軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神聖王国

夜が明ける頃には、全てが終わっていた。

アインホルンの甲板の上で朝日を眺める俺は、コーヒーを飲んでいるフィンと話をする。

「何でコーヒーなの?」

「朝だからだ」

「お茶もあるよ」

「朝はコーヒー派だ」

「ちっ! コーヒー派は敵だ」

「態度悪いな!」

徹夜をした俺たちが、どうして甲板の上にいるのか?

それは周囲が理由だ。

同じグループの友達たちをかき集め、フレーザー家の領地に向かっている。

理由は、ラーシェル神聖王国の皆さんに、俺という存在をアピールするためだ。

神聖王国の皆さん、よくもやってくれたなこの野郎! と、挨拶をするためだ。

フィンがついてきた理由だが、王都で暴れ回った魔装の破片だ。

同じものが国境でも投入されたら、回収しておきたいらしい。

「王都に残ってもよかったのに」

「後片付けの手伝いをしてもいいが、こっちも気になるからな。それより、お前の方は大丈夫なのか?」

「――何が?」

コーヒーを飲みながら、フィンは太陽を見ている。

「精神的なやつだよ」

こいつも気が付いていたのだろうか?

「今回は負担も少ないからな。ま、ルトアートの奴は助けられなかったが、あれは自業自得だからさ」

「そう思っていても、心っていうのは面倒だからな」

「そういうお前はどうなんだよ?」

フィンの方も色々とあったのだろうが、俺のように追い込まれているようには見えなかった。

「幸いにも戦争には参加していない。俺が手に入れた勲章の多くは、暴れ回った魔装の破片退治だ。使用者は助けられないと分かっているからな。放置も出来ないから割り切るようにした」

