作品タイトル不明
第五章 エピローグ 下
第五章 エピローグ 下
サイド なし
連合軍との戦いから、3日後。
帝国軍は一旦ストラトス家の領都へと向かっていた。
その道中は、一部を除き騒がしくも平和なものである。軍隊が通るということは、たとえ味方の軍でもイナゴの群れが通るようなもの。本来なら、手ひどい『補給』が行われる。
だが、ストラトス家は予め軍の移動ルートを厳格に定め、その受け入れ態勢も整えていた。ハーフトラックでの輸送がメインの為、軍がばらけるのを結果的に抑えられたのも大きい。
もっとも、最大の理由はどこぞの人竜が血の汚れがなかなか落ちない大剣を片手に、ちょくちょく巡回していることだろうが。
食事と寝床はきちんと用意されているのもあって、大半の兵士は大人しくしている。『おいた』をした兵士がどうなったのかは、言うまでもない。この大陸において、一般兵の扱いとはそういうものだ。
また、捕虜の扱いに関しても比較的穏当な対応がなされている。
大半の捕虜は、奴隷にする理由もないとして武器を没収した後にスネイル公国へと自力で帰還させられた。公国所属の貴族については、身代金が期待できる者は捕縛。帝国兵との軋轢を警戒し、ストラトス家の兵士が見張りを行っている。
この大陸において、貴族=魔法使いだ。いつ魔法が使われるかわからない為、兵士達は交代で油断なく警戒を続けている。
なお、捕虜に不当な虐待をしようと、わざわざ近づいてきた帝国兵は腕の骨と引き換えに自身の部隊へ帰ることとなった。
そんな、比較的平和な帰路。忙しく働いている者もいる。
「……紅茶をお持ちしました、クリス様」
「うん。ありがとう、リゼ」
皇帝の天幕。
他の貴族の天幕も、そのまま数日間暮らせる程度にはしっかりとした作りだが、クロステルマンという大国の主が住む場所だけあって、その天幕は地方貴族の屋敷じみた大きさと豪華さを有している。
木材を敷いて床にするだけなら、他の貴族の天幕も同じだが、皇帝のいる場所ともなれば各種調度品が派手になり過ぎない程度に飾りつけられていた。
しかし、今は棚の上に置かれた美術品や、絵画より目立つものがある。
書類の山であった。
「ふう……温まるねぇ」
ふにゃりとした笑みを浮かべて、両手でカップを持つクリス。
彼女の机の上には、書類がどっしりと積み上げられていた。あるいは、机を含めると彼女の身長に届くかもしれない。
それを、若干呆れた様子でシルベスタ卿は見下ろす。
「お言葉ながら、働き過ぎです。クリス様。そろそろ休憩なされた方がよろしいかと」
「え?うーん。でも、まだ仕事が残っているし……」
「家臣に仕事を割り振るのも、上に立つ者の役目だと聞いたことがあります」
「そうかもしれないけど、重要な書類も多いし……あと、正直ボクがやった方が早く終わるから……」
「部下は勝手に育つものではありません。見本を見せ、教え、やらせて、褒めて、またやらせる。その上で、適宜直すべき所はキッチリと指摘し、相手が理解するまで辛抱強く教えてやらねばなりません」
もしもこの場に彼女の部下達がいたら、『見本見せられてもできねぇことはあるんすよ?』『言う程褒められたっけ……?』『教え方が肉体言語なのはやめて!?』等々の叫び声が上がったかもしれない。
しかし、全て黙らされるのでいないのと同じだろう。
「未来への……とうし?でしたか。クロノ殿も、そうおっしゃっていましたよ」
「そうだけど……この仕事は、この行軍と直接関係があるものばかりじゃないし、何より文官はあんまり連れてこられなかったから……」
帝国は現在、未曾有の危機に瀕している。皇帝の討ち死に。モルステッド王国による元老院を含めた帝都の占拠。同盟国であったホーロス王国からの攻撃。
