軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十二話 濃いめの情報共有

第八十二話 濃いめの情報共有

「───以上が、連絡が途絶えた後に自分が経験したことです」

「ふむ……」

流石に喋りづらそうなので、首に巻いた鎖は外し、父上にここまでのことを話す。

彼も真剣な表情で頷き、ストラトス家当主としての目でこちらを見てきた。

「わかった。よく頑張ったな、クロノ。ケネス達もだ。よく我が息子を支えてくれた」

「はっ」

「恐縮です、お館様」

「しかし、ホーロスの薬か……全て燃えてくれるのなら良いが……それと、密輸ルートとそれを使う商人達の情報だが、カーラとやらは信用できるのか?」

「……彼の人となりを把握しているわけではありませんが、死に際に嫌がらせで嘘の情報を渡してくるとは思えません」

「そうか。まあ、東の貴族達も今回ばかりは必死だろう。グランドフリート侯爵が関わっているのなら、ある程度は売人と畑は潰せるか……」

「父上は、ギルバート侯爵と面識があるのですか?」

「面識と言える程の繋がりはない」

こちらの問いかけに、彼は首を横に振る。

「ただ、何度か軍役で一緒に戦ったことがある。優秀な将であり、貴族だ。少々情に厚すぎる所があるが、信用はできる」

「そうですか」

「それより、やはりアンジェロ枢機卿の一件が気になるな……特に、アダム様の症状との関係が怪しい」

父上の眉間に、深い皺ができる。

「治癒魔法について、適正はないが知識ならあるつもりだ。しかし、そのような症状は聞いたことがない。遍歴の騎士と偽って、旅をしていた頃も、だ。そもそも生物の構造上、自然にそういった症状が起きる可能性は極めて低いだろう」

「……申し訳ありません。自分の勉強不足でした」

「どちらかと言えば、経験不足だな。良いか、クロノ。人は相手の秘密を1つ暴くと、それで満足してしまうことが多い。それが馬鹿らしく、なおかつ醜聞の類であればある程な。詐欺師の常套手段なので、よく覚えておくと良い」

「はっ」

「そう気落ちするな。そもそもウィリアムズ伯爵家と、クリス皇帝が解決すべき問題である。本来、お前が何かをする必要はない。だが……そうだな。どうせ裁判で帝都に行かねばならんのだ。俺の方で、調べておくとしよう。教領の者どもが関わっているとなれば、帝国全体に影響があるかもしれん」

「よろしくお願いします」

「うむ」

自分はこれから、魔女裁判への対策や、連合への防衛準備にあたらねばならない。

己の失敗を自力で取り戻せないのは悔しいが、ここは素直に父上を頼ろう。

「だから、そう気に病むなと言っているだろう。我らにこの世全てを見通す、神の瞳は備わっていない。知り得る情報には限りがある。向上心も責任感も大事だが、自分の立場を見誤るなよ、クロノ」

まるで、それこそ神の瞳のようにこちらの内心を見透かしてくる父上に、もう一度頭を下げる。

彼の言う通りだ。この身はストラトス家の長男。まずは、お家のことを考えねば……。

「それから、お前が魔女認定された理由はグランドフリート侯爵の予想通りだろう。我が愛しき息子よ。この件で、お前に落ち度などない。俺達は、クロノが悪魔と契約などしていない。優しい子だと知っているよ」

