軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カルマって知っているだろうか?

俺は運命とか、宿命みたいな物のように思っている。

あやふやな知識で申し訳ないが、とにかくカルマって……かっこいいと思わない?

「俺もモブのカルマから逃れられないのか」

そんな台詞に添削するがごとく、ルクシオンがズバズバ言ってくる。

『カルマは業ですね。因果――行為があって結果があると言う意味では? 少々台詞としておかしいと思いますよ』

かっこうをつけた台詞を添削されたときの気分が分かるだろうか?

……無茶苦茶恥ずかしいよ。

「……今の台詞はなかった事にしよう」

『ご自由に』

俺は今、甲板の上に立っていた。

寒空の下、俺のパルトナーと並んでいるのは公爵家の飛行船三隻。

そして、向かい合っているのはウェイン家の寄親である伯爵家の飛行船――武装をした飛行船艦が、艦隊でこちらと向き合っている。

簡単に言うと、伯爵家は捕らえた空賊たちを引き渡せ。

公爵家としてはお前らの寄子の要請で助けに来たのに、引き渡せって馬鹿じゃないの。みたいな態度だ。

伯爵家としては、空賊と手を組んでいた事実を隠したいため必死だった。

しかし、公爵家が出てきたことで無理矢理手を出すわけにも行かず、こうして話し合いをしているのだ。

オリヴィアさんは、アンジェが引き取って自分の船に連れ帰った。

泣いているオリヴィアさんを見て、俺は平手打ちを一発貰ったが痛かった。

『それより、よろしかったのですか?』

「交渉を任せたことか? 俺に高い交渉能力があるように見えるか? 公爵家に任せれば良いんだよ」

交渉ごとはお願いしている。仲介料は取られるだろうが……。

俺は空賊たちから奪った鎧や飛行船があるし、空賊たちも全員捕らえている。

……何も問題はない。

『そうではなく手柄についてです。ブラッド、グレッグの両名に手柄を譲るのは何故でしょう?』

「二人が元の地位に返り咲けば俺としてもありがたい。オリヴィアさんを守ってくれそうじゃないか? そうならなくても、いざという時に頼れそうだ」

既にストーリーを大きく外れてしまった。

少しは修正しないと今後が怖い。まぁ、元の地位に戻れなくとも、少しは現状よりマシになってくれれば良いのだ。それに、二人は頑張ってくれた。それくらいしても良いと思えたのだ。

