作品タイトル不明
嫌な客!……リリアナ視点
カザリア帝国の遺跡が公開された夏休み、本当に大勢のお客様をノースコート館に招く事になった。
気持ちの良い方もいらっしゃったが、あまり滞在して欲しくない方もいた。
でも、紹介した貴族とは断り難い関係なので、仕方ないのだ。
こんな点も、弟のウィリアムは、貴族の付き合いとか理解していない。ペイシェンスは、大丈夫なのかしら?
サミュエルは、ペイシェンスの領地に行ったまま夏休みを終えようとしている。
丁度、領地から王都に帰る途中だからと、娘夫婦がノースコートに一週間ほど滞在する事になったので、サミュエルを呼び戻そうと思っていた。
それなのに、突然、王都からモンタギュー司教が来られる事になった。こちらの都合など聞かず、一方的に滞在すると通知が来たのだ。
「なんて無礼なのだろう!」
夫も腹を立てたが、受け入れるしかない。
「そんなぁ! ヴァイオレット夫婦が来るのに!」
北部のキャラウェイ伯爵家に嫁いだヴァイオレットとサミュエルを久しぶりに会わせたいと思っていたのだ。
「キャラウェイ伯爵夫妻には、予定を早めに切り上げて貰うしかない。それと、サミュエルとペイシェンス様にノースコートに近づかないように手紙を書きなさい」
そうだわ! サミュエルは、まだ腹芸などできない。
カザリア帝国の遺跡について、ねちねち質問されたら、正直に答えるかも。
あの遺跡の発見には、ペイシェンスの不思議な能力が関わっている。
あの二人をモンタギュー司教と会わせたくないのは、私も同じだ。急いで手紙を書いて、ハープシャーに届けさせる。
本当なら、一週間程度、ノースコートでゆっくりする予定だったキャラウェイ伯爵夫妻を見送ると、煌びやかな白地に銀の七芒星の旗を掲げた聖騎士が、先触れに到着した。
「もう少しで、モンタギュー司教様が到着されます」
招いてもいないのに、腹が立つけど、夫と共に玄関に出迎えに行く。
モンタギュー司教は、女好きで、ゴシップ誌を賑わしている。それだけでも怖気が立つけど、ペイシェンスを偽手紙で呼び出そうとしたと弟から聞いて、反吐が出そうなほど嫌いになった。
この件は、私が社交界でのペイシェンスの後見人になったから、ウィリアムが教えてくれたのだ。
要注意人物のキャサリン・ウッドストック、ハリエット・リンダーマンの名前と共にね。
元マーガレット王女の学友だったけど、グレンジャー家の窮乏した策略に関わっている家だ。
それと、社交界には出る事はないだろうが、ペイシェンスに偽手紙を届けたルイーズ・フェンディ! フェンディ伯爵は、奥方とルイーズを実家に帰したと聞いたけど、ペイシェンスは、お人好しのところもあるから、敵にも手を差し伸べるかもしれない。
私は、実家のグレンジャー家が困窮しているのには気づいていたけど、年金があるのに弟が働きもしないで本ばかり読んでいるからだと腹を立てていた。
まさか、貯蓄の殆どをモンテラシード伯爵家に貸した上に、前の執事に高利貸しで借金を背負わされていただなんて!
出会った頃のペイシェンスがかなり痩せていたのは、そのせいだったのだと、後から知って後悔したのだ。
それにしても、ペイシェンスは、本当にあの弟の娘なのかしら? 賢いし、優しいし、とても良い子だわ。ユリアンヌ様に似たのね!
ナシウスやヘンリーも素晴らしい子どもで、サミュエルの良き友人として付き合って貰いたい。
ただ、ペイシェンスは普通の子爵令嬢とは違う。そのお陰で、若いのに子爵に叙されたのだけど、突出した能力の高さは、狙われやすいのだ。
幸い、遠縁の信頼できるパーシバルと婚約しているので、社交界で変な財産目当ての男にちょっかいをかけられる心配はない。
そんな事を考えているうちに、豪華な馬車が何台も館の前に到着した。
モンタギュー司教だけでなく、他の司祭も同行しているのだ。
「ようこそお越しくださいました」
夫のエリオットがにこやかに挨拶をしている。
私も、社交界で鍛えられているから、微笑みを絶やさない。
「これは麗しい奥方だ」
ああ、ぞっとするけど、館に案内しなくてはね。
幸いな事に、うちのシェフもエバに色々なレシピを教えて貰っているから、料理の面でモンタギュー司教達に文句をつけられる事はない。
ただ、私はこの司教と食事をすることが苦痛だ。他の客人も同意見なのか、滞在を早く切り上げるみたい。
私も、こんな嫌な客の相手より、王都に行きたいと思う。
勿論、一緒に遺跡の見学などする気にもならない。
何とか、モンタギュー司教一行が、夫と共に遺跡へ出かけたので、ホッとしていた。
ああ、それも束の間。知らないうちに問題の種は芽吹いていた。
私には全く理解できないけれど、何故かエステナ聖皇国はローレンス王国にある遺跡を自分の物だと主張するのだ。
夫は急ぎその件を王都に知らせたが、返事が来ないうちから、モンタギュー司教とその連れ達は、丘にある遺跡を動かしている装置の存在に目を付けていた。
「誰かが知らせたのだ!」
夫がエステナ聖皇国のスパイがいると、腹を立てている。
あの装置に気づくまで、数日は掛かると考えていたのだ。
「王都には、モンタギュー司教と仲が良い腐った貴族もいる。館に滞在した客から聞いたのか? いや、あの装置は観光範囲にない筈だが……」
遺跡の観光できる範囲も狭めているが、ずっと警戒態勢でいるわけにはいかない。
「冬の間に調べたのかもしれませんわ」
そこから、夫とモンタギュー司教との戦いが始まった。
王都から、役人が来るまで、夫は断固として立ち入り拒否を続けているが、聖騎士達が実力行使に出ようとして、領兵達と睨み合いになっている。
「これをペイシェンス様に届けてくれ」
つまり、ハープシャーに滞在されているゲイツ様の助けが必要な状態なのだ。
人数と武力なら、聖騎士だろうと、ノースコートは負けない。ただ、ここでエステナ教会と全面戦争になるのを避けたい気持ちを見透かされているのだ。
王宮魔法師のゲイツ様なら、あの憎らしいモンタギュー司教をぎゃふんと言わせて下さるだろう。
ペイシェンスの事を、とても気に入って下さっているから、あの子を危険からも遠ざけて下さると信じている。
竜の討伐に、あの子を連れて行くなんて、本気ではないわよね?
ハープシャーに夫の手紙を届けてから、私はずっとゲイツ様が来られるのを待っていた。