それらをどうにか解決したものの、その間に溜まった仕事や、増えた仕事が消えることはない。
本来ならクリスは帝都にて数々の問題に対応しなければならないのだが、国家の存亡を賭けた戦争ばかりが続いているのだ。彼女が元々貴族達から頼りなく思われていることもあり、人望が薄い今、前線へ出て実績を作らねば統治に関わる。
「それでも、少ないながら連れてきている文官の者達に仕事を回すべきです。これは、彼らの為でもあるのですよ?法衣貴族は、皇帝陛下から役職を頂いているから爵位を持てているのです。仕事を失えば、ただの平民。彼らを不安にさせないでください」
「うっ……わかった。でも、任せられる仕事を選別しないとだね……」
「はい。ですが、彼らにどの程度任せられるか、本人達に尋ねる必要があります。もう夜ですので、それは明日にすべきでしょう」
「そうだね。じゃあボクはこっちの書類を……」
「クリス様も、お休みください。集中力が低下した状態で働いても、効率が落ちるだけです」
「でも、体力的には全然大丈夫だし……」
「体力的に、とおっしゃる段階で、別の理由で集中できていないのでは?」
「うっ」
図星とばかりに、紅茶のカップをソーサーに置き、ペンへと伸ばしていた手を止めるクリス。
この男装皇帝。書類仕事には滅法強いが、腹芸に関しては未だに大の苦手である。
「……やっぱり、わかる?」
「これでも幼馴染ですので」
「そっかー……」
観念した様子で、クリスがペンに向かって伸ばしていた手を引っ込める。
そして、椅子の背もたれへ体重を預けた。
「その、さ……アナスタシア女王が、クロノ殿と結婚するって。リゼは、どう思う?」
「大変危ういかと」
「だよねぇ……」
小さく、クリスがため息をついた。
「貴族達から、かなりの反発があるし。たぶん、ギルバート侯爵もこれを聞いたら反対すると思う。彼女は……オールダー王国は父上の仇だ。戦場のことだからこそ、戦場にて返すべき。そして、その戦争には勝利した。なら、報復を完遂しようという意見もある」
あの会議の後も、貴族達は不満を抱いていた。それが表立って噴出していないのは、『人竜』の爪が自身に向けられない為である。
しかし、傷つけられたプライドだけで反対する者ばかりではない。
「昨日ボクの所に来たイゼル子爵が言っていたよ。『アナスタシア女王は万単位の軍を率いた経験のある指揮官。それがストラトス家に加わるのは、帝国の平穏を乱す』って」
帝国の貴族達は、戦争に勝ったこともあってアナスタシア女王……元女王の能力を軽んじる者が増えてきている。
しかし、それでも『経験』というのは馬鹿にできない。万単位の軍を編成して動かすなど、そう体験できることではないのだ。
どれだけ優秀な者でも、1回目で全てが上手くいくなんてことは少ない。故に、1回でもやったことがある者には注意すべきである。
1回目で反省点を自覚し修正できる者ならば、2回目はより強力な指揮官となるのだから。
「ストラトス家は、軍事と経済。その両方で突出している。他の帝国領を、置き去りにして」
クリスは、紅茶で唇を潤してから、続けた。
「その上、次代への準備も既に行われている。貴族家として、これ以上の成功なんてない。でも、普通の成功を軽く跳び越える『大成功』をあの家は続けているんだ」
蒸気機関。火薬。工場機械。そして、それらを使った移動手段や武器、保存技術。
親の魔力がある程度子供へも遺伝することを考えると、次の代でも優れた魔法使いが当主の地位につくだろう。
既に皇帝以外は止めることも難しいストラトス家。今回の戦でオールダー王国を飲み込み、その上スネイル公国の一角に傭兵を攻め込ませ始めた。
