軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ナシウスの誕生日

いつもは侍女のゾフィーが付き添うが、今日は王妃様の手紙があるので女官も付いてくる。シャーロット・エバンズさんは前にハノンを届けてくれた女官だ。

「シャーロット様、少しお尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

シャーロットは茶色の髪をひと筋の乱れもなく編み込んで結いあげて黒の女官服を着ている。近付きにくい雰囲気だが、聞いとかないと後で困る。

「離宮で必要な物は用意するとビクトリア王妃様は仰いましたが、私が持って行った方が良い物もあると思うのです。私には母がいませんので、侍女に指示をしなくてはいけないのです。教えて下さい」

「王妃様は離宮で暮らすのに必要な物は用意させるでしょう。服とかドレスとか寝巻きも下着も。でも、服や寝巻きや下着は着なれた物を持って行った方が楽に過ごせるかもしれません。夏の離宮は海がありますから水着になる古い服も必要ですね。外遊び用の気軽な服も持って行けば便利だと思いますよ」

つまり高級なドレスや服や寝巻きや下着1セットは用意されるが着替えとかは必要そうだ。それと水着にする古い服、外遊び用の服。聞いて良かったよ。

「ありがとうございます。それと侍女を連れて行かないといけないのでしょうか?」

シャーロット様は驚いた顔をする。

「侍女がいなければ、王妃様が侍女をつけて下さるでしょうが、自分の気に入りの侍女の方が世話をされるのも楽だと思いますよ」

そりゃ、知らない人に世話されるよりメアリーの方が良い。でも、家にはメアリーしかいないのだ。

「あのう、侍女が持っていく物は何でしょう」

「それは侍女が知っていますよ」

そうだね、メアリーに任せよう。馬車は家に着き、女官のシャーロットがワイヤットに王妃様の手紙を渡し、メイドのゾフィーが卵などが入った籠を渡す。

父親が離宮行きを断ってくれますように! 虚しい願いなので、神には祈らない。

なる様にしかならないので、弟達と温室で赤くなったトマトやナスやキュウリを採る。真っ赤なトマトの小さそうなのを3個、冷たく綺麗にしてかぶりつく。

「もぎたてのトマト、美味しいね」

「うん、トマト大好き」

ああ、こうして夏休みが過ごせたら良いのにな。

夕食の席で嬉しそうな父親の顔を見て、離宮行きが決定したのだと悟った。

「ペイシェンス、お前がマーガレット王女様の側仕えを真面目に勤めているから、ビクトリア王妃様が夏の離宮に連れて行って下さるそうだ。有り難い話だ」

やはり断らないんだね。ガッカリ。

「お父様、でも弟達と夏休みを過ごすつもりでしたの。それに侍女を連れてきて良いと言われても、メアリーしかいませんし」

ハッとしたように父親は灰色の目を見開いた。

「そうか……メアリーしかいないのか。この家も寂しくなったものだ」

寂しくなったとか感傷にふけっている場合では無い。もう侍女はついて来なくて良いよ。寮でも1人で生活しているんだもん。

相変わらず生活能力のない父親は「侍女を連れて行きなさい」と言っていたが、メアリーがいなくなったら屋敷が困るだろう。ワイヤットと相談しよう。

夕食はかなり改善されてきた。スープは野菜と豆がたっぷりと入っている。パンはまぁ、少しは柔らかくなった。肉は鳥の胸肉を焼いたのを薄く切って並べてあった。トマトソースも掛けてある。それにデザートはクレープの苺ソース掛けだ。エバにレシピを渡したんだよ。クレープの薄さは流石だね。

「これは初めて食べるな」

そっか、異世界初のクレープだ。

「前のパンケーキを薄くしたレシピをエバに渡して作って貰いました。クレープというスイーツです」

弟達も食べさせて貰ったかな? と思いながら父親とクレープを食べる。紅茶は少しだけ濃くなった。まだまだ薄いけどね。

食後は子供部屋で弟達と少しだけ話す。

「お姉様、二重跳びができるようになりましたよ」

「ナシウス、頑張ったわね」

「私は連続で二重跳びができるようになりました」

「ヘンリーも頑張ったわね」

2人にキスをして「おやすみ」を言う。幸せ! はぁ、夏休みはずっとこんな生活ができる筈だったのに。

土曜は朝からナシウスのバースデーケーキを作った。エバが作るのだけど、卵の白身や生クリームを泡立てるのは生活魔法で手伝ったよ。スポンジの真ん中を切って、生クリームと苺ジャムを塗る。

「苺ジャムの中から粒が残っているのを8個、ケーキの上に飾るのよ。皆の分もあるから食べてね」

生クリームの絞り袋や飾り金も欲しかったな。でも、真っ白なケーキの上に真っ赤な苺が乗っている素晴らしいバースデーケーキができた。誕生日用の細い蝋燭は無いので、なるべく細いのを1本立てる。

昼食のデザートにバースデーケーキを出して貰う。

「ハッピーバースデー!」

ナシウスは灰色の目をまん丸にして驚いている。ヘンリーも青い目がまん丸だ。

「これは凄い。ペイシェンス、お前は料理の才能があるな」

褒められるのは嬉しいが、ナシウスのバースデーなのだ。

「さあ、ナシウス、お願い事をしながら蝋燭の火を消すのよ」

ナシウスは不思議そうな顔をする。異世界には無い習慣みたいだ。

「王宮学園の女子の間で流行っているのよ。さぁ、吹き消して!」

頬っぺたを膨らませて、フーッと吹き消した。パチパチ、私が拍手すると、ヘンリー、父親、そしてメアリー、ワイヤット、エバ、ジョージも拍手した。

「お姉様、こんな誕生日初めてです」

ナシウスにキスされた。本当にハッピー! 夏休みを一緒に過ごしたかったよ。