作品タイトル不明
ウィンドウディスプレイ
木曜、王宮から帰ると錬金術クラブに急いだ。
カエサル部長に土曜のマーガレット王女、リュミエラ王女、リチャード王子、パリス王子とのショッピングが決定したと伝えたかったからだ。
「あのう、金曜にウィンドウを少し飾っても良いでしょうか?」
私の言わんとする事が理解されていないみたいなので、ウィンドウディスプレイの絵を見せる。
「これは、収穫祭の飾りの応用だな!」
錬金術関係しか目に入っていないみたい。
「ええ、本当は街路樹にもデコレーションしたかったのですが、窓の周りだけにしました」
街並み全部をするのは、まだコストが掛かるからね。
「ああ、用意する物が有れば、パウエルに伝えておく」
それならと、メモを渡す。収穫祭だから、やはり農作物もデコりたいんだよ。あと、売れ筋の撥水加工のマントと毛皮のコート。
それと、収穫祭用の玩具! カラフルな包装紙で包んだプレゼントの箱。
後、ウィンドウディスプレイ用の大きな布!
窓にはステンシルで雪の結晶を描きたいから、水溶性の絵の具とハケ。脚立も必要だよね。
さて、後ろ髪を引かれるけど、音楽クラブに行かなきゃね!
カエサル部長に伝えたから、金曜の朝一にパウエルさんから了承の手紙を貰った。
「ブロックは作り始めているけど、商品は予約注文になりそうなのね。紙や板で作るボードゲームや、カルタは間に合いそう。ああ、ディスク型オルゴールをウィンドウの中で鳴らしても良いわね!」
どうやら、パウエルさんの推しはディスク型オルゴールみたい。
毛皮のコートも推しみたいだね。前世では動物愛護の観点から、毛皮のコートは反対だったけど、こちらは魔物討伐の毛皮だからね。
高価な物から、安価な物もあるみたい。とは言え、転生した頃のグレンジャー家では安価なコートでも手は出なかったよ。
ブロックは、城を飾るのは決めているけど、女の子用はドールハウス風に飾ろうと思っている。
金曜の空き時間に、ステンシルする雪の結晶の型紙を何個かとブロックを作った。
「ペイシェンス、これに絵の具をつけて雪の模様にするのか?」
ベンジャミン、反対だよ。
「いえ、これを窓につけて、そこに絵の具をつけて、型を外すのです」
本当はスプレーが欲しかったよ。来年までに作ろう! ああ、噴霧器、忘れていた! リップスティックもだ! メモしておかなきゃ!
絵の具は、ブロック用にパウエルさんに用意してもらっているから、クラブハウスの窓にステンシルで雪の結晶を飾ってみる。
「ああ、なるほどな!」
高い場所はベンジャミンがやってくれたよ。
それと、女の子用のブロックを作っていると、エドとミハイルが色々な提案をしてくれた。妹がいると、おままごとに詳しいね。
庭には、東屋や揺れるブランコ、それに女の子の人形。
ブロックの組み立ては、全員が進んで手伝ってくれた。
「もっとブロックが欲しい!」
ベンジャミンが吠えている。
女の子用も手伝ってくれたので、可愛いドールハウス風のお家ができたよ。
今回のバケツには『E&F』のロゴを大きく入れる。
男の子用は青と緑、女の子用は赤と黄色にした。
「この『E&F』は何の頭文字ですか?」
エドの質問で、全員が頭を抱えちゃった。
「エド、この錬金術クラブの部則を読んでサインして欲しい」
エドは真剣に読んでいたけど、少し首を傾げている。
「最後の錬金術クラブでの活動は外部に漏らさない? 特許を横から攫われるからですか?」
カエサル部長が説明している。
「それもあるが、特にエクセルシウス・ファブリカ関係については口外しないで欲しい」
エドの目がまん丸になる。
「えええ、今、色々な発明品を作っているエクセルシウス・ファブリカは、錬金術クラブだったのですか?」
それは誤解だ。
「エクセルシウス・ファブリカの下請けだと考えてくれたら良い。だから、特許料は入らないぞ」
エドは、少し考えてからサインした。
「妹にもクラブに入るまでは秘密にします! ああ、でもきっと叱られるでしょうから、その時はお願いしますね!」
エドの基準は妹が中心だね。後、もう1人の新入部員のマックスにも、サインを貰ったみたい。
ウィンドウディスプレイに楽しそうな収穫祭の晩餐の様子を再現したい。
テーブルやテーブルクロスや食器やカトラリーはバーンズ商会にある。
それを並べても良いけど、やはりここは食品サンプルでしょう!
あれって、テレビで作り方をよくやっていたんだよね!
蝋でもできるけど、塩ビは無理だから、スライム粉とネバネバと珪砂だね!
「先ずは、鶏の丸焼きね!」
茶色の絵の具を混ぜて「鶏の丸焼きになれ!」と唱えると、美味しそうな丸焼きができた。
脚の飾りは、紙を切って作る。
「収穫祭には何を食べるのかしら?」
寮暮らしだし、その前は飢えていたから知らないんだ。
「鶏の丸焼きか、魔物のステーキ、あの砂糖の塊のケーキも出るが、私は嫌いだ!」
ベンジャミンは、肉ばかりだよ!