一度使用すれば、助かることはない。

魔装の破片とは、何とも厄介な代物である。

「俺も割り切れたら楽なんだけどな」

「どうかな? 変に割り切って、楽しむようになったら人として終わるぞ」

前世でも聞いたことがあるな。

戦場で感覚が麻痺して、残酷なことも平気で出来てしまうようになる話だ。

「――それは嫌だな」

戦争は人を簡単に狂わせる。

朝日を見ながらそう思った。

王都。

王宮では、アンジェが次々に指示を出していた。

「クレアーレ、予備の人員は?」

『もういませ~ん! ――素直に領主たちを頼ったら?』

「弱みは見せられない。リオンが一人でやると言ったからな。手を借りれば、リオンを笑う者も出てくる」

『それは困るわね。笑った連中を燃やしてやりたくなるから、優先順位を変更しましょうか』

一夜明けてみれば、クーデターの首謀者たちは全て捕らえてしまった。

裏切っていた貴族たちも捕らえ、神聖王国の特殊部隊も拘束している。

たった一晩で、大きな問題を片付けてしまった。

『うん、パーフェクト!』

喜んでいるクレアーレに、アンジェは疲れた顔を向ける。

「これで終わりではないよ」

『分かっているわよ。やり過ぎてしまったら、今度は警戒する貴族さんたちの相手が始まるのよね?』

「そうだ」

ここまでのことをやってしまったのだ。

嫌でもリオンは警戒される。

まだ実力を隠していると思われ、貴族たちも動くはずだ。

リビアは、そちらの話に疎いため、アンジェに詳しい説明を求めるのだった。

「あの、これからどうなるんですか?」

「今後は各国が領主貴族たちの切り崩しに動くだろうな。今の王家には求心力がない。まとめるためには、力を示すしかないのだが――」

紅茶を飲んでいたユリウスがその先を答える。

「バルトファルト以上の力など示せない。つまり、王家が武威を示すためには、バルトファルトを取り込む必要がある。しかし、バルトファルトは結婚を嫌がるからな」

アンジェがちょっと嬉しそうにしている。

「エリカ様でも駄目となると、王国では用意できる姫がいない。幼子をリオンの嫁に押しつけるのも駄目だな」

すぐにでもリオンと王家の姫による子供が欲しいのだ。

それが、何よりも強い両家の繋がりの証になる。

もしかすれば、その子供がロストアイテムを受け継げるかもしれない。

そうなれば、王家は『第二の王家の船』としてルクシオンを手に入れることが出来る。

――が、それも駄目。

リオンが認めないのだ。

「え、え~と――つまり、まだ分からないってことですよね?」

ユリウスが紅茶を飲み干して、再び地図に視線を向ける。

「本気でバルトファルトが王位を狙ってくれた方が楽になってきたな」

その発言を聞いたアンジェは、頬を引きつらせるのだった。

「殿下、本気ですか?」

「え? 妙案だと思うが?」

「いや、そういう意味ではなく、王子としてその発想はどうなのかと」

ユリウスがハッとして「あ~そうだな」と、王子である事を今思い出したような態度にリビアもドン引きするのだった。

ローランドの寝室。

欠伸をするローランドは、朝から肉を食べていた。

宮廷医がその様子を見ながら心配する。

「陛下、起きて肉を食べないでください」

ローランドは顔色もよく、そして豪快にステーキを食べている。

「腹が減ったからな。しかし、お前の薬はよく効くな」

ゲラゲラ笑っているローランドを見ながら、宮廷医は肩を落とすのだった。

「毒殺に見せかけるなんて笑えませんよ。しかも、私の趣味まで捏造するなんて」

「あの娘は信じ込んでいただろ? しかし、あの程度の娘で私を籠絡できると本気で考えていたのだろうか? 途中で私の思惑がバレたのかもしれないと焦ったくらいだぞ」

淑女の森が心配になるレベルで、メルセは駄目すぎた。

「――偽の情報を渡して、反乱を未然に防ぐつもりなら薬は無害のものでもよかったはずでは?」

ローランドは真剣な顔付きになる。

「それでは、周りを騙せない。あの小僧の実力も分からないからな。で、どうだった?」

ローランドが問えば、宮廷医が詳しく報告をはじめる。

「一夜にして解決です。神聖王国の特殊部隊も拘束しましたよ」

リオンがいかに手際よく反乱を鎮圧したかを聞いたローランドは、腕を組んで思案する。

(教えてもいないのに、私が用意した部隊もうまく使ったか――想像以上だな)

元から能力を疑ってはいなかった。

だから、薬を使って危篤状態を演出したのだ。

リオンに面倒事を丸投げすれば、解決すると分かっていたからだ。

しかし、どの程度の損害で成功させるのかが気になっていた。

結果は予想以上だ。

「私の勘は正しかったな」

「勘で変なことをしないでください! こっちは冷や汗が止まりませんでしたよ!」

「そう怒るな。だが、こうなるとミレーヌが厄介だな」

「王妃様ですか? そりゃあ、事実を知ったら激怒しますよ」

「違う。毒の件は黙っておくから心配ないが、問題はあの小僧の能力だ。きっと、今頃は自分の想像を超えていた事に、震えているのではないか? あいつは優秀だが、それ故に相手の力量を予想してしまうからな。予想外のことが起きると慌てる駄目な部分がある。ま、それも普通の相手なら問題ないのだが――今回は無理だな」

ミレーヌが、どう動くか分からないとローランドは言う。

しかし、だ。

「あの小僧は苦労するだろうな。――いい気味だ」

ミレーヌとリオンがどうなるのか、高みの見物を決め込むローランドだった。

ミレーヌは、自室で報告を聞いて頭を抱えていた。

「たった一晩で解決なんて」

それも、ほぼ完璧と言える展開だ。

王都の反乱を一晩で解決し、今はフレーザー家への援軍まで出している。

神聖王国が裏で動いていた証拠も確保しており、これ以上はないという成果だ。

それに、王都の被害も予想より随分と少ない。

「こんなの――どうしようもないじゃない」

ただの武力だけではなく、リオンはこの面倒な事態を完璧に乗り切る能力も示して見せた。

情報の収集、伝達――その他諸々の能力が、ミレーヌの想像を超えていた。

その場に崩れ落ちる。

「私が守ろうとしていたものなんて、彼にはたいした価値がなかったのね」

リオンを見誤ってしまった。

強引に婚姻を結び、王家の側に引き込もうとしたのを間違いとは思わない。

だが、これでは取り込んだつもりが、乗っ取られてしまう。

ミレーヌは、リオンの手の平で弄ばれていたように感じた。

「本当に酷い子よね」

そう言って笑うミレーヌは、涙を流すのだった。

フレーザー家が守る国境。

そこで対峙する王国軍と神聖王国軍。

そんな中、俺は――。

「もっと前に出たらどうだ! 王国までご招待してやるよ!」

――笑いながら、戦場で敵の旗艦をアロガンツで押して王国側へと向かっていた。

アロガンツが飛行船を無理矢理押しているのだ。

周囲の敵艦は、旗艦を砲撃できずに見ているだけだった。

時折、敵の鎧が俺を引き剥がそうとしてくるが、ドローンたちに撃ち落とされる。

『押されているぞ!』

『無理です! 抵抗できません!』

『王国軍の射程圏に入ります!』

敵の艦内の声が聞こえてくる。

操縦桿を引くと、アロガンツが更にパワーを上げて押していく。

敵の旗艦は、両軍のど真ん中まで来てしまう。

味方もこちらを砲撃せずにいる。

「歓迎するぞ、神聖王国の皆さん! うまい紅茶を出してやる!」

戦場に出現しているルトアートと似た魔装は、フィンによって倒されていた。

その光景を見た敵の司令官が、怒鳴り散らすように命令を出している。

『魔装を奪われるな!』

『無理です! 王国軍、こちらに前進してきます!』

『おのれ!』

ラーシェル神聖王国。

その切り札とも言えるのが、薬を使い暴走させた魔装のようだ。

黒騎士の爺さんのように、鎧の姿を保てずに肉の塊として戦場に投入していた。

「ミレーヌさんの実家も苦労するわけだ」

ルクシオンが予想を述べる。

『投入すれば一時的に敵に大ダメージを与えられるのでしょうが、問題は稼働時間ですね。すぐに使えなくなり、おまけに操縦者の確保が大変そうです』

忠誠心か、それとも何らかの洗脳か?

