軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7.手記ととある魔法道具

「この本は……手記でしょうか?」

「ええ。数百年前にリトゥス王国を訪問した人のものなの。その頃はまだ魔法が残っていたから、状態保存の魔法がかかっていて状態は良好なのだけれど」

リズさんはそう言って私から本を預かると、ペラペラとめくる。

「こんなふうに、かなりの割合が黒塗りで読めないようになっているの」

確かに、本の中は半分以上が黒く塗りつぶされていた。かなりしっかり塗りつぶされているようで、紙についた跡などからの判別も難しい。

「どうしてこんな、……何を隠したかったのでしょうか」

「謎に包まれた国ですからね。紙の表面を調べてみたのだけれど、微弱に魔力の気配が残っているの。もしかして、この紙には手記の作者の意思には関係なく、後から重要な部分だけを読めなくするような魔法がかけられていたのかもしれないわね」

「そんな魔法が……!」

思わず目を輝かせてしまった私に、リズさんはふふふっと笑ってくださった。

「レイナルドと同じ反応をするのね」

「!」

恐れ多い言葉に恐縮してしまった私だけれど、レイナルド様はなぜか上機嫌でとあるページを開く。

「フィーネ見て。この絵」

レイナルド様が指差したページには、リトゥス王国の王城らしきものがイラストで描かれていた。険しい山岳地帯の上に建つお城には、とても高い塔がある。そして、塔の上部は黒く塗りつぶされていた。

「わぁ。数百年前のリトゥス王国の王城ですね……!」

「お城が黒く塗られているなんて謎だよね」

レイナルド様の言葉に頷きながら、ほかの本も手に取ってみる。そちらもやっぱり同じように黒塗りになった部分がたくさんある手記だった。さっきのものとは年代が違うらしく、書かれている文字が古い。

けれど、リトゥス王国の古代語は魔法書の呪文と同じような作りになっているので問題なく読めた。これ、もしかして『声に出して読んだら魔法が発動してしまう』のかな。気をつけないと。

「面白いでしょう? 私が王宮に嫁いできてから少しずつ時間をかけて集めていたものなのよ。研究の速度を上げたのはここ最近のことなのだけれどね」

「王妃陛下は、どうしてこのような資料をお集めになっているのでしょうか?」

質問をすると、王妃陛下はにっこりと微笑んだ。

「初めは興味本位で調べ始めたのだけれど……そのうちに、リトゥス王国との間に国交を持つことは間違いなく我が国のためになると思うようになったの。きっと、あの国は魔法が消えたことに関わっているわ」

「魔法が消えたことに」

繰り返しながら、どきりとしてしまう。

だって、十数年もかけてリトゥス王国のことを調べてきた王妃陛下がおっしゃるのだ。決して何の裏付けもない話ではないと思う。

それに、私はリトゥス王国の王族とおなじ外見をしている上に、魔法まで使えてしまうのだ。王妃陛下がおっしゃることが、ますます真実味を帯びてくる。

そうして、私は新たなページをめくってから、固まった。

「フィーネ?」

「あの」

そこには、王冠を身につけた人の絵。矢印で髪の色や瞳の色が書き込まれている。やっぱり黒塗りになっている部分はあるけれど、リトゥス王国の王族の身体的特徴を示しているようだ。

「彼らの体のことについての資料はその本ね。見て。よく知られている髪の色や瞳の色のほかに、心臓の部分に×の印がついているでしょう? そこから伸びる矢印――説明が書かれている部分が黒塗りになっていて読めないの」

「本当ですね」

王妃陛下がおっしゃる通り、人の絵の心臓から伸びる矢印の先は真っ黒だった。きっと、重要な部分だからこうなっているのだろう。もしかして、命に関わる部分なのかな。

“お母様”が特別なポーションを飲み続けていたということを聞いていた私は、この手記がとても気になった。さすがに今ここで全部読むわけにはいかないけれど、また今度ここへきて調べ直せたらいいなと思ったのだ。

「王妃陛下。またここにご招待いただくことはできますでしょうか。この本をどうしてももっと読みたくて」

「あらもちろんいいわよ。この部屋はいつでも好きに使ってちょうだい」

「……! あ、ありがとうございます……!」

なんてお優しいのだろう。これで、“お母様”のことが少しわかるかもしれない。そう思っていると、王妃陛下が急にぴりっとした空気を纏って話し始めた。

「実はね、リトゥス王国には近いうちに使節団を派遣しようと思っているのよ」

「えっ」

こんなふうに、訪問者の個人的な手記にでさえ干渉してしまうほど、リトゥス王国は自国のことを秘密にしたがっている。他国と国交を持つことなんてもってのほか。それなのに使節団を派遣することが可能なの……?

驚いて目を瞬くばかりの私に、レイナルド様が教えてくださる。

「王妃陛下は、十数年以上にも及ぶ長い間をかけてずっと準備を進めてきたんだ。後は、国王陛下の許可を待つだけだった。でも、最後の壁となっていたのは意外にもリトゥス王国との折衝ではなく、ほかのことだった」

「ほかのこと……? もしかして、地形でしょうか」

「そう。さすがだね。リトゥス王国は、このアルヴェール王国から離れているうえに山岳地帯にあるんだ。訓練を積んだ騎士クラスでないと訪問は難しい。文官や交渉が可能な大臣クラスの人間が行くのは難しかった」

確かにそうだとは思う。山の上にある王国なんておとぎ話のようで夢があるけれど、実際に訪問するのは大変だ。

納得しかけると、王妃陛下がふふっと微笑んだ。

「でも、あれが完成したでしょう? “空飛ぶ絨毯”。宮廷錬金術師にあれを改良させれば、私のように体力がない人間でもリトゥス王国にいけるのよ」

――それは、宮廷錬金術師のアトリエでローナさんが生成したもので、いまは工房の倉庫で梯子がわりに使われている特別な魔法道具のことだった。