広大な領土という下地まで出来上がりつつあり、次の代では皇帝がストラトス家の当主に媚びへつらうことになるかもしれない。
皇族への忠義を持ち、なおかつ先が見える貴族程、彼の家は恐ろしく見えていた。
「でも、アナスタシア女王とクロノ殿の結婚を認める以外、選択肢はないとも思っているんだ。だって、クロノ殿は……ストラトス家は、帝国軍随一の活躍をし続けている。信賞必罰を怠れば、それこそ皇族による統治も……」
クリスの言っていることもまた、正しい。
前皇帝が戦死し、首都が事実上敵国に制圧された状態での4正面戦争という、滅んでいない方がおかしい状態であったクロステルマン帝国。
それが首都を奪還して2カ国を滅ぼし、1カ国を内戦状態にして動けなくした。
この巻き返しは、ストラトス家なくしてはありえない。アナスタシア女王もスネイル公王も、その八面六臂の活躍に頭と胃が痛みを発したものである。
それこそ、勇者アーサーとその弟子達じみた、反則めいた力。
クロノが魔女裁判で奇跡の生還を成したことで、段々と皇帝の出陣よりも彼の参戦にこそ兵達の士気は影響を受け始めた。
他の貴族家を頼るどころか、むしろ足を引っ張られながらも2カ国を足止めしていたカール。
文字通りの一騎当千を成し、敵国の王や帝都を襲った双頭の竜や怪人すらも打ち倒したクロノ。
カールの娘であり、ストラトス家長女であるフラウも、騎士達と傭兵を率いてオールダー王国の援軍を撃退したという報告が既に上がっている。
言い訳のしようがない程に、連合軍との戦いはストラトス家のおかげで勝ったようなものだった。
そんな武功をあげた家の次期当主……事実上の現当主が、小国の女王を嫁にしようと言うのである。反対など、できるはずがない。
「ボクはクロノ殿を信頼も信用もしている。彼がボクを裏切るなんて有り得ない。でも……彼は、帝国そのものにはあんまり忠誠を誓っていないと思う。何より、彼の子供が帝国に対してどう思うか……」
「クリス様」
「うん。このバランスをどうにかするのが、皇帝の仕事だってわかってる。だからこそ、ボクは頑張らないと……!」
「クリス様。私は正直その辺りについて、何も考えていません」
「……なんて?」
「……こほん」
小さく、シルベスタ卿は咳払いをした後。
「何も!考えて!!おりませぇえええん!!!」
いつもの無表情を維持したまま、元気よくそう宣言した。
「え、えええええ!?」
「何度も申し上げておりますが、近衛騎士……特に親衛隊は、政治に口を出してはなりません。皇帝陛下や皇太子殿下に最も近い位置で働く存在ですので、下手をすれば裏から帝国を操る奸臣となります。我らの仕事は、御身をお守りすることだけですので」
「で、でも、さっきアナスタシア女王とクロノ殿の結婚に対して、心配って……」
「はい」
「ほら、はいって!」
「ですがそれは政治的どうこうではなく、どうすればクリス様をお守りできるかという話です」
「ど、どういうこと?」
「クロノ殿とアナスタシア女王。この2人の子供が、御身を討って自分こそが皇帝になると、野心を抱く可能性があります」
「う、うん。そのことを、貴族達も心配しているって話をしていたよね……?」
「帝国が亡ぶのは仕方がないですが、御身が亡くなられるのは絶対に防がねばなりません」
「いや帝国も守ってね!?」
「何より」
主君であり護衛対象の発言をガン無視して、シルベスタ卿は続ける。
「クリス様が、クロノ殿の結婚に悲しみを抱いている」
「……えっ」
驚いたように、クリスは目を見開いた。
「命を守ることが最優先。しかし、次点で心も重要。あの淫乱ドラゴンは釣った魚に餌をろくにやらないのか、最近クリス様とのスキンシップが減っています。もっと乳繰り合え」