『マスターはオリヴィアとの関係を清算。手柄を二人に譲り、手元に残るのは僅かなアイテムが数点のみ……元は取れましたか?』

「十分だ。俺にはこれで十分。お前もいるからな」

よく考えれば、ルクシオンはオリヴィアさんが手に入れていたかも知れない飛行船だ。チート級の宇宙船を奪ったと思えば、多少の労働や嫌われることくらい対価にもならない。

それを言うとルクシオンが調子に乗りそうなので黙っておく。

『オリヴィアを泣かせたと、アンジェリカに怒られていましたね』

「お姫様は気難しいね。モブに相手は出来ないよ。いずれ相応しい王子様が迎えに来てくれるのを祈ろうか」

『アンジェリカとも距離を取ると?』

「むしろ今までが近すぎたと思うけどね」

何事も適切な距離というものがある。

甲板の上で待っていると、伯爵家の飛行船が艦隊へと戻っていく。そして、艦隊の飛行船はこの場から去って行くのだった。

……話し合いは終わったな。

飛行船にあるアンジェの自室。

そこではリビアが膝を抱えて座っていた。

話を聞いたアンジェは呆れるのだった。

「……お前ら子供か? リビア、お前も悪いがリオンも拗ねるとは情けない」

自分のことを棚に上げるアンジェだが、リビアは俯いていた。

「私が悪いんです。ペットだって言われて、それを真に受けてリオンさんに八つ当たりするから嫌われたんです」

アンジェが慰める。ただ、その距離感は微妙だった。

アンジェにも思い当たる節がある。実際、同じ事を言われて少し考えていた。リビアをペット扱いしていなかったか、と。

「……今は休め。すぐに学園に戻るぞ」

アンジェもどうすれば良いのか分からなかった。

与えられた友人ではなく、自分で手に入れた友人……リビアは平民で、どう接すれば正しいのか分からなかったのだ。

三人の関係は崩れかかっていた。

王宮にはブラッドとグレッグの二人が呼び出されていた。

二人を前にした役人が困り果てている。

何しろ、元は名門の跡取りだ。今は違うが、扱いは腫れ物を触る感じになっているのだ。

ブラッドが机を叩く。

「いったいどういうつもり――あ、腕が痛い」

怪我した腕で机を叩いてしまい痛がっている。

グレッグはそんなブラッドに呆れつつも、役人をしっかりと睨み付けた。

「俺たちが正式に騎士になるのは分からなくもない。納得できないが、戦場に出た功績みたいなものだからな。だが、空賊退治は俺たちの手柄じゃない。報酬なんて貰えるかよ」

ブラッドも涙目で頷いていた。

役人が困り果てている。

「受け取って貰わねば困ります。バルトファルト男爵からの報告で、自分は二人を助けただけだと……そ、その、お二人は、現在は騎士でもなければ爵位も階位もありません。六位上である階位と、男爵位を持つバルトファルト殿の報告が優先されまして。ふ、不正があれば取り調べも出来るのですが、何分こんなことは少ないので」

報酬を支払うというのに受け取らない二人を前に、役人も困惑しているのだ。

普通は、手柄も報酬も欲しがるものだ。

それなのに二人が拒否しているのが信じられないのだろう。

グレッグは腕を組む。

(あの野郎、変な気を使いやがって)

深呼吸をすると、グレッグは役人に全てを話した。

「俺たちが手伝いをしただけだ。空賊団を潰したのも、懸賞金のかかった空賊を捕らえたのもバルトファルトだ。あいつの手柄だ」

ブラッドも頷く。

「僕たちはたいした活躍もしていない。それなのに、こんな報酬は貰えない」

今度は役人が溜息を吐く。

「……お二人には言わないように言われていたのですが、バルトファルト男爵がお二人の実家に働きかけています。今回の手柄で絶縁を解いてくれないか、と」

二人が複雑そうな顔をした。

「あ、あいつがなんで!」

グレッグが立ち上がれば、ブラッドも同じように理解できないという顔をしていた。

「そ、そうだ。そこまでする理由がどこにある?」

役人は二人の顔を見つつ答えるのだ。

「男爵のお気持ちは分かりませんが、王宮内で相応の資金が流れています。お二人の実家にも相応の金額や品が贈られたとか。ここは素直に受け取られてはいかがでしょうか?」

今後恩を返せば良いと言うと、役人は部屋から去って行くのだった。

王宮の中庭。

ベンチに座る二人は気持ちの整理がつかないでいた。

グレッグは忌々しそうに、ブラッドは少し悲しそうな顔をして俯いている。

そんな二人の下に、ユリウスが現れた。

少し疲れた顔をしている。

「二人とも、聞いたぞ!」

どうやら二人の活躍を聞いて探していたのか、ユリウスは嬉しそうにしていた。

「殿下?」

ブラッドが顔を上げると、ユリウスは興奮している様子だった。

「名のある空賊を退治したらしいな。しかもバルトファルトの奴の前で! これはもう、俺たちの勝ちじゃないか? それよりも、二人には絶縁を解くための手続きが始まっているらしい。お前たちの嫡男復帰も近いかも知れないぞ」

