軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

馬を買う!

3時間目の裁縫が終わったら、部屋でメアリーが来るのを待つ。

馬はど素人だから、パーシバルに任せるつもり。私の心配は値段を知らない点だけだ。

「ヘンリーの為だから、幾らでも出したいけど、相場もあるわよね。今回買った馬を騎士になっても乗るのかどうかも知らないのよ」

家の馬車を引く馬二頭の値段をワイヤットに聞いておけば良かったかな? いや、乗馬用の馬とは値段が違う気がする。

メアリーが迎えに来て、手早く服を鞄に入れる。

「これから、パーシバル様と馬を見に行くの。ヘンリーの誕生日のプレゼントになれば良いと思うけど、良い馬がなかったら別のプレゼントを買うわ」

メアリーは、少し驚いたみたいだけど、婚約者のパーシバルが一緒だから反対はしない。

これって、かなり自由に動けるんじゃないかな? ふふふん!

「ペイシェンス様、行きましょう!」

ああ、パーシバルのテンションが高い気がする。

顔はいつも通りだけど、少しだけ目の輝きが違うもん。

「ええ、でもどちらの馬車で行きます?」

パーシバルは、私の馬車に乗った。自分の馬車には従僕に荷物を持って屋敷に帰るように命じている。

「また、馬喰の所へ来てくれ!」

あっ、父親の迎えに馬車を回さなきゃいけないからね。

「パーシバル様、気を使わせてしまいましたね」

うちには馬車が一台しか無いんだ。

「いえ、ペイシェンス様と一緒に馬を買いに行けるのですから、そのくらいは大丈夫ですよ」

何を話しても、楽しい! 馬だとしてもね。

「ペイシェンス様は、馬について詳しく無いですよね?」

その通り! 頷く。

「今回、見るのは3歳馬です。ほぼ身体は出来上がっています。ただ、精神面では同じ年齢でも落ち着いた馬、子どもっぽい馬と、かなり違いがあります」

なるほどね!

「では、大人っぽい馬を選べば良いのですね?」

あれっ? 違うの?

「そこが面白い所なのです。3歳で落ち着いている馬が良いのか? 子供っぽい馬が、後から伸びたりもしますし。それは、見てみないとわかりませんね」

難しそう。

「今度、雇った家庭教師のカミュ先生は、王立学園では乗馬クラブに属しておられたみたいです。でも、馬の調教ができるかはわかりません」

パーシバルは、ふむふむと聞いている。

「そうですね! 調教師がいないのなら、精神的に落ち着いた馬が良いかもしれません。ただ、ヘンリーは騎士志望だから、5年後には冬の魔物討伐に参加しますよね。その頃、馬はちょうど全盛期になります。余裕が有れば2頭を調教し始めても良い時期なのです」

ふうん、2頭目も必要なんだ。

「ええっと、騎士には従者が必要です。その従者の馬も必要ですが、ご存じないのですね」

つまり3頭必要なんだ。そりゃ、カミュ夫人が屋敷を貸して、住み込みの家庭教師をしようと考える筈だよ。3人のうち2人が騎士志望だと言っていたからね。

「ふう、騎士になるのは大変ですね」

パーシバルに笑われたよ。

「ええ、それに良い武器も必要になりますよ」

うっ、当然だね! マントは作るつもりだけど、武器は考えていなかったよ。

そんな話をしているうちに、馬喰の所へ着いた。

馬車から降りると、馬がいっぱいいる馬小屋に案内された。

「パーシバル様、この度はどのような馬がご入用なのでしょう。良い3歳馬はいますが?」

馬喰のお爺さんが、満面の笑みで話しかける。

「いや、今回は私の婚約者が弟に馬を買うのだ」

そこから、婚約のお祝いを言われたりしたが、少しくすぐったい。

「こちらが3歳馬です。なかなか良い子揃いですよ」

うん、馬だというのはわかるけど、差はわからない。

「ああ、こちらの栗毛は落ち着いているね」

パーシバルには、差がわかるのかしら? 栗毛の馬の首を叩いている。

「なら、この馬が良いのかしら?」

ど素人の意見に、馬喰のお爺さんが肩を竦める。

「お嬢様の乗馬用なら、この子が良いでしょうね」

つまり、大人しいって事だね。

「ヘンリーは騎士になりたいと言っているから、もう少し元気な馬の方が良いだろう」

馬喰の爺さんの目が輝く。

「騎士なら、2歳の戦馬の良い子が入っているのです!」

パーシバルの目も輝いているよ。

「いえ、まだヘンリーは8歳だから……」

私の言葉は、2人の耳には入らないみたい。

案内された奥の馬房には、芦毛の馬がいた。

2歳なのにデカい! それに神経質に頭を上げ下げしている。

「おお、そんなに苛々するんじゃないよ!」

馬喰の爺さんが首を撫でると大人しくなったけど、この馬は駄目でしょう?

「良い戦馬ですね! 私の 疾風号(ヴェント) に引けを取らない」

えええ、パーシバルも戦馬を持っているの? モラン伯爵領で二人乗りした馬は大人しそうだったけど?

「ええ、ヴェントより若いですが、同じ血統で父親が同じなのです。まだ調教前で、荒々しいですが、良い戦馬になります」

えええ、これ推しなの? こちらをギロリと睨んでいるんだけど?

