作品タイトル不明
冬の討伐?
パーシバルに馬を買いたいと相談したら、モラン伯爵家が購入している馬喰に連絡をすぐに取ってくれた。
やはり、パーシバルの萌ポイントは騎士関係が多い気がするよ。マントに早く刺繍してプレゼントしたい。
「ペイシェンス様は、3時間目で終わりなのですよね」
本当は4時間目と放課後は錬金術クラブなんだけど、ヘンリーの誕生日パーティの準備もあるから、3時間目が終わったら帰るとメアリーに伝えてあるんだ。
「ええ、メアリーが迎えに来ますけど?」
にっこりとパーシバルが笑う。
「なら、馬を見に行きませんか? ちょうど良い馬がいるかはわかりませんが、何頭か3歳馬がいると連絡を貰ったのです。本当なら5歳馬ぐらいの方が良いのですが、ヘンリー君が入学するのは2年後だから、その頃には馴染んでいるのではないでしょうか?」
私は馬の事は何も知らない。お任せする。
金曜の予定はショッピングだ! るんるんるん! 鼻歌が出ちゃうけど、馬だからねぇ。
でも、パーシバルとデートだ。
朝からテンションが上がっていたけど、相変わらずホームルームでは何人かの女学生から嫉妬の視線を感じる。
防衛魔法を習っていて、良かったよ!
1時間目は空いているから、錬金術クラブに行く。4時間目と放課後は行かないからね。
「ペイシェンス、来たのか!」
ベンジャミンは、同じホームルームだったのに、やはり歩くスピードの差かな?
「ええ、4時間目と放課後は今日はパスしますから」
相変わらず、殆ど錬金術クラブにいるカエサル部長が、少し眉を顰めた。
「ミハイルが放課後に来るのに……まぁ、仕方ないけどな」
そうなんだよね。私はミシンを早く作りたいのだけど、機械についてはミハイル頼みなんだ。
私が、機能を思い出しながら説明して、ミハイルが機械を考えるパターンになっている。
「今日は、売り出すディスク型のオルゴールの新曲のディスクを作るつもりです」
何曲かはディスクにしてあるけど、多い方が選択できるからね。
私が一枚作って、後はそれを基礎にして生産して貰っている状態だ。
「ペイシェンスも忙しいだろうが、今度の日曜に父が話したいと言っているのだが?」
土曜はヘンリーの誕生日パーティだけど、日曜の予定は今の所は入っていない。
「私も、一度話し合わなくてはいけないと思っていました。新製品も色々と考えています。あっ、エクセルシウス・ファブリカの代表はゲイツ様が続けて下さいますわ」
カエサル部長もベンジャミンもゲイツ様の変人振りは知っているので、婚約ぐらいでは代表を降りたりしないだろうと笑う。
何枚かの新曲のディスクを作って、1時間目はほぼ終わったけど、魔法使いコースのベンジャミンに少し質問があるんだよね。
「ベンジャミン様は、薬学と薬草学以外の魔法使いコースは、ほぼ修了証書を取られているのですよね」
それは、カエサル部長も同じみたい。
「そうだけど、何かな?」
「攻撃魔法を放つのが怖くありませんか? 的に向かってなら、怖くないのかもしれませんけど、魔物や人に向かって放てるものかしら?」
あっ、2人が呆れた顔をしている。そうか、男子は剣も習うんだもんね。
「ペイシェンス、魔物や敵に向かって魔法を放つのを躊躇していたら、死ぬぞ!」
ベンジャミンがライオン丸になって吠えている。
カエサル部長は難しい顔をしている。
「もしかして、ペイシェンスは冬の魔物討伐に参加するのか?」
その言葉にベンジャミンが「無理だ!」と一言で却下する。
「ベンジャミン様は、冬の魔物討伐に参加された事はないのでしょう?」
王立学園の中等科の騎士コース全学生と魔法使いコースの一部が参加するみたいだからね。
「いや、王立学園の魔物討伐には参加した事はないが、夏休みや冬休みに領地の魔物討伐には参加したことがある」
へぇ、そうなんだ! カエサル部長も頷いている。
「プリースト領は、北部にあるから、冬になるとデーン王国の寒さから逃れようと魔物が押し寄せてくる。特にトレントは狩らないと、豊かな農地に棲み着いてしまうからな」
えええ、トレントって木の魔物だよね? 移動して来るんだ。
「あれは、討伐というより、伐採だな。私は火の魔法が使えるから、父にこき使われる」
それは大変そうだよ。
「だが、トレントは木材として高価に買い取られるし、枝も薪になる。種類によっては木の実もどっさり取れるから、簡単に討伐できる割にお得感がある魔物だな」
ああ、だから薪をあれほど使っても、ハゲ山にならずに済んでいるのかも?