喜ぶユリウスに、グレッグが小声で言うのだ。

「違う。俺たちはあいつに何一つ勝てなかった。強さも、心意気も……おまけに度量も負けたのさ」

ブラッドもそのことに反論できずにいた。

「殿下、僕たち……決めたんです」

「二人とも?」

ブラッドとグレッグが立ち上がる。

「バルトファルトに勝ちたい。別に負かしてやりたいわけじゃないんです。もっと男として勝ちたい」

「だよな。今のままなら勝負にもならない。あいつは凄い騎士だよ。俺たち、最初から相手にならなかったのさ」

ユリウスが来たことで俯いていられないと思った二人は、すぐに行動を開始した。

ブラッドが言う。

「殿下、王妃様に面会は叶うでしょうか?」

「母上に? いったい何を考えている?」

グレッグが照れくさそうに。

「これだけして貰ったんだ。あいつに恩を返さないなんて男じゃないからよ」

……恩を仇で返されるとはこのことか。

男子寮に戻ってきた俺は、明日から授業が再開するというのに王宮から届いた書状を受け取り震えていた。

「ブラッド……グレッグ……そうか、お前らはそんなに俺のことが嫌いか」

震える手で持った書状に皺が入る。

そこに書かれていたのは【五位下への昇進】が許されたという、事後報告のような内容だった。

俺は六位上という宮廷階位が、一段上がって五位下になってしまったのだ。

理由は空賊退治とブラッド、グレッグの絶縁解除を手伝った云々とかあり得ない理由で、だ。……嘘だと思った。

「いったい誰が裏で糸を引いた。こんな……こんな事が許されるわけがない。五位下ってなんだよ。親父だって六位下なのに、その二つ上とかどうしろっていうんだよ」

普通は出世で喜ぶもの?

違うね。少なくとも俺は嬉しくない。

出世すると言うことはそれだけ責任が発生すると言うことだ。

領地に引きこもってノンビリしたい俺が、出世してどうする。

下手に宮廷階位が高いと呼び出しとか多いんだぞ。

王宮と関わりたくないからあの二人を支援してやったのに、気が付けば俺が出世してしまったではないか。

空賊退治ぐらいで普通は出世しないぞ。

もっと功績を積み上げないと王宮は出世させない。領地規模は厳しくチェックして陞爵させるくせに、階位の昇進には厳しいのが王宮だ。

この理不尽な扱いに憤慨していると、ルクシオンが俺の後ろから書状を見ていた。

『……まさか昇進するとは思いもしませんでした。マスターは私の予想の斜め上を行くのが得意ですね』

「得意って何だ! 俺だって昇進するとは思わなかったよ! どう考えても昇進する流れじゃなかっただろうが! むしろ、どうやったら昇進するのか知りたい奴は山ほどいるよ!」

六位とか五位とか、そもそも昇進するのがとても難しいのだ。空賊退治一回で昇進するなんてあり得ない。

それこそ戦場で大きな手柄を立てるとか、長年仕えたとか、そんな大きな功績が必要だ。

個人の力で出世するようなものじゃないんだよ!

一人騒いでいると、ノック音が聞こえてくる。

ドアを開けると、緊張した様子の男子寮の職員が立っていた。職員は女性で、俺を前に頭を下げてくる。

「バルトファルト男爵。お、お手紙と贈り物が届いています」

「手紙と贈り物?」

「は、はい。部屋には届けられないので外にご用意しております」

「外?」

気になって職員に案内され、贈り物を見に行くとそこにあったのはエアバイクだった。

それも割と豪華で大きな奴だ。

下手な鎧よりも値が張ると思うエアバイクと、手紙の送り主は【アトリー家】だった。

手紙を受け取り読んでみる。

「……にぎゃあぁあああぁぁぁぁあぁあぁぁ!!」

俺が叫ぶと、近くにいた職員がビクリと肩をふるわせた。

そこに書かれていたのは、俺への謝罪だった。

アトリー家――クラリス先輩の実家から届いた書状には、体育祭での一件に関する謝罪と、娘に元気が戻った事へのお礼……それがエアバイクだったらしい。

男子ならちょっと憧れるからエアバイクはいい。

これは良いが、問題は最後だった。

「嘘だ。こんなの嘘だ。みんな……みんなそんなに俺のことが嫌いなのか」

俺が泣いているのを見て、職員が頭を下げ何か言って逃げ去った。

紙に涙がポタポタと落ちる。

そこに書かれている内容を簡単に言うのなら『流石に昇進させるのは、しばらく待って欲しいと言われたので五位下から、五位上への昇進は卒業までお待ちください』だった。

アトリー家は宮廷貴族の伯爵家だ。

大臣とか、それくらい偉い人たちの家柄だ。娘のことに恩を感じたのか、俺を昇進させると言ってきた。エアバイクだけで良かったのに!