「少し乗っても良いですか?」

大丈夫なの? なんて心配したのは、不必要だったね。

気持ちよさそうに馬は走っている。

「馬は良い乗り手を一目でわかりますからね」

満足そうな馬喰の爺さんの言葉で、もしかして苛ついていたのは下手な私が持ち主になりそうだと誤解していたからなのかと驚く。

「でも、ヘンリーは8歳なのに……調教とか無理じゃないかしら?」

馬喰の爺さんは、この戦馬推しだ。

「騎士志望なら、この馬も若いから、丁度良いです。調教なら、こちらで引き受けますから」

私的には大人しそうな栗毛が良いけど?

パーシバルが少し乗って、馬から降りる。あの戦馬ときたら、パーシバルに顔をスリスリしているよ。態度違いすぎる!

「ペイシェンス様、この馬は掘り出し物ですよ! 買いましょう」

ううん? どうしよう?

「パーシバル様、今のヘンリーに乗りこなせるでしょうか?」

あっ! という顔をする。

「大丈夫だとは思うのですが。そうですねぇ、今なら栗毛の方が適しているのかもしれません。でも、あの栗毛では中等科になる前に物足りなくなりますよ」

難しいね。私が悩んでいると、馬喰の爺さんがとんでもないことを言い出す。

「二頭、お買い上げになられたら良いのです。こんな良い戦馬は滅多に出回りません。騎士になるなら、従者の馬も必要です。栗毛は、いずれは従者に乗らしたら良いのです」

金に羽根が生えて飛んでいくよ!

「私は、馬は分かりません。パーシバル様にお任せします」

それからは、馬喰の爺さんとパーシバルが真剣に言い合う。

貴族も値切るんだね! と一歩引いて聞いていたよ。

「栗毛の馬を土曜の朝にグレンジャー子爵家に連れてきてくれ。戦馬は、当分はここに預けておく。調教をしっかりして欲しい」

つまり、2頭買うんだね。支払いは、いつもはメアリー任せだけど、ここは小切手だ。

金貨100枚! 手が震えるけど、サインする。

「あのう、強引に話を進めすぎたでしょうか?」

支払いになって、パーシバルが気にしている。

「いえ、大丈夫です。ドレスに比べると、乗って走れますから」

ドレスも金貨が飛んでいったからね。あちらは金貨20枚ぐらいした。

うん、ドレス5枚分ぐらいだと考えると、安い気がするよ。

「ドレスは高価だと聞いていますが、そんなにするのですね」

ハハハ……ノースコート伯爵の宝石商とのやりとりを知ったら、パーシバルは驚くだろうね。

多分、戦馬よりも高いだろうから。

「これはペイシェンス様が支払われるのですか?」

私がサインした小切手を見て、驚いている。

「ええ、特許料や年金がありますから」

「グレンジャー子爵が支払うのだと思っていました」

困った顔をしているけど、もう決めたから良いんだ。

「少し熱くなって、冷静さを欠いていました。栗毛だけ買いましょう。三、四年後に戦馬を探せば良いのです」

ああ、それは先に言って欲しかった。

「でも、その時に良い戦馬がいるとは限りませんよ!」

馬喰の爺さんのいう通りだよ。

「この戦馬は、来年の誕生日のお祝いにしますわ」

それより、こうなったらナシウスの馬を買わないのは良くない気がする。

「もう一頭、大人しい馬が欲しいですわ」

もうヤケだよ!

「「青毛の馬が良いです!」」

パーシバルと馬喰の爺さんの意見は一致している。

金貨15枚追加だけど、ヘンリーに2頭買って、ナシウスに学園の馬に乗らすのは、お姉ちゃんとしては駄目だと思ったのだから仕方ない。

パーシバルが鞍などの馬具一式を、誕生日のプレゼントにと買ってくれた。

パーシバルとは、ここで別れる。

「お嬢様、ドレスも必要ですからね!」

馬車の中で、メアリーは真剣に言うけど、高すぎない? 布はシャーロッテ伯母様から格安で譲って貰っているのにさぁ。

「もっと安いドレスメーカーは居ないのかしら?」

ぼったくられていない?

「あのドレスメーカーは、奥様も贔屓にしていたのですよ」

それって古いって事じゃないの? あの緑のドレス、縫い目は流石にプロって感じだったけど、デザインはよくあるタイプだったよ。

「これから何着もつくるのだから、他のデザインのドレスも欲しいわ」

メアリーは、ドレスが好きだ。他のデザインと聞くと、少し折れてきた。

「そうですわね。流行を取り入れたデザインのドレスも必要です」

これは、リリアナ伯母様とシャーロッテ伯母様に要相談だ。本当は一番若いラシーヌに相談したいけど、王都を留守にしているからね。

そこが、今のドレスメーカーより安いと良いのだけど……。

大散財になったけど、騎士を目指すヘンリーには必要な経費だ。そう、自分に言い聞かせたよ。

「お嬢様、アクセサリーも必要ですからね!」

うっ、メアリーに追い討ちを掛けられたけど、それも必要なのはわかっているよ! 戦馬より高くつきそうなんだよねぇ。