「うちではホワイトシチューを食べるのが多いです」
ブライスのお母様は、優しそうだったからね。
「えっ、シュトーレンだろう?」
アーサーの家は、固い干果物やナッツが入ったパンみたい。
「王都では魚は食べないが、収穫祭は魚のパイが出てくる。あまり好きではないが、母の実家は海沿いだからな」
冬場はロマノでも魚は出回るけど、カエサルも魚はあまり好きじゃないのかな?
「でも、ノースコートでは魚も食べていたでしょう?」
「あれは新鮮で美味しかったよ。でも、パイはやはり魚臭いんだ。魚はパイに向いていないと思うが、母には言えない」
青魚なのかな? 上級食堂(サロン) で食べた魚は臭くなかったけど?
不人気な魚のパイと砂糖ザリザリのケーキは作らないよ。
一人鍋のチーズフォンデュ、チーズを持ち上げて、スティックに差したパンを支える。
「おお、美味しそうじゃないか!」
周りのお皿の上に、人参、じゃがいも、パン、ウィンナーを作って飾ろう。
シュトーレンは、塊も作るけど、切り口を見せたいから、ちょっと苦労したよ。
ケーキは、生クリームを塗ってイチゴを飾るよ! これも断面も見せたいから、1ピース切り取ったケーキにした。切り取った1ピースは小皿に飾ろう!
「この時期にイチゴはないぞ!」
ベンジャミンは文句が多い。
「これはイチゴジャムですわ。形が残っているのを飾るのです」
なるほど! と頷いている。
サラダは不人気なのか、コメントが少ない。
「ワインが必要だろう!」
ベンジャミンはお酒を飲むのかな? 14歳だよね?
「収穫祭なら、少しぐらい飲むだろう?」
ワイングラスを珪砂で作って、赤ワインにする。白の方が好きだったけど、飾るなら赤の方が綺麗だからね。
「今日の4時間目から飾りに行く予定です」
何人もが「手伝う!」と手を挙げてくれたけど、「ミシンも早く仕上げないといけないのだぞ!」とカエサル部長の雷が落ちたよ。
「カエサル部長も行かれるのですよね?」
エドの素直な質問に、ウッと詰まっている。
こんな時、アーサーは副部長として良いフォローするね。
「ミシン組の監督は私がするよ。カエサルは仕方ないさ」
結局、手先が器用そうなブライス、エドが手伝ってくれることになった。
「私はステンシルが上手いぞ!」
ベンジャミンは、こちらに来たいみたいだけど、ミシンは部品をいっぱい作らなきゃいけないから、そちらを手伝って欲しいとアーサーに止められた。
それに、ステンシルは器用で几帳面なブライスの方が上手そう!
裁縫は、少し早めに切り上げさせて貰って寮で待っていたメアリーと一緒に錬金術クラブハウスに急ぐ。
「こんな時もメアリーが一緒じゃないといけないのかしら? 錬金術クラブの活動なのに?」
ウィンドウディスプレイは、パウエルさんから錬金術クラブにお小遣いが貰えるみたい。
「婚約者がいるのだから、他の男子学生と一緒の時は私が付き添わなくてはいけません」
ああ、そうなんだね! でも、今回はパーシバルも遅れてだけど来るかもしれないんだ!
電飾とステンシルは、他の人に任せて、私はパウエルさんとウィンドウの中のディスプレイする商品を選ぶ。
「このテーブルしか入りませんね」
残念そうだけど、展示は家具売り場で良いんじゃない?
用意してくれた濃い赤の布を棚に被せて、少し後ろにずらして貰う。
「ペイシェンス、こんな感じで良いのか?」
背の高いカエサル部長に手伝って貰っているんだけど、公爵家の嫡男なんだよね。
「カエサル様、店員に手伝わせます」
パウエルさんは、気が気でないみたい。
「テーブルを真ん中にセットして、テーブルクロスを掛けて、食器を並べて下さい」
これらは、店員さんに任せるよ。そのセットされたテーブルの上に食品サンプルを乗せていく。
「これは……腐らないのですね!」
腐ったら困るでしょう!
一番外に近いところに、大きなカボチャや藁束やリンゴを飾る。
そして、テーブルの前にブロックの城とドールハウス。
テーブルの横にディスク型オルゴール。
その後ろにトルソーに着せた撥水性のマントと毛皮のコート。
一番後ろの布を掛けた棚に、色々な玩具と、パウエルさんが推している商品を陳列した。
床には綺麗なラッピングした箱を並べて出来上がりだ!
外に出て、ウィンドウディスプレイを眺める。
ブライスとエドが電飾を窓の周りにセットして、雪の結晶を良い感じにステンシルしてくれている。
「これは、素晴らしいです!」
パーシバルが来ていたのに気づかなかったよ。
「ええ、収穫祭らしくなっているでしょう」
2人で並んで、ウィンドウディスプレイを眺める。
ディスク型のオルゴールから音楽が流れると、街を歩いていた人達が立ち止まってウィンドウを見ている。
「ペイシェンス、これは新しい商売になるな」
カエサル部長も、満足そうだけど、まだまだだよ。
「収穫祭の売り上げが倍増しそうです!」
パウエルさんが喜んでいる。