操縦者たちは王国軍に攻め込もうとする。

「――胸くそ悪い。全部フィンに回収させる」

『そのつもりのようですよ』

視線をフィンに向けると、黒助と共に暴走した魔装を倒して回っていた。

『これで三つ目ぇぇぇ!』

興奮している黒助に、フィンが声をかけている。

『黒助。もう終わりだ。一旦下がるぞ』

『おうよ!』

そんなフィンに、神聖王国の騎士たちが襲いかかる。

『外道騎士をやれ!』

いきなり外道騎士と呼ばれ、フィンが困惑していた。

『おい、ちょっと待て! 外道騎士って何だよ!』

慌てているフィンに俺は言うのだ。

「あ、それ俺の二つ名」

『――何て酷い二つ名だよ』

魔装が全て破壊され、おまけに旗艦も奪われた神聖王国軍は、撤退を開始しはじめる。

だが、それを見逃す王国軍ではない。

『レッドグレイブ家の旗艦、前に出ます』

ルクシオンが言うのでそちらを見れば、貴族たちが追撃戦を開始していた。

その姿を見送ると、神聖王国軍の旗艦にフレーザー家の飛行船が集まってくる。

「――敵はどうなる?」

『これまでの経緯からすると、追撃戦は苛烈になると思われます。王国は、これで厄介な敵をしばらく黙らせておくことが出来ますね』

味方の鎧が俺の周りに集まってきた。

そんな中、俺は両手で顔を覆う。

「そっか。――俺は下がるぞ」

『賢明な判断です』

「それはそうと、薬をくれ。少し寝たい」

『――投与します』

パイロットスーツの背中にあるバックパックから、針が刺されて薬が投与される。

あまり多用するなと五月蠅いルクシオンが、何も言わずに使用してくれた。

思っているよりも、俺は周りから見れば限界に見えるのだろうか?

「後は頼むぞ」

『おやすみなさい、マスター』

王宮に各地から戦勝報告が届いたのは、三日後のことだった。

戦力を素早く大量に投入した王国軍に対して、敵は想像していなかったのか混乱していたようだ。

報告を聞き終えたアンジェは、書類にまとめてミレーヌへと報告に来ている。

執務室で報告書を読むミレーヌは、刺々しい雰囲気はなかった。

だが、アンジェから見て、今のミレーヌは怖かった。

「素晴らしい勝利ね。これで私の実家も安心できるわ。ありがとう、アンジェリカ」

「――いえ、全てはリオンの手柄ですから」

「本当に凄いわね。想像以上よ。これで、後は私たちを処刑台に送るだけかしら?」

アンジェが首を横に振る。

「ミレーヌ様、リオンはそんなことを望んではいません」

ミレーヌの表情は変わらなかった。

笑いながら、アンジェに教える。

「甘いわね。貴女たちが望まなくとも、周りはより強い王を求めるわ。これから、バルトファルト公爵を何としても取り込もうとするわね。レッドグレイブ家は見る目があるわね。本当に羨ましいわ」

「ミレーヌ様!」

「――アンジェリカ、覚悟を決めなさい。貴女たちが望んだ道は、そういう道なのですよ」

「リオンにそんなことはさせません!」

「しなくても、誰かが代わりに行うわ。そして――それは正しい。この国には新しい王家が必要なのよ」

群雄割拠の戦国時代になりたくなければ、自分たちを殺して王位に就けとミレーヌは言っている。

「それが、もっとも民が死なずに済む道です」

ミレーヌが色々と諦めた顔をしていた。

「――ただ、許されるならエリカは助けて頂戴。ユリウスは駄目でしょうけど、あの子はフレーザー家に嫁ぐから、温情を期待するわ」

「もっと早くに相談してくだされば!」

「相談したところでどうにもならないわ。公国戦の後から、こうなることは決まっていたようなものよ」

結局、リオンが王家の側に立つと宣言しても、周囲は付け入る隙があると考える。

ヴィンスも娘婿だから、説得を試みるだろう。

エリカを嫁がせようとしたのも、確固たる繋がりを求めたからだ。

――リオンから正式にロストアイテムを奪うためには、その子供や孫に譲渡させるのが一番である。

「話すこともないわ。もう部屋を出なさい」

アンジェは外に出る。

すると、待っていたのはクラリスだった。