「……ありがとうございます」

「感謝することはない。当主として、そして親として。当然のことを言ったまでだ」

ストラトス家当主の顔から、父親としての顔に戻り、彼はほほ笑んだ。

それに感謝し、すぐに思考を切り替える。

「それで、こちらでは何があったのですか?」

「イーサンとかいう悪魔が、フラウに粉をかけている。奴こそ燃やすべきだ」

父親の顔から、クソのつく親バカの顔になる父上。

もうちょっと、尊敬できる状態を維持してほしかったなぁ……。

「お館様だけだと歪んだ解釈だらけになりますので、私から報告させていただきます」

「うん。アレックス、頼んだ」

「待てクロノ。ここはまず、イーサンとグリンダを暗殺してからにしよう。大丈夫。パパが全部やってあげるから」

「お館様。どうぞ、猿ぐつわです」

「ケネス!?貴様もしや、悪魔とけいやもごもごもご!」

猿ぐつわを再度装着され、唸り声をあげながら鎖をガシャガシャと鳴らす父上。

それに慣れた様子で、アレックスが報告をしてくれる。

「あれは、帝都に向かったはずの伝令が、予定を大きく過ぎても帰ってこなかった頃のことです……」

* * *

アイオン伯爵による、ストラトス領と帝都間での街道封鎖。

父上がこの事態に気づくのが遅れたのは、偏にオールダーへの妨害に全力を出していたからである。

彼はオールダー王国とスネイル公国を行き来する敵軍の部隊を積極的に狙い、なおかつオールダー王国を……アナスタシア女王の足元を削る為に少数精鋭でもって攻撃と撤退を繰り返していた。

そして、代わりに姉上が家臣達と領内にいる商人達からの報告を受け、調査に乗り出したのである。

「勿論、我らはフラウ様まで出撃することに反対しました。しかし、お館様もクロノ様もいない今こそ、この血の責任を果たすべきだとおっしゃり……」

姉上はあれで、ノブリス・オブリージュをそこらの貴族の何倍も持っている。

何だかんだ領主としては真面目かつ優秀にこなしていた父上の教育と、彼女が愛読する騎士道物語の影響だろう。

男衆が戦争で家を空けている間、家のことを取り仕切るのが女達の役目。それが、クロステルマン帝国だ。

じゃあ結婚とかもっと妥協しろよという話は置いておいて、姉上は比較的古参の騎士に指揮を任せつつ、自身が総大将として責任と砲台役を買って出て出陣。

犯人達は銃を持ったストラトス家の兵士や騎士まで討ち取っている可能性が高い為、彼女らは細心の注意を払って調査に向かった。

しかし……。

「敵は、予想以上の手練れでした」

相手は、『まるで銃のことを熟知しているようだった』らしい。

犯人達は土魔法と水魔法を巧みに使い、銃の破壊力を妨害。更には、こちらの銃撃で発生した白煙を目くらましに利用し、接近戦を仕掛けてきたのだ。

ただの野盗では勿論ないし、アイオン伯爵家の手勢だとしても練度が高すぎる。彼の手勢で『銃を前に一度散開した後、突撃寸前で再集結する』などという者達がいれば、伯爵はそこら中に自慢してまわっていたはずだ。

父上から以前聞いた人物評なので、信用度は高い。だが、誰がアイオン伯爵のもとへそんな精鋭を送ったのかは不明なままである。

閑話休題。そうして窮地に陥った姉上だったが……。

世の中というのは、実は小さな劇場の狭い舞台の上なのかと思うような、偶然が起きた。

「あわや、フラウ様に敵の刃が届くかという時!一騎駆けしてきた勇者が、その凶刃を打ち払ったのです!」

アレックスが、瞳を『カッ!』と見開きながら語る。

彼は興奮しているのか、身振り手振りを交えて話を続けた。

「イーサン様は我が身の危険も鑑みず、レディの窮地を助けぬわけにはいかぬと、たった1人で敵陣に突撃!その巧みな槍捌きと馬術で敵を翻弄。そこへ彼の手勢が追い付き、形勢は逆転したのです!」

「おおっ!」

ケネスが、その熱に当てられたかのように拳を握る。

一方、父上は眉間に凄まじい皺をよせながら拳を握りしめていた。すげぇ、顔中に血管が浮かんでいる。

「自らも負傷しているというのに、イーサン様はその優雅さを崩すことなく、フラウ様の手をとり心底安堵した顔をなさいました。そしておっしゃったのです。『可憐な華よ。お怪我はありませんか?』と……」

「FOOOO!」

ケネス、ちょっとうるさい。

しかし、なるほど。

「それで、姉上があんなことになっているんですね……」

「はい。まるで騎士道物語を生で見ているようでしたよ。流石に色々とできすぎではと、我らも心配し調べたのですが……他の傭兵団との衝突などの『やんちゃ』は見受けられましたが、それでも裏はないと判明しました」