「トレントだけでなく、他の魔物も冬になるとデーン王国から越境して越冬しにくる。特に、今年の冬は厳しくなりそうだから、数も多くなるだろ」
渡り鳥ならぬ、渡り魔物もいるのだ。
「王立学園が討伐するのは、王都の北側の 黒の森(シュヴァルツヴァルト) が中心だ。去年、参加したが……キツかった」
ええ、カエサル部長が参加していたんだ!
「へぇ、カエサル様も参加したのですね。今年はしないのですか? 私は迷っているのですが」
ベンジャミンも参加するかもしれないんだ。
「ああ、討伐はまだしも、キャンプがしんどかったから悩み中だ」
ああ、サリエス卿も遠征の後は皆臭いと言っていたよ。
「キャンプかぁ。領地の討伐は、北部の砦を拠点にしているからなぁ」
それなら、砦で泊まれるから良いのかも?
「だが、食事は良かったぞ。魔物の肉が食べ放題だった」
魔物の肉は魅力的なんだよね。
「そうか、なら参加しても良いな!」
ベンジャミンは食べ物に釣られて参加するのかな?
「だが、ペイシェンスは無理だろう。乗馬も苦手じゃないか?」
だよねぇ! でも……断っているけど、ぐいぐい押されてるんだよ。
「あのう、領地管理には魔物の討伐も必須なのでしょうか?」
2人が声を揃えて「当たり前だ!」と叫んだ。
「領主としての最低の義務だ。それを疎かにして、領地を取り上げられた貴族もいるぞ」
ひぇぇ〜! それは無理ではないかな?
「ペイシェンス? もしかして陞爵したのか?」
カエサル部長は、私が数日学園を休んだ時から、何かゲイツ様としていたのだろうと推測していたからね。
「領主自ら討伐しなくても、兵を雇ったり、冒険者ギルドに依頼しても良いのだ」
ふう、やはり法衣貴族の方が楽そうだけど、何故、皆は返上しないのかな?
「法衣貴族の方が楽ではないのですか?」
2人が驚いている。
「法衣貴族は、年金だけだ。本来の収入の半分も貰えない。まぁ、領地管理をしなくて良いけど、その費用を引いても損だからだ」
ああ、そうなんだ! でも、父親が領地管理したら赤字経営になりそうだから、半分でも年金を貰った方が良いかもね。
「えっ、4代前のグレンジャー子爵も生活能力が無かったって事なのかしら?」
2人はコメントを控えたけど、そうなのかも?
「私も貴族社会で生きる常識が無いと言われているし、困るわ」
父親は、この方面はあてにならない。伯母様方に聞くしかないけど、アマリア伯母様は古い考え方だし、リリアナ伯母様は社交界は詳しそうだけど、他の事は知らないみたい。シャーロッテ伯母様は、領地の産業とか詳しいのかしら?
「モラン伯爵家に頼る手があるぞ」
そうか! ゲイツ様も結婚相手の近くの領地にするようにとか言っていたね。
「色々と勉強しなくてはいけない事が増えていくばかりですわ」
ベンジャミンが何か訊きたそうだ。
「何かしら?」
少し迷って口にした。
「木曜にゲイツ様から防衛魔法を習っているんだろう? 何か成果はあったのか?」
そっちか! 陞爵について訊きたいのかと思った。それは、まだ公表されていないから駄目なんだよね。
「ええ、防衛魔法はかなり上達しましたわ。今は拘束魔法を習っているのです」
やはり、ベンジャミンもカエサル部長も魔法使いコースを取っているだけあるね。興味があるみたい。
「ちょっと拘束魔法を掛けてみてくれ」
「ええっ、ベンジャミン様にですか?」
頷くから、やってみたけど……気絶してるじゃん!
「解除!」と拘束を解いて、ベンジャミンの側に駆け寄る。
「ベンジャミン!」カエサルが、喝を入れたら、すぐに意識を取り戻した。
「すみません!」と謝る私に、ベンジャミンが笑う。
「こんな拘束だとは思っていなかった。謝る必要はない。油断していた私が悪いのだ」
この拘束魔法は危険かも?
「ペイシェンス、拘束魔法はこのくらいで良いのだ。何故なら、拘束しなくてはいけない相手に掛けるのだからな!」
私の弱気にカエサル部長がすぐに気づいた。
「なるほど、ゲイツ様が冬の討伐に誘う筈だ。ペイシェンスなら攻撃魔法も習えば使えるようになるだろうが、魔物や人に放つのを躊躇してしまうのを心配されているのだ」
カエサル部長まで参加した方が良いというの?
「普通の令嬢には不必要だろうが、ペイシェンスは色々と活躍しているから、目をつける奴も出てくる。その時に、躊躇していたら、攫われるか、周りの人に被害が出るぞ」
ゾッとした。弟達やメアリーに被害が出るなんて嫌だ。
「あのう、カエサル部長。冬の討伐の不便だった事は何でしょう?」
行かなきゃいけないのなら、なるべく快適な環境にしたい。
カエサル部長に、キャンプの不便な点をあれこれ訊いたよ。トイレ関係は、絶対に要改善だ!