軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話 黙って守られてろ

数歩、わずか数歩の油断だった。

俺はエルリックと言葉を交わしながらも、無論、シーナとペンフィールド家の再会には細心の注意を払っていた。

それで、ミラベルが無邪気にシーナに抱き着いたときに、実家、そして姉妹の和解があるいは成ったのやもしれぬと、そのようなことを考えてしまった。

なぜなら、ペンフィールド家からしても、これ以上シーナに対して文句のつけようなどなかったからだ。

経緯からするに、俺とシーナの縁談は、最終的にミラベルが、公爵家の当主であり俺と同じく騎士団の師団長であるエルリックに嫁ぐための前段階でもあった。そして、シーナはその役目を十分に果たして実家に貢献している。ペンフィールドは二人の騎士団の師団長の妻を二人輩出し、これから社交界では押しも押されもせぬ名家への仲間入りを果たすことになる。

だが、ミラベルがシーナに抱き着いたもうまさに次の瞬間には、シーナの顔は強張り、何かを思い出すかのような恐怖に慄いたのが、わかった。

「何をしている!?」

俺はいつの間にか、儀礼用の剣──王国の騎士団員が式典に携えるものである──を抜き、怒鳴り、シーナとミラベルの間に割って入っていた。

披露宴の会場が一気に静まり返ったあと、ざわめく。

俺と反対に、ミラベルの方にはエルリックがついて、抱きかかえるように守る。

「旦那様。わたくしは別に」

シーナは慌てて、俺にすがるように言う。

「いい」

「でも、妹の結婚式で、わたくしがちょっと、我慢すれば」

「いいと言っているだろう!」

俺は右手の剣をミラベルとエルリックに向け、握っていない片腕でシーナを抱きしめて、言う。

「体面も、時も場合も知らん。黙って俺に守られてろ」

エルリックも剣を抜き返した。

「穏やかじゃないな、アルヴェンダール」

「そちらの花嫁に言ってくれ」

俺がそう言うと、彼は抱きかかえたミラベルを横目で一瞥する。

それから周囲に、意気揚々と宣言した。

「紳士淑女の皆様! これより、この僕! 新郎エルリックと、今や義兄弟となった我が親友! アルヴェンダールの一騎打ちを見せてご覧にいれます! 正真正銘の真剣勝負! どうぞご堪能ください!」

彼は周りに軽く指示をして、テーブルをどけさせ、即席の決闘場を作り出す。

それからミラベルをペンフィールド夫妻に任せ、俺もシーナをマイラに任せる。

合図なく、エルリックは俺に斬りかかってきた。

それを防御する。鍔迫り合いになって、俺とエルリックの顔が近づく。

「アルヴェンダール。ちょっと、どういうことなの」

「そのミラベルという娘が、うちの妻を虐待していたことは知っているか?」

いったん互いに弾き合う。

数度打ち合って、また鍔迫り合いに持ち込む。

「……あの子が? そうは思えないけど」

「なら、うちの妻があんな表情をするわけがないだろう」

彼はまた横目で、今度はシーナを一瞥し、眉をひそめる。

「……まあ、確かにかなり傲慢なところはある」

「節穴だな。なぜあんな女を嫁にした」

「だって美人なんだもの。魔力も十分で強い子も見込める。トロフィーには最高だよ」

「下衆が。お似合いの夫婦だな」

「でも、じゃあうちの妻が決闘の機会をくれんだね!」

手元に強い衝撃がくる。

エルリックは先手を取って俺を押し、すぐ距離を取り、今度は俺に対して宣言する。

「五年ぶりだアルヴェンダール! 僕はずっと君と戦いたかったよ!」

そこから、余興と言うには激しすぎる剣戟が始まった。

こいつとは騎士学校時代からの仲だ。互いの長所は一長一短だったが、総合的にはいつも俺が首席でエルリックが次席。

そういう対抗意識があるのか、事あるごとに決闘を挑まれていた。

無論、すべて退けたが。

騎士団に入ってからは、そのような他人の情熱が面倒になったこともあって、俺の側から積極的にエルリックを避けていた。

その積年の重みを今、俺は受けさせられていた。途中からは純粋に、騎士学校時代のような大声を上げてエルリックは斬りかかってきていた。

だが、儀礼用の剣ではそう何度も剣を重ねられない。そしてその消耗には露骨に剣技の巧拙と力の差が現れる。

推定、最後の鍔迫り合い。

悲鳴を上げたのはエルリックの剣の方だった。

「まだ勝てないか」

「……おまえは欲が強すぎる。それが短所とは言わんが、俺相手には致命的だ」

エルリックは目を丸くした。

「初めて、アドバイスをもらった」

「ふん」

「……ねえ、じゃあついでに頼むんだけど、負けてくれたりしない? 僕の式だし」

「しない。先に仕掛けたのは貴様の妻の方だ」

最後に俺はエルリックの手元を叩いて、剣を落とし、喉に剣尖と突きつける。

披露宴会場が静まり返る。

エルリックの宣言のおかげでこれが余興である、と認識していた来賓も、新郎側が負けるとなればさすがにやはり強い違和感を覚えたようだった。

そういうたちではないのだが、この場を収める必要だけはある。

俺は敢えて、周囲に恭しく一礼をして言った。

「来賓の皆様には失礼ながら、これは真剣勝負。義理の兄からの指導だと、ご理解ください」

睨むように来賓を見つめ、無理やり拍手をさせる。

その拍手は、事態をわかっていない群衆にも伝わって、次第に大きくなる。

俺はシーナの下にすぐ戻る。

「だ、旦那様。わたくし、えっと、えっと」

シーナは憔悴しているようでもあったし、困惑しているようでもあった。

「いい。もう帰るぞ」

彼女の手を取り、ミラベルとペンフィールド夫妻の方へ向かう。

しっかりとシーナの肩を抱く。正面から相対させたりなどしない。

ミラベルは呆然としていた。

それで我に返ったように、心底憎らしそうにシーナを見つめるから、今度は俺の方が睨み返す。

余興であるという体を守ったといえど、台無しもいいところだ。

俺はむしろ、この娘をそういう目に遭わせたことを、快くすら思う。

「おまえたちがどういうつもりでシーナを嫁に寄越したかなど、興味もないが──」

ペンフィールド夫妻とミラベルにまとめて、最後に言った。

「──ただ、良い縁談をくれた。それにだけは感謝している」

それから俺たちはゆっくりと歩いて、披露宴の会場を抜け出した。