軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十四話 思わぬ増援

第百十四話 思わぬ増援

砕氷船が汽笛を鳴らす。

右側面のハッチが大きく開かれており、河川港に繋がっている。それを足場に、戦車やハーフトラックがキュラキュラと音をたてて乗船していた。

その横で人足達が食料や弾薬等を運び込んでいる。

最終的に、このモルステッド王都強襲作戦に参加するのは以下のメンバーとなった。

自分を始めとした、ストラトス家。ここへ連れてきた戦車隊や砲兵部隊を含めた、56名。そこに船の乗組員達を含めた70名が加わって、126名。

ゲーマウス伯爵率いる、300名。当然とばかりに、伯爵本人も乗船する。ひ孫達は信頼のおける家臣に預け、老貴族は爛々と瞳を輝かせていた。

そして。

「よもや、自分が帝都からここまで離れるとは思っていませんでしたなー」

帝都守備隊から1名。近衛騎士専用のフルプレートアーマーの上から、厚手の外套を被った人物が船を見上げながらそう呟いていた。

「ジェラルド卿」

「おお、これはストラトス伯爵。お元気そうで何よりです」

「こちらこそ。貴方も来ていたのですね」

そう返事しながら、右手を差し出す。

ジェラルド卿。かつてフリッツ皇子から帝城を奪還する際に、『独り言』で助けてくれた人物であった。

彼はこちらの右手を握り返し、左手で兜越しに後頭部を掻く。

「自分でもびっくりでしたよ。帝国軍を奇襲しようとしていたドラゴン。あれを発見したの、実は俺なんですよね」

「そうだったのですか?お手柄ではないですか」

「ええ。帝都で貴方とドラゴンが戦ってから、帝都守備隊総出でドラゴンの魔力残滓を探していた経験が活きました」

ケラケラと笑い、彼は握手を解く。

「ただまあ、そのせいでここまで引っ張ってこられちゃったんですよねー。本当はコープランド卿と一緒に来るはずだったんですが、彼の嫁さんが来月出産ってことで。もー、しょうがないから俺だけで行くことに」

「それは……なんというか、ご愁傷様です」

「ストラトス伯爵も側室さんが妊娠中なんでしたっけ?いやー、羨ましい!俺ってば独り身だから、そういう浮いた話がマジでないんですよ」

「え?失礼ですが、婚約者の方とか……」

「それが、お相手の家がフリッツ皇子派閥だったもんで。婚約解消になっちゃいましてね。元々あんまり会ったことがないお嬢さんでしたが、完全に他人ですよ」

「あー……」

軽く肩をすくめるジェラルド卿に、苦笑を返す。

「かー!俺にも出会いがあればなー!まーじでコープランド卿が羨ましい……俺もああいう奥さん欲しかった……」

ガックリと肩を落とす彼に、どう声をかけたものやら。

取りあえず、話を変えることにする。

「そう言えば、ジェラルド卿とは昔からコンビを組んでいるんですか?」

「もちのろんですよ!なんせ、あの人は俺の先輩ですからね!」

先程まで落ち込んでいたのが嘘のように、陽気な近衛騎士は胸を張った。

「時にあの堅物クソ真面目で遊び、時にあの堅物クソ真面目から怒られ、時にあの堅物クソ真面目の天然っぷりにズッコケたものです……懐かしい」

「コープランド卿が苦労していたことだけは、わかりました」

「えー、酷いですよストラトス伯爵ぅ。俺だってあの人の天然発言で何回か酷い目にあっているんですからねー。例えばそう、これは3年前のことなんですが。城門で不審者を発見した時に」