俺が五位下に昇進したばかりで、流石にすぐには無理だから、卒業するまで昇進を待って欲しいという詫びだった。

「何で! 何で昇進させようとする! おかしいだろ! お前ら、さては俺が悔しがると分かってやっているだろ! どうしてこんな酷いことが出来るんだ。それでも人間かよ!」

フワフワ浮かんだルクシオンは、エアバイクにコードを延ばして突き刺していた。

『体育祭で使用したエアバイクとはエンジンが違いますね。パーツも丁寧に作られ、とても良い物ですよ』

「お前、何をしているの?」

『改造と掌握を行っています』

まるでエアバイクに酷いことをしているような光景だ。ルクシオンが悪い奴に見える。

俺は膝から崩れ落ちた格好でエアバイクを見ていた。

「……そうだ。旅に出よう。知らない国へ冒険の旅に出よう」

『明日から学園なので無理です』

「だよね! ちくしょうぉぉぉ!」

どうして俺ばかりがこんな目に遭う? 出世したい奴なんていくらでもいるだろうが!

俺は出世なんてしたくなかったのに!

実家から戻ってきたクリスは疲れた顔をしていた。

(バルトファルトの奴、なんで座り込んでいたんだ?)

男子寮に戻ろうとするときに、力なく座り込んでいたリオンを見たが声はかけなかった。

部屋に戻ると手紙が届いていた。

床にあった手紙を拾い上げると、それはマリエからだ。

頬が緩むクリスが眼鏡の位置を正して手紙を読む。

「マリエが連休中にダンジョンへ? だ、大丈夫だったのか?」

手紙には戻ってきたら会おうと書かれており、クリスは急いで身支度を調えると飛び出すように部屋を出てマリエの下へ向かうのだった

見せたい物があると書かれた手紙。

クリスは実家での事を忘れてマリエに会いに行く。

翌日。

俺は絶望した顔で授業を受けていた。

休憩時間になりダニエルとレイモンドが近付いてくる。

「酷い顔だな」

「もっと喜んだら?」

既に噂は広がっているのか、空賊退治をしたブラッドとグレッグの二人は女子にもてはやされていた。俺には黄色い声援なんて一つもない。

ハッキリ言えば、オリヴィアさんもアンジェも声をかけてこないから、女っ気一つない。

「俺は下手に出世なんてしたくなかったの」

ダニエルが困ったように笑って納得していた。

「まぁ、そうだよな。階位が高いと大変だからな。お前の階位、下手をしなくても領主貴族なら寄子や陪臣をまとめて艦隊を指揮するような階位だし」

階位が高いと相応の働きを求められる。

ダニエルの言うとおり、その辺の六位下の男爵なら戦争になっても飛行船一隻を出せば良い。だが、階位や爵位が上がるとそうはいかない。

相応の戦力を出す義務が発生する。

これが嫌で、昇進も陞爵もしたくない貴族は多い。

逆に昇進や陞爵を狙う貴族は、見栄を張って飛行船の数を揃えるのだ。

レイモンドが近くの女子に視線を向けた。

俺を見ている女子たちの顔がとても複雑そうだった。

「でも、五位上の階位が確実なら、結婚には困らないんじゃないの?」

……結婚。

そうだな。俺たちはそのために学園にいる。砂漠で一粒のダイヤを見つけるがごとく、俺も諦めてはいられない。

「あぁ、そうだな。確かにそうだけど……面倒だよな」