「色々と何を言っているのリゼ!?」
「もっと乳繰り合え?」
「2回言えって意味じゃないよぅ!?」
顔を真っ赤にして、クリスは自身の両頬を押さえる。
「ぼ、ボクは別に、クロノ殿の結婚について、なにも思う所なんて……!」
「いや、あるでしょう。どう見ても。ラーメンの伝道師グリンダ殿や、他のメイドがクロノ殿と子を作ることに関しては、本当に何とも思っていないのでしょう。しかし、同じ国のトップであるアナスタシア女王については、別なのでは?」
「う、うううう……!」
クリスは平民相手でも普通に接することができる人格者だが、生まれながらの為政者でもある。
騎士やメイドという身分とは、きちんと心の中で一線を敷いていた。
だが、貴族……ましてや王族ともなると、話は少しだけ変わってくる。
「そ、それが本当だとして、何が言いたいのさ!今日のリゼは意地悪だ!」
「おお。あの優しく、普段なら耳の痛いことを言われてもきちんと受け入れるクリス様が年相応に。ナイスリアクション」
「りーぜー!」
「いえ、私は既に結論を申し上げていますよ?乳繰り合え」
ビシッ、と。親衛隊隊長は親指を立てる。
「ん、んなぁ……!」
「どうせ皇帝の血を遺すには、こっそり子供を作らないといけないのです。だったら、こちらの事情を知っていて、クリス様も好ましく思っている相手との方が良いでしょう。魔力量も凄いので、次世代での反乱対策もできて一石三鳥です」
真っ赤になって口をパクパクとさせることしかできない、クリス。
それに対し、シルベスタ卿は容赦なく言葉を続ける。
「更に我ら親衛隊も、彼と子供を作れば今後ストラトス家が反乱を考えても返り討ちにできる可能性が出てきます。対外的にはクリス様の愛人である親衛隊だって、貴族である以上子供を作らないといけません。丁度いいんです」
「丁度いいだけで子供を作るのはどうかと思うな!?」
「いや、貴族ですからね?私達。法衣ですけど」
どうにかツッコミをいれたクリスだが、マジレスでカウンターされてしまった。
「親衛隊15名。現在、賛成派5名、様子見派6名、クリス様バブバブ派が4名。そろそろ、結論を出すべきです」
「なんて?」
「結論を出すべきです」
「違う、そこじゃない」
思わず真顔になったクリスだが、まだ顔は赤いまま。
そんな彼女の肩を、がっしりとシルベスタ卿が掴む。
「お覚悟を。モルステッド王国も叩けば、グランドフリート家が何か言ってきても黙らせる余裕が……ストラトス家も手伝ってくれるのなら、できるはず。その際にズドンでオギャーです」
「乙女として色々とどうなの!?」
「乙女である前に親衛隊ですので」
そう告げた直後、シルベスタ卿が勢いよく顔を上げる。
瞬間、天幕の入り口が勢いよく開かれた。
「うおおおおおおお!お待ちくださいシャルロット様ぁああああ!」
「ふんぬううううう!おどきなさいませぇええええ!逢瀬の時ですわあああああ!」
レジーナ卿とがっつり組み合った状態で、無理やり押し込んできたシャルロット嬢。
その光景に、思わずクリスが思考停止する。
「ワタクシの勘が告げていますわぁ!これからはベビーラッシュの時代!今のうちに次の皇帝を作らないと時代の波に乗り遅れますわよぉ……!」
「クリス様にも色々と心の準備があるのです……!」
「そう言って、いつも親衛隊とイチャイチャしていては他の家に示しがつきませんわ!ここは1つ、ワタクシともイチャイチャなさいませっ!」
「イチャイチャはしているでしょう!」
「じゃあチョメチョメですわ!チョメチョメの内容は乙女の口から言えませんわっ!」
およそ乙女の姿ではない体勢から、レッドドリル令嬢はレジーナ卿を放り投げた。
「どっせええええええい!」
