作品タイトル不明
9.成果を挙げたい
数日後の工房に国王陛下からのお達しがあった。
「今度、リトゥス王国に使節団を派遣する見込みです。リトゥス王国は魔法に縁深くヴェールに包まれた国で、大昔は特別な魔法道具やポーションを生産していたという記録も残っています。ということで、その使節団には数人の宮廷錬金術師も同行させることになりました」
宮廷錬金術師工房を取り仕切っているローナさんの言葉に、皆がざわつく。
「リトゥス王国って、国交がないから訪問できなかったんじゃないの?」
「本当に行けるならすごいな」
「でも安全面ってどうなんだろう」
「それでも僕は行ってみたいな。あの国、夢があるじゃん」
「わかる。俺も立候補するわ」
そんな言葉が聞こえてきて、緊張感が高まる。そうですよね。ここにいるのは、ほとんどが魔法や錬金術が大好きな方々で。リトゥス王国に行きたいのは私だけじゃないというのは当然です……!
それに、私はここで宮廷錬金術師と同じような仕事をしているけれど、実際にはアカデミーを出ていないし正式な試験も受けていないため、見習いのままなのだ。立候補しても認めてもらえない可能性もある。そうなったらどうしよう……。
以前、レイナルド様は私を宮廷錬金術師として雇用できるように、特例で試験の場を設けると言ってくださったことがある。
そのときは、そんな恐れ多いことはできないと思ったし、薬草園メイドで満足していたので、私はお断りした。アカデミーをきちんと卒業していないのだから、その判断は間違いだったとは思っていない。
でも……。こんなとき、私にも宮廷錬金術師の肩書きがあればよかったなと思ってしまう。
「同行を希望する者は、今日中に私まで申し出ること。知らせは、以上」
ローナさんのピリリとした一声で、朝礼はおしまいになった。皆がそれぞれに与えられた業務につき始める。私も、と思ったところで、ローナさんに声をかけられた。
「フィーネさん」
「はい」
「レイナルド殿下から聞いたんだけど、使節団の派遣に必要な魔法道具の開発を手伝ってくださるんですって?」
「! はい。工房の倉庫で脚立がわりに使っている『空飛ぶ絨毯』を改良すると聞いています。わ、私にできることがあれば……!」
「助かるわ。それで、このプロジェクトはフィーネさん中心で動いてもらってもいいかしら?」
「えっ?」
ローナさんからのまさかの申し出に驚いた。だって、これはローナさんのお名前で登録している特別な魔法道具だ。それを私が好きに改良するなんて、普通はありえない。私の疑問に答えるように、ローナさんは声をひそめた。
「フィーネさんが優秀なのはわかっているわ。この冬にたちの悪い風邪が広がらなかったのはあなたが開発した魔力空気清浄機のおかげだもの。でも、見習いのあなたを推すにはもう少し実績が必要なの。……将来有望な人にこそ、経験を積ませたいと思うのは当然でしょう?」
「……!」
ローナさんは、暗に私に手柄を立てさせて使節団に入れる口実にしたいと言ってくださっているようで。とてもありがたくてうれしくて、私は力強く頷く。
「良い結果を出して、使節団に入ることを目標にします」
「期待してるわ」
ローナさんは爽やかに微笑むと、茶色いポニーテールを揺らしていなくなった。その後ろ姿を見つめながらあらためて決意する。頑張らなきゃ……!
決意を固めた私は、ローナさんから預かっている鍵を使い魔法道具のレシピを保管しているキャビネットの扉を開けた。『空飛ぶ絨毯』のレシピを探して取り出したところで、声をかけられる。
「アンタ、行くの?」
「わぁっ。ミア様」
「行くの?」
これは、リトゥス王国に行きたいかという問いだと思う。ミア様は、私とローナさんの会話を聞いていたみたいだった。
「はい。行きたいなとは思っています」
「ふうん。そんなに頼りなくて、長旅大丈夫なの? 工房の人たち以外にも他部署の人たちがたくさん同行することになると思うけど。ちゃんと会話できるわけ? いじめられるんじゃない?」
「がっ……がんばります!」
私ができるかぎりの大きな声で答えると、ミア様はふんと鼻で笑った。馬鹿にしているみたいだけれど、ちょっと憎めない、かわいらしい笑みだ。
そうして、ミア様は私が胸に抱えていた『空飛ぶ絨毯』のレシピが入ったファイルを奪い取る。
「あっ……それは」
「これ、改良するの? 魔力がたくさん必要になるだろうから、手伝ってあげる。……あと、個室も予約入れてきてあげる」
……もしかして、手伝ってくれるということなのかな?
聞こうと思ったけれど、ミア様はその間すら与えてくれることはなく、私とは目も合わせずにテキパキと動き出す。
けれど、目を瞬く私の前、工房を出て行ったミア様の耳はちょっと赤かった。