レイモンドは笑っていた。

「修学旅行もあるし、その時に声をかけてくる女子がいるかも知れないよ。羨ましいね」

今更声をかけてくる女子なんて、俺の地位が目当てだと言っているようなものだ。

おっと、違った。この学園、そんな女子ばかりだった。

ダニエルがつまらなそうにする。

「お前たちとは別々か。残念だな」

この学園の修学旅行は毎年ある。

三学年合同で行われるが、目的地は三ヵ所ある。毎年一ヵ所を巡る事になっており、俺やダニエルとレイモンドはそれぞれ目的地が違う。

そのため、別の飛行船に乗るのだ。

ゲームでは狙っている男子と同じ目的地へと向かい、好感度を稼ぐことになる。ついでにそこでしか手に入らないアイテムも回収できる。

俺が向かうのは、狙っているアイテムがある浮島だった。

「お土産は期待して良いぞ」

俺の言葉に二人とも「期待しているよ」と言って笑った。

……代わり映えのしない日常。

これがとても尊いと思えるのは、俺に前世があるからだろう。学生時代はこれがどれだけの贅沢か気が付かなかった。

レイモンドが俺を見て、

「そう言えば、特待生と公爵令嬢も同じ船だね。リオン、最近上手くいっていないみたいだし、この際謝っておけば」

「何で俺が悪いことをしたみたいになっているの?」

ダニエルが驚く。

「え、だってほとんどの原因はリオンだろ?」

「だよね」

レイモンドも同意しやがった。こいつら、俺を一体どんな目で見ているのか一度じっくり話を聞く必要があるな。

修学旅行当日。

用意された飛行船は随分と豪華だった。

まるで豪華客船のような飛行船に乗り込み、向かう先は南方にある暖かい浮島だ。

季節が違い、今の季節は夏。修学旅行先としては人気である浮島だ。

「北半球と南半球みたいな感じか? それにしても……」

修学旅行と聞いていたが、豪華客船で遊んでいるようにしか見えない生徒たち。

俺は同じ底辺グループの先輩である三年生の【ルクル】先輩とカジノを回っていた。

「修学旅行なんて言っているけど、しょせんはお遊びだよ。これから向かう浮島は観光地だし、この時期はお祭りがあるんだ」

「お祭りですか」

「異国の雰囲気がある場所だよ。女子は浴衣を着て祭りを楽しむ。男子はエスコートが出来ればぐっと距離が縮まるよ。リオン君も頑張り時だよ」

……そうだ。結婚するならここで頑張らないと。

そう思っていたが、人気のある女子は既に男子が取り囲んでいた。

それ以外の女子たちは専属使用人に囲まれチヤホヤされている。

目に留まったのは――カウンターで話をしているアンジェだ。信用を失った取り巻きたちが、必死で接待をしているが煩わしそうにしていた。

他に視線を向ければ、カジノの雰囲気が駄目だったのか外に出るオリヴィアさんの姿が見えた。

ルクル先輩が俺に言う。

「難儀な相手を選んだね」

「何を言っているんですか? 二人とも俺が狙える立場にいませんよ」

「うん、それでいい。僕たちには僕たちの相手がいる。それは彼女たちも同じだからね。釣り合わない相手っているからね。それを無視すると大火傷だ。まぁ、リオン君には言わなくても分かっているかな? 殿下たちを見ているわけだし」