「むぐぉぉぉ……!」

父上が、凄まじく悔しそうに唸り声を上げる。

なるほど。さては、イーサンの存在しない闇を白日の下に晒した上で糾弾するつもりだったが、空振り。結果、姉上と彼との逢瀬の時間を作ってしまったと。

すみません、父上。正直『ざまぁ!』って思ってしまいました。

「若様は素晴らしい若者を送ってくださいました……色んな意味で」

「自分でも、イーサンをストラトス家に招けたのはかなり幸運だと思っています……色んな意味で」

兵士としても、小隊指揮官としても優秀。それでいて、姉上の結婚相手筆頭。

この世界基準では行き遅れと呼ばれてしまう姉上だが、遂に春が訪れたのである。

「それはそうと、もしかして父上が突発的としか思えない形でアイオン伯爵を殺したのって……」

「はい。お察しの通り、フラウ様が危険にさらされたことへの怒りと、娘に男の影ができてイライラしていた八つ当たりです」

「やっぱり……」

どおりで、父上にしてはアリバイ工作が杜撰だと思った。

この人、普段は優秀なのに親バカモードになるとこれである。

「それと。フラウ様が『イーサン様がストラトス家の者に殺されたら、彼の後を追う』と定期的に屋敷内でおっしゃっているので、お館様も表立ってイーサン様に槍を向けられないのです。仕事から戻って早々これを言われたのが、更に殺意を強めたのかと……」

「なるほど。その手が……」

「若様?まねしないでくださいね若様?ご長男がその脅しを使うのは、我ら家臣の胃と心臓がもちませんので」

「……はい」

自分もやってみるかと思ったが、ケネスに釘を刺されてしまった。

まあ、仕方がない。切り替えていこう。

「それで、アイオン伯爵領に立ち寄ったらやけに好感度が高かったのですけど……」

「ああ。それは伯爵が無茶な増税を繰り返していたのと、魔物や野盗への対処が疎かだったことに平民達が反乱を起こしていまして。お館様が彼を討った後、すぐにアイオン伯爵家にあった財や食料を各地に配り、ついでに魔物や野盗を轢き殺して回ったからですね」

「なるほど」

父上らしいと言えば、父上らしい。

たぶんだが、このままアイオン伯爵領が荒れると一番困るのはストラトス家だと気づき、リカバリーに動いたのだろう。配ったのはアイオン伯爵の金と物だが、配りに行ったのは父上だ。実行したのが誰か、というのは大きい。

そして、あの領地がある程度回っているということは、現地の騎士達も懐柔済みということだろう。

伯爵に近い家臣達は殺害したと聞いたが、逆に遠かった者達には砂糖を吐きそうなぐらい甘言を囁いたに違いない。

「なら、商人がやけに元気よく動き回っているのは?」

「それに関しては、対オールダーのことも含めてご説明せねばならないのですが……」

「むー!むー!」

「……父上の口枷を、外してください」

「はっ!」

ケネスが口枷を外すと、父上がキリっとした顔で領主モードになる。

「結論から言うと、『傭兵達を大量に雇った』」

「傭兵を?」

「うむ。商人達は、奴らの食料やら何やらを買い集めているのだ。地方はともかく、中央は毎回物に溢れている。皇帝領も無事だったからな。売る程物資が余っている所から、大急ぎで運んでいるのだ」

「それはまた……傭兵達の数は?」

「26の傭兵団、総勢約2千人だ。これだけの数が今、オールダー王国とスネイル公国の間をつなぐ道を走り回っている」

「……停戦協定に違反しませんか?」

「安心しろ。別にオールダー王国には攻撃していない。ただストラトス家の旗を掲げて移動しているだけだ。旗を掲げた状態でやらかしそうな者は、俺か、あのイーサンとかいう小僧が殺している」

「なるほど。しかし待ってください。それだけの傭兵、雇う予算があったのですか?」

「半分は借金だな。銀行を作って、領内に商人達を集めただろう。奴らから募ったのだ。無論、無理やりではない。契約に反するからな。むしろ、商人達はこぞって自分から金を出したぞ」

