作品タイトル不明
ベネッセ侯爵夫人のお茶会 ✴︎年表付き
今日は、昼からはベネッセ侯爵夫人のお茶会に招待されている。
父親に母方の親戚との顔合わせだから、一緒に行きませんかと尋ねたが、首を横に振られた。
「私は、老伯爵との確執があるから、会わない方が良いだろう。だが、お前やナシウスやヘンリーは、関係ない話だ。これから、社交界で顔を合わせる事も多くなるだろうから、友好関係を築いていくが良い」
今回は、ナシウスだけ連れていく。やはり、この世界では十歳以下は、他の屋敷のお茶会には出られないのだ。
「ヘンリーもいつかは会えますよ!」
母方の親戚に会うのに、一人だけ仲間はずれになるヘンリーを抱きしめて慰める。
「サイモン様とも遊べると良いですね!」
うっ、純真なヘンリーの青い目が眩しい。グース教授の助手のサイモンとは、正直なところ少し距離を置きたいんだよね。
「ええ、いつかね」
あの飛行艇に夢中だから、数年は無理じゃないかな? 私も大人になったものだよ。誤魔化すのが上手くなった。
お昼は、早めに食べた。ああ、忘れていた! いや、忘れたままが良かったかも? でも、ベネッセ侯爵夫人は、ゲイツ様の母親だし、親切にして下さっているから、差し入れをしなくてはね。
「エバにメロンケーキを焼いて貰って、ゲイツ様の屋敷に届けさせて」
ミッチャム夫人にそう言うだけで済むから助かる。
メロンは、何個か残っている。卵は、買わなきゃいけないかもね。
明日には、領地に出発する。使用人の何人かは、先発しているんだ。
あちらで、私たちの出迎えの準備をしなくてはいけないからね。
ナシウスと馬車でベネッセ侯爵夫人の屋敷に向かう。もちろん、メアリーが付き添っている。
今日のメアリーは、特別に気が張っている気がする。やはり、生まれた土地の伯爵夫妻と会うのは、特別なのかも。
なので、私の支度も気合が入っていた。前から予定していた新作の淡いブルーのドレスだ。銀ビーズの刺繍があちこちに施されて、涼しげに見える。
髪型も春のお茶会だから、結い上げてはいないけど、編み込みを複雑にした凝ったものになっている。
ナシウスの余所行きも新調した、今風の物だ。髪型は、いつもより纏めてある。これは、マシューが香油で梳かしつけたのかもね。
ベネッセ侯爵家も王宮の近くにある。つまり、グレンジャー家からも近い。
「わぁ、立派なお屋敷ですね!」
そうか、ナシウスは領地の館はあちこち行っているけど、王都の屋敷を訪問するのは、フィリップス様の屋敷以来だね。
「ええ、とても立派なお屋敷ですね」
夏の薔薇が見事に咲き誇っている。美しいベネッセ侯爵夫人に相応しい屋敷だ。
屋敷の執事に応接室に案内される。メアリーが手土産のチョコレートやメロンなどを渡しているが、私は少し心臓がドキドキしている。
母方の親戚と会うのは初めてだし、絶縁状態だったのだ。
でも、応接室に入ると、ああ血縁なんだとすぐわかるケープコット伯爵と夫人、そしてサイモンがいた。
殿方は、立ち上がって出迎える。それがマナーだからね。
唯一の顔見知りのベネッセ侯爵夫人が私を皆に紹介する。
「こちらがペイシェンス・グレンジャー・ハープシャー子爵。そして、こちらがナシウス・グレンジャー様です」
私は、ドレスを少し摘んで挨拶する。ナシウスは、王族に対してではなく、身分の上の方への少し脚を引いた挨拶をちゃんとした。
「こちらが私の夫のフランツ、息子のエドガー、そして、あちらがマキシム・ケープコット伯爵とサリーナ伯爵夫人と御令息のサイモン様です」
あちらも、殿方は立って挨拶、夫人は椅子に座ったまま挨拶する。
「さぁ、お二人とも席におつきになって」
座持ちの良いベネッセ侯爵夫人のお陰で、和やかなお茶会になった。
ゲイツ様からお説教が好きだと聞いていたベネッセ侯爵も、とても温厚そうなのだけど? それに、兄上になるエドガー様、とても常識的な感じがする。
どうやって、あの非常識なゲイツ様になったのか? 金の飾りが好きだったという先代の王宮魔法師、マグヌス様が傲慢だったのか?
私の思案は、置き去りにして、お茶会は進んだ。
「ペイシェンスやナシウスには苦労をかけた。父上が頑固で、私には逆らえなかったのだ」
お茶会の途中で、ケープコット伯爵に謝罪されたけど、この世界では父親の権威が強いから仕方なかったのかもね。
「いえ、過去の事は仕方ありません。これから、仲良くして下さい」
ケープコット伯爵夫人は、少しふっくらとした穏やかそうな貴婦人で、これから親戚として交流するのも問題なさそう。
「今日は、長男は領地にいるから、顔合わせはできないが、次男のサイモンは王都にいるから、連れてきた」
サイモン様、少し気まずそうな照れた顔で、私とナシウスに頭を下げる。
「サイモン様! 屋敷にも遊びに来て下さい!」
ナシウスは、やっと従兄弟と仲良くなれると喜んでいる。私は、少し微妙な気分。グース教授の助手じゃなければ、もっと素直に喜べるのかもね。
そこからは、大人たちが話をするのを、おとなしく聞いているだけでお茶会は終わった。
帰りの馬車で、メアリーは心なしか嬉しそうだった。
「誰か知り合いがいたのですか?」
メアリーが頷く。
「ええ、ユリアンヌ様の侍女で、私を教育してくれたアンナさんが伯爵夫人に付き添って来ていました。前の伯爵夫人のシシリア様にお仕えした後、今の伯爵夫人サリーナ様にお仕えしているのだそうです」
ふぅん、前の執事に首にされたけど、ケープコット伯爵家で雇われていたんだ。
「アンナさんは、裁縫も髪結の腕も素晴らしかったから、どこかの屋敷に仕えているとは思っていました」
そこで、ケープコット領地の噂も聞いたみたい。メアリーは簡単な手紙を両親に託したそうだ。結婚を報告したのだろう。
ああ、やはりケープコット伯爵家と仲直りできて良かった。
メアリーもいつかは里帰りさせてあげられるかもね!
さて、明日は領地へ出発だ。気難しげなバリー氏が、クラリッサを屋敷に連れてくる。ここは、父親にも出て貰おう! 一応、当主だし、ロマノ大学の学長だから、信頼はあるんじゃない?
夏休みの予定はいっぱいだけど、パーシバルの誕生日パーティは、盛大に開く予定!