作品タイトル不明
春は慌ただしい!
領地から帰り、三月の最終金曜は錬金術クラブの体験コーナーだった。
「今回は、誰も入部してくれなかったな」
ベンジャミンは、少し残念そうだけど、錬金術クラブへの目は穏やかになったよ。前は変人の集まりって感じだったんだよね。
それと、今回は料理クラブの女学生達がりんご飴を作るのに協力してくれたんだ。
これって、やはり錬金術クラブの垣根が低くなったからだよね。
四月は、まだ寒い日もあるけど、春めいてくるから嬉しいな……なんて呑気な事を考えていたけど、 馬の王(メアラス) のお見合いラッシュなんだよね。
これは、サンダーに丸投げしてお任せしているけど、馬にも相性があるのかな? よく知らないよ。
グレンジャーの屋敷の警備、四人雇っているし、それをグレアムが纏めている感じなんだけど、雌馬の警備の人も一緒にやってきてて、人数が増えている。
この人たちは本館には泊まらず、馬房に常にいるんだけど、食事は提供している。
馬房も、いつの間にか泊まれるようになっていた。
「お産とかもありますからね」
でも、せめてお風呂というかシャワーは浴びて欲しい。
これは、サンダーから他の人にも厳重に注意してもらう。
「でも、雌馬は本来の所に帰るのでしょう?」
お産って、そちらでするのでは?
「こちらの雌馬は、こちらでお産する事になります」
うちの雌馬はマロンだけ。まだ四歳だから、来年までは種付けはしないと聞いたけど?
「ペイシェンス様は、馬を購入される予定はありませんか?」
戦馬もまだ若いし、当分は家の馬は 馬の王(メアラス) の子は産まない予定だったけど、変更した方が良いのかも?
「領地で増やしても良いのかしら? まだ兵士も十分にはいないのです」
警備員不足だから、馬の放牧場とか考えていなかった。
「仔馬のうちは、のびのびと育てた方が良いと思います」
つまり、王都よりは田舎の方が良いってサンダーに言われたよ。
「考えておきます」
これは、便利な言葉なんだよね。自分で判断できない事は、一時的に棚上げして、パーシバルや大人に相談する方針。
グレンジャーの館の変化の一つに温室が増えたのもあるね。
前ほど貧乏じゃなくなったけど、温室で栽培したい物も増えたから、増やしたんだ。
今回のは、スライム粉を混ぜたガラスにして、どの程度強さがあるのか実験を兼ねている。劣化が進むのが早いとか困るからね。
前からのはバラといちご。こちらでは野菜とメロンとスイカだね。
いちごの季節が終わったら、きゅうりとかも栽培する予定。
屋敷の方も変化があったけど、マーガレット王女とパリス王子も婚約話が内密に進んでいるみたいで、二人とも自重した行動を心掛けている。
私的には、婚約間近ならいちゃつきたいのでは? と思うのだけど、マーガレット王女は、違うみたい。
マーガレット王女の部屋で、リュミエラ王女と三人で話し合う。
「パリス様との縁談の邪魔にならないように自重しようと頑張っているの。特にお母様が反対されないように気をつけて行動しないといけないわ」
ふぅ、やはり王妃様は怖いみたい。
「私もリチャード様と節度を保たないといけないと大使夫人に注意されていますわ」
こちらも、未来の王妃だから、他の人の手本にならないといけないみたい。
外国に嫁ぐのは心配だけど、マーガレット王女が幸せそうなので、私も嬉しいなと呑気にしていたら、ショックを受けた。
「デーン王国のマチアス陛下とキルスティナ王妃様が訪問されるそうよ」
うっ、デーン王国は鬼門だよ。
「それは、スレイプニル関連なのでしょうか? それともジェーン様とオーディン様の縁談ですか?」
リュミエラ王女は、いずれはローレンス王国の王妃になるから、義妹のジェーン王女が隣国のデーン王国に嫁ぐのは興味があるみたい。
スレイプニルにはあまり興味は無さそう。まぁ、コルドバ王国は興味あるかもしれないけどさ。
「さぁ、どちらもでしょう。ジェーンは、乗馬クラブでオーディン王子とも仲良くしているから、悪い話では無いとは思うわ。あの国はスレイプニルの愛が深いから、ジェーンには住みやすいかも? 私は御免だけど……」
乗馬はできても、マーガレット王女は音楽の方が好きだからね。
そこから、王妃様が中心になって進めている少女歌劇団の話になった。
「今年の秋にはデビューさせたいみたいだけど、夏はラフォーレ公爵領で練習合宿だそうよ。夏の離宮にも来てくれると言うから楽しみなのだけど……もしかしたら、私はいないかも」
ポッと頬を染める。それってソニア王国を訪問しているかもって期待しているのかな?
「カレン様と一緒だから安心かもしれませんね。もしかしたらキース様も一緒かも?」
ふぅ、私が領地管理をしている間に、あれこれ変化があったみたい。
マーガレット王女が私を見て、口を開く。
「ペイシェンス、貴女は今年で卒業して、ロマノ大学に行きなさい。私は側にいて欲しいけど、もう王立学園で学ぶ事がないのに留めておくのは良くないと思うの。それに、もう領地を持つ貴族なのですから」
それは、私も考えていたけど、マーガレット王女が嫁ぐソニア王国の王宮の雰囲気が悪くて心配なんだ。
「宜しいのでしょうか?」
確認して、許可を得た。転生した当時、マーガレット王女の側仕えを命じられた時、内職できないからと腹を立てていたけど、今はやめるのが辛い。
「ええ、でも、秋の社交界デビューは一緒よ! それに側仕えをやめても友達はやめないでね!」
それは私も同じ気持ちだ。もう、側仕えだから、マーガレット王女の近くにいるんじゃないもの。
「ええ、嬉しいです!」
リュミエラ王女にもお友達になりたいと言われて、三人で手を繋ぐ。
「大人になったら、色々な事情もあるでしょうけど、いつまでも友情だけは大事にしたいわ」
ああ、マーガレット王女はもう嫁ぐ覚悟をしているのかも。
そんな覚悟と比べたら、デーン王国のマチアス陛下とキルスティナ王妃の訪問なんか、何でもない気がするよ。
私は、パーシバルの婚約者であり、ハープシャーの領主であり、 馬の王(メアラス) の主人だ。
だから、彼方が何を言い出そうと、揺るがない気持ちでいよう。