「すみません隊長、クリス様ああああ!」
殴り合いならレジーナ卿が勝るが、相手は主君の婚約者。純粋なパワー勝負となり、彼女はあえなく天幕の外へと転がることになった。
念のためお伝えするが、どちらも貴族令嬢である。
「クリス様、おさがりを」
コキリと首を鳴らしながら、シルベスタ卿が前に出る。
それを見たシャルロット嬢が、四股を踏むように地面を踏みしめた。
「おどきなさい……シルベスタ卿……!」
「いいえ。どけません、シャルロット様」
「いいでしょう……ワタクシ、貴女とも力比べをしてみたかったのです!」
クワッと目を見開き、シャルロット嬢が吠えた。
「待っていてくださいまし、クリス様!決断の時でしてよ!!」
「いや色々と待って?」
「ううおおおおおおお!ですわぁあああ!!」
「しぃ……!」
「だから待って!?」
───帝国の陣内に、凄まじい衝撃波が轟いた。
なお、決着は皇帝と人竜のダブルお説教により両者敗北である。
* * *
教会領、某所。
その首都とも言える場所の地下を、幾人もの神官が忙しなく走り回っている。
「道を空けよ!どけ、どくのだ!」
部下達に怒鳴り声を上げながら、ジョン大司祭が先頭となりストレッチャーが運ばれてくる。
その上には、アダム・フォン・ウィリアムズ……コーネリアス皇帝の、孫が乗せられていた。
傍を駆け足で進む母親であるウィリアムズ女伯に、彼は薄っすらと目を開けて掠れた声を出す。
「はは、う……ぼ……は……」
「アダム……!」
その枯れ枝のような手を握りしめながら、彼女は大粒の涙を流す。
絶対に離すまいと握られていた手だが、横から神官が2人がかりで引きはがした。
「アダム!」
悲鳴のように息子の名を呼ぶ彼女を置き去りに、ジョン大司祭と部下の神官達が彼を連れて行った。
アダムの細い腕がストレッチャーの端からだらりと垂れたまま、彼らはとある部屋に入っていく。
その鋼鉄の扉が締められるのを見て、女伯を押さえていた神官達は手を離した。
解放され、通路に置き去りとされた彼女。神官達は女伯への敬意など欠片もない様子で、それぞれの仕事に戻っていく。
───今なら。
そう、女伯は思った。一歩、鋼の扉へと足を踏み出す。
しかし何かを思い出したかのように、彼女の体は止まってしまった。
耳元で聞こえる荒い声。振り下ろされる平手と、目の前に広がる血の海。
今はもうないはずのそれらが、彼女の身を縛り上げる。
「ぁ、ぁああ……!」
長い髪を振り乱し、黒い衣服越しに自身を抱きしめながら。彼女は冷たい通路に座り込んだ。
爪が二の腕に食い込み、ガチガチと歯が音をたてる。
「ごめ……なさい……!」
大粒の涙を流す彼女に、寄り添う者はいない。
「ごめん、なさい……!」
かつては、そうしてくれる者達がいた。仲のよい、兄妹達が。
「ごめんなさい……!!」
長兄がいれば、大慌てで彼女へと駆け寄っていただろう。
「ごめんなさい、アダム……!」
次兄がいれば、どうにかして彼女を笑わせようと必死になっただろう。
「ああ……ああああ……!」
サーシャがいれば、彼女を守ろうと走り出したかもしれない。
「私じゃ、なければ……私以外なら、きっと……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
その謝罪は、息子に対してのものだったのか。それとも、散っていった兄妹達に対してか。
彼女は、第一王子のような『公平』さも。第二王子のような『勇気』も、妹のような『才能』もない。
あるのは、刻み込まれた恐怖だけ。体の傷は癒えても残り続ける、心の傷。
ただ嘆くことしかできない彼女に、寄り添う者はなく。
その涙に呼応するように、教会領を雨雲が覆うだけだった。