「自分から?何故……」

「なに。借金の質としていれたモノが、それだけ魅力的だったに過ぎない」

ニヤリと、父上が笑う。

「俺が質に入れたのは、『オールダー王国制圧後の市場』だ」

「……あっ、それって!」

「応とも。奴らは、オールダー王国に勝った後、あの国で好きなように商売ができると考えている。税をほとんど取られない、素敵な市場だ。だがそれにはまず、俺達が勝たねばなるまい?」

「……サクラを、どれだけ使ったんです?」

「いいや?俺はただ、何人かの商人に『ここだけの話』を持ち込んだだけだぞ?」

ニッコリと、そのイーサンとは別方向に王子様っぽい顔に笑みを浮かべる父上。

「オールダーという市場は手つかずだ。どれだけノリス国王やアナスタシア女王が優秀だろうと、そもそも国そのものに体力がない」

「……!」

かの国には、英雄も怪物もいる。

だが、物がない。金がない。人がない。見事なまでに、ないない尽くしだ。

帝国が、そうしていた。

「その上、各国の間でずっと、オールダーは帝国が本気で潰しにいけば簡単に消し飛ぶと有名でもある。その評判を利用したにすぎん」

自分にも、心当たりのある話だ。

たしかに帝国は一度オールダーとの戦で事実上の大敗をしたが、『次は勝てる』と帝国の誰もが思っている。自分とて、クリス様と撤退中同じように『帝国の負けはない。問題はうちの被害』と考えていた。

今でこそ色々な情報を知って、危うさに気づいているが……それは、自分が政府の中枢にここ数カ月いたからに他ならない。

いくら耳の早い商人でも、皇帝の隣以上に諸々の情報を集めるのは難しいだろう。

なんせ、この世界にはメールどころかラジオもない。情報の『速度』と『精度』が前世とはまるで違う。

「言っただろう?人間はな、自分で気づいたものに弱いのだ。商人達は、仲間の様子からこの『商機』に気づき、その後『条件』に気づいた。奴らはもう、俺達が勝つ為なら何でもするぞ?」

「……やはり、父上は凄い人です」

「いやぁ、それ程でもあるなぁ!パパ、嬉しい!!」

デレっとした親バカの顔で、悪魔のような所業を誇る父上。

もしも勇者教が『契約した悪魔の名はカール』と言ってきたら、自分は即座に否定できないかもしれない。

やったこと自体は説明されればすぐに納得できるものばかりだが、この人はそれを短時間で、それも他の件に対応しながら並行してやり遂げたのだ。

停戦の締結までオールダーの国境を荒らしまわり、商人達を誘導し、傭兵達を搔き集め、アイオン伯爵を叩き彼の領地を鎮静化させ、オールダーとスネイル間の交通を邪魔し続ける。

まさに、化け物としか言いようがない。

「あ、そうそう。傭兵達は基本的に、貰った給料で生活している。うちの領内でな」

「……つまり、父上や商人達が払った金で、領民や商人達から物を買っている。ということですね。金が領内だけで循環しています」

「左様。略奪に走るバカは無論いるし、処してもいる。だが、奴らも戦うよりただ走っているだけで貰える金の方が魅力的だろうよ。暴れたくなった者達は、うちの傭兵ではなく『通りすがりの賊』としてオールダーかスネイルの領土で暴れれば良い」

「こちらは、快適な寝床を提供しているだけで良い、と」

「まあ、牙が抜けすぎている傭兵団も出てきているがな。大人しくなるのは良いが、実戦で突撃させられるか不安になる者もいる。停戦明けより前に、猪から豚にならなければ良いがな。それだけが不安だよ」

