作品タイトル不明
フェンリル!
「ペイシェンス様、逃れた 雪狼(ニックスルプス) を討伐しますよ!」
大規模な魔法を唖然として見ていた私の背中をサリンジャーさんが、ポンと叩いて、まだ討伐が終わっていないと注意する。
ああ、何か空気が痛い! フェンリルが近づいているのをバシバシ感じるよ。
「 雪狼(ニックスルプス) を1匹たりとも逃すな!」
騎士団も討伐を始めている。地方の貴族に仕えている騎士や兵士では、 雪狼(ニックスルプス) を討伐するのは、難しいと考えているのかも。
私も一頭ずつ討伐していくけど、どんどんフェンリルが近づいてくるプレッシャーを感じる。
「フェンリルが来る! 騎士団は一旦、引いてくれ!」
ゲイツ様の命令に、騎士団は従って、横に退ける。
「ああ、フェンリルが何頭かのボス 雪狼(ニックスルプス) を従えている。ペイシェンス様、先ずは 雪狼(ニックスルプス) を討伐するが、少し手強いぞ」
悠然と現れたフェンリルは、銀色に輝いていた。これが子供とは思えない大きさだよ。
それに従う 雪狼(ニックスルプス) 達も、他のよりも倍近く大きい。
「ガルルルル……」
フェンリルが従えている 雪狼(ニックスルプス) 達に私達を『襲え!』と命じた気がする。
一斉に、 雪狼(ニックスルプス) 達が、こちらに向かって走り出した。
「首チョッパー!」
先頭を走る 雪狼(ニックスルプス) に向かって放ったけど、躱された。
ゲイツ様とサリンジャーさんが一頭ずつ倒す。
「ペイシェンス様、もっと強く、もっと速くしないといけません」
これまでは回転するギザギザの金属プレートのイメージで、首チョッパーを掛けていた。
「もっと速い? レーザービームかしら?」
私が咄嗟に思いついたのは、アニメやSFで見たレーザービームだ。
何かの映画では、ルビーを使っていた。剣を鞘に入れて、反対にして持つ。
ルビーを 雪狼(ニックスルプス) に向けて「レーザービーム!」と唱えると、赤いレーザーが真っ直ぐに伸びて首を刎ねた。
もうかなり 雪狼(ニックスルプス) は近づいている。
「レーザービーム!」と唱えて、横一列にレーザーが当たるように剣を水平に振り切った。
何頭かの首にあたり倒せたけど、何頭かは外してしまったが、素早くゲイツ様とサリンジャーさんが倒す。
「ガルルルルルル!」
フェンリルが空に向かって吠える『許さない!』と言っている気がする。
「来ますよ! 先ずはペイシェンス様、一発、先程のレーザービームを当てて下さい」
えええ、めちゃデカいし、怒っているけど?
「あのフェンリル、本当に子供なのですか? 許さない! なんて叫んでいますけど?」
ゲイツ様が、まじまじと私の顔を見る。
「そんな風に聞こえるのですか? もしかして、テイマーの才能があるのでは? よし、ペイシェンス様、レーザービームという魔法をどんどん撃ち込んでみましょう」
ええええ、私は一撃だけで、後はゲイツ様がキツいお仕置きをして、デーン王国に追い払うって言っていたじゃん!
「ほら、こっちに向かって来ますよ!」
フェンリルは、自分が人間などに負けるなんて考えてもいないのか、悠然と歩いている。
「レーザービーム!」
前脚にレーザーが当たり、一瞬止まった。
「キャン!」
あれっ? 『痛い!』って聞こえるけど?
「さぁ、次々と攻撃しなさい!」
何となく子フェンリルだと思うと、顔には攻撃しにくい。目とかに当たると失明しちゃうかも?
「レーザービーム! レーザービーム! レーザービーム!」
なるべく脚を狙うけど、こちらに向かって駆け出したので、胴体や、首を掠めた。
もう片方の前脚に当たり「キャン!」と鳴く。
『痛い!』と鳴いている相手に攻撃はし難い。
「ゲイツ様、フェンリルが『痛い!』と鳴いていますけど……まだ攻撃しなくてはいけませんか?」
追い払うって言っていたよね? デーン王国に戻ってくれたら良いのだけど、脚が痛いのか、座り込んでしまったよ。
「ふむ、考えていたよりも幼いフェンリルだったみたいですね? 魔法耐性がまだ弱いのか、痛さに弱いのかもしれません」
とっとと帰って欲しい。
「脚を治せば、帰るかしら?」
横でゲイツ様がゲラゲラ笑っている。
「フェンリルの治療をしようなんて、ペイシェンス様しか考えませんよ」
そうか、魔物だものね! でも、銀の毛のフェンリルが蹲って、脚の怪我をペロペロ舐めている姿は、前世で飼っていた銀ちゃんを思い出させる。
少し背中に黒が混じった白い雑種で、兄が拾って来たのだけど、とても賢くて可愛かった。
異世界では、ペットは見かけない。魔物の住む世界だからかも?
「銀ちゃん、怪我を治したら帰ってくれる?」
少し大きな声で、フェンリルに訊ねる?