「うおおおおおおおお!あーしが、きたああああああ!」

「え、あの時の不審者!?」

突然聞こえてきた声に、ジェラルド卿が慌ててそちらを見る。

というか、この声って……。

自分もそちらに視線を向ければ、帝都からきた弾薬等の補給部隊。そのハーフトラックから、1人の近衛騎士が降りてくる。

ポニーテールにした黒髪をぴょこぴょこと動かし、やかましいぐらいの笑顔を浮かべた少女。

ピンクのロングコートと手袋を纏った、似非ギャル女騎士がそこにいた。

「アリシアちゃん、ただいま参上!なにするものぞ、モルステッド王こ……こ、こ……ぶーえっしょぉい!さむーい!」

「何やっているんですか、貴女……」

「ちーん!……んお!クロノっち!よっ!」

「よっ……じゃないですよまったく」

アリシア・フォン・シュヴァルツ準男爵。クリス様親衛隊の副隊長の急な到着に、驚いて良いやら喜んで良いやら。

先程の大声が聞こえたのか、クリス様とシルベスタ卿がこちらへと向かってくる。

「アリシア!来てくれたんだね!」

「はっ!このアリシア。クリス様の為ならたとえ木漏れ日の中ベッドの中城の中!どこへでも参上いたします!」

帝国式の敬礼をするアリシアさんに、シルベスタ卿が小さくため息をついた。

「つまり、早く暖かい場所に入りたいと」

「もちのろんっす!寒いっす!あーしはマジで雪とか苦手なんすよぉぉ……!」

ガタガタと震えるアリシアさんに、クリス様が申し訳なさそうな顔をする。

「ごめんね。今回の作戦に、ボクは同行できない。かといって、皇帝とその直属の家臣が一切参加しないのはまずいから……」

「いや、クリス様が申し訳なく思うことなんてないっす。あーしもプロっすからね。お任せくださいっす!」

ビシッ、とサムズアップするアリシアさん。

しかし再び盛大なくしゃみをし、今度はクリス様にハンカチを鼻に当ててもらっている。

「ありがとう、アリシア。ほら、チーンして」

「チーン!うう……クリス様の優しさが染み渡るっす……」

「シュヴァルツ卿」

「んえ?どうしたんすか隊長。あ、もしや隊長も何か温かい言葉を」

「貴女、私が帝都を留守にしている間に随分と鈍りましたね?主に口調が」

「ギクゥ!?」

いつになくノリが軽いアリシアさんを、シルベスタ卿がじっとりと睨みつける。

「しょ、しょうがないじゃないっすかぁ……こっちは何カ月も城でお留守番っすよ?オリビアっちを交代に寄こしてくれたから、こうしてやぁっとクリス様とお会いできたんす。しかもまたすぐに離れ離れなんすから、ちょっとぐらい羽目を外しても良いじゃないっすかぁ」

「リゼ。ボクからもお願い。今回はおおめに見てあげて?」

「まったく……クリス様はすぐ甘やかして」

「うう……クリスママ、マジ最高っす……!」

「そのように言われたら、後日寒中水泳を鎧有りでやらせるぐらいしかできないではありませんか」

「え、待って隊長。その段階でもたぶん死ぬっす。てかクリス様効果で軽減される前の訓練内容っていったい」

「クロノ殿が参加してくださるのなら、ギリギリ死なない程度の訓練を予定していました」

「クロノっちがいて『ギリギリ死なない』判定な訓練!?」

何かさらっと巻き込まれた気がする。いや、当主の仕事がない時なら付き合うけども。

「もう。2人とも、クロノ殿やジェラルド卿もいるんだから、もっとシャンとして!ごめんね、クロノ殿。ジェラルド卿」

「いえ、お構いなく。慣れていますから」

「……はっ。私も気にしておりません」

先程の軽薄さはどこへやら、ジェラルド卿が畏まった様子で会釈する。

そんな彼が、兜越しにクリス様の顔をじっと見つめた。彼女もその視線に気づいたようで、小さく首を傾げる。

「どうしたの?ジェラルド卿」

「はっ。いえ……失礼ながら、以前よりも笑顔が柔らかくなられたと……そう、思いまして」

確かに。彼の言う通り、クリス様の雰囲気も随分と変わった気がする。

春頃は色々と一杯一杯という様子で、口調ももう少し硬かった。

だが今は、前以上に『素』が出ていると思う。

「そ、そうかな?それは良かった……のかな?」

「恐れながら、近衛としては今の御身の方が『守りがい』がある。前も魅力的な主君でしたが、より一層命を懸けるに値するお方だと思えました。……っと、この発言は、コープランド卿には内緒でお願いします。あと、守備隊の隊長にも」

おどけた調子でそう告げる彼に、クリス様がクスクスと笑う。

「仕方がない。代わりに、モルステッドの王都に行った際もお願いね?皆を守ってあげて」

「はっ!男ジェラルド、あの軍艦2隻を帝都と思って行動いたします!」

帝国式の敬礼をする彼に、クリス様も返礼する。

そして、寒さのせいか頬を赤くしながらこちらを見てきた。

「あの、クロノ殿。クロノ殿も、気を付けて。貴殿からもらった銃を、ボクも練習しておくから。帰ったら、見て欲しいな……?」

「ええ。必ず。御身と同じ銃を持っていることを心の『よすが』として、今回の任務にあたります」

「うん……!」

そんな会話をする自分とクリス様の顔を、アリシアさんとジェラルド卿が交互に見比べる。

「なあ、従妹殿。やっぱりあの2人は……」

「そうっすよ、従兄殿。『真実の愛』っす……!」

「やはりかー。乙女の顔をしていると思ったんだよ。男にもな、乙女魂というのは存在するから……」

変な噂を広めるなと言いたいが、クリス様の性別バレを防ぐ為にも否定はできない……。

頬が若干引きつるのを自覚しつつ、ツッコミを堪える。というかこの2人従兄妹だったのか。

「んん!そ、それでは皆、頼んだよ!」

「はっ!」

わざとらしい咳払いをしたクリス様に、一斉に敬礼をする。

思わぬ援軍が加わった、この大陸初の砕氷船を使った敵国への進軍。

はたしてそれが、どのような結末を迎えるのか……それはまだ、誰にもわからない。

「……なあ」

自分達が話していた場所から、少し離れた位置。

乳姉妹を傍においたアナスタシア殿が、頭の上に少しだけ雪を載せながら仏頂面を浮かべている。

「まさかとは思うが、私も同行するのか?このまま?砕氷船に乗って?」

……さあ、出港の準備に取り掛かるとしよう!

こちらへ聞かせるような声量だったが、たぶん恐らく船へ荷物を積み込む諸々の音で聞こえていなかったと思うので、知らないふりをした。

後ろから跳び蹴りを食らった。これが……家庭内暴力……!