その殿下たちだが、見事にバラバラに配置されている。

ユリウス殿下とジルクは一緒だが、マリエはブラッドとグレッグと一緒だ。よりにもよって、目を覚まして欲しいあいつらとマリエが一緒……悲しい限りだ。

ルクル先輩がクリスを見つけた。

「おや、剣豪様だ」

ポーカーをやっているようで、勝負に勝ったようだが嬉しそうには見えない。

席を立って他の場所に向かっている。

「クリス一人か」

ただ、その周囲には女子たちが群がっていた。

「クリス様、今度はどれで遊びます?」

「一緒に甲板のプールで泳ぎませんか?」

「いえ、お食事を一緒に――」

女子が言い寄っているが、溜息一つで去って行く。そんな態度なのに、女子たちはとても嬉しそうだ。

俺が溜息を吐けば、額に青筋を浮かべ睨み付けてくるのに。

ルクル先輩が俺を誘う。

「ルーレットでもするかい?」

「いえ、俺――ギャンブルはしない主義でして」

ルクル先輩が驚いた顔をしている。

「……え?」

嘘だろ、とでも言いたい顔をしていた。だが、俺は本当にギャンブルが嫌いだ。勝つか負けるか分からないのに戦う? 馬鹿らしい。

俺は勝てる勝負しか挑まない男だ。

修学旅行。

リビアは到着した浮島で浴衣を借りると、夜の街を歩いていた。

普段なら危険だろうが、今日は浮島でお祭りのある日。

屋台が建ち並び、赤い提灯の光で独特な雰囲気を出していた。

「……綺麗」

太鼓の音に笛の音。

そして楽しむ人たちの声。

自分の故郷の祭りとはまた違う。

新しい文化に触れた気がしたリビアは、そんな祭りを一人で歩いていた。

空賊退治からリオンとは話しもしていない。アンジェも話し難く、そうしている間に距離が出来てしまったらしい。

アンジェは取り巻きに囲まれ祭りに来ており、話しかけることも出来なかった。

甘辛いタレの匂い。

甘いお菓子の匂い。

射的や、他にも色々と並んだ屋台。

金魚すくいを眺め、そして打ち上げられた花火の音に驚くも空に散る花火に感動するが――どこか心から楽しめなかった。

視線はアンジェと――そして、リオンを探してさまようが、今はアンジェも見つからない。

アレから友達を探そうとも思えなかった。

カーラの一件でどうしても卑屈になっている。

「……私、ここにいて良いのかな?」

以前にリオンがいても良いと言ってくれたときは嬉しかった。

そんなリオンに酷いことを言った自分が恥ずかしく情けない。

(どうして周りの人の意見を優先したのかな)

自分でも分からないが、最近は何をしていても楽しくなかった。

フラフラと歩いていると、祭りの会場から離れてしまった。

(あ、戻らないと――)

だが、聞こえてくるのは揉め事のような声だった。

「良いから渡せよ!」

「い、嫌だ! これは渡せない! 貴族様だからって駄目です!」

そんな声を聞いてリビアは飛び出す。

「あ、あの――!」

「そこで何をしている!」

だが、飛び出したのはリビアだけではなく、浴衣が少し乱れたアンジェも一緒に飛び出してきた。

二人が顔を見合わせ驚き、そして気まずそうに視線をそらすと困っている人を見た。

「……リオンさん?」

「……お前、一体何をしている?」

だが、悲しいことに脅されている人は現地の人で――脅しているのはリオンだった。

リオンが視線をさまよわせる。

「こ、これはその」

すると、現地の人が二人に泣きついてきた。

「た、助けてください。この貴族様が、持っている物を全部渡せと言うんです」

男性に泣きつかれた二人がリオンを見た。まるで弱い立場の人間から、無理矢理商品を奪おうとしている悪い貴族のような感じだ。

「ち、違う! 俺は全部買うから渡せって言ったんだ! 金ならあるんだ!」

男性は首を横に振る。

「だ、駄目です。これを楽しみにしてくれる人たちがいるんです! いくらお金があっても、みんなの楽しみは奪わせません!」

男性が持っている物を見れば、中身が分からない白い紙で包まれた小さな何か、だった。

アンジェが男性に聞く。

「これは?」

男性は興味を持たれて嬉しいのか、笑顔で説明してくる。

「はい。うちの婆ちゃんが作ったお守りです。御利益があるって人気なんです。中身が見えないのは種類が違っていて、運試しというかなんというか」

笑っている男性のすぐ後ろにリオンが迫っていた。

札束を持っている。

「だから売れよ。全部買うから。分かった。十倍の値段で買い取ろう」

しつこいリオンは、全てを買い取ると言い出して大金を用意していた。

逆に男性が怯えている。

「何なんですか、貴方! お金で解決する問題じゃないんです。これはみんなの笑顔を見るためにやっているんです!」

お祭りを楽しむ人たちに、お守りを売って喜んで貰うため男性も譲らない。

リオンは懐から金貨の入った袋を取り出した。

「ほら、これでどうだ? 金貨だ。二十枚は入っているよ。これもつけよう」

男性が一瞬考えたが、首を横に振る。

「婆ちゃんはみんなに喜んで貰うためにこれを作ったんだ。絶対に屈しないぞ!」

リオンが意味ありげに笑うのだった。

「良い度胸だ。なら、俺が買っても良いよな? ほら、正規の値段で全て買おう。さぁ、全部俺に寄越せ!」

「だから駄目ですって!」

アンジェがリオンの耳を掴む。

「痛い。痛いです、アンジェさん!」

「さん、はいらない。ほら、さっさと行くんだ。ここは私たちが引き受ける」

すると、男性は大事な商品を抱えてお礼を言うのだった。

「あ、ありがとうございます!」

その場から去って祭りの会場に向かうと、男性は人混みに消えて行った。リオンが耳をつかまれながら手を伸ばして嘆いている。

「待って! 俺のアイテムゥゥゥ!」

そんなリオンに何て声をかけたら良いのか分からないリビアだった。