やれやれと、父上が首を振る。

「口頭で伝えられるのは、ここまでだな。詳しいことは書類に纏めてある。後で俺の書斎に来なさい」

「はっ」

「あと、そろそろ拘束を解いてくれないか?」

「地下牢を出た後、父上は最初にどこへ行きますか?」

「武器庫」

「幽閉で」

「待ってぇ!?」

殺る気スイッチを手放してくれ、マジで。

いつまでも帝都に行かない理由をこじつけるのも無理があるし、アンジェロ枢機卿の真意や、アダム様のことも気になる。

父上が普段通り動いてくれないと、と困ることだらけなのだ。

情けない話だが、自分はまだ貴族として生まれて15年。先達である彼に、まだまだおんぶに抱っこしてもらいたい。

……物理的にはされたくないし、口に出して頼んだら一生甘やかされ倒す気がするのが、怖いけど。

そんなことを考えていると、地下牢に足音が近づいてくる。

ガチャリと牢を開けて入ってきたのは、メイド服姿のグリンダだった。

「失礼します。今お時間よろしいでしょうか?お館様。若様」

「きぇええええええ!魔女めっ、我が息子を誑かしにきたか!出あえ、出あえぇええ!者ども、こやつの首を獲れば一生無税であるぞぉおおおお!」

「グリンダ。ごめん、今父上はこんな感じで」

「……いつも通りですね!」

「うん。それもそうなんだけれども」

ミシミシと石造りの壁が軋みをあげ、父上の拘束具が大きく揺れる。

いつ自力で牢を出て、ありったけの武器と毒を持ってグリンダやイーサンを襲うかわからない。

「落ち着いてくだされ、お館様!」

「えぇい、まるで猛獣だな!」

「うおおおおおお!クロエ!俺に、子供達を守る力をぉおおお!」

「奥方様が生きていらっしゃったら、拳骨いれて説教していますよ!」

「ああ……見える………俺に微笑んでくれているクロエが……力を貸してくれるのだな……!」

「お館様。その奥方様、拳を振りかぶっていませんか?あるいはビンタ」

「いや、跳び蹴りかもしれん」

「黙れ!俺の記憶にあるクロエはそうだが、妄想の中のクロエは違うのだ!」

「妄想って言ってんじゃねぇか」

「どっちも楽しめてお得だろう!」

「アレックス、今のはどういう意味だ」

「ケネス殿。理解できてはいけない類の妄言なので、聞き流しましょう」

「うおおおお!家族の愛と絆と勇気をここに!悪を討つ力よ、この手に!」

姉上とイーサンの件とか、自分とグリンダの件とか、勇者教の腐敗具合とか。

溜まりに溜まったストレスが爆発したのか、父上はノンストップである。

どうしたものかと考えていると、グリンダが彼に近づいた。

「ちょ、危ないですよ!」

「そうですグリンダ様!今のお館様はいつも以上にダメです!」

「───破滅の時きたれり。我は万物を統べる者。我は万物を砕く者。この世に壊れぬものはなく、我が身もまた」

「いかん、詠唱を!」

「妊娠、したかもしれません」

「こわれ……は?」

ケネスが噛ませようとした口枷を顎の力で砕いた父上の詠唱が、止まる。

同じく、この場にいる者の時間が、彼女以外全員停止した。

「若様の子を、妊娠したかもしれません」

若干頬を赤くしながら、真剣な面持ちでそう告げるグリンダ。

「生理がいつもより遅く、それに体内の魔力の動きも普段とは違うので……『授かった』可能性が高いかと」

「ぉ、ぉぉ……!」

自分の喉から、意味をなさない声が出る。

感動か、驚愕か。胸を渦巻くこれが、どういう感情か言語化できない。

ただ、無意識にグリンダの肩を抱いていた。

「ありがとう……グリンダ……!」

「はい。若様……」

肩を抱く手に、そっと手を重ねて、グリンダがはにかむ。

傍にいたケネスとアレックスが、ゆっくりと互いに顔を見合わせ。

───ガシィ!

無言のまま抱き合い、漢泣きする2人。今だけは、そんな彼らを大袈裟とは言えなかった。

しかし、すぐに父上のことを思い出す。

いけない!こうしている間に詠唱を終える可能性が……!

「 」

「ち、父上……?」

父上の様子が、いつもとは別方向におかしい。

ぽかん、と開いたまま閉じない口に、見開かれた状態で固定されたような瞳。

まさかと思い、そっと口元に手を近づける。

「し、死んでる……!?」

この後頑張って心肺蘇生した。