横で、ゲイツ様とサリンジャーさんが呆れている気がする。
「キャン! キャン!」
痛いとしか、返事はこない。私の言葉はわからないのかもね。魔物だもの。
「ゲイツ様、怪我を治してみますわ。それで、こちらを攻撃してくるようなら、お仕置きをして追い払って下さい」
ゲイツ様は肩を竦めて「何でもやってみたら良いですよ」と笑って許可する。
よし、それならやってみよう。
銀色の毛に、血の赤が目立つ。
「綺麗になれ!」私達を馬鹿にした様な態度で悠然と歩いていたフェンリルの姿を強く想い浮かべながら、掛ける。
「キュキュン!」
怪我が治ったのか、フェンリルが立ち上がった。
「ほら、帰りなさい!」と叫んだけど、こちらに向かって走ってくる。
駄目だ! 失敗だ!
「ゲイツ様、お願いします!」
頼んだのに、ゲイツ様はお仕置きしない。
「これは……テイムしたのかもしれませんよ」
私の目の前で、フェンリルは止まり、転んで腹を見せている。
「銀ちゃん!」
銀ちゃんもよくこんなポーズをしていたよ。懐かしくなった。
『銀ちゃん? 私の名前?』
ゲゲゲゲゲ……この、フェンリルの言葉が通じるのだけど? 疲れているから幻聴かしら?
まじまじと私とフェンリルを見ていたゲイツ様が愉快そうに笑う。
「ハハハ……! 書物に昔の大魔法使いは、魔物をテイムして使役していたと書いてありましたが、夢物語だと先程までは考えていました。流石、ペイシェンス様です!」
他の騎士団や上級魔法使い達も呆れて口をポカンと開けている。
「いや、こんな大きなワンちゃん、食べさせていけませんから! それに親もいるのでしょう?」
兄が拾って来た子犬は、捨てられていたからだ。親がいたら、拾ったりしないよ。
なのに、銀ちゃんは嬉しそうに私の側にやって来る。
前世の癖で、私は手の平を差し出して、銀ちゃんに嗅がしてしまった。
『名前は?』と訊ねられた気がして「ペイシェンスよ」と応えると、銀ちゃんと私の間に絆が結ばれた。
ええええ、どうしよう?
「ペイシェンス様、親の元に帰るように言い聞かせなさい!」
そうだね! 私には銀ちゃんを育てるのは無理だし、躾けるのも無理だ!
「銀ちゃん、親のところに戻りなさい! ここでは、あなたは殺されてしまうわ」
北の大地で走り回っている方が銀ちゃんの為だ。
「キュルルルルル……」
銀ちゃんは親を思い出したみたい。
『お母さん!』と叫ぶと北に向かって走り出した。
ホッとしたけど、立ち止まって、またこちらに帰ってくる。
「キュルルルルル! キュン、キュン、キュキュン、キュン!」と叫ぶと、今度は立ち止まらずに北に走り去った。
ドッと疲れて、雪の上に座り込んじゃった。脚がガクガクだもの。
ゲイツ様が「ペイシェンス様に馬を一頭!」と騎士団に向かって叫ぶ。
「ほら、雪の上に座ると身体が冷えますよ」
ゲイツ様に手を持って立ち上がらせて貰う。
「ペイシェンス様、素晴らしかったです!」
ユージーヌ卿が、私を馬に抱き上げて、後ろに乗せてくれたよ。
ゲイツ様が「最後にフェンリルは何を言ったのですか?」と訊ねる。
「また会おう! スレイプニルのボスに蹴られたから、追いかけたのだと言っていた気がします」
全員が大きな溜息をついた。
「あの黒ボスのせいで、こんなスタンピード擬きが起こったのですか? 馬の煮込み(ブラチョーレ) にしてやる!」
ゲイツ様が怒鳴ったら、皆、口々に叫ぶ。色々な馬の調理方法があるのがわかったよ。
「 馬の煮込み(ブラチョーレ) になんかしたら、オーディン王子が悲しみますわ」
なんて言ったら、ユージーヌ卿に笑われた。
「騎士団は馬の料理は、絶対に口にしませんよ。馬は相棒ですからね!」
愛おしそうに、まだら芦毛の戦馬の首筋を撫でている。
ヘンリーに買った戦馬よりも白い部分が増えている気がするよ。
「おお、お前は可愛いね!」なんてユージーヌ卿が言うほど、可愛くはないけどさ。
「ユージーヌ卿、ペイシェンス様を基地キャンプまで連れて行って下さい! もうクタクタでしょうから。魔力は残っていても、体力切れです」
他の人は、まだ魔物の討伐を続けるみたいだけど、私はもう疲れたよ。
「ユージーヌ卿、ご迷惑をおかけします」
私を送る為に、討伐に参加できないのだからね。
「ハハハ、騎士団や魔法使い達に大した負傷者が出なかったのは、ペイシェンス様とゲイツ様のお陰ですよ。それに、少し休憩した方が討伐も捗ります。腹が減っては戦はできませんからね」
そういえば、もうすぐお昼だよ! お腹すいたな!