し涙ではない様子で。

「う、嘘だ……嘘だぁああああああッッ!!」

「フフフフ……ハーハッハッハッハッハ!!」

父上の絶叫が木霊し、アナスタシア殿の高笑いが響き渡った。

いい加減本当に周囲から苦情がきそうなので、そっと両手の五指をそれぞれ揃える。

ちょっとだけ本気のチョップを、我が家の頭脳担当2名の頭に1発ずつ叩き込む。

今は帝国の未来を左右する大一番。今後の立ち回りをしっかり話し合わないといけないので、父上とアナスタシア殿にはしっかりしてほしい。

……ただ、まあ。

当主としてではなく、一個人としては。どの旗を掲げるのか、既に決まっている。

ちらりと、無意識にグリンダへと視線を向けた。すると彼女は、小さく肩をすくめて笑ってくれる。

……ならば少しだけ。我がままを、言わせてもらうとしよう。

ストラトス家の領民全ての命を背負う者として、個人的な事情で旗色を決めたくはない。

だから、今から言うのは本来当主としてあってはならない内容だ。

それでも、言っておきたかった。この身は……あの優し過ぎる人を、裏切りたくないのだと。

「2人とも」

頭頂部を押さえて若干涙目になっているアナスタシア殿と父上に、告げる。

「僕は、クリス様の陣営につきたいと思います。反対にしろ賛成にしろ、どうか知恵を貸してください」