軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十五話 奇跡の準備

第八十五話 奇跡の準備

昨夜は色々あったものの、きちんと次期当主としての仕事を行っていく。

ハーフトラックに乗り、例の傭兵達を巡回させている地域を視察。何組かそれらしき集団を見かけたが、少し気になることがあった。

傭兵達の管理役がいるので、彼のいる村へと向かい話を聞いてみる。

「お疲れ様です、ベンジャミン。早速ですみませんが、魔力が少し多めの人がチラホラいることについてお聞きしたいんですけど……」

「おお、若様!よくいらっしゃいました!」

騎士の詰め所で出迎えてくれる、ベンジャミン。うちの現役騎士達の中では3番目に古参である、クマのような大男が柔らかく笑う。

彼は朴訥とした印象の顔立ちながら、その体格に似あった勇猛果敢な戦い方が特徴であった。おかげで、顔を見て舐めた態度をとった傭兵が彼の剛腕の餌食になり、それが良い見せしめになるとか……。

「傭兵達の魔力については、大して珍しいことではありません。彼らは恐らく、『巡礼』の結果ですな」

「……はい?」

当然のように答えるベンジャミンに、首を傾げる。

「聖都に住む司祭以上の地位にいる人間は、貴種の血を引く者が多いのです。そういった者達が巡礼として各地を回った際に、村や街で接待されるのですよ。その際にできた子供が、故郷を跳び出して傭兵になったのかと」

「……神官が、村人達を襲っていると?」

「いえ。大抵は村人側が誘いますな。魔力持ちの子供ができれば、野盗や魔物が出た時の対策になります。そうでなくとも、畑仕事なんかで便利ですからな!」

「あー……」

なるほど。魔法を学習できる環境ではないとしても、魔力が多ければ身体能力は高くなる。肉体労働者として、需要は高い。

そして、巡礼する神官達が妙に強気なのも、行く先々でもてはやされるから……というのも、あるかもしれない。

個人的には、聖職者としてどうかと思うが。双方が合意しているのなら、とやかく言うことでもない。

「ただまあ、そうして生まれた子供が大事にされ過ぎて『自分はこんな所で燻っている人間じゃない!』と過剰に自信をもったり、逆に乱暴者として村で厄介扱いされて、傭兵になるケースも多いのです。偶に野盗として討伐することもありますな!」

「……そう言えば、僕も昔父上に連れられて行った野盗狩りで、それっぽいのを見たような……」

「あいつらは身体能力や魔力こそ騎士と大差ありませんが、戦闘に関する技術を習っておりません。それに、魔力制御が下手なので歳をとるとすぐに身体能力もただ人と変わらなくなる。武功を上げて、どこかの家に召し抱えられたら別ですがな。先輩騎士達にしごかれるので」

「なるほど。ただ、やっぱり敵国の人間が紛れ込みやすい環境ですね。その分、『調査』はしっかりやっているでしょうけど」

「勿論です。お館様からも、厳命されておりますので」

そう言って、彼が割符を取り出す。

「各傭兵団に別々の割符を配り、定期的に確認しております。それに、傭兵というのは横の繋がりが意外な程しっかりしていますからな。近くの傭兵団が別の顔になっていたら、教えるように奴らへ言い聞かせています。賞金つきで」

「今のところどうですか?不審な動きはありませんか?」

「実は一昨日あたり、スネイルの方からうちで雇っている傭兵団の幾つかに寝返りを持ちかける輩が来たらしいのです」

「それは本当ですか?」

「ええ。ただ、傭兵共は『面倒だからいいや』と、酒を飲みながら追い返したようですよ。一応、付近の村人からの証言も得ています」

「それはまた……忠誠とは、違うのでしょうね」

「はい。傭兵というのは、雇用条件次第でコロリと陣営を変えます。そういう意味では、金貰って酒飲みながら歩いているだけでも良いうちの環境は、奴らにとって天国でしょう」

「……それはそれで、困るんですけどね」

「牙が抜けそうな奴ばっかりですからな!」

父上が危惧していたとおり、思った以上に平和ボケしているらしい。裏切られるよりは、良いのだろうけど。

頭痛を覚える状態だが、ベンジャミンはクマの着ぐるみを連想させる、柔らかい笑みを浮かべた。

「ご安心ください、若様」

「何か、彼らを引き締め直す策が?」

「いえ、そんなものは必要ありません」

キッパリとそう言い切って、彼は続ける。

「戦争が起きたら、紹介状のない奴は全員纏めて敵に突っ込ませて、相手の兵と矢を消耗させるだけですから。逃げる奴は背中を撃ちます。その突撃で生き残り、なおかつ武功を上げたら若様が紹介状でも書いてやってください」

……さらっと、怖いことを言うな。

ニコニコと、子供に好かれそうな笑顔でそう告げる騎士に、頬が引きつるのを自覚した。

* * *

続いて、商人達と顔を合わせていく。領都へと戻り、執務室にて特に有力な者達と面会した。

ただまあ……なんと語れば良いのか。

皆さん揃って、目が血走っている。

「クロノ様!わたくしめはこれ程の貢献をいたしましたぞ!」

「いつ頃オールダーとの戦を始めるのですかな?明日ですかな!?」

「もしも兵が足りないというのでしたら、我がキャラバンからも人を出します!なんなら、儂自ら!」

「こちら、帝都で購入した絹でございます。どうぞお納めください。それで、話は変わるのですが、戦の際はうちの若い衆をですね」

圧が、凄い。

揃いも揃って、『戦争はまだか』『早く、早く戦争を』『オールダーを殺しましょう』と言ってくる。

父上……父上が、彼らをここまで追い詰めたの……?

やっぱりあの人、家族と領民以外には悪魔みたいな存在じゃなかろうか。

商人達が帰った後、執務室でぼそりと呟く。

「これ……もしかしてかなり恨みを買ってません?」

「その心配はないかと」

隣でニコニコと商人達の話を聞いていたアレックスが、彼らの『心遣い』についてリストを作りながらこちらに顔を向ける。

すげぇ。手元を一切見ていないのに、ペンが澱みなく動き続けている。

「彼らは、お館様を、ストラトス家を恨んでなどおりません。ああも興奮しているのは、それだけ『商機』だと考えているからでしょう」

「そこまで、オールダーの市場は魅力的なんですか?」

「はい。あの国がこうも貧乏なのは、帝国がホーロスと組んで絞りに絞っていたからです。帝国に取り込まれた後なら、良い市場となるでしょう。しかも、ストラトス家には良い『船』がありますから」

「……蒸気船を貸してほしいと?」

「そこまでは言ってこないでしょう。金を払うから、荷物を置かせてほしいとは言ってくるかもしれませんが。海は危険な場所ですが、比較的陸に近い所ならそれ程でもありません。そう言う場所には、海賊が出やすい。ストラトス家の船が巡回するのなら、安全な航路ができあがります」

「なるほど……」

「そして、お館様と若様が作った『銀行』。あれは良い。銀貨や銅貨を運ぶのも大変ですからな。彼らとしては、侵略したオールダーにも同じ物を作ってほしいのでしょう。『人竜の金庫』ならば、安全安心。半島であるオールダーを中心に、貿易を広げたいのかもしれませんね」

「……余裕がでたら、蒸気船を商人に有料で貸し出すのも有りかもしれませんね。乗組員つきで」

「乗組員には、『鼻が利く者』が相応しいでしょうな」

「ええ。まあ、それも余裕が出たら、ですけど」

「15年後には、余裕も出ていることでしょう。若様のおかげで」

「……いや、うん。その話はやめましょう」

オールダーに勝利した暁には、今度こそ『土地』をクリス様に要求することになる。無論その場所は、かの国があった場所だ。

アイオン伯爵が亡き今、事実上ストラトス家があの国に『蓋』をしている。それはつまり、あそこに商人達の街ができれば、その流通をうちで取り仕切ることができるということ。

海路は蒸気船が。陸路はハーフトラック……そして、いずれできる『機関車』を使う予定だ。

別に、蓋をしたからと言って商人達を縛る気はない。むしろ育てる。

富国強兵。まずは民を肥えさえせなければ。そして、うちの庭にできた場合、あそこが丁度良い。

もっとも、全て先の話だ。捕らぬ狸の皮算用と、笑われそうな考えである。

しかし、是非ともオールダーは欲しい。どの道、あの国と雌雄を決する必要が帝国にはある。先帝を討たれた以上、そうでなければ面目が立たないのだ。

そして、それはオールダーにとっても同じ。

ノリス国王。正直コーネリアス前皇帝とトレードしてほしかった賢君にして、覇王。

彼を殺した自分を、オールダー王国も許しはしない。アナスタシア女王は、全力でこの身を殺しにくる。

どちらかの国が滅びるまで、帝国と王国の戦は終わらない。もはや、その領域である。

そういう状況にした者の1人が言うことではないが、何とも血生臭い話だ。

閑話休題。商人達のことに思考を戻す。

「しかし、牙の抜けた傭兵達より商人達の方が血気盛んというのは……」

「彼らにとって、今が一世一代の大博打の時ですからな。興奮して当たり前です。オールダー王国の商人達よりは豊かでしょうが、彼らとて帝都の周囲では活動できない中小の商人達。これは、戦争なのですよ。彼らのね」

老執事は、ペンを置いてリストに目を移す。

「皆、全力です。若様はオールダー・スネイル連合を打ち破ることだけをお考えください。帝都での事情聴取が終われば、お館様……カール様もこちらへお戻りになられます。今はまだ、親の背に甘えて良い年頃ですぞ」

「……ええ。貴方にも甘えさせてもらいます、アレックス」

「おやおや。それは何とも光栄ですな。若様」

ニッコリと笑う老執事に、こちらも笑みを浮かべる。

「ただその前に、こっちはこっちで裁判を済ませないといけませんが」

「おお、そうでした。しかし、本当に準備はこれでよろしいので?」

「はい」

アレックスが、懐からメモ帳を取り出して魔女裁判に際してこちらで準備する物のリストを眺める。

老執事の眉間に皺ができ、豊かな髭の下で口元が『へ』の字になるのがわかった。

「ですが……酒に料理、絹の衣服。大きな舞台に、観覧席。それに出店までずらりと並べて、楽団まで……」

「むしろ、それらがなければ始まりません」

ジョン大司祭から、聖都から『よろしい。自分で作った銃にて裁かれたいのであれば、銀の弾丸でもってその心臓を浄化しよう』と返答が来たと手紙で知らせてくれた。

あとは、魔女裁判で使われる鉄砲次第。それがどういう物であれ、最終的にやることは決まっている。

「ギルバート侯爵から聞きました。魔女裁判とは、民衆の欲望から始まり、熱狂で広がるのだと」

立ち上がり、カーテンを少し開く。

まだまだ日は高く、陽光が室内を照らした。

「お祭りにしましょう。民衆に奇跡を見せる為に」

種も仕掛けもある、父上が聞いたら渋い顔をしそうな『奇